【ランキング】米評論家による、ジェームズ・キャメロン監督作品ベスト12|首位に輝いたのはあの名作
『アバター』最新作公開記念:ジェームズ・キャメロンの輝かしいキャリア
去る12月19日、ファン待望の『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』がついに封切られた。今回、同作の公開を記念して米『ハリウッド・リポーター』はジェームズ・キャメロン監督による全12作品をランク付けした。
ジェームズ・キャメロン作品を振り返って改めて思い知らされるのは、彼が現代ハリウッドにおけるマクロなトレンドを生み出した張本人だとい事実だ。CGや3D技術を大々的に使用した先駆者も彼であったし、ハリウッドが中国市場の重要性に気づき始めたのも彼の成功がきっかけだった。
ジェームズ・キャメロン作品は、まるでエキセントリックな監督自身の人柄を象徴するかのような組み合わせだ。未来からやってきたサイボーグの殺し屋やエイリアンが登場したかと思えば沈没船のロマンスが描かれたり、救世主が現れたりとまさに自由自在な作風も彼の魅力だろう。
果たして首位に輝くのはどの作品か?
佳作:『殺人魚フライングキラー』(1982)

ランキングに入る前にこの作品に言及しておくべきだろう。ジェームズ・キャメロンはプロデューサーとの衝突の末、製作中に監督を解任されたこともあり、『殺人魚フライングキラー』を自身の作品とは認めていない。しかし、B級映画ながらも本作では既にキャメロン作品ではお馴染みの要素が登場する。例えば、セクシーでタフなヒロイン、水中撮影、軽妙なやり取りを通じて修復されていく破綻した夫婦関係、ランス・ヘンリクセン、ベトナム戦争の影を帯びたテーマ、額にバンダナを巻いた人物、沈没船… これらが一つとなって映画が展開していく様子はまさに後のキャメロン作品を彷彿とさせる。
第12位:『トゥルーライズ』(1994)

評価が分かれる作品だ。アーノルド・シュワルツェネッガー演じるスパイは、豪華なスイスのパーティーからワシントンD.C.のエレベーターまでテロリストを追跡する。そうかと思えば彼はしばらく悪党たちのことを忘れ、オーウェルの『1984』よろしく妻(演:ジェイミー・リー・カーティス)を監視し始めるのだ。クライマックスもアート・マリック演じる悪党が股間から戦闘機に激突するというまさかの下ネタである。今作ではキャメロンのいつもの反逆精神、資本家や軍隊への不信感はまるで見られない。そればかりか主人公は「よし、海兵隊諸君、やっちまえ!」という具合だ。間違いなく『トゥルーライズ』はキャメロンのフィルモグラフィーの中では、評価が最も低くなりがちな作品である。
第11位タイ:『ジェームズ・キャメロンのタイタニックの秘密』(2003)/『エイリアンズ・オブ・ザ・ディープ』(2005)/『アクアマン』(2006)

1990年代と比べて、2000年代のキャメロンは比較的大人しい時期を過ごしていたように思われる。この時期の彼は、深海探索に同行しながらカメラの実験を繰り返したり、まだ生まれて間もないIMAX 3Dの技術を試したりしている。今になって思えば、こうしたキャメロンの実験的なフェーズは全て『アバター』の準備段階だったのであろう。ちなみに、2000年代で最大の成功を収めたといえるジェームズ・キャメロン作品は同じく海中を舞台とした『アクアマン』だ… というのは『アントラージュ☆オレたちのハリウッド』(2004-2011)を観た人には分かる定番ジョークである。なお、ドラマの世界で同作は約1億1700万ドルの興行収入を記録した史上最大の興行収入を記録したという設定になっている。
第8位:『アバター』(2009)

