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ベニチオ・デル・トロ、20年ぶりオスカー候補の胸中とは?ディカプリオ共演作で見せた“静かな覚醒”

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ベニチオ・デル・トロ、20年ぶりオスカー候補の心境を語る
ベニチオ・デル・トロ 写真:Myles Hendrik; Grooming: Diana Schmidtke
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静かな語り口とは裏腹に、ハリウッド屈指の存在感を放ち続けてきた俳優ベニチオ・デル・トロポール・トーマス・アンダーソン監督最新作『ワン・バトル・アフター・アナザー』で、約20年ぶりとなるアカデミー賞ノミネートを果たした。

オスカー候補となったベニチオ・デル・トロが、作品への関わり方、レオナルド・ディカプリオとの共演、そして俳優人生を形作った個人的な記憶について語った。

インタビューに応じたベニチオ・デル・トロ

▼ハリウッドの“静かな重力”と呼ばれる俳優、ベニチオ・デル・トロ

「午後1時、ロビー入口で会ってください。すぐ分かりますよ :)」

それが唯一の指示だった。

指定の時間になると、ベニチオ・デル・トロがビバリーヒルズのホテル「ザ・ペニンシュラ」に、少し戸惑った様子で現れた。付き添いはいない。黒いウィンドブレーカーにオークランドA’sのキャップを深くかぶり、特徴的な眠たげな目をしている。身長188cmのデル・トロは、豪華なロビーの中でも自然と目を引く存在だ。

シャネルのスーツ姿の客たちがアフタヌーンティーを楽しみ、ハープの音が流れる空間を見渡したあと、デル・トロは少し暗い木張りのバーへ向かい席に滑り込んだ。

記者がビールを注文すると、デル・トロは頼まない。代わりにエスプレッソをショットで注文し、少し心配そうな視線を向けた。

「午後1時にビール?」
そしてこう続けた。「このインタビュー、どれくらい続くの?」

インタビューは好きかと尋ねると、デル・トロは率直に答える。

「正直、あまり好きじゃない」

敵意があるわけではない。記録に残った言葉は文脈から切り離され、永遠に独り歩きしてしまうからだという。

「あとで読むと、“そんな意味じゃなかったのに”と思うことがある。少し揺さぶられるんだ。言葉が、永久に残ってしまうから」

▼約20年ぶりのオスカー候補入りを果たしたベニチオ・デル・トロ

ベニチオ・デル・トロがブレイクしたのは28歳のとき、1995年の『ユージュアル・サスペクツ』で、言葉が不明瞭な詐欺師を演じた役だった。59歳となった現在も、デル・トロは独特で人間味あふれるキャラクターを生み続けている。

ポール・トーマス・アンダーソン監督作『ワン・バトル・アフター・アナザー』では、“センセイ”という人物を演じる。軍事的抑圧、革命の理想と愚かさ、弱者を守ろうとする本能を描く壮大な作品だ。

映画『ワン・バトル・アフター・アナザー』本予告

控えめな役柄でありながら、ベニチオ・デル・トロは賞レースの中心に立つことになった。

「奇妙な感じだよ」、デル・トロは言う。『ワン・バトル・アフター・アナザー』は13部門でアカデミー賞にノミネートされ、ベニチオ・デル・トロとショーン・ペンも助演男優賞候補となった。

デル・トロの前回のオスカーノミネートは、『21グラム』。その3年前には、『トラフィック』で助演男優賞を受賞している。

「光栄だし大きなこと。でも信じたくない気持ちもある。だから今は、この“波”を楽しもうとしている」

ベニチオ・デル・トロは、何度も「波」という言葉を使った。キャンペーンではなく、抗えない流れとして。

▼脚本を書き換えた“現実的な疑問”

実はセンセイというキャラクターは、当初まったく異なる役割を担っていた。初期脚本では、レオナルド・ディカプリオ演じる元革命家とともに殺人事件に関与する設定だったという。

しかし、ベニチオ・デル・トロは違和感を覚えた。

「彼らの関係性で、なぜそこまでやるのか論理が成立しない」

デル・トロの指摘は、物語を大きく変えることになる。暴力の引き金ではなく、危険地帯を家族たちが安全に移動できるよう支援する“守る存在”へとキャラクターが再設計されたのだ。

ポール・トーマス・アンダーソン監督は後に、「彼のアイデアが映画全体のドラマ性を押し上げた」と語っている。

▼ディカプリオとの“本当の結束”

撮影はテキサス州エルパソで行われ、地元住民も出演するリアルな環境で進められた。実際の店舗で撮影した際、レジには本物の現金が入っており、ベニチオ・デル・トロ自身がそれを扱う場面もあったという。

地元住民を前に、デル・トロとディカプリオが現場を導く立場となった。

「彼らは僕たちを見て、どう動けばいいか判断していた。あの瞬間、レオと同じ方向を向いていると感じた」

1990年代から面識のあった2人にとって、それは初めての“本当の意味での絆”だったという。

ベニチオ・デル・トロ、20年ぶりオスカー候補の心境を語る
ベニチオ・デル・トロ 写真:Myles Hendrik

▼9歳で経験した母の死が残したもの

ベニチオ・デル・トロの人生を語るうえで避けられないのが、9歳で母を亡くした経験だ。

「人生で、母を思い出さなかった日は一日もない」――声や匂いを記憶できる年齢でありながら、悲しみを理解するには幼すぎた。その喪失は、今も彼の内側に残っている。

後年、日本の映画監督・新藤兼人と出会った際、同じく9歳で母を亡くしていたことを知り、彼は質問を投げかけた。「映画を作ることで癒やされたのか」と。

返答は短かった。「まったく何も変わらなかった」

ベニチオ・デル・トロはその言葉を静かに笑いながら振り返る。

▼“守る者”という役柄と父としての現在

プエルトリコ出身のベニチオ・デル・トロは、俳優としてキャリアを始めた当初、ラテン系俳優への固定的な役柄に直面したという。

「でも僕は、どんな役でも演じられるはずだと思っていた」

現在は、娘をもつデル・トロにとって、『ワン・バトル・アフター・アナザー』のセンセイという役は単なるフィクションではない。危険に身を投じて他者を助ける人間の本能――それこそが作品の希望だと語る。

「誰かが他人を救うと、僕たちは拍手する。それは報酬のためじゃない。本能なんだ」

暗い世界観の中で、センセイは人間性を信じる最後の光として存在する。そしてデル・トロ自身もまた、その静かなまなざしで、今も世界を見つめ続けている。

※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。

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