「Heart on Heart」Vol.2 

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尚玄×MEGUMI  後編

Vol.1はこちら

俳優、監督、音楽家…あらゆるジャンルの「表現者」が本音で語り合う連載「Heart on Heart」(腹を割って語り合うの意)。2回目も映画『赦し』で共演した尚玄とMEGUMIに語ってもらった。日本と海外の映画産業のギャップを語った前回と打って変わって、両者は自身のプロデュースやこれから、プライベートと仕事のバランスについて胸中を打ち明ける。

【プロデュースや企画に携わり始めたきっかけ】

尚玄:MEGUMIさんは何がきっかけでしたか?

MEGUMI:役者は呼ばれないと稼働できないじゃないですか。だから1回目の緊急事態宣言で家にずっといる時に「あ、今のままだと仕事が全部なくなるな」と強烈に思った日があったんです。当時はみんな時間があったし、自分の好きな監督や役者にAmazonで買ったグリーンバックを配って、家で撮ったショートドラマをInstagramに投稿したんです。イラストレーターに背景を描いてもらって、「メキシコに旅をする」という設定の1分間の動画を3話くらい作りました。それが最初だったので(プロデュース業は)比較的最近の話です。

尚玄:コロナを逆手に取ったんですね。

MEGUMI:これからは待っていてもダメ。自分から発信しなきゃいけない、と思ったんです。これまでも雑誌を作ったり、何年かブランドをやったり、0を1にすることが好きだったので、それをやればいいんだって。今さらTikTokで踊る訳にはいきませんし(笑)。自撮りが照れくさいし、そういう世代ではないですから。尚玄さんはいつが最初でしたか。

尚玄:ちゃんとクレジットをもらったのは『義足のボクサー』が最初でした。

MEGUMI:すごい大作じゃないですか。

尚玄:(映画化の)権利を獲得してから作るのに8年間かかりました。僕はいまだにインディーズ映画が主戦場ですから、「一緒に何かやりませんか」と企画の段階から相談を受けることが多いんです。だから台本の修正やキャスティング、ロケーションスカウティングから一緒に…ということは長いことやってきました。

『赦し』のプロデューサー・山下貴裕さんと一緒に作った、デビュー作『ハブと拳骨』はいきなり主役をいただきました。ロケーションスカウトティングで一緒にタイに行ったり、60年代の沖縄にいた元ヤクザの人にインタビューしたり。だからプロデュースをやっている理由は「1から一緒に作るのが純粋に好きだった」というだけですね。

MEGUMI:では企画や本に出会って「これを映画化しよう」と思うことが多い?

尚玄:例えば「こういう企画や本があるんだけど」と相談される時点で配役を映画化を想定くれていると思うんですよね。「読んでみませんか?」という入りから参加することも多いですし。そのまま自動的にキャストとしても参加して、一緒にディベロップもすると。

MEGUMI:なるほど。今後は自分の企画もやったり?

尚玄:今アイデアを溜めています。

MEGUMI:それが一番楽しいんですよ。私も何作か才能ある監督と企画から一緒にやったことがあります。それは楽しいし勉強になるのですが、やっぱり自分が「これがやりたいんだ!」と強く思うものと比べると、同じプロデュースでも意味合いが違ってくる。

尚玄:そうですね。今回の『赦し』で監督してくれたアンシュル(・チョウハン)の場合は、僕が彼の作品が好きで「一緒に何かやろうよ」というところから始まりました。僕はプロデューサーという立ち位置ではないけど、最初から一緒に作らせてもらって楽しかったです。オーディション会場では、初対面のMEGUMIさんにいきなり芝居をしてもらいましたよね。芝居はケミストリーが大事ですから、このキャスティングは間違いなかったと確信しています。

MEGUMI:ありがとうございます。アンシュルと二人で話したところから、こうして仲間たちが増えて、実際に撮って、それが世の中に出ていった。そして観た人の心が震えることになる、というのは何ともエモーショナルな出来事ですね。プロデュース業のそこに、私は興奮するんですよ。

2022年「釜山国際映画祭」にて ⒸPetter Moen Jensen

尚玄:「釜山国際映画祭」は世界でも注目されていて、レッドカーペットもすごかったじゃないですか。今はアジアの映画がすごい。

MEGUMI:韓国はもちろん、中国もすごいですよね。

尚玄:そういえば『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』観ました?

