『オッペンハイマー』遂に日本公開、賛否両論「描写が不十分」

『オッペンハイマー』ポスター
『オッペンハイマー』ポスター、東京 写真: YUICHI YAMAZAKI/AFP

アカデミー賞受賞作『オッペンハイマー』が29日、ついに日本で公開された。当然ながら、日本の映画ファンの反応は複雑で、非常に感情的なものだった。

3歳のときに広島で被爆した箕牧智之(みまき・としゆき)さんは、“原爆の父”と呼ばれるJ・ロバート・オッペンハイマーの物語に魅了されてきたという。

箕牧さんは、AP通信との電話インタビューで「日本人は何を考えて真珠湾攻撃を行い、勝つ見込みのない戦争を始めたのでしょう」と、悲しみをにじませながら語った。

現在、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の理事長を務めている箕牧さんは、試写会で『オッペンハイマー』を鑑賞した。「鑑賞中、広島の原爆投下シーンが描かれるのをずっと待っていたのですが、結局それは描かれませんでした」

『オッペンハイマー』は、原爆が投下された広島と長崎の状況を直接的に描いていない。本作はその代わり、オッペンハイマーという一人の人間、そして彼の内的葛藤に焦点を当てている。

本国アメリカでの公開から8ヶ月以上の時を要した日本での封切りは、そのセンシティブな題材から不安視されていた。

前広島市長の平岡敬氏は、広島市内で開催された試写会に登壇し、省略された部分について以下のように述べた。

「私は広島の立場から、核兵器の恐ろしさが十分に描かれていないんじゃないかと思いました。この映画は、原爆がアメリカ人の命を救うために使われたという結論を正当化するように作られています」

一部の映画ファンからは、賞賛の声が上がった。東京のある男性は、本作は素晴らしかったと語り、このテーマは日本人にとって非常に興味深いものであると強調した。またある人は、オッペンハイマーの心の葛藤を描いたシーンに胸が詰まったと語った。

日本では昨年、映画『バービー』と『オッペンハイマー』を融合させた“バーベンハイマー”と呼ばれるマーケティング現象に対し、反発が一気に広がった。『バービー』の国内配給権を有するワーナー・ブラザース・ジャパンは、バービー人形と原爆を組み合わせたミームが投稿されたことを受け、謝罪する事態となった。

アメリカ政治を専門とする上智大学教授の前嶋和弘氏は、この映画を”アメリカの良心”の表現と言い表した。

「反戦映画を期待する人はがっかりするかもしれません。しかし、ハリウッドの超大作でオッペンハイマーの物語を語ることは、核兵器の正当性がアメリカ人の感情を支配していた数十年前には考えられなかったことです。作品は、劇的に変化したアメリカの姿を映し出しています」

また、『ゴジラ-1.0』の山崎貴監督は、クリストファー・ノーラン監督とのオンライン対談で、「日本側から返答の映画を作らなくてはいけない、という気がすごくしました。いつか実現させたいと思っています」と語り、ノーランは心から賛同していた。

さらに眞珠浩行弁護士は、東京弁護士会が公開した論評の中で、「本作品を一つのきっかけとして、広島・長崎への原爆投下の正当性や、人類、そして日本は核兵器や戦争に対してどのように向き合うべきなのかを考えてみるのは意味のあることと思われます」と綴った。

※本記事は英語の記事から抄訳・編集しました。編集/和田 萌

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