史上最大の興行収入を記録した『アバター』をこの順位にするのは難しい決断だった。実際、この作品が持つ反植民地主義で反文明的なメッセージは注目に値する。そして、テクノロジーが白人男性を白人性から解放するという描写も興味深いものだ。こうした逆説は手作り感にあふれ、キャメロンの幅広い関心を反映している。『トゥルーライズ』がキャメロンによる騒々しい「中年の危機」だとすれば、『アバター』は昔ながらのキャメロンが自身の子供時代の関心を描きなおした名作といえよう。ハードコアSF、ファンタジー、そしてジャック・カービー風の宇宙的スピリチュアリズムが、歴史オタクたるジェームズ・キャメロンによるマッシュアップ物語の背景を彩っているといえるのだ。メタファーとしての宇宙版ポカホンタスがメタファーとしてのベトコンを率い、メタファーとして(あるいは実際の?)アメリカ人(熱帯雨林を石油のために焼き払う者たち)と戦うという図式には唸らされる。しかし、本作は続編と比較したときに映像の迫力などで及ばない点は確かだ。その点を踏まえて、本作はこの順位となった。
第7位:『アビス』(1989)

キャメロンは『アビス』を撮影するために稼働停止した原子力発電所の貯水タンクを借り、750万ガロン(約28,387トン)の水を投入して大西洋の深海を再現したという事実を知っているファンはどれほどいるだろうか。撮影は文字通り水中で行われたばかりか、撮影期間中にタンクから水漏れが起こるアクシデントにも見舞われた。また同作を撮影していた時期のキャメロンは離婚した直後でもあった。そうした波乱万丈の経緯を経て完成した『アビス』はジェームズ・キャメロン作品で最も狂気じみた一作といえよう。エド・ハリスとメアリー・エリザベス・マストラントニオ演じる関係の冷え切った夫婦が遭難した潜水艦の救助作戦に際して協力せざるを得なくなると思いきや、ミッションは狂気じみたネイビー・シールズ将校(演:マイケル・ビーン)に乗っ取られるというのが本作のあらすじだ。その脚本もさながら、同作で使用された映像技術も圧巻のクオリティだ。『アビス』は興行的にこそ振るわなかったが、キャメロンにとって最も私的な作品として高評価を受け、アカデミー視覚効果賞を受賞した。
第6位:『ターミネーター2』(1991)

『アビス』が興行的に振るわなかったキャメロンは、過去の成功を再現する方針へと舵を切った。というわけで彼は莫大な予算を注ぎ込み、R指定の新しいサイボーグ映画を考案した。その結果は大当たりで『ターミネーター2』は社会現象となった。まさしく1990年代初頭の子どもたちは誰もが昼休みに「アスタ・ラ・ビスタ・ベイビー!」と叫んでいたのである。シュワルツェネッガー演じるT-800をT-1000(演:ロバート・パトリック)という強敵と戦わせるというコンセプトはいい意味で第1作の緊張感を和らげ、痛快さを演出したといえよう。本作にはリンダ・ハミルトン演じるサラ・コナーら人気キャラクターも登場している。作品を通して派手な爆発シーンやアクションが繰り返される展開は悪くいえば単調であるが、そうした中でT-800が人間としての感情を学んでいく様子、そしてクライマックスにおけるサムズアップのシーンは涙なしで観られない。
第5位:『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』(2025)

『アバター』シリーズの過去2作品は基本的に「ナヴィvs RDA」という構図を軸に展開してきた。その意味で、今作はそこにワイルドカードとして火を操るアッシュ族のヴァラン(演:ウーナ・チャップリン)というワイルドカードが登場する点でも画期的だ。ちなみに、ジェームズ・キャメロン作品に悪役としてのエイリアンが登場するのは実に39年ぶりである。ネタバレを防ぐため詳細は割愛するが、本作を一言で表現するならば「キャメロンの内なる『2001年宇宙の旅』オタクと、内なる『コナン・ザ・バーバリアン』マニアが衝突した作品」である。つまり、キャメロンの持つ重苦しいディストピア的なテイストと、さらにその深層にあるB級映画のパルプフィクション的要素が見事に激突しているのだ。賛否両論はあるだろうが、ウーナ・チャップリン演じるヴァランなど、見どころにはこと欠かない一作となっている。
第4位:『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(2022)