MEGUMI:まだ観てないんですよ。

尚玄:実はお風呂に入ってる時に思いついたことがあって。

MEGUMI:「あのシーンはこういう意味だよね?」とかかな。

尚玄:異次元の自分とリンクできる「バースジャンプ」という概念が役作りと似てるなと。多分これは観てないとわからないと思う(笑)。

MEGUMI:でも、アジアは本当にすごいですね。

尚玄:世界でアジアの俳優たちが活躍していますよね。ミシェル・ヨーさんも本当に苦労したと思いますね。

MEGUMI:日本人も頑張らなきゃなと毎年強く思いますけども。

尚玄:はい。頑張っていきましょう。

【今後の活動について】

MEGUMI:4年ぐらい前から母として生きながらも、このタフな芸能界でサバイブしてきたことは、何となく自分のオリジナリティだなと思っています。なので女性に矢印を向けた活動をしたいですね。「この作品に出たら女性が喜ぶかな」とか「この本を出したら女子が喜ぶかな」とか「このラジオをやったらどうだろう」という考えが常にある。

女性の意志を尊重してという仰々しいことではなく、女性特有の痛みが理解できる分、作品選びを含んだ全ての活動でそこに矢印を向けたいですね。先生は?

尚玄:先生(笑)。偉そうに言う訳ではないですが、若い時はもっと広く仕事を受けていたと思います。でも最近は唯一無二というか、替えの利かない俳優になりたいので、自分が参加してプラスになる作品はやりたいし、逆に自分である必要がないと思う作品はお断りすることが増えました。

MEGUMI:とはいえ、ドラマ出演は基本的に少ないですよね。

尚玄:縁がないというのもあるんですよ。だから自分自身はずっと映画が好きで、映画をやり続けてきたから縁があるのかもしれません。ただ自分でプロデュースしているMEGUMIちゃんもわかると思いますが、大雑把に言うと「海外の作品」は圧倒的にコミュニケーションが取れる。

MEGUMI:英語がバッチリですからね。

尚玄:あと、そのための時間も取ってくれるじゃないですか。

MEGUMI:確かに。

尚玄:自分が作品作りに色々な意味で参加できるところが好きで。だから必然的にインターナショナルな作品に出演することが増えているともいえます。

MEGUMI:唯一無二の存在ですね。

【仕事とプライベートの両立】

MEGUMI:尚玄さんは結婚したばかりですから。今までと感覚が少し変わったんじゃないですか。

尚玄:まだ1年経っていないんですけどね。でも付き合いが10年近いこともあり、ふたりの関係性はあまり変わってないです。ただ今まで一緒に行きづらかった場所に堂々と行けるのは楽ですね。

MEGUMI:長期間ロケに行ったりすると、家にいなくなるじゃないですか。それが申し訳ないって考えたりしません?

尚玄:向こうも仕事で飛び回っているから、逆にそのバランスがいいのかなと。

MEGUMI:ああ、そうか。

尚玄:同じ俳優同士だったらお互いにぶつかったりするかもしれませんが、ミュージシャンですし。「ものづくり」という点で共通してるけど、やっぱり違う職種だなと。彼女はミュージカルもやっているので色々な話ができますよ。MEGUMIさんはどうですか?

MEGUMI:息子が中2になってしまって。後悔しかないですよ。

尚玄:え?

MEGUMI:当時27歳で産んで一生懸命やってきたけど、周りの人が誰も産んでなかった分だけ置いてきぼりな感じがありました。気持ちが付いていかなかったというか。愛してるし可愛いのですが、母としてもうちょっとやれたなとか、もうちょっと一緒にいてあげたかったなとかは思います。働く母ちゃんはそこが苦しいですね。でも、気が付いたら14年経って自立への背中が少しずつ見えてきた訳ですよ。

尚玄:少し寂しさもある?

