シュールすぎる世界に夢中になる!ヨルゴス・ランティモス作品の魅力

『哀れなるものたち』写真: ATSUSHI NISHIJIMA
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何千本も映画を観ていると、「この作品を作った監督の頭の中をのぞいてみたい」と畏敬の念が湧いてくる作品に出会います。

ギリシャ出身のヨルゴス・ランティモス監督は、まさにその一人。

映像を少し見ただけですぐにランティモス作品だとわかる独特な世界観や、一度観たら抜け出せなくなる未知の奇抜さに圧倒されます。

映画を発表すれば必ず話題になり、いまや映画界に欠かせない存在となったヨルゴス・ランティモス

2023年公開の『哀れなるものたち』では第80回ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞し、第96回アカデミー賞ではエマ・ストーンを主演女優賞に導きました。

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本記事では、これまでに公開されたランティモス監督作の中から3本をピックアップし、気になる最新作の情報も紹介していきます。

ヨルゴス・ランティモス 写真: LOIC VENANCE/AFP VIA GETTY IMAGES

『籠の中の乙女』

カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でグランプリを受賞、さらにアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされ、ランティモスの出世作となった『籠の中の乙女』(2009)。

ランティモス作品に共通する奇想天外なルール、主従関係、善悪の境界線、人間と動物の違い、奇妙なダンスが最もストレートに表現されており、突き刺さるような鋭さを一番感じた作品でもあります。

“外の世界は汚らわしい”という妄執にとりつかれた両親によって、生まれたときから家に閉じ込められている3人の子どもを軸にした衝撃作。

かなり奇妙な設定ですが、とくに恐ろしさを感じたのは父親がこの極端なルールを正しいと信じていること。そして閉鎖的な空間では、強い者の意見が正義になってしまうこと。

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「それぞれの家族にルールがある」と監督が語っているように、各家庭には門限やお小遣いの額など独自の決まりごとが存在します。

しかし、自分以外の家庭の深い信念や教育方針は謎に包まれているもの。ずっと正しいと思ってきた価値観やルールは、自分の家族内だけかもしれないと客観的な視点に立ち戻されます。

「正義とは?家族とは何か?」を見つめ直したくなるような衝動に駆られる、刺激たっぷりな作品です。

そして、極端な環境で純粋無垢に育った子どもたち。父親が自我や性の目覚めまでコントロールする様子を通して、子どもも一人の人間だということ、個性を尊重する重要性、信頼して手放すのも愛だということに気付かされます。

『ロブスター』

『ロブスター』コリン・ファレル、レイチェル・ワイズ 写真: COURTESY OF ALCHEMY/SUNDANCE INSTITUTE

『籠の中の乙女』に続き、ランティモスの世界観が炸裂しているのがコリン・ファレルレイチェル・ワイズ共演の『ロブスター』(2015)。

ランティモスにとって初の英語作品となる本作は、カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞しました。

今回も独特すぎるルールが登場。独身であることが罪とされ、45日以内にパートナーを見つけなければ動物になってしまう世界を描いたSFスリラーとなっています。

ランティモスはまたもや不条理なルールを通して、当たり前に存在する常識や倫理観に疑問を投げかけてきます。

動物になってしまう危機的状況下で本物の愛を築いていけるのか、はたまたそれはただの自己愛なのか。

真実の愛が試されるラストは、思わず考えさせられます。

コリン・ファレルは『フォーン・ブース』や『マイアミ・バイス』などアクション映画のイメージが強く、シュールでアーティスティックなランティモス作品での主演は意外でした。

主人公のおっとりしていて憎めないキャラと、ランティモスの独創性が見事に調和していて、これまた一癖も二癖もある唯一無二の作品に仕上がっています。

『哀れなるものたち』

『哀れなるものたち』写真: COURTESY OF TELLURIDE FILM FESTIVAL/ YORGOS LANTHIMOS/SEARCHLIGHT

哀れなるものたち』(2023)は、『ラ・ラ・ランド』でアカデミー主演女優賞に輝いたエマ・ストーンとタッグを組んだことで、ランティモスのシュールさにハリウッドの風が漂うゴージャスな大作に仕上がっています。

自殺した女性ベラは、天才外科医ゴッドウィンの手により胎児の脳を移植され蘇ります。ベラは一人で外出することはなく常にゴッドウィンの監視下に。やがてベラに自我が芽生え始め、外の世界への好奇心が抑えられなくなります。

ベラの状況は『籠の中の乙女』の子どもたち、とくに長女とかなり類似しています。ランティモスらしい設定だと思いましたが、実は原作がありアラスター・グレイの同名小説を映画化した作品です。

子どもから大人に成長していく過程では、体の成長に対して知識や経験が足りません。

保護された環境から一歩外の世界へ出ると、悪意を持った人が存在することや、性は搾取される側面があることを知り戸惑う時期があります。

ベラも冒険を通して世界は美しい面ばかりではなく負の面もあるのだと絶望しますが、現実を直視して自己実現に邁進していきます。

世の中の理不尽さに屈せず立ち向かっていくベラの姿は、まさに人生賛歌。

どうにもならない不正義が存在していても、酸いも甘いも経験し自由を手にしていくベラに救われる思いがしました。

ヨルゴス・ランティモスの最新作は?

エマ・ストーン、ヨルゴス・ランティモス、ジェシー・プレモンス 写真: COURTESY OF PASCAL LE SEGRETAIN/GETTY IMAGES

異才を放つヨルゴス・ランティモスの最新作は、9月27日(金)公開の『憐みの3章』。3つの物語から構成されているアンソロジー映画です。

3度目のタッグとなるエマ・ストーンを主演に迎え、ジェシー・プレモンスウィレム・デフォーマーガレット・クアリーらが出演。第77回カンヌ国際映画祭では、プレモンスが本作の演技で男優賞を受賞しました。

さらに、ランティモス監督は、『Bugonia(原題)』の製作も控えています。韓国映画『地球を守れ!』(2003)のリメイクで、プロデューサーは『ミッドサマー』のアリ・アスター監督、主演は4度目のタッグとなるエマ・ストーンです。

いま最も勢いのある映画人たちが集結した最新作。どんな未知の世界を見せてくれるのか、今後の活躍も楽しみです。

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