Netflix・マーベルも炎上――AIが映画・ドラマにもたらすのは希望か?混乱か?ハリウッドで波紋広がる
今シーズンにアメリカで放送中のテレビドラマは、至るところでAIが描かれている。これは「制作現場でAIを活用している」ということではなく、「ストーリーの中にAIが登場する」ということだ。特に、急速に進化するAIに対する「不安」や「警戒感」を描いたものが多い。
ある意味、これは当然の流れかもしれない。ハリウッドでは近年、「AIが俳優やクリエイターの仕事を奪うのではないか」という懸念が広がっており、2度にわたって大規模なストライキも行われた。今シーズンのドラマは、こうした余波の中で制作されたものだ。そのため、現状ではAIは「悪者」として描かれることが多い。
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『ザ・ピット』『スカーペッタ』……ハリウッドドラマにAIが続々登場
第77回エミー賞を席巻したドラマ『ザ・ピット / ピッツバーグ救急医療室』では、極限の医療現場で奮闘する医師たちが描かれる。その中で、医療現場にAIを導入しようとするアル=ハシミ医師(演:セピデ・モアフィ)は、主人公のロビナヴィッチ医師(演:ノア・ワイリー)と対照的な存在として登場する。
アル=ハシミ医師は、「生成AIでカルテ作成や文字起こし業務を大幅に効率化できる」と主張する。しかし現状の生成AIでは、十分な精度で医師の代わりの役割を果たすことはできない。最終的に彼女が悪役として描かれるわけではないが、AIを過信するその姿勢によって、他の医師たちとたびたび衝突する。

長寿シットコムの『ザ・カムバック』シーズン3では、主人公ヴァレリー(演:リサ・クドロー)が再びドラマに出演するチャンスを得る。しかし、そのドラマは「生成AIが脚本を書いている」という問題を抱えていた。この事実を伏せたまま、ドラマの制作が始まる。
作中の脚本家夫婦は、AIが“蓄積(盗用)”した何十年分ものネタを用いて執筆を進めようとするが、AIは陳腐なオチを延々と量産し続ける。
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検屍官の活躍を描く『スカーペッタ』では、主人公の姪ルーシー(演:アリアナ・デボーズ)が、他界した妻ジャネット(演:ジャネット・モンゴメリー)を再現したAIに夢中になり、一日中パソコンの前で過ごすようになる。AIが再現するジャネットは、彼女のバーチャル上の相談相手であり、セラピストであり、パートナーでもある。
一方で、周囲の人々はこのAIに強い不信感を抱いている。しかしストーリーが進むにつれ、ルーシー以外の人々も、この“AIパートナー”の存在や価値の大きさに気づいていく。『スカーペッタ』はプライムビデオで独占配信中。

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これらの作品の根底には、「AIは信用ならないものだ」という共通認識がある。ただし、「AIをどのようなものと捉えているか」によって、作品ごとに描き方は異なる。
綿密なリサーチを重ねて制作される『ザ・ピット / ピッツバーグ救急医療室』は、医療現場で導入が進む生成AIについて、推進派と慎重派の対立を、現実的な視点から描いている。
『スカーペッタ』に登場するAIは、ほぼSFの領域だ。「亡くなった妻や子ども、ペットと会話する」というSFの定番の設定を、同作では現代版にアップデートしている。ドラマ『ブラック・ミラー』(2011年~)のエピソードを、より単純化しただけにも思える。
バレなければ問題ない?ハリウッドにおけるAI使用例
一方、『ザ・カムバック』に登場するAIは、ほぼ「ChatGPT」のみだ。この生成AIは頻繁にバグを起こし、「とても使えるものではない」という面白おかしさが生まれている。しかしその根底には、ハリウッド全体に漂うAIへの不安感がそのまま残っている。
同作に登場するテレビ局幹部(演:アンドリュー・スコット)は、「この業界でAIの評判が悪いのなんて、単なるイメージの問題でしょう?」と発言し、「AI脚本には何の問題もない」と言わんばかりに笑い飛ばす。
これはAIとハリウッドの現在地において、ある種の真実を突いている。今の業界には、「バレなければ問題ない」と考える制作陣が少なくないのだ。そこで、誰にも気づかれないよう、秘密裏にAIを利用するケースが後を絶たない。ところが、熱心なファンにAIの使用を見抜かれることもある。そうした場合、制作側は苦しい釈明を発表するのだ。実際にこうした事例は増えている。
具体例をいくつか挙げてみよう。マーベルのドラマ『シークレット・インベージョン』(2023年)は、サミュエル・L・ジャクソン、ドン・チードル、オリヴィア・コールマン、ベン・メンデルソーンといった豪華キャストが共演したが、そのポテンシャルを十分に活かせなかった。特に、AI生成を疑われたオープニング映像が、配信前からファンの反発を招いた。
緑色を基調に、形状が絶えず変化する映像は、実際にAIで制作されていた。後にプロデューサー陣がAIの利用を認め、「異星人のスクラルが世界に溶け込む不安感や、アイデンティティの揺らぎを表現するためだった」と説明している。しかし、不気味に変化していく映像は、人間のアーティストにも制作できたはずだ。
また、Netflixで配信されたアルゼンチンのSF大作『エテルナウタ』(2025年)では、より低コストかつ短期間でVFXを制作するために生成AIを使用したことを、共同CEOのテッド・サランドスが認めた。
さらに、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』シーズン5の制作過程を追ったドキュメンタリー『ストレンジャー・シングス 未知の世界 5 ~”最後の冒険”の舞台裏~』でも、似たような騒動が起きた。あるライターのPC画面にChatGPTらしきタブが開かれているのを、ファンが発見したのだ。
しかし、仮にライターがChatGPTを使用していたとして、「それが本当に問題なのか」を説明できる者はほとんどいなかった。それでもこの問題は、最終シーズンで未回収に見える伏線やストーリー上の粗と結びつけられ、疑念が広がった。

