ドキュメンタリー映画『ラスト・ムービーズ』原作者・監督が異色作の核心に迫る――著名人が“最後に観た映画”から歴史をひもとく
イギリス人アーティストのスタンリー・シュティンターが2023年に出版した著書『ラスト・ムービーズ(原題:Last Movies)』が、同名のドキュメンタリー映画として制作された。
本作は、フランツ・カフカやエルヴィス・プレスリー、カート・コバーンといった著名人が、亡くなる直前に観た映画に迫るドキュメンタリー作品。映画ではシュティンター自身がメガホンを取り、俳優のジェレミー・アイアンズがナレーションを務めた。また、シュティンターはプロデューサー、撮影監督、編集者も務めている。
この映画は、第23回コペンハーゲン国際ドキュメンタリー映画祭(CPH:DOX)の「ネクスト:ウェーブ」部門に選出され、現地時間3月13日(金)にワールドプレミアを迎えた。
同映画祭は、「奇妙でブラックユーモアに満ちた偶然が次々と現れ、やがて時空を超えたパターンが浮かび上がってくる」「シュティンターの歴史研究の深さと緻密さが、ナレーションを担当するジェレミー・アイアンズによって見事に表現されている」と本作を評している。
米『ハリウッド・リポーター』はシュティンターへのメールインタビューによって、本作の背景にあるアイデアや続編の可能性について訊ねた。
着想はスウェーデンの首相暗殺事件――映画が歴史を再定義
――『著名人が最後に観た映画を調べる』というアイデアは、どこから生まれたのですか?
「生まれた」というより、「引き金を引かれた」という言葉の方が適切かもしれません。以前、1986年にスウェーデンの元首相オロフ・パルメが、ストックホルムの映画館を出た直後に暗殺されたという記事を読みました。犯人は未だに捕まっていないため、この暗殺事件をめぐる関心は今でも高いのです。私が気になったのは、「パルメは何の映画を観ていたのか?」ということでした。
また、バンド「ジョイ・ディヴィジョン」のイアン・カーティスが、亡くなった夜にヴェルナー・ヘルツォーク監督の『シュトロツェクの不思議な旅』(1977年)のテレビ放送を観ていたという逸話を思い出しました。そこから、「誰が何を最後に観たか」という観点で、20世紀を再定義できるのではないかと考えたのです。
映画の黎明期には、フランツ・カフカがチャールズ・チャップリンの『キッド』(1921年)を最後に観ており、現代ではジャン=リュック・ゴダールが自らの作品『ジャン=リュック・ゴダール/遺言 奇妙な戦争』(2023年)を観て亡くなりました。これらは一本の線がつながります。登場人物の選定基準は、「生前、撮影に同意した人物」でした。

Charlie Chaplin™ © Bubbles Incorporated S
――この映画は、歴史そのものを異なる視点から捉えているように感じられます。従来の歴史の見方にどんな問題を感じており、それが現在どんな状況を招いていると思いますか?
これまで誰も考えたり、使ったりしなかったような整理方法を導入することで、歴史の欠陥や偏りが明らかになることがあります。すべての始まりは言葉です。言葉は権威的で、ある出来事についての記述を繰り返すだけで、それが真実になっていきます。
だからといってカメラもその問題を解決してくれません。カメラは嘘をつくからです。絶対的な真実など存在しないのです。しかし、私は「語り手」として、真実に少しでも近づこうとする衝動や、責任さえ持っています。
歴史家のピーター・ラインボーはそれを「悪魔的な光を当てること」と表現しています。これはつまり、ある個人や組織が他者に対して振るうあらゆる権力を、問い直すということです。
政府の機能不全と、権力維持のための強硬な手段が横行する今、この問いは特に切実に感じられます。ラインボーは「下から歴史を書き直すこと」を奨励しています。真実がどこかにあるとすれば、それは宮殿の中ではなく、街路や野原の中にあるはずです。
偶然と物語が交差――“最後に観た映画”から死者を想像する
――著名人が最後に観た映画は、何か重要なことを表しているのでしょうか?映画の冒頭には「偶然へのオマージュ」という注記がありました。
私たちは神話の中に生き、最終的に、自分たちの人生を支配している「偶然」に意味を持たせようと物語を作ります。著名人が最後に観た映画は、映像の中と外における彼らの人生を語り、どんな物語にも劣らないほどリアルで完全な物語を表します。
詩人のウィリアム・バトラー・イェイツは、「生きている者は死者の想像力を助けることができる」と言いました。
私は原作の執筆に先立ち、亡くなった著名人の名前を冠し、その人が生前最後に観た作品を上映する上映会を企画しました。例えば、カート・コバーンが最後に観たジェーン・カンピオン監督の『ピアノ・レッスン』(1993年)などです。説明も案内もありませんが、映画を観ることで、彼らが最後に観たものを想像できるように観客を促すのです。
――この映画は、書籍『ラスト・ムービーズ』にどの程度基づいていますか?また、映画でしかできなかったことはありますか?
