【THRJ独占インタビュー】『ギーク・ガール』サンドラ・イー・センシンダイバーが語る「リプレゼンテーション」の重要性
大ヒットNetflixファッションコメディドラマ『ギーク・ガール』のユウジ・リー役で今注目されているサンドラ・イー・センシンダイバー。韓国生まれデンマーク育ちのサンドラは舞台女優としてキャリアをスタートし、今は女優・監督・脚本として国際的に活躍している。
『ザ・ハリウッドリポーター・ジャパン』との独占インタビューでは、デンマークからハリウッドまで積んできた幅広いキャリア、映画・テレビ業界における「多様性」の大切さ、そして『エイリアン』ドラマ化の出演についてなどについて語ってくれた。
Netflixドラマ『ギーク・ガール』について
——— コメディドラマ『ギーク・ガール』の撮影経験やドラマ公開後の視聴者の反応などについて教えてください。
このドラマがここまで注目を集めるとは誰も予想していませんでした。他のドラマと比べて低予算で、元はティーンもしくは子供向けのドラマに分類されていましたからね。しかしプロデューサーや監督、脚本家たちはこのドラマのテーマ、ファッション界の描き方、そして多様性のあるストーリーが全世代の視聴者に興味を持ってもらえると信じていました。
本当に嬉しかったことは、その願いが現実化したことです。このドラマは若い女の子たちやティーンだけでなく、幅広い視聴者に受け入れてもらえました。このドラマを楽しんで見てくれたファンたちに会うこともできてとても嬉しかったです。元々ドラマが狙っていた視聴者層でなくても、さまざまなジェンダーや年齢の全世界のファンからインスタグラムでメッセージをもらいました。スケールの大きいドラマでは決してありませんでしたが、Netflixを通して人気を集めることができてとても嬉しいです。特に発達障がいのある視聴者たちから喜びの声を聞き、いかに普段メディアで描かれることが少ない人々を公正に描くことが大切かに気付かされます。
このドラマはメディアにおける多様性の可能性を形にしたものだと思います。プロデューサーであるゾーイ・ロシャと制作チームがキャスティングとストーリーにおいてどのように国籍や社会階級、タイプなどを公正に描くことができるかを追求し、その努力が実ったものです。そしてNetflixが次シーズン決定すれば、その追求を続けてさまざまな国籍やジェンダー、そして発達障がい者を描くように心がけていくことでしょう。この包括性こそがこのドラマの成功した理由です。さまざまな視聴者がこのドラマを通して自分自身を見つけ共感することができます。少し子供っぽいコメディ満載のロマンスでありながら、決して大袈裟でないリアルなドラマです。そしてただ「お飾り」のための多様性でなく、さまざまな人々を芯から描くアプローチをとっています。だからこそ、このドラマがエンターテイメント業界の希望の星であるのです。
——— 『ギーク・ガール』で演じられたキャラクター、ユウジについて教えてください。
初めてユウジの台本を読んだ時、今までにない役柄だと気づき、すぐに引き込まれました。たまにおおげさなセリフもある風変わりなキャラクターだからこそ、その派手なキャラクターを自然に演じるためには時には大胆な選択もしました。
ここ数年にキャリアを通して積んだ経験があったからこそ可能であった選択も多くありました。今まで演じてきた役を通して学んだこと全てが役立ち、このキャラクターを演じるにあたって重要であった選択肢を見極めることができました。そして選択した道を監督や他のキャストに伝え、説得するのに欠かせないのは自信を持つこと。私が自分で選び、主張したキャラクターの要素が視聴者から良い反響を受けているところを見ると、やりがいを感じます。ユウジ・リーが演じられたキャラクターとは知らず、実際のファッションデザイナーがドラマにゲスト出演していると勘違いしたファンからメッセージももらいました。最高の称賛ですね。
視聴者の皆に『ギーク・ガール』を応援し続けて欲しいです。Netflixは視聴者のエンゲージメントで成功を図るからこそ、このドラマを何度も見返しているファンがいると聞くと嬉しくなります。昨日もファンから『ギーク・ガール』をすでに9回みたとメッセージをもらったばかりです。表は冷たいけれど裏は優しいこのキャラクターを、もし継続されればシーズン2でも演じることができればと楽しみにしています。
「リプレゼンテーション」を実現するためのアクティヴィズム
——— ハリウッドでは大きな変化をもたらすきっかけとなった #MeToo 運動。自身のアクティヴィイズムを通してデンマークのエンターテイメント業界内で「リプレゼンテーション」実現させるために心がけていることはなんですか?