ハリウッドのAI技術はまだ成熟していない――“炎上”が後を絶たず
さらに不安を覚えるのは、AIがノンフィクション作品にまで入り込んできたことだ。Netflixの実録犯罪ドキュメンタリー『ジェニファーのしたこと』(2024年)は、AI生成、あるいはAI加工された画像を使用しているのではないかという批判を受けた。ただし、プロデューサー側はこれを否定している。
もっとも、ドキュメンタリーにおける“現実”と“演出”の境界が曖昧であることは、今に始まったことではない。この問題は『極北のナヌーク』(1922年)まで遡る。しかし、AI生成の画像や音声が使われ始めたことで、実物を見分けることはますます難しくなっている。
現時点で、映像業界におけるAI利用への認識は、まだ極めて断片的だ。中国では2024年、完全AI制作による短編アニメシリーズ『千秋の詩詠』が放送された。しかし、アメリカの地上波や主要ストリーミングサービスでは、まだこれに匹敵する規模の作品は登場していない。
一方で、今年『Time』誌のYouTubeチャンネルで公開された歴史シリーズ『On This Day…1776(原題)』は象徴的だった。この短編シリーズは、ダーレン・アロノフスキーのAI専門スタジオ「プライモーディアル・スープ」が制作した。同作は議論を巻き起こし、ハリウッドではAIを取り巻く環境がいまだ整備されていないことが、改めて浮き彫りになった
同作は、俳優や人間のアニメーターを起用しつつ、Google DeepMind社の技術を活用し、AI生成のビジュアルを組み合わせて制作されている。ただし、その映像はところどころ破綻しており、生気のない偉人たちが画面をうろつくだけに見えた。エンターテインメントとしても、教育コンテンツとしても評価が難しい。
実際にアロノフスキーがどの程度AIを利用したのかは、明らかになっていない。しかし、これまで“職人的なクリエイター”と見なされていた人物が、AI活用に前向きな姿勢を示したことで、AIに懐疑的な人々はさらに行き場を失ってしまうだろう。その中には、自身の監督作品にAIを導入したナターシャ・リオンや、NetflixにAIスタートアップを売却したベン・アフレックも含まれる。
クリエイターとAIは共存できるか──映画業界の未来を考える
現在のところ、クリエイターがAIを利用したと知れ渡ると、ネット上で非難される傾向にある。先述の『ザ・カムバック』で、ヴァレリーの出演作が「絶対にAI脚本だと知られてはならない」とされているのは、このためだ。
しかし、ここには明らかな悪循環が存在する。AIの利用を公言した者は袋叩きに遭うが、だからこそ誰も公言したがらなくなる。結果として、視聴者はますます神経質になり、「AIっぽいもの」を血眼になって探し始めるだろう。SNSで炎上した事例だけでなく、誰にも気づかれずにスルーされる無数のAI作品が存在しているかもしれない。視聴者の間には、そうした疑念がじわじわと広がっている。
結局、本記事の内容をまとめると次のようになる。
AIは、ティリー・ノーウッドのようなキャラクターを作り出せるかもしれない。しかし、何十年にもわたる俳優としての経験や身体性から生まれる表現には、決して到達できない。直近では、ドラマ『ローダウン 独自調査ファイル』(2025年)でイーサン・ホークがすばらしい演技を見せていた。

AIは、『シークレット・インベージョン』のオープニングのような、不気味な映像を作ることはできるかもしれない。しかし、『Pachinko パチンコ』(2022年~)の90秒間のエンドクレジットで味わえるような、純粋な喜びを生み出すことはできない。
AIを利用すれば、ゲームのワンシーンのようなVFXや、よくあるオチばかりのシットコムを量産することはできるだろう。しかし本来なら、将来有望なVFXデザイナーや脚本家アシスタントが、適正な価格で雇用されていたかもしれない。そうした人々よりもAIを優先することは、映画・ドラマ業界の未来を切り捨てることにほかならないだろう。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。
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