ケヴィン・コスナー、70歳の現在地 ―― 監督作が大コケ、共演者との確執…再起の行方は

かつて『ダンス・ウィズ・ウルブズ』でアカデミー賞を制し、『ボディガード』で世界を魅了したケヴィン・コスナー。ハリウッドで最も稼ぐ男と称された彼は現在、法廷闘争、歴史的な興行失敗、そして業界からの孤立という困難に直面している。撮影現場での衝突から巨額の投資失敗まで、70歳を迎えたスターの波乱万丈な軌跡を追う。
▼ハリウッドに広がる「厄介な人物」という評判
ハリウッドでは、「もう二度とケヴィン・コスナーとは働かない」と語る関係者が少なくない。その理由は、支払いの遅延や衣装代の未払い訴訟、長年の仲間を訴えるなど、トラブルの多さにある。
さらに、巨匠スティーヴン・スピルバーグの助言を無視し、脚本を独断で書き換えたり、幾度となく監督や共演者と衝突してきた。クリント・イーストウッドやカート・ラッセル、ウェス・ベントリーとの確執も報じられ、いま業界では「ケヴィン・コスナーに何が起きたのか」と囁かれている。
▼『ダンス・ウィズ・ウルブズ』の奇跡――史上最大級の成功
『ダンス・ウィズ・ウルブズ』には、失敗作の条件がすべてそろっているように見えた。舞台は当時“興行的に死んだジャンル”とされていた西部劇、撮影は予算超過と過酷な環境の連続、そして主演・監督・製作を兼ねたのは映画監督としては新人のケヴィン・コスナー。誰もが無謀だと感じ、公開前には「ケヴィンズ・ゲート(Kevin’s Gate)」と揶揄された。これは1981年の大失敗作『天国の門(Heaven’s Gate)』をもじった皮肉だった。
だが、結果は真逆だった。コスナーは大手スタジオからの投資なしで資金を集め、最終的に自ら約3億円を出資。完成した映画は全世界で約590億円を稼ぎ出し、アカデミー賞では作品賞・監督賞・脚色賞など計7部門を制覇した。同作は西部劇というジャンルを単独で蘇らせ、コスナーを時代の象徴へと押し上げた。
▼黄金期の連続ヒット――『ロビン・フッド』から『ボディガード』まで
『ダンス・ウィズ・ウルブズ』の成功後、ケヴィン・コスナーの勢いは止まらなかった。半年後に全米公開された『ロビン・フッド』は全世界で約576億円を稼ぎ、その年の北米興収第3位を記録。続くオリバー・ストーン監督の『JFK』は、製作費約59億円に対し、世界中で約295億円を稼いだ。
そして、ホイットニー・ヒューストンと共演した『ボディガード』が世界で約607億円を超える大ヒットを記録。こうしてコスナーは、トム・クルーズやアーノルド・シュワルツェネッガーらと並ぶトップスターの仲間入りを果たした。
▼歴史的失敗作『ウォーターワールド』の悪夢
『ウォーターワールド』(1995)を境に、コスナーのキャリアには徐々に陰りが見え始める。撮影前、スピルバーグは『ジョーズ』での経験から「外洋では撮るべきではない」と忠告したが、コスナーと監督のケヴィン・レイノルズはその助言を無視。結果、当時史上最高額の制作費をかけた同作は、ハワイ沖の過酷な環境のもとで撮影が行われ、ハリケーンやスタッフの怪我などトラブルが続出した。
『ウォーターワールド』は1995年7月に全米公開されたが、『天国の門』以来の最大の失敗作の1つとなった。
2年後に全米公開された『ポストマン』でも、コスナーは監督・主演・製作を兼任したが、興行的に失敗し、広く酷評された。『ウォーターワールド』も『ポストマン』もキャリアを致命的に終わらせるものではなかったが、その輝きは失われてしまった。
▼撮影現場で勃発した衝突――『イエローストーン』での亀裂
ユタ州の撮影スタジオで、大ヒットドラマ『イエローストーン』の主要キャストであるコスナー、ウェス・ベントリー、ケリー・ライリーが緊迫したシーンを撮影中、事態は突如として悪化した。テイクの合間にコスナーがベントリーに対し、自身の演技方針を強要。拒否されたことで口論となり、やがて押し合うほどの騒ぎに発展したという。目撃者によれば、撮影は一時中断され、現場の空気は凍りついた。
この出来事は、すでにクリエイティブ面での主導権争いが続いていた『イエローストーン』の撮影現場に決定的な亀裂を生んだ。以降、コスナーは「扱いづらい俳優」としてのイメージをさらに強めることになる。
▼『イエローストーン』を降板、超大作『Horizon』へ
