【インタビュー】ブラジル初のアカデミー賞受賞映画『アイム・スティル・ヒア』、主演のフェルナンダ・トーレスに単独インタビュー! 「演技ではなく生き様だった」 ポルトガル語の壁を越えた感動の軌跡

フェルナンダ・トーレス 『アイム・スティル・ヒア』©2024 VideoFilmes/RT Features/Globoplay/Conspiração/MACT Productions/ARTE France Cinéma
フェルナンダ・トーレス 『アイム・スティル・ヒア』©2024 VideoFilmes/RT Features/Globoplay/Conspiração/MACT Productions/ARTE France Cinéma
スポンサーリンク

今年の第97回アカデミー賞で、国際長編映画賞を受賞したブラジル映画『アイム・スティル・ヒア』。同作で主演を務めた女優のフェルナンダ・トーレスに、ハリウッドリポーター・ジャパンはオンラインで単独インタビューを実施した。

名匠ウォルター・サレスが16年ぶりに故郷ブラジルにカメラを向けた『アイム・スティル・ヒア』は、軍事独裁政権下で行方不明となった元国会議員と、その行方を追い続けた妻エウニセ・パイヴァの実話をもとに描かれている。

監督自身、幼少期にパイヴァ家と親交があり、この記憶を、喪失と沈黙をめぐる私的な問いとして丁寧に掘り起こした。サレスは、不条理な時代に抗い続けた一人の女性の姿を、美しくも力強い映像で映し出し、その生き様を記録している。

【予告編】8月8日(金)公開『アイム・スティル・ヒア』

本作は第81回ヴェネチア国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞し、第82回ゴールデングローブ賞では、主演を務めたフェルナンダ・トーレスが、ブラジル人女優として初の主演女優賞を受賞。さらに第97回アカデミー賞では、ブラジル映画としては史上初となる作品賞を含む3部門でノミネートされ、国際長編映画賞を受賞。ブラジル映画史上初のオスカー受賞という快挙を成し遂げた。

役に命を吹き込むまでの過程から、撮影現場の舞台裏、ゴールデングローブ賞やアカデミー賞受賞に至るまでの道のり、そして、ブラジル映画としての快挙への想いまでたっぷりと語ってくれた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーー『アイム・スティル・ヒア』の脚本を初めて読んだ時、どんな印象を受けましたか?キャラクターにはすぐに共感できましたか?

フェルナンダ・トーレス:監督のウォルター・サレスは私をキャスティングする前に脚本をくれました。というのも、私は役の第一候補ではなかったんです。ルーベンスが失踪した時、エウニセは41歳だったので、私はその役の年齢に合ってないと思っていました。ウォルターは私の親しい友人で、原作本が出版された直後すぐに読みました。マルセロの父の失踪について、詳しく知りたかったからなんです。


本を読んで、ウォルターが映画を撮ることを知り、私の母(女優のフェルナンダ・モンテネグロ)がすでに出演することも知っていました。そんなある日、彼が脚本をくれたのです。私はそれを読んで感動しました。「ウォルター、よくぞここまで選び抜いたね」と思いました。本は映画よりもずっと情報量が多いのですが、映画で描かれる部分はとても的確で、ある意味“外科的”に削ぎ落とされた印象でした。26年とか40年にもわたる歴史を描き、しかもキャラクターが年を重ねていくわけですから、脚本をどこで切るかは本当に難しい。それを彼は見事にやってのけたんです。


そして1か月後、彼が「コーヒーでも飲もう」と言ってきたので、何かの企画で脚本を書いてほしいのかと思ったら、「エウニセを演じてくれないか」と言われたんです。その時は衝撃でした。光栄で断れない申し出でした。

『アイム・スティル・ヒア』©2024 VideoFilmes/RT Features/Globoplay/Conspiração/MACT Productions/ARTE France Cinéma
『アイム・スティル・ヒア』©2024 VideoFilmes/RT Features/Globoplay/Conspiração/MACT Productions/ARTE France Cinéma

画像上がフェルナンダ・トーレス、下が母のフェルナンダ・モンテネグロ↓↓

ーーーーー観客や評論家が感動したその感情の強さをどう表現されたのか、この役に命を吹き込むまでのプロセスを教えていただけますか?

