第82回ヴェネツィア国際映画祭が閉幕|金獅子賞はジム・ジャームッシュ監督『Father Mother Sister Brother』【受賞作品・受賞者まとめ】

第82回ヴェネツィア国際映画祭の授賞式が現地時間9月6日(土)夜に行われ、大盛況のうちに幕を閉じた。金獅子賞は、ジム・ジャームッシュ監督の『Father Mother Sister Brother(原題)』が受賞した。カウテール・ベン・ハニア監督の『ヒンド・ラジャブの声(原題:The Voice of Hind Rajab)』は金獅子賞の最有力候補と見られていたが、銀獅子賞(審査員大賞)を獲得した。
【金獅子賞】ジム・ジャームッシュが初の受賞、繊細な物語が高評価
ジム・ジャームッシュ監督の『Father Mother Sister Brother(原題)』は繊細さや哀愁が高く評価され、ジャームッシュにとって初の金獅子賞受賞作となった。
ジャームッシュはトロフィーを受け取りながら驚きの声をあげ、次のように感謝を述べた。「映画制作者たちはみな競争のために仕事をしているわけではありませんが、この予想外の栄誉に心から感謝しています。芸術は私たちの間に共感と繋がりを生み出します。それこそまさに、私たちが抱える問題を解決するための第一歩です」
同作は三部構成で、それぞれ大人になった兄弟と両親との関係が描かれるが、3本すべてに同じテーマが通底している。トム・ウェイツ、アダム・ドライバー、メイム・ビアリク、シャーロット・ランプリング、ケイト・ブランシェット、ヴィッキー・クリープス、サラ・グリーン、インディア・ムーアらが出演する。
米『ハリウッド・リポーター』の主要な批評家は同作を「面白く、優しく、鋭い観察眼で描かれた傑作」と評した。
【銀獅子賞】『ヒンド・ラジャブの声』が21分間のスタンディングオベーションを受ける
『ヒンド・ラジャブの声』はガザを舞台に、イスラエル軍に家族を殺害された6歳のパレスチナ人少女、ヒンドを描いた作品。ワールドプレミアでは21分間に及ぶスタンディングオベーションを受けた。これは同映画祭におけるスタンディングオベーションの最長記録に並ぶ。
同作の製作総指揮には、俳優のブラッド・ピット、ホアキン・フェニックス、映画監督のアルフォンソ・キュアロンらが名を連ねている。
銀獅子賞受賞にあたり、ベン・ハニア監督はコメントを寄せた。「この賞をパレスチナ赤新月社と、ガザで命を救うためにすべてを懸けた人々に捧げます。彼らは真の英雄です。ヒンドの声はガザの声そのものです。彼女の助けを求める声は世界中に響き渡っていますが、誰も応えませんでした。真に責任が追及され、正義が実現するまで、彼女の声はこれからも響き続けるでしょう」
【銀獅子賞】ベニー・サフディが単独監督デビュー作で受賞、ドウェイン・ジョンソンに感謝
ベニー・サフディ監督は、型破りな総合格闘家マーク・ケアーの半生を描いた伝記映画『The Smashing Machine(原題)』で銀獅子賞(監督賞)を受賞した。
これまで兄ジョシュ・サフディと共同監督を行ってきた彼にとって、同作は初の単独監督作品となる。主演はドウェイン・ジョンソンが務めた。
サフディはトロフィーを受け取りながら、「友人よ、兄弟よ、パートナーよ。ドウェインは安全ネットなしで演技し、僕たちも共に崖から飛び降りました。本当にありがとう。僕たちは一緒に成長し、一緒に学んだのです」とジョンソンに感謝の言葉を送った。
女優賞・男優賞・脚本賞は?ヴェルナー・ヘルツォークに栄誉金獅子賞
中国人女優シン・ジーレイは、ツァイ・シャンチュン監督の『日掛中天(原題)/The sun rises on us all(英題)』での胸を締め付けるような演技が高く評価され、女優賞を受賞した。
パオロ・ソレンティーノ監督の『La Grazia(原題)』の主演を務めたトニ・セルヴィッロは、男優賞の栄冠を手にした。セルヴィッロはイタリアの舞台俳優から映画界の巨匠へと登りつめた経歴を持ち、同作では人間味あふれるユーモラスなイタリア大統領を演じた。この2人のタッグでは、『グレート・ビューティー/追憶のローマ』(2013年)で第86回アカデミー賞外国語映画賞などを受賞した実績があり、今回も賞レースへの期待が高まっている。
脚本賞は、『At Work(原題)』で共同脚本を担当したヴァレリー・ドンゼッリとジル・マルシャンが受賞した。同作はフランク・クルテによる同名の自伝的小説を原作とし、写真家として成功したものの夢だった作家を目指す主人公を描く。
また、ヴェルナー・ヘルツォークに栄誉金獅子賞が贈られた。現地時間8月27日(水)の開会式では、盟友であるフランシス・フォード・コッポラ監督からヘルツォークにトロフィーが手渡された。
【オリゾンティ部門】日本人の藤元明緒監督が快挙!