『イエローストーン』のスピンオフ『1883』の制作が始動した頃、コスナーと番組側の関係はさらに悪化したとされる。同時期、コスナーは長年温めてきた大作『Horizon(原題)』の脚本を業界関係者に見せていた。1988年から構想してきた『Horizon』は、南北戦争後の西部を12年にわたって描く全4部作の壮大な叙事詩だ。しかし、誰も資金提供に名乗りを上げなかった。
「『1883』の成功を横目に見て、コスナーは自分が正しいと証明したい一心で『Horizon』にのめり込んだ」と関係者は語る。その執着が、『イエローストーン』での摩擦を生んだという。撮影スケジュールをめぐり、コスナーが「1週間しか現場にいたくない」と主張したとも報じられたが、本人側は「脚本の遅れが原因」と反論。結局、コスナーは前払い金と脚本承認権を要求したが拒否され、自身演じるキャラクターの死という形でドラマを降板した。
▼『Horizon』の賭けと大失敗
『Horizon』の180ページを超える原稿には、複数の登場人物と複雑な物語が交錯しており、「狂気の沙汰だった」と語る者もいた。それでも、コスナーは信念を貫いた。資金集めは難航したが、『ダンス・ウィズ・ウルブズ』での成功を引き合いに出し、投資家を説得。ユタ州からの補助金を得たほか、自らも約56億円を出資した。
2022年には撮影を開始し、ワーナー・ブラザースが配給を担当。翌年、カンヌで『Horizon』を披露するが、批評家の評価は低く、米映画批評サイト・Rotten Tomatoesではスコア27%にとどまった。10分間のスタンディングオベーションを受けたものの、公開後の興行は惨敗。約147億円の製作費に対して、全世界で約57億円しか稼げなかった。続編は延期され、現在も公開日は未定となっている。
▼法廷闘争と債務問題――『Horizon』の後遺症
『Horizon』の大失敗以降、コスナーはその後始末に追われている。資金調達のために借り入れたカーピンテリアの不動産問題をはじめ、金銭トラブルが表面化。2025年3月には、コスナーの会社が映画の債券保有者である銀行と配給会社ニュー・ライン・シネマを相手取った証拠開示聴聞会が予定され、資金の扱いをめぐる争いが続いている。
また数週間後には、昨年6月に台本にないレイプシーンを撮影中に強要されたとしてコスナーを訴えた女性に関する公判前審問が開かれる予定だ。コスナーは「根拠のない主張だ」と全面否定しているが、今後も複数の訴訟が彼を取り巻く可能性が高い。
▼セレブリティ・スピーカーとして各地で講演
ケヴィン・コスナーは複数の企画を抱えているものの、『Horizon』以降は俳優としてスクリーンに登場していない。現在、Amazon MGM製作のジェイク・ギレンホールとのコメディドラマや、サーフスリラー映画『Headhunters(原題)』に関わっているが、最近の主な活動は講演業だ。2025年だけでも、世界最大の獣医会議VMXなどでスピーチを行っている。また、自身のラム酒ブランドの立ち上げも検討中だという。
▼ケヴィン・コスナーの現在地――新たな賭け
『Horizon』の失敗で法的トラブルや評判の低下に直面しながらも、コスナーは4部作の西部劇構想を諦めていない。現在も第3部・第4部の制作資金を探しており、その一環として、ユタ州セントジョージで大規模な映画スタジオの建設を進めている。コスナーとTerritory Picturesは開発業者ブレット・バージェスと提携し、倉庫、サウンドステージ、オフィスを備えた大型施設を計画中だ。
地元の映画委員会責任者は「彼は映画制作の未来をここに見ている」と期待を寄せるが、現地関係者によると、建設は約8割で止まり、最近は動きがないという。それでも、ケヴィン・コスナーは過去にも逆境から立ち上がってきた。現在も彼は傷を負いながら次の“地平線”を目指し、スクリーンに舞い戻るため馬を走らせている。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。編集/和田 萌
【関連記事】
- ケヴィン・コスナー監督・主演『Horizon』、予告公開 4部作構成の壮大な西部劇
- ケヴィン・コスナー、新作ホラーに主演 ― 楽園が一転、そこは“首狩り族の島”だった
- 映画『ボディガード』リメイク、サム・レンチが監督に決定
- 【西部劇ドラマ10選】『イエローストーン』ファンにおすすめ!スタローン主演『タルサ・キング』ほか
- 【野球映画10選】実話を基にした感動作、北野武監督のあの作品も!