映画の編集においては、取り上げた著名人が観た映画から抜粋した映像のみを使用しました。脚本の執筆は、まさに削ぎ落としの作業でした。
映画の制作過程で最も刺激的だったのは、まったく無関係の映画からほぼ無作為に選んだシーンが、著書の中でこだわった内容を、より鮮明な形で表現してくれた瞬間です。まるで、映画が勝手に自らを形作っていくようでした。この映画では、書籍の内容の約半分しか扱っていません。そのため、続編を作るかもしれませんね。
――著名人が最後に観た映画は、どのようにリサーチしたのですか?
主に図書館です。何百、何千もの著名人や公人について、書籍や新聞で調べました。場合によっては、ゴダールのケースのように、彼らを実際に知っている人物に直接連絡を取りました。
――本作は、ジョン・F・ケネディ、『スタートレック』シリーズ、ナイキの興味深い逸話や、繰り返し登場するテーマを通して、ポップカルチャー的な視点から歴史を辿っています。ドナルド・トランプが映画『カサブランカ』(1942年)の有名なアップライトピアノを購入しようとしたエピソードにも触れています。これらの名前が登場するのは、あなた自身の興味を反映しているのでしょうか?それともポップカルチャーにおいて、これらのトピックが重要だからでしょうか?

これらも偶然です。この企画において、登場する人物やトピックを作為的に選ぶことはできません。書籍も映画も、特定の個人やその作品に対する私の興味を反映したものではない、と断っておきます。
当然ながら私にも好みや偏見はあるでしょうが、その人物や生涯の業績に対して、価値を判断することは決してありません。これは私にとって重要なことです。
シュティンターが語る芸術と社会、そして次回作の構想
――最後に、アーティスト・映画監督としての活動について教えてください。あなたの映画やウェブサイトは、現状に異議を唱えるいわゆる「オルタナティブ」な印象を受けますが、映画については伝統を重視しているように見えます。
個人的には、ウェブサイトやSNSを運営することは、恥ずべきことです。しかし、最も効果的だと思うプロジェクトを、自分に望ましい形で提示するためならば、一定の価値があると思います。
私の作品や、あるいは私が好んで使う「非作品」は、共有空間や、会場への往復、そして偶然の出会いを意味します。それらはすべて“そこ”に存在しているのです。インターネット上での私の存在は、“そこ”へ人々を向かわせる指標にすぎません。
技術的な面では、映画館で映画を観ることに勝るものはありません。バーに行き、一杯飲むことも同様です。音楽では今でもレコードが最高音質のフォーマットですし、文字は印刷されていなければなりません。
私は懐古主義者でも、これらのフェチでもありません。しかし、人生の視野を狭め、あらゆるものを破壊する「新自由主義のディストピア」に対して、妥協できないのです。
――まだまだ先のことでしょうが、自身が最後に観る映画は何だと思いますか?
『ラスト・ムービーズ』の中で、亡くなる前に意図的に映画を選んだ例は一つしかありません。自ら命を絶つ場合を除いて(そんなことを考えなくてもいいことを願っていますが)、自分が最後に観る映画は、他人が後で知って驚くようなものかもしれませんが、私自身は永遠に知ることはありません。それがまさにこの映画の核心です。
私としては『The Darling Buds of May(原題)』(1991~1993年)や『男の傷』(1981年)が好きです。そしてホタテを食べ、インペリアル・スタウトを飲み、タバコを一本吸いたいですね。コーヒーショップでエスプレッソを飲み、日当たりの良いスイスの丘で子ヤギに餌をやりたい。しかし、残念ながら必ず偶然が割り込んでくるのです。
――次回作の予定はありますか?
『嵐が丘』の映像化で省略されがちな難しい後半部分を、全年齢向けで映画化するかもしれません。もし『ラスト・ムービーズ』が成功すれば、私は特定のブランドのコマーシャルを制作し、自らの功績を台無しにするかもしれません。特に、ペルシャについては大きな構想があります。
しかし、虐殺がライブ配信され、あらゆるものが撮影される現代では、カメラをどこに向けるべきか分かりにくくなっています。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。
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