中国の若者はもう映画を観に行かないのか?

Jia Ling in 'Yolo,' China's biggest box office hit of 2024.
2024年中国で最大のヒット作『YOLO 百元の恋』に出演するジア・リン 写真:Alibaba Pictures
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かつて常に盛り上がっていた中国の映画業界が崩れ始めている。

今年に入ってからの中国の映画チケット販売総額は、昨年と比較してなんと22%も減少。この結果は、コロナ後の中国映画市場が2023年に達成した力強い回復から劇的に悪化したことを表している。

今年は、旧正月の連休中の興行収入が11億ドルを突破。地元の超大作『YOLO 百元の恋』(4億7960万ドル)と『飛弛人生2(ペガサス2)』(4億6890万ドル)に牽引され、中国映画業界は好調なスタートを切った。しかし、それ以降は右肩下がり。映画関係者やアナリストは、収益急落の背後にはさまざまな要因が重なりあっていると指摘するが、実際のところ、何が問題なのかは誰にもわかっていない。

「最近、地元の調査報告書を読んだのですが、中国人の映画ファンの平均年齢が22歳から26歳に上がったという内容でした」。最新作『風流一代』が5月のカンヌ国際映画祭で絶賛を浴びた中国を代表する作家、賈樟柯は語る。「若い世代は、もう映画館に行かないようです。彼らに何があったのか、彼らはどこへ行っているのか、私たちは自問せねばなりません」

欧米では伝統的に、映画ビジネスは不況に強いと見なされてきた。不景気であっても、人々は娯楽を必要とし、映画のチケット代はほとんどの消費者がいつでも買えるほど小さな勘定項目だからだ。関係者によれば、中国ではそのような論理が当てはまらないという心配な兆候があるという。

少なくともこの1年間、中国経済は、不動産市場の暴落と悲観的な消費者心理が成長の足を引っ張り、10年以上ぶりの大幅な低迷から抜け出せずにいる。景気後退は特に若年層に厳しい。中国国家統計局は、若年層の失業率が過去最高の21.3%に達した後、2023年6月に若年層の失業率データの報告を中止した。中国は今年初め、より有利な新しい失業率の測定方法を発表し始めたが、この測定方法でも、16歳から24歳までの若者の失業率は7月に17%以上に上昇した。

「ソーシャルメディア上では、特に大卒の新入社員や中途採用者の間で、雇用不安が広がっている。特に大卒の新入社員や中途採用者の間で、雇用不安の感情が強まっています」と、北京を拠点とする映画市場調査会社Faninkの共同設立者であるジェームズ・リーは言う。「結果、人々は財布の紐を固くしています」

リーは加えた: 「中国のZ世代を対象とした最近の定性調査では、若年層は生活の安定を望む傾向が明らかになりました、2024年の公務員志願者数(300万人以上)が過去最高を記録したことに見られるように、若い人たちは生活の安定を求める傾向がはっきりしています。彼らは以前の世代ほど野心的ではなく冒険心はないようです。映画に関しても、彼らは時間とお金をかけて期待に沿わない映画を見るリスクを冒すことを好まないのです」

アジアの興行コンサルタント会社、アーティザン・ゲートウェイのランス・パウ社長は、次のように予想する。「中国の興行不振は年末までに悪化するでしょう。弊社の予測では年内の興行収入は56.9億ドルで、78.1億ドルから減少。パンデミック前のピークであった2019年の92億ドルからは38%減となります。パウは、「モバイルビデオとゲームの人気、つまり中国版TikTokのDouyin、Bilibili、小紅書のような短編ビデオプラットフォームの継続的な台頭が、映画鑑賞の魅力をさらに削いでいる」と付け加えている。パウによれば、中国で大人気のパリ夏季オリンピックも、通常なら映画鑑賞のピークとなる時間帯に、地元の観客が家でテレビをみるのを促したとのこと。

さらに、ハリウッドはかつての中国に対する強気な姿勢を完全に捨てたようにも見える。今年に入ってからの11カ月間、米国映画の収益は7億9730万ドルで、依然として大きな額ではあるが、2019年の同じ時期の売上高25億ドルからは68%減少している。パンデミックの間、中国の映画規制当局は国内での米国映画の公開本数を大幅に抑制した(米国映画の輸入本数は2023年に回復したが、今年に入ってからの公開本数は、昨年の同じ時期の35本に対してわずか29本)。ワシントンと北京の地政学的関係の悪化も、米国の娯楽製品に対する大衆の認識に重くのしかかっている。

China’s Box Office Bummer

その一方で、中国映画の制作費はハリウッドと遜色ないレベルまで高騰しており、消費者は外国ではなく自国の言語と文化で映画を楽しむという簡単な選択肢を得た。ちなみに、今年中国で大ヒットを記録した米国の超大作は、『ゴジラ×コング 新たなる帝国』(1億3220万ドル)、『エイリアン: ロムルス』(1億1020万ドル)、『ヴェノム: ラストダンス』(7,200万ドルを数える)など未知の怪物や不可思議な存在と対峙する様子を描いたSFホラー映画(=クリーチャー映画)のみ。検閲の制約が主な理由で、北京業界がまだマスターしていない数少ないジャンルのひとつだ。

しかし、全体的に見れば、北京の規制当局のアメリカの映画作品抑制は加速傾向。「もし中国が輸入作品にもう少し門戸を開いていたら、少なくとも供給側にもっと活力と豊かさを与えることができたでしょう」と賈樟柯は話す。「しかし、残念ながらそうはなっていない。中国には8万ものスクリーンがあり、そのスクリーンを埋めるには世界中からもっと多くの作品が必要なのです。中国映画は、外の世界ともっと交流することで、より良くなる必要があります」

※本記事はオリジナル記事から抄訳・要約しました。翻訳/山中 彩果

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