『The History of Sound』レビュー:ポール・メスカル×ジョシュ・オコナーが紡ぐ美しき同性愛映画

Paul Mescal in 'The History of Sound.' FAIR WINTER LLC
映画『The History of Sound(原題)』のポール・メスカル 写真:Fair Winter LLC
スポンサーリンク

ポール・メスカルジョシュ・オコナーという実力派俳優2人が主演を務める映画『The History of Sound(原題)』は、第一次世界大戦に引き裂かれた淡くも深い男性同士の恋愛を描いた作品である。

南アフリカ出身の監督オリバー・ハーマナスが、ベン・シャタックによる短編小説を原作に、静謐で詩的な世界を丁寧に映し出す。

あらすじと物語の背景

舞台は1919年のアメリカ、メイン州の田舎町。フォークソングを収集する旅に出た2人の青年、ライオネル(ポール・メスカル)とデヴィッド(ジョシュ・オコナー)が、音楽を通じて心を通わせていく過程が描かれる。ライオネルはケンタッキー出身の農家の息子で、「音楽が見える」という才能を持ち、奨学金でニューイングランド音楽院へと進学する。一方のデヴィッドは、裕福な家庭に生まれ育ち、洗練された物腰と音楽への情熱を併せ持つ人物である。

2人が出会ったのはボストンのバー。そこでフォークソングをきっかけに交流が始まり、やがて友情は恋情へと変わっていく。

しかし、戦争が2人を引き離す。デヴィッドは徴兵され、ライオネルは視力の問題で兵役を免れる。デヴィッドからの連絡は途絶え、ライオネルは再び故郷へと戻る。

再会と旅の記録

戦後、デヴィッドから手紙が届き、メイン州の音楽プロジェクトへの同行を依頼される。その誘いは、彼にとってかけがえのない贈り物のように映り、再び彼と旅に出る。2人は山中や雪原を歩き、素朴な人々から伝統的なフォークソングやバラッドを録音していく。音楽が彼らの関係性の核心を成し、恋愛感情・友情・芸術的な共鳴が融合する時間が静かに描かれる。

この作品では、当時の同性愛者が直面した社会的抑圧を直接描くのではなく、自然の中で自由に愛し合う時間が中心となっている。静かな幸福の記録として、音楽と共にある愛が綴られている。

撮影と演出の美学

オリバー・ハーマナス監督は、本作でも卓越した演出力を見せている。撮影監督アレクサンダー・ダイナンと共に、アンドリュー・ワイエスの絵画を想起させるような構図で、風景と感情の繊細な交差を描出している。映像はややセピアがかったトーンで統一され、時代背景を自然に感じさせる。

演出の特徴は「静けさ」にある。激しい感情表現や劇的な展開ではなく、まなざしや間、音楽を通じて心情を伝える手法が取られている。メスカルとオコナーはそれぞれ、微細な演技で登場人物の内面を表現し、観客の心に深く訴えかける。

音楽の役割とLGBTQ映画としての評価

フォークソングの数々は、単なる挿入歌ではなく、物語そのものを語る要素として機能している。ときに愛を語り、ときに悲しみや死を伝えるバラッドが、2人の物語と呼応し、観る者の感情を揺さぶる。

『The History of Sound』は、近年のLGBTQ映画の中でも、とりわけロマンチックで、芸術性の高い一本である。『ブロークバック・マウンテン』と比較されることも多いが、本作はより静かな余韻と「記憶の中の愛」を描くという点で独自の魅力を放っている。

静けさと余韻の映画体験

『The History of Sound』は、詩的でありながら現実味もある、極めて繊細な愛の物語である。テンポはゆったりとしているため、カンヌで一部の観客が途中退場したという報道もあったが、物語の奥深い感情や音楽の力に心を傾けることができれば、忘れがたい体験となるはずである。

本作は、ポール・メスカルの代表作『aftersun/アフターサン』と並び立つ演技の到達点とも言える。静けさの中に確かな熱を感じる、珠玉のLGBTQ映画である。

<作品情報>

■タイトル:『The History of Sound(原題)』
■出演:ポール・メスカル、ジョシュ・オコナー、クリス・クーパー、ラファエル・スバージ、モリー・プライス、トム・ネリス、アレッサンドロ・ベデッティ、エマ・カンニング
■監督:オリバー・ハーマナス
脚本:ベン・シャタック
■公開日:未定(2025年カンヌ国際映画祭でプレミア上映)
■上映時間:2時間7分

※この記事は要約・抄訳です。オリジナル記事はこちら

【関連記事】



スポンサーリンク

類似投稿