デンマークでは「#MeToo 運動が始まった後すぐに消え去った」と数年前に言われていました。このような運動を始めるのに遅れをとってしまいましたからね。しかし最近は改善が見られています。つい先週、デンマークの音楽業界における性差別についてのドキュメンタリーも公開されたところです。デンマークではこのような会話は始まったばかり。実際の方針が定められない限り、大きな変化は見られないでしょう。
2023年2月に「A Bigger Picture」キャンペーンを立ち上げました。デンマークの文化省とデンマーク映画協会の力を借りながら、改善への道を進むために何が必要かを話すだけでなく、実際にできることを考えています。来月変わることから、デンマークの映画業界での多様性の尊重に私のアクティヴィズムを通して取り組んでいければと思います。会話は進んでいますが、実際に行動することが改善のカギとなるでしょう。
国際的なストリーミングサービスの作品に関わってからは、世界中の人々に私のアクティヴィズムを伝える機会が増えました。前までは人種的マイノリティや女性などがスクリーン上から消されている現実について話すと、「ただ演技が悪いんじゃない?」というような意見がかえってきていました。しかし、海外ではさまざまなバックグラウンドの俳優たちが活躍しています。才能や演技力の問題でなく、デンマークのエンターテイメント業界が多様性を受け入れられていない証拠です。デンマークでの仕事の機会は減りましたが、アクティヴィズムは続けています。私たちが制作する映画やドラマがデンマークの「ダイバーシティ」を反映しなければなりません。デンマークは映画制作を誇りに持っているからこそ、改善の余地は多大にあります。
アジア、そして日本メディアにおける多様性の描かれ方
——— ハリウッドでは改善の方向に進みつつあるメディアにおけるダイバーシティ。しかし西洋と比べて遅れをとっている日本のエンターテイメント業界についてどう思いますか。
他の業界や世界と比べると理想的に見えてしまうものです。「隣の芝生は青い」ということわざがデンマーク語にもあります。でもハリウッドが決してお手本であるわけではありません。ストリーミングサービスによって制作や配信される作品は国際的な視聴者をターゲットにしていることが多く、世界中の人々が「遅れてる」と感じないように作られています。『ギーク・ガール』などのドラマはハリウッドでなく、ヨーロッパを中心としていますからね。だからこそストリーミングサービスは世界中の視聴者が共感できるように多様性を大切にしているんです。それと比べてハリウッドはまだ白人男性が数で圧倒する業界です。
ストリーミングサービスに対する批判もありますが、私は世界中の視聴者をターゲットに作品が作られることを良いことだと考えています。国際的な視聴者であるからこそ多様性が大事であり、現代のポップカルチャーと芸術に欠かせない要素となります。常に改善の方向に進むことが大切です。
そして私自身のキャリアの中でも過去5年間を振り返ると、多様性に対する態度の変化が感じられます。マーケティング戦略からキャスティングまで、俳優たちだけでなく舞台裏のクリエーターであったり語られるストーリであったり、さまざまな場面で「ダイバーシティ」が求められます。今となっては多様性が必要不可欠になりつつあることに感動しています。今までスクリーン上で描かれることが少なかったコミュニティの人々、そして今までとは違ったユニークなストーリーを世界中の視点から観たいと考える人々にとって欠かせない変化です。いつもと同じストーリーを描くだけでは改善の方向には進みません。ストーリーにおける多様性は全ての視聴者にとって大切なことだと信じています。
——— 最近はアジア映画やアジア系俳優の活躍が国際的に見られます。西洋でも認められるアジアの映画・ドラマで特にアジア系のリプレゼンテーションを高めたと思う作品はありますか?
『BEEF / ビーフ』が嫌いな人はいませんよね。多分去年公開されたドラマの中で一番のお気に入りだと思います。ユニークなストーリーでメインキャストは全員アジア系。ほとんどは韓国系アメリカ人。韓国人女性でありながら日本人の夫をもつ、などこのコミュニティの人々のリアルな関係性の描き方が特に素晴らしかったと思います。全員アジア系のキャストであることから、コミュニティ内の多様な文化を描くことが可能であり、1人のキャラクターが全アジア・コミュニティを代表する必要がなくなります。キャストは皆素晴らしく、今までにないストーリーに引き込まれました。『BEEF / ビーフ』の大ファンです。しかも韓国系アメリカ人のコミュニティ内だけでなく世界中の視聴者が共感できたところが国際的にヒットした理由だと思います。
——— 『BEEF / ビーフ』のように韓国人キャストを多く用いたキャストであったり、韓国で制作された映画やドラマが最近国際的に人気を集める理由はなぜだと思いますか?