映画表現の新潮流を感じさせる作品をピックアップするオリゾンティ部門では、ダビ・パブロス監督による独創的で情感的なロードムービー『En El Camino(原題)』が作品賞を受賞した。同作は、メキシコの高速道路で出会った放浪者の青年と寡黙なトラック運転手が絆を育んでいく様子を描く。授賞式でパブロス監督は「この映画は私の心の奥底から生まれた、とても個人的な作品です。そのような作品が他の人々と繋がっていくのはすばらしい光景です」と語った。
『Songs of the Forgotten Trees(原題)』のアヌパルナ・ロイ監督は、オリゾンティ部門監督賞に輝いた。ムンバイを舞台とする同作は、パートタイムのセックスワーカーと会社員が一風変わった絆を育む感動的なドラマとなっている。
日本人の藤元明緒監督による『LOST LAND/ロストランド』は、オリゾンティ部門審査員特別賞を獲得した。同作は、イスラム系少数民族ロヒンギャの幼い姉弟が国境を越えていく、命がけの旅を描いている。
オリゾンティ部門女優賞は、『The Kidnapping of Arabella(原題)』のベネデッタ・ポルカローリ、男優賞はイタリア・フランス合作の青春映画『A Year of School(原題)』のジャコモ・コーヴィがそれぞれ受賞した。
Netflixも数々の力作を出品
今年のヴェネツィア国際映画祭では、映画のビジネスモデルの変化も如実に感じられた。例えばNetflixは、以下のような強力な作品ラインナップを出品した。
- 『ジェイ・ケリー』(監督:ノア・バームバック、主演:ジョージ・クルーニー)
- 『ハウス・オブ・ダイナマイト』(監督:キャスリン・ビグロー、核兵器の恐怖を描く政治スリラー)
- 『フランケンシュタイン』(監督:ギレルモ・デル・トロ、怪物役:ジェイコブ・エロルディ)
第82回ヴェネツィア国際映画祭の全受賞者・受賞作品リストはこちら。
コンペティション部門
- 金獅子賞(作品賞):『Father Mother Sister Brother(原題)』(ジム・ジャームッシュ監督、アメリカ・アイルランド・フランス)
- 銀獅子賞(審査員大賞):『ヒンド・ラジャブの声(原題:The Voice of Hind Rajab)』(カウテール・ベン・ハニア監督、チュニジア・フランス)
- 銀獅子賞(監督賞): ベニー・サフディ監督(『The Smashing Machine(原題)』、アメリカ)
- 審査員特別賞:『Sotto le Nuvole(原題)』(ジャンフランコ・ロージ監督、イタリア)
- 男優賞:トニ・セルヴィッロ(『La Grazia(原題)』、イタリア)
- 女優賞:シン・ジーレイ(『日掛中天(原題)/The sun rises on us all(英題)』、中国)
- 脚本賞:ヴァレリー・ドンゼッリ、ジル・マルシャン(『At Work(原題)』、フランス)
- マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞):ルナ・ウェドラー(『Silent Friend(原題)』、ドイツ・フランス・ハンガリー)
- アルマーニ・ビューティ・オーディエンス賞:『Calle Malaga(原題)』(マリヤム・トゥザニ監督、モロッコ・フランス・スペイン・ドイツ・ベルギー)
- ルイジ・デ・ラウレンティス賞(新人監督賞):『Short Summer(原題)』(ナスティア・コルキア監督、ドイツ・フランス・セルビア)
オリゾンティ部門
- 作品賞:『En El Camino(原題)』(ダビ・パブロス監督、メキシコ)
- 審査員特別賞:『LOST LAND/ロストランド』(藤元明緒監督、日本・フランス・マレーシア・ドイツ)
- 監督賞:アヌパルナ・ロイ(『Songs of the Forgotten Trees(原題)』、インド)
- 脚本賞:アナ・クリスティーナ・バラガン(『Hiedra(原題)』、エクアドル・メキシコ・フランス・スペイン)
- 女優賞:ベネデッタ・ポルカローリ(『The Kidnapping of Arabella(原題)』、イタリア)
- 男優賞:ジャコモ・コーヴィ(『A Year of School(原題)』、イタリア・フランス)
- 短編映画賞:『Utan Kelly (Without Kelly)(原題)』(ロヴィーサ・シレン監督、スウェーデン)
ヴェネツィア・クラシック部門
- 最優秀ドキュメンタリー映画賞:『Mata Hari(原題)』(ジョー・ベシェンコフスキー、ジェームズ・A・スミス共同監督、アメリカ)
- 最優秀復元映画賞:『バシュー、小さな異邦人』(バハラム・ベイザイ監督、イラン)
ヴェネツィア・イマーシブ部門
- グランプリ:『The Clouds Are Two Thousand Meters Up(原題)』(シンギング・チェン監督、台湾・ドイツ)
- 審査員特別賞:『Less than 5Gr of Saffron(原題)』(ネガール・モテヴァリメイダンシャー監督、フランス)
- アチーブメント賞:『A Long Goodbye(原題)』(ケイト・ヴォエット、ヴィクトル・マエス共同監督、ベルギー・ルクセンブルク・オランダ)
アルマーニ氏追悼、映画とファッションの架け橋を讃える
授賞式では、現地時間9月4日(木)に91歳で死去したイタリアのファッションデザイナーのジョルジオ・アルマーニ氏を追悼し、長時間にわたるスタンディングオベーションが行われた。
映画祭と並行して開催されている第19回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展のキュレーターであるカルロ・ラッティは、「創造性とは、ファッション、映画、アート、新しい素材、建築などさまざまな分野が交わる空間で開花することを教えてくれた、ジョルジオ・アルマーニ氏に感謝します」と語った。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。
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