TIFFイベント:山田洋次監督、のんらが登壇。福島浜通りの今と未来スペシャルトークセッション

第36回東京国際映画祭で28日、シンポジウム「福島浜通り映像・芸術文化プロジェクト(ハマカル)」×東京国際映画祭2023 スペシャルトークセッション~福島浜通りの今と未来~」が行われた。登壇したのは犬童一心監督、のん、小川真司プロデューサー、渡部亮平監督、山戸結希監督の5名。それぞれが持つ意見を交換する貴重な機会となった。

「福島浜通り映像・芸術文化プロジェクト」は、映画や芸術などの文化で福島県浜通り地域に新たな魅力を創出する経済産業省の取り組み。今年度からは活動を本格化させ、芸術家の滞在制作支援や映画や音楽に関するイベント開催などを予算事業として実施している。本トークセッションは昨年の東京国際映画祭に引き続きの開催となり、120名限定の観覧は満席だった。

トークセッションの前は渡部監督、山戸監督、小川プロデューサーによる現地視察を板橋基之監督が編集した記録映像が上映された。そして山田洋次監督が挨拶。経産省が最初にプロジェクトの話を持っていったのは彼だったが、スケジュールの関係で参加が難しく犬童監督らに話を振ったのだという。しかしながら、山田監督は「お役所仕事ではなく、若い世代を中心に起きている運動として本プロジェクトに興味を持った」と力説する。

さらに「韓国は演劇や舞台を支援しているから、今の活躍がある」と例に挙げてから「この際だから、広い土地に国立の撮影所を作ってしまうのもいいんじゃないかと夢としてはありえる」と大きなビジョンを共有。さらに「途方もない予算とエネルギーがかかるけど、それくらいの運動になってほしい」と付け加えた。

トークセッション本編は「浜通り」という地域への印象や、具体的にどのようなことができるかの可能性、現在プロジェクトで重点とされるアーティスト・レジデンス(滞在制作)などの多岐に渡るトピックが展開。東京にはない非日常を魅力として捉えた「行ってみた方がいい」という声も。

何もなくなった土地で、人生を変えて新しいことを始める人々を見た印象を犬童監督は「西部劇だと思ったんですよ。開拓者精神というか。この5、6年でそういう人が増えた」と話す。また山戸監督は、被災地にカメラを向けることを「暴力性」としつつも、「記録するためには『個人と個人』で繋がる必要がある」とした。

実際に岩手・遠野に半年間居住して映画『おちをつけなんせ』を完成させた、のんは滞在制作について「場所の持っている空気感や遠野はミステリアスな街で、地元の皆さんの訛りとかも面白い。世間話から浮かぶアイデアもありました」とコメント。その期間は「出稼ぎに東京に行く」感覚だったという。また大量のエキストラが必要なシーンで困った時に、地元の「幅を利かせた」人にお願いしてすぐに人が集まったというエピソードも明かした。

賃金水準が上がらず「失われた30年」と叫ばれているが、日本は地震や戦争による破壊に対して、さらなる創造を見せてきた国だ。だとしたら現代、新しいものが生まれるのは福島である可能性は十分あるだろう。アーティスト・イン・レジデンスを始めとした施策を通じて、どんな作品が生まれ、本プロジェクト自体がどう発展していくのか見守っていきたい。(取材:小池直也)

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