Netflix『オレたちブーツ』徹底解説|海兵隊で「本当の自分」を見つける物語
Netflixシリーズ『オレたちブーツ』は、グレッグ・コープ・ホワイトの回想録『ピンク・マリーン(原題:The Pink Marine)』をアンディ・パーカーが脚色したものだ。

本作はアメリカ海兵隊を、ホモフォビアや性差別、人種差別が渦巻く過酷な訓練場として描く一方、最終的には海兵隊が若者に規律や名誉を教える「価値ある訓練の場」でもあるという側面にも焦点を当てている。

作品は、銃への賛美をわめき散らすような場面や、暴力的で憎悪に満ちたキャラクターが「仲間意識(ブラザーフッド)」の名のもとに突然立派で英雄的に描かれる場面が散見される。それでも全体としては、脚本は鋭く、若々しく魅力的なキャストたちの好演によって支えられている。なかには今後のブレイクが期待される俳優も少なくない。
主人公キャメロンの背景
マイルズ・ハイザーが演じるのはキャメロン・コープ。各地を転々としてきた少年であり、高校生活はいじめや自身の同性愛への戸惑い、そして気まぐれな母親バーバラ(演:ヴェラ・ファーミガ)の振る舞いによって苦いものとなっていた。

入隊の決断と「バディ制度」
そんなキャメロンの唯一の親友レイ(演:リアム・オー)が空軍士官学校を辞め、海兵隊への入隊を決意する。友人同士で入隊すれば同じ部隊で訓練を受けられる可能性があるという「バディ制度」を知ったキャメロンは、ほかに道が見つからないまま海兵隊への入隊を決める。母親に打ち明けてもまともに取り合ってもらえず、そのまま彼はパリスアイランド(Parris Island)の海兵隊新兵訓練所へと旅立つのだった。

キャメロンは、入隊してすぐに頭を丸められ、複数の教官から怒鳴られ続ける日々に突入する。訓練の中心を担うのはマッキノン(演:セドリック・クーパー)とハウィット(演:ニコラス・ローガン)。
ある事件をきっかけに3人目の教官が外された後、部隊の指揮官ファハルド大尉(演:アナ・アヨラ)の判断で、新たに実戦経験豊富な帰還兵サリヴァン軍曹(演:マックス・パーカー)が着任する。彼は何らかの秘密を抱えているように見え、その真相は語られない。特にキャメロンに対して厳しく接する。

基礎訓練での苦闘と仲間との出会い
上半身の筋力も持久力も乏しいキャメロンは基礎訓練に苦戦する。プライバシーのない環境での生活に戸惑う場面も描かれる。だがキャメロンは同じ小隊の若者たちを徐々に知っていく。仲間との出会いが、キャメロンの成長を促していくのだ。

シーズン1の構成
全8話のシーズン1は、新兵訓練という期間設定により整理されたエピソード構成になっている。各話では、キャメロンと仲間の新兵たちが臨む「通過儀礼」がテーマとして据えられており、難攻不落の障害物コースに挑戦する週、水中訓練に悪戦苦闘する週、待ちに待った射撃訓練、そしてこれまでの成果をすべて試される最終課題へと物語は進んでいく。

クリエイティブ陣
脚本を手がけるのはショーランナーのアンディ・パーカーとジェニファー・セシル。パイロット版の監督は、『THE LAST OF US』(2023年~)でエミー賞にノミネートされたピーター・ホアが務めた。
物語はキャメロンの視点を軸に展開し、彼の無知と準備不足に起因する驚愕と恐怖が、時にユーモラスに、時に悪夢のように描かれる。だが、未知だった訓練が現実の体験となり、やがて理想や憧れの対象へと変わっていくにつれ、物語もキャメロン自身も次第に真摯なトーンへと移行していく。終盤では、一転して陰鬱で皮肉な緊張感が漂い、シリーズ全体に深みを与えている。

語りの仕掛け
物語は、キャメロンによる「たぶん君は、どうして自分がこんな状況にいるのか気になっているだろう」という語りで幕を開ける。キャメロンはその手法を巧みに弄び、ストーリーテリングの枠を超えたジョークや洞察、メタ的な仕掛けを織り交ぜている。ただし、そうした遊び心はパイロット版の終わりとともに姿を消してしまう。
キャメロンの分身とも言える「もう一人のキャメロン」の存在も、同様の役割を果たす。キャメロンは自分自身と画面上で対話するという手法を通じて内面を可視化しようとするが、どのような条件で二人が会話できるのか、また「もう一人のキャメロン」の人格がどこから生まれたのかは、最後まで明確に示されない。
迫害と理念の矛盾
物語の中心にキャメロンを据えることで、同性愛者の海兵隊員が受ける迫害というテーマが物語の前景に置かれ、同時に「本来の自分を見つける手助けをする」という海兵隊の理念そのものの矛盾を浮かび上がらせる。

本作は一瞬たりとも気を抜けない。『フルメタル・ジャケット』(1987年)への露骨なオマージュを交えながら、ときに遊び心たっぷりに、ときに感情を揺さぶるシリアスな展開を織り交ぜる。
主演マイルズ・ハイザーの体現力
物語は時間軸を行き来するものの、ハイザーの存在が全体の流れをしっかりと支えている。31歳のハイザーは、かつて『ペアレントフッド(原題)』や『13の理由』(2017~2020年)などで高校生役を好演してきた俳優であり、その経験がここでも光る。

キャメロンというキャラクターを最初はどこか居心地の悪そうな未成熟な青年として演じ、訓練を通じて徐々に肉体的にも精神的にも自信を得ていく姿を見事に体現している。その変化はさりげなくも確かな説得力を持ち、視聴者に自然な成長の軌跡を感じさせる。
さらに、自分自身との「共演」という難度の高い演技課題にも挑み、自己対話のシーンでは繊細かつ挑発的な表現を見せる。ハイザーの演技があるからこそ、シリーズ全体の感情的な核が成立している。
サリヴァン軍曹の存在感
教官役のマックス・パーカーは一歩抜きん出た存在感を放っている。パーカーはシーンによって恐ろしいほど冷酷にも、胸が締めつけられるほど人間的にも見せることができ、その振れ幅が圧倒的だ。なお、一部のキャストにイギリス訛りが残る点も特徴的だ。
二面性を行き来するニコラス・ローガン
ニコラス・ローガンは、時に道徳的に許されないことを口にしながらも、最終的には人間味のあるキャラクターとして説得力を持たせている。ローガンの演技は、嫌悪と共感のあいだを自在に行き来し、観る者の感情を巧みに揺さぶる。
キャスト全体の完成度も高く、グッドマン、オブライエン、ムーアに加え、キャメロンと共通点のある隊員ジョシュア・ジョーンズや、サントス・サントスという特徴的な名前のリコ・パリスらが強い印象を残す。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。

【関連記事】
- LGBTQ+映画のおすすめ25選:『ブロークバック・マウンテン』ほか、心に残る名作を一挙紹介
- 【月刊LGBTQボイス 第1弾】人気ドラァグクイーン、ドリアン・ロロブリジーダにインタビュー! 「笑い飛ばせば自由になれる」 自分らしく生きる力と自由へのメッセージ
- スティーヴン・キングの87作品が検閲対象に――アメリカの教育現場で“禁書”が増加、理由は「LGBTQ・人種・暴力の描写」
- 【Netflix】2025年10月のおすすめ配信作品|小栗旬主演『匿名の恋人たち』、『ウィッチャー』シーズン4ほか
- Netflixドラマ『オレたちブーツ』、国防総省から批判|ゲイ海兵隊員を描く話題作