そうですね、韓国エンターテイメントが世界的に人気な理由は一つだけに限られないと思います。韓国には長い映画制作の歴史がありますし、今もドラマや映画などさまざまな形のエンターテイメントを作っています。新たなコンテンツを常に制作しているだけでも名作の誕生の確率をあげている理由の一つだと思います。今も進化し続ける韓国エンターテイメント業界の中で数々のクリエーターたちが多様なストーリーを描いているからこそ、世界的に発信することに成功しているのでしょう。
もう一つの理由としては、韓国エンターテイメントはリスクを恐れないこと。一般的に愛される作品を作るだけでなく、通常とは一味違ったアート・フィルムであったり西洋の典型的なストーリーとはかけ離れた物語をドラマ化しています。この多様性とリスクを恐れない体勢こそが韓国で作られた作品が面白く、刺激的であり、視聴者を感動させる力がある理由です。
日本の文学にも似た要素があると思います。西洋の一般的なストーリーやハリウッド映画と違い、日本と韓国文学は予想不可能なことが多いです。ありがちなハリウッド映画のエンディングとは異なって、日本と韓国のストーリーには新鮮な視点があります。私のお気に入りの例は『お嬢さん』ですね。西洋の文学を原作としながらも、オリジナリティを中心とした作品に仕上がっています。最近は『マスクガール』というドラマに注目しています。エピソードが進むごとにストーリーとジャンルが変化するこのダークな韓国ドラマがエンターテイメント業界に新鮮な風を吹き込んでいます。
——— 将来コラボしたい日本人の俳優や監督、アーティストなどのクリエーターはいますか?
少し遅れてしまいましたが、最近になってやっと是枝裕和監督の作品を見始めました。『怪物』を観た時は、是枝監督のひとときも目を離せない物語の描き方、さまざまな視点から見たストーリーの語り方、そして人間の複雑さの表し方に感動しました。ストーリーテリングのマスターと言っても過言ではないでしょう!
そしてアンナ・サワイにも常に魅了されます。みんなも同意するでしょうね。でも私は彼女の活躍を『SHOGUN 将軍』からではなく、『パチンコ』というもう一つ私がお気に入りとするドラマに出演している時から追っています。彼女は『パチンコ』でも魅力的な演技を披露していて、初めてサワイを観た時は心から感動しました。シーズン2が待ちきれません。
今後のプロジェクトについて
——— リメイク版『エイリアン』への出演も発表されています。FXドラマとなる本作について教えてください。
この作品はヨーロッパ中心でなく、とてもグローバルなものになっています。多くのアメリカ人も関わってるので。ついこの間出演が発表されて、2週間前にバンコクでの撮影から戻ってきたばかりです。歴史も長く、熱心なファンがすでについている大きなプロジェクトであることは間違えないです。カリスマ性がある個性豊かなキャストで、その一員になれて光栄です。シーズン1では小さくありながら重要な役柄を演じているので、どのような反響を受けるか楽しみです。シーズン2の可能性はまだ秘密ですね。
——— バンコクでの撮影経験についてお話しできることはありますか?
『エイリアン』のことはほとんどがまだ秘密です。素晴らしい脚本だと思いますし、ファンが皆喜ぶ作品に仕上がっていると思います。才能のあるクリエーターばかりが関わっていますからね。ドラマについてはあまり明かせないけれど、面白い裏話ならあります。『ギーク・ガール』の公開後、30代くらいのタイ人男性3人が私の泊まっている場所を見つけてロビーで5時間くらい待っていたんです。私が撮影している間、自撮りとサインをもらうためにずっと待っていてくれたみたいで。この3人にも『ギーク・ガール』をこんなに愛してもらえてとても面白かったです。ファンを思い浮かべるときに30代のタイ人は想像していませんでした。
——— 他にも新しいプロジェクトはありますか?
初めて制作した短編映画が映画祭に出品されて、アワードをいくつか受賞することができました。そして今年の1月に2つ目の短編映画『Seeking Hwa Sun(原題)』を作り終えたところです。この映画もアジア系のリプレゼンテーションを大切にした作品になっています。ミシェル・ウェンが主役である70代の韓国人女性を演じています。ウェンはシンガポール出身です。デンマークにいながらこの年代のアジア人女優を探すのはとても大変でした。エンターテイメント業界では特に40代以上の女優であると仕事の機会が減ってしまうのが現実です。だからこそ70代のアジア系女優を探すのは難しいと感じていましたが、ロンドン在住の素晴らしい女優であるミシェルに出会えて光栄でした。アジア系女優が中心となるこの作品は主役のミシェル、そして小さい役を演じる私の他、私自身の娘も出演しています。
取材・記事:The Hollywood Reporter Japan 廣瀬香帆 / Kaho Hirose
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