石井岳龍監督『箱男』、因縁の地ドイツ・ベルリンのワールドプレミアに感慨
石井岳龍監督の『箱男』が17日、第74回ベルリン国際映画祭のベルリナーレスペシャル部門でワールドプレミアとして上映された。
世界20カ国以上で翻訳されている安部公房氏の同名小説が原作。1997年に一度、日本・ドイツ合作で映画化が決まり、ハンブルグで撮影を行う予定だったが、クランクイン前日に資金繰りの問題で中止に。石井監督をはじめ出演の永瀬正敏、佐藤浩市らは失意のまま帰国することになった。
それから27年、あきらめることなく、くしくも安部氏生誕100年の節目に実現させた石井監督は永瀬、佐藤、今作から参加した浅野忠信とともに因縁の地、ドイツに“凱旋”。深夜の上映にも関わらず、会場は約800席が満席となり注目度の高さをうかがわせた。
上映後には盛大な拍手が沸き起こり、石井監督は感慨深げ。「非常にチャレンジングな企画であったため、日本映画界ではなかなか実現が難しく時間がかかってしまいました。27年前の出来事は非常に残念でしたが、機が熟したというか時代が『箱男』に追いついたという気がします。私自身は今回の映画化をとても気に入っています」と自信のほどを語った。
主演の永瀬も、「一度とん挫した映画がまた完成するというのは、世界でもまれにみる企画だと思っていて、監督の原作に対する思いの強さを感じました。さらに、そのワールドプレミアを同じドイツでできるというのは何とも言えないストーリーだと思います」と万感の表情。
佐藤は、「この映画の中で名前が出てくるのは看護師の戸山葉子だけで、あとは『わたし』、『軍医』、『ニセ医者』と固有名詞がなく記号であるということ。そして箱男たちは自分たちの手帳、メモ書きにとらわれて、それが自分たちのアイデンティティの全てになってしまう。その描写が強調されているのが前回のものと大きく違う部分」と解説した。
『箱男』は、段ボールを頭からすっぽりとかぶり、都市を徘徊しながらのぞき窓から世界のぞく箱男に心を奪われたカメラマンの「わたし」に、さまざまな試練と危険が襲い掛かる寓話的なドラマ。日本では2024年に公開される予定。
取材/記事:The Hollywood Reporter 特派員 鈴木元