第78回カンヌ映画祭、異例の政治色 68年の反体制精神が復活
カンヌ映画祭 政治発言の口火を切ったデ・ニーロ
カンヌ映画祭が異例の政治色を帯びて開幕した。 第78回となる今年の映画祭は、これまでとは異なる様相を見せている。
開会式でロバート・デ・ニーロは名誉パルムドールを受賞した。その際、ドナルド・トランプ米大統領を「アメリカの俗物大統領」と痛烈に批判。「自由を重んじる者は組織化し、抗議せよ」と聴衆に呼びかけた。さらに「選挙では投票を」と強調した。
司会を務めたフランスの俳優ローラン・ラフィットも政治色の強いスピーチを展開。俳優ジェームズ・スチュワートや伝説的な歌手ジョセフィン・ベイカーを称えた。マレーネ・ディートリヒやウクライナのゼレンスキー大統領など、社会変革に貢献した芸術家たちも言及した。
カンヌ映画祭会長のジュリエット・ビノシュも声を上げた。芸術家は「戦争、気候危機、女性蔑視」に対して声を上げる義務があると強調したのである。この発言はカンヌ映画祭の政治的関与の姿勢を示している。
ガザ問題で映画人350人が声明
映画祭に先立ち、映画人たちは団結して行動を起こした。リチャード・ギア、ハビエル・バルデムらを含む350名以上が公開書簡を発表したのだ。彼らはガザでのイスラエル軍事作戦の影響に対する「沈黙と無関心」を非難した。
書簡は「ファテムへ」と題された。これはイスラエル空爆で亡くなったガザの写真家ファティマ・ハスナへの追悼である。彼女はセピデ・ファルシ監督の『魂を手に乗せて歩け』のドキュメンタリーの被写体だった。
SNSで広がる呼びかけと“1968年の記憶”
パルムドール2度受賞のケン・ローチとポール・ラヴァティはさらに一歩踏み込んだ。書簡をSNSでシェアし、平和のための発言を呼びかけたのだ。「カンヌには社会問題への関与の伝統がある」と述べた。さらに「1968年の出来事を鮮明に記憶する者もいる」と言及し、今年の政治色の強さを示唆した。
ウクライナ戦争に対するカンヌの姿勢
ウクライナ戦争についても、カンヌの姿勢は明確だ。開幕日の5月13日をウクライナの人々に捧げた。公式セレクション外で関連ドキュメンタリー3本を上映したのである。
上映されたのは、ゼレンスキー大統領を追った『ゼレンスキー』だ。オスカー受賞監督ミスティスラフ・チェルノフ
の『2000 Meters to Andriivka (原題)』も含まれる。さらにベルナール=アンリ・レヴィ(フランスの哲学者)とマーク・ルーセル(映画監督/ドキュメンタリー作家)が共同で製作した『Notre Guerre (原題)』も上映された。
MeToo運動とフランス映画界の反応
#MeToo運動も今年は大きな注目を集めている。開幕日にフランスの大スター、ジェラール・ドパルデューに判決が下された。性的暴行で18か月の執行猶予付き判決である。ビノシュはこの動きを評価した。#MeTooがフランス映画界の組織的虐待への取り組みにおいて重要だと述べたのだ。
俳優の出席禁止という異例措置
映画祭は前例のない措置も講じた。ドミニク・モル監督のコンペティション作品『Dossier 137 (原題)』の俳優テオ・ナヴァロ=ミュシーのレッドカーペット出席を禁止したのだ。
ナヴァロ=ミュシーは重大な疑惑を抱えている。元恋人3人から「レイプ、身体的・精神的暴力」で訴えられているのだ。刑事告訴は棄却されたが、被害者側は民事訴訟を計画中である。
カンヌのティエリー・フレモー代表はこの決定を擁護した。映画祭は上映作品に関わる全ての人の「安全、完全性、尊厳」を確保する必要があると述べたのである。この疑惑は映画とは無関係で、撮影前からのものだ。
保守的なガイドラインと労働問題
こうした活動的姿勢の一方で、矛盾も見られる。映画祭主催者は内部スタッフに厳格なガイドラインを発表したのだ。ゲストとの交流やSNSでの「政治的中立性」を求める内容である。
これは映画祭の非公式労働組合の抗議とタイミングが重なった。スー・レ・ゼクラン・ラ・デシュ(カンヌ映画祭の非公式労働組合)が労働条件への抗議を行った開幕日に発表されたのだ。
また、レッドカーペットでの衣装規制も物議を醸している。「全裸」や「膨大な衣装」を禁止する措置だ。特に「長いトレーンのあるドレス」などゲストの流れを妨げる衣装が禁止された。
これは少なくとも今年は奇妙に映る。1968年の反体制精神を呼び起こそうとしている映画祭にとって、保守的な措置と言えるからだ。
※本記事は抄訳・要約です。オリジナル記事はこちら。
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