フェルナンダ・トーレス:実は、最初の台本の読み合わせの前から準備を始めていました。これまでにそんなことはしたことなかったんですけど、リオデジャネイロにとても特別な演技コーチがいて、今回は必要だと思ったんです。だから1か月ほどかけて、舞台のように稽古して、彼女(エウニセ)をつかもうとしていました。その後、映画全体の撮影中も、アマンダ・ガブリエルというすばらしいコーチが、私たちの間に家族の感覚を作ってくれました。


でも私はほぼ1年にわたり撮影していたので、その過程で10キロ近く体重が落ちました。エウニセになるというのは、まさに変身のプロセスで、1年経つ頃にはまるで「第二の皮膚」のようで、それほど深く自分自身に染み込んでいました。本当に不思議でした。


この映画のすごいところは、誰も演技してるように見えないこと。まるで本当にその人たちであるかのようでした。私たちは撮影前からあの家に住んでいて、脚本に書かれていないような場面もテーマにして稽古していたんです。セリフの練習ではなく、その人になりきるために。だから家族の感覚もすごくリアルで、あの家そのものが、まるで一人の登場人物のようでした。ニンニクの匂いまでしたんです。あの家にいるだけで本当に現実のようで、ウォルターは非常に稀なことを実現できたと思います。つまり、俳優が演技しているのではなく、本物の人間に見えるような映画を作ったんです。

自分で映画を観たとき、そのリアルさに驚きました。まるで本物の人たちのように見えました。特に印象的だったのは、アルツハイマーが進行し、彼女がもう病気をコントロールできなくなるあたりです。実はその部分には、台本に含まれていたものの、後にカットされた場面がいくつかあり、当初は私が演じていたのですが、その描写を私の母(フェルナンダ・モンテネグロ)が担当する予定になっていました。でもそのシーンを見た母が、「このすばらしいキャラクターを途中で俳優ごと変えるのは難しい。私はもっと若くならなきゃいけないし、あなたはもっと年を取らなきゃいけない」と言ったんです。結果的に、私がそのまま演じ続けることになりました。

そのプロセスすべてを含めて、私はまるで1年間ずっとキャラクターの皮をかぶって生きていたようでした。映画には収められていないシーンもたくさんありますが、それも含めて、あの役は私の「第二の皮膚」のように深く自分の中に染みついていました。

『アイム・スティル・ヒア』©2024 VideoFilmes/RT Features/Globoplay/Conspiração/MACT Productions/ARTE France Cinéma
『アイム・スティル・ヒア』©2024 VideoFilmes/RT Features/Globoplay/Conspiração/MACT Productions/ARTE France Cinéma

ーーーーー感情的または技術的に特に難しかったシーンはありますか?たとえば、軍事施設での拷問のようなシーンは特に過酷だったと思いますが、あの場面は難しかったですか?

フェルナンダ・トーレス:ウォルターが絶対に譲らなかったことの一つは、時系列で撮影することでした。つまり、私たちはキャラクターたちと同じ時系列でその人生を“生きていた”のです。最初の頃は、あの家に皆でいて、俳優たちは皆友人でした。私の友人であるセルトン(ルーベンス・パイヴァ役)も出演していて、撮影はすばらしいリオデジャネイロのロケーションで、まるで時空を旅しているような体験でした。


でも、セルトンが警官に連れて行かれるシーンがあって、そのとき私は「もう彼に会えないんじゃないか」と思いました。翌日の撮影では家中のカーテンが閉められ、見知らぬ警官たちが周りにいて、まったく雰囲気が変わっていました。その瞬間、私は震えていて、本当に変化が起きたんです。

その後2週間ほど、あのひどい牢屋のような場所で撮影して…やっと家に戻ったとき、もう同じ家には思えませんでした。子どもたちは取り残されたままでした。だから、この時系列で撮影したプロセスは本当に重要だったと思います。

『アイム・スティル・ヒア』©2024 VideoFilmes/RT Features/Globoplay/Conspiração/MACT Productions/ARTE France Cinéma
『アイム・スティル・ヒア』©2024 VideoFilmes/RT Features/Globoplay/Conspiração/MACT Productions/ARTE France Cinéma
『アイム・スティル・ヒア』©2024 VideoFilmes/RT Features/Globoplay/Conspiração/MACT Productions/ARTE France Cinéma
『アイム・スティル・ヒア』©2024 VideoFilmes/RT Features/Globoplay/Conspiração/MACT Productions/ARTE France Cinéma

ーーーーーフェルナンダさんはこの役でゴールデングローブ賞(ドラマ部門主演女優賞)を受賞し、アカデミー賞(主演女優賞)にノミネートされたとき、どんなお気持ちでしたか?ご自身の仕事への見方は変わりましたか?