『アバター』のヒット以降、2010年代のハリウッドはこぞって3D技術を採用しはじめた。しかし正直どれも安っぽいギミックや不明瞭な画質のものばかりで満足できるクオリティとはいえなかったのも事実だ。そこにきて、「やはり3Dといえばキャメロンしかいない」とファンを唸らせたのが『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』である。前作の舞台とは打って変わった海辺の風景の描写がとにかく美しい。さらに、映像技術だけではなく脚本も見事だった。前作のラブストーリー路線とは異なり、本作ではナヴィの少年たちが恋や精神的な成長を経験する過程が見事なキャラクター描写を通じて描かれる。その意味で、こちらの方がストーリー的に奇を衒いすぎた感のある『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』よりも素直に楽しめるかもしれない。まさに『アバター』シリーズ最高傑作といっても過言ではないだろう。
第3位:『タイタニック』(1997)

ジェームズ・キャメロン作品における弱点を強いてあげるならば「音楽」だろう。というのも、彼にはスティーブン・スピルバーグにとってのジョン・ウィリアムズのように、音楽を通じて映画の世界観を補強してくれる懐刀がいないのである。頻繁にキャメロン作品の音楽を手掛けるジェームズ・ホーナーには申し訳ないが、とりわけSF作品になると彼の作る音楽では印象が弱すぎる感が否めなかった。しかし、『タイタニック』に関しては話が別だ。アイルランドの民族楽器やシンセサイザーを効果的に使用した楽曲は独特の世界を演出している。セリーヌ・ディオンの「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」を聴いて『タイタニック』を思い浮かべない人はいないであろう。作品自体についても、CG表現に粗さが見られたり、ビリー・ゼイン(ローズの婚約者キャル役)の演技がやや誇張気味に映る部分はあるものの、それらを大きな欠点と感じさせない力を備えている。なぜならレオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットという将来のハリウッドを代表する二人の圧巻の演技に観るものは圧倒されるからだ。悲しい結末を知っていながらも、私たちは心のどこかで二人が助からないかと期待せずにいられない。
第2位:『エイリアン2』(1986)

とにかく「静か」な作品である。ファンの間で本作はリドリー・スコット監督の1作目をより「ヘヴィー・メタル化」した1作と言われている。植民地海兵隊に同行したリプリー(演:シガニー・ウィーバー)は、エイリアンの危険性を真剣に捉えない同僚たちに嘲笑されつつも、エイリアンを殲滅すべく本作でも戦う。とにかく圧巻なのはアクションシーンの描写だ。また、『エイリアン2』では芸術家としてのキャメロンの真骨頂も発揮された。例えば、彼はエイリアンのデザインを自らの手で描いている。それだけに、劇中に登場する小道具(ビニールテープで固定されたリプリーの火炎放射器など)のディテールにも説得力があるのだ。とにかく、そんな小道具からエイリアンのチェストバスターまで何から何まで文句なしのA評価だ。
第1位:『ターミネーター』(1984)

まさに『ターミネーター』はジェームズ・キャメロンの原点となる作品だ。ジェームズ・キャメロンという人間は敢えて自己のうちに矛盾を抱えておくことで、自らの作品にリアリティをもたらしているようにも思われる。この作品にも、そんな彼の矛盾が現れているといえよう。そう、彼は未来に憧れていながらそれを恐れているのだ。キャストに関していえば、こちらでのサラ・コナー(演:リンダ・ハミルトン)の方が気に入っているファンも多いのではないだろうか。ハミルトンは平凡なロサンゼルスの日々に突如として命を狙われる身となったヒロインを見事に演じている。余談だが、サラはウェイトレスとして働いていた経験のあるキャメロンの元妻、シャロンがモデルだ。また、シュワルツェネッガー演じる無慈悲な鋼鉄の殺し屋も、奮闘しつつも無力なヒーロー、カイル・リースを演じるマイケル・ビーンも素晴らしい。さらに低予算ながらLAの路地裏やモーテルをノアールの舞台に一変させたキャメロンの手腕はさすがとしか言いようがない。
1984年という冷戦の真っ最中にあって製作された『ターミネーター』にはどこか現在を彷彿とさせるところがある。今から4年後、軍事技術とAIの暴走によって人類が破滅へと向かう日が来てしまうとしたら?少なくともジェームズ・キャメロン作品から私たちは人間らしい散り際を学ぶことはできるだろう。
※本記事は米『ハリウッド・リポーター』によるオリジナル記事に基づいた要約・抄訳となります。
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