「エシカル・フィルム賞」第一号にスペインの『20000種のハチ(仮題)』 東京国際映画祭に新たな価値観

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第36回東京国際映画祭で31日、「エシカル・フィルム賞」の授賞式が行われた。選出作品はスペインで制作された『20000種のハチ(仮題)』。エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン監督(スペイン)にトロフィーが授与された。

「エシカル・フィルム賞」は今回から、新設されたアワード。エシカルの定義を「人や社会・環境を思いやる考え方・行動」とし、選出されるのはエントリーされた新作の中から、「エシカル」の基本理念に合致する優れた作品だ。具体的にはジェンダー平等、環境、貧困、多様性、差別といった現代の重要な社会テーマに向き合った作品が対象となる。

審査を務めたのはa・unエシカル百科店 スーパーバイザーで、元西武百貨店社長・水野誠一氏(写真左上)、a・unエシカル百科店 エシカルプロデューサー・坂口真生氏(右上)、テレビ東京制作局のクリエイティブ制作チームでありチーフ・プロデューサー・工藤里紗氏(左下)、住友商事執行役員でメディア事業本部長・渡辺一正氏(右下)の4名。彼らは多角的に受賞作を探っていったもよう。

授賞式は、安藤裕康チェアマンも出席して賞の趣旨を説明。それに続いてソラグレン監督にトロフィーが贈られて、受賞の喜びとともにスピーチした。まず彼女は着想について語る。

「日本の皆さまに歓迎していただいて感謝です。作品のインスピレーションになったのはバスク地方で起きた悲しい事故、トランスジェンダーの男の子の自殺でした。彼が日本のサムライが好きだったので、この映画が日本で上映されることを大変嬉しく思っております。また彼は自分の死によって同じ境遇の人たちが生きやすい世の中になってほしいと願っていました」

さらに「映画には社会を変える力があると思います。知らないものに対する恐怖は誰しもが持つと思いますが、映画を観ることで現実として感じ、共感していくことができる。それこそが今映画に求められていることなのではないでしょうか。色々な言語や文化、伝統がありますが、私たちの文化を映画を通して紹介できたことを嬉しく思います」とした。

その後、行われた審査員4人のトークセッションでは受賞理由などを、最終選考に残った『パワー・アレイ』(ブラジル)、『漁師』(フィリピン)の印象を交えつつ、それぞれがコメント。

水野氏は「優しいまなざしで見ている少年の姿、それを演じた少女の演技がよかった。そしてバスクの風景と『蜂』の生態も素晴らしい」と賛辞。工藤氏は「1回目の『エシカル・フィルム賞』に一番フィットする作品」ということで選考されたようだ。渡辺も「主人公が抱えるジェンダーへの悩みを、周囲が困惑しながらも乗り越えていくという姿勢が賞にふさわしいと考えました」と話す。

最後に審査員たちから「なぜ蜂のモチーフを選んだのか?」という質問が。それについてソラグレン監督は「蜂は怖いイメージがありますが、知的で素敵な動物。それを知って私も恐怖が共感になっていきました」としてから、「ハチは自然界のなかの多様性のシンボル。人にもそういう多様性が認められればいいなと思った次第です」と回答。これを以て、受賞式及びトークセッションは幕を閉じた。

全体を通じて「エシカル」という抽象的なカテゴリゆえに、審査も難しかったのではないかという印象を持った。まだまだ手探りという点で、次回も注目したい賞のひとつになるかもしれない。なお受賞作は、邦題『蜜蜂と私』として1月5日より全国公開となる予定だ。(取材:小池直也)

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