フェルナンダ・トーレス:信じられない気持ちでした。まず、映画がポルトガル語で作られているという点で、ノミネートされるのは非常に難しいのです。最初にやらなきゃいけないのは、とにかく人に観てもらうこと。まるで政治的キャンペーンのようで、票を集めるには努力が必要なんです。ヴェネツィア国際映画祭から始まり、さまざまな映画祭を回って、まず批評家たちに届くことを目指しました。結果として、すばらしいレビューをたくさんいただきました。その後は世界中でプロモーションツアーを重ね、3大陸を駆け巡るような日々でした。

正直、ウォルターが「次は中国と日本だよ」と言い出すんじゃないかと心配していたくらい(笑)。とにかく移動が多くて時差ボケも大変でした。でも、ゴールデングローブ賞の受賞は、本当に驚きでした。たぶん、あの受賞がきっかけで「この女優は誰だ?」とか「この映画は何なんだ?」って、みんなが注目してくれたんです。その結果、アカデミー賞の投票につながったと思います。

ゴールデングローブ賞を受賞した時のフェルナンダ↓↓

でも、ゴールデングローブ賞の翌日にロサンゼルスで山火事があって、重要なQ&Aイベントが全部中止や延期になりました。そこで私たちはニューヨークやヨーロッパを回って、プロモーション活動をやり直さないといけなかったんです。本当に大変な旅でした。私はロサンゼルスから避難しなきゃいけませんでした。

まるでエベレストを登るような感覚でした。地道に1、2、3と段階を踏まなきゃいけない。でも、ポルトガル語の映画となると、それは酸素ボンベなしで登るようなものです。

『アイム・スティル・ヒア』©2024 VideoFilmes/RT Features/Globoplay/Conspiração/MACT Productions/ARTE France Cinéma
『アイム・スティル・ヒア』©2024 VideoFilmes/RT Features/Globoplay/Conspiração/MACT Productions/ARTE France Cinéma

ーーーーーブラジルはたくさん、すばらしい作品があると聞いています。この作品があなたにとって特別で、また、ブラジル映画として初めてアカデミー賞を受賞できた理由はなんだと思いますか。

フェルナンダ・トーレス:この映画は本当に特別な作品です。ブラジルという国は、ある意味で孤島のようなのです。人口は2億人いますが、大西洋に囲まれ、スペイン語圏に囲まれていて、孤立しています。私自身、アルゼンチンの女優で、(1988年の)第60回アカデミー賞で助演女優賞にノミネートされたノルマ・アレアンドロと仕事をしたことがあります。彼女はメキシコやスペイン、アメリカなど、スペイン語圏で広く活躍しています。


スペイン語を話す国の文化的な存在感は大きいんですが、ポルトガル語圏の私たちはそうではありません。ブラジルは、自国文化の消費は盛んですが、外へ出ていくのは難しい。だから、たまに『シティ・オブ・ゴッド』(2002)のような作品が出てくるけれど、またすぐに私たちは“島”に戻ってしまう。

私が一番恐れていたのは、この映画が外国語映画賞を逃すことでした。もしそうなったら、この作品にかけていたブラジル国民の愛国心が、全部私の責任になるんじゃないかと心配だったんです。だから映画が受賞したとき、本当にホッとしました。ウォルターが受賞するにふさわしいと思っていたので、心から安心しました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【作品情報】

『アイム・スティル・ヒア』©2024 VideoFilmes/RT Features/Globoplay/Conspiração/MACT Productions/ARTE France Cinéma
『アイム・スティル・ヒア』©2024 VideoFilmes/RT Features/Globoplay/Conspiração/MACT Productions/ARTE France Cinéma

『アイム・スティル・ヒア』

【CAST&STAFF】

監督:ウォルター・サレス

脚本:ムリロ・ハウザー、エイトール・ロレガ

出演:フェルナンダ・トーレス、セルトン・メロ、フェルナンダ・モンテネグロ

音楽:ウォーレン・エリス|撮影︓アドリアン・テイジド|2024年|ブラジル、フランス|137分

©2024 VideoFilmes/RT Features/Globoplay/Conspiração/MACT Productions/ARTE France Cinéma

公式H P:https://klockworx.com/movies/imstillhere/

8月8日(金)ロードショー

ザ・ハリウッド・リポーター・ジャパンで最新ニュースをゲット

【関連記事】

スポンサーリンク

類似投稿