MEGUMI:「もう、こういう感じなのね」と考えるとそうです。とはいえ女性で「私はバランスよくやってきた」と言う人は見たことがないですね。やっぱり悩むんですよ。家族に申し訳ないとか、子供に申し訳ないとか。そこはもう絶対拭えない気がする。それを最近感じます。

尚玄:俳優としても活動されている旦那さんに台本読みなどを手伝ってもらったりします?

MEGUMI:ありますよ。長台詞で覚えるのが大変な時とか。でもミュージシャンって覚えるスピード速くないですか?

尚玄:センスや感覚があるんだと思います。

MEGUMI:ですよね。付き合ってもらっていると、あっちの方が早く覚えたりとかして。「あれ?」みたいな(笑)。

尚玄:セッションとかもするからかな。

MEGUMI:すごい集中力だなと。奥さんと本読みします?

尚玄:たまにしますよ。昔は(オーディションって)実際の会場に行く必要がありましたが、今は自分だけを映して、カメラの後ろに台本を読む人(リーダー)がいる形式の「セルフテープ」を送るリモート形式のオーディションがコロナ禍で増えているんですよ。それを撮る時は、ほぼリーダーをやってもらいます。

MEGUMI:なるほど。

尚玄:あと先生のスーザン(・バトソン)もよくやるんですけど、例えば本作なら澄子(※『赦し』劇中の妻の名前)としてインタビューしてもらうんですよ。「何月何日生まれですか?」とか「今どこに住んでますか?」と。あとは「週に何回スーパー行くんですか?」とかも。それに答えられないと、その時点で役作りとして駄目だから、基本的に考えなくても言える領域まで役を落とし込む練習。それに付き合ってもらうことが多いですね。

MEGUMI:例えば「週3日です」というのをパンと言えるんですか。

尚玄:自分でサイクルをちゃんと落とし込んでいれば普通に答えられるし、リーダーが台本を理解していれば内容に即した結構しんどい質問もしてくれますね。例えば今回の『赦し』の場合、「娘が急に帰ってこなかった時の気持ちどうでした?」とか。台本に書かれてないけど、それを聞かれると感情が湧き上がってくるんです。キャラクターを作る上ですごく良いのでおすすめですよ。

MEGUMI:ありがとうございます。それはいい手法なので、やってもらおうかな。もし尚玄さんにこれから子どもができたら、作品選びがまた変わりそう。

尚玄:周りの俳優の先輩も「子供ができると表現が変わる」とみんな言うので、今後あるといいですね。

MEGUMI:それでポップな役をやったりしたら可愛いかもしれない。

尚玄:戦隊物とかね(笑)。

MEGUMI:それはそれで可愛らしい変化だから、いいと思いますけど。楽しみにしてます。

尚玄:プロフィール
1978年生まれ、沖縄県出身。大学卒業後、バックパックで世界中を旅しながらヨーロッパでモデルとして活動。2005年戦後の沖縄を描いた映画『ハブと拳骨』でデビュー。2008年ニューヨークで出逢ったリアリズム演技に感銘を受け、本格的に芝居を学ぶことを決意し渡米。現在は日本を拠点に邦画だけでなく海外の作品にも多数出演している。2021年主演・プロデュースを務めた映画『義足のボクサー』が釜山国際映画祭にてキム・ジソク賞を受賞。2022年同映画祭でAsia Star Awardを受賞。

衣装:全て BOSS

問い合わせ先
ヒューゴ ボス ジャパン株式会社
03-5774-7670

Stylist:YK.jr

MEGUMI:プロフィール
1981年生まれ、岡山県出身。俳優として第62回ブルーリボン賞助演女優賞を受賞。近年は映像の企画、プロデュースを行なっている。 プロデューサーとしての作品にドラマ『完全に詰んだイチ子はもうカリスマになるしかないの』(22年・テレビ東京)、映画『零落』(23年・竹中直人監督)、ショートムービー『LAYES』(22年・内山拓也監督)などがある。

『赦し』
東京・ユーロスペース、アップリンク吉祥寺ほか全国で公開中

(取材:The Hollywood Reporter Japan/撮影:三塚比呂、丹澤由棋/構成:小池直也)

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