映画『TOKYOタクシー』(2025)米レビュー|山田洋次94歳×倍賞千恵子が描く最後のドライブ

映画『TOKYOタクシー』の場面写真 写真:THR.com
映画『TOKYOタクシー』の場面写真 写真:THR.com
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ベテラン俳優・倍賞千恵子木村拓哉が共演する、山田洋次監督の最新作『TOKYOタクシー』(2025)。老婦人の人生を乗せて走るタクシーでの一日を通じて、人間の絆を静かに描き出す。84歳の倍賞千恵子が主演を務め、熟練コンビならではの呼吸が随所に光る。

94歳の山田洋次監督が挑む、人生を乗せた最後の旅路

『TOKYOタクシー』(2025)は、94歳を迎えた山田洋次監督にとって通算91作目となる長編映画。倍賞千恵子のスクリーン出演は約160回目ともいわれる。1969年から1995年まで続いた『男はつらいよ』シリーズで共演経験を重ねた二人は、その長年のキャリアを存分に活かし、観客を引き込む演技を披露している。なお、『男はつらいよ』は主演の渥美清でギネス世界記録を樹立した長寿シリーズでもある。

(左から)倍賞千恵子、山田洋次監督、木村拓哉
(左から)倍賞千恵子、山田洋次監督、木村拓哉 ©︎The Hollywood Reporter Japan

あらすじ

物語は、夜間勤務が主のタクシードライバー・宇佐美浩二(演:木村拓哉)が、昼間に呼び出され、横浜の高齢者向け施設に85歳の住民・高野すみれ(演:倍賞千恵子)を送ることから始まる。本来なら1時間程度の送迎のはずが、すみれの希望で東京各地の思い出の場所を巡る一日が始まる。

旅の途中で明らかになるすみれの過去は、1945年の東京大空襲で父を失った悲劇から始まり、初婚相手の韓国系日本人(演:イ・ジュニョン)との別れ、さらには二度目の結婚での壮絶な虐待など、戦後を生きた日本の女性が抱えた痛みが丁寧に描かれている。これらの過去は、セピア調のフラッシュバックで挿入され、倍賞が後部座席から静かに語ることで、観客に深い余韻を与える。

特に、二度目の夫からの虐待に対してすみれが取った行動とその結末は、戦後日本における女性の社会的地位や法的制約を反映した社会的メッセージを放っている。

山田洋次監督だからこそ描ける繊細な感情

映画『TOKYOタクシー』©2025 映画「TOKYO タクシー」製作委員会
映画『TOKYOタクシー』より ©2025 映画「TOKYO タクシー」製作委員会

『TOKYOタクシー』(2025)は、フランス映画『パリタクシー』(2022)を原作とした日本版リメイク作品。第38回東京国際映画祭では、山田監督の特別功労賞を称える上映作として披露された。

木村拓哉と倍賞千恵子の掛け合いは自然で温かく、長年のキャリアが生む余裕が随所に光る。また、木村の演じる浩二という人物には、もう少し“尖り”があってもよかったのかもしれない。

『パリタクシー』(2022)では、気難しいことで知られるタクシー運転手という設定が物語にリアリティを与えていた。しかし、木村が演じた浩二は基本的に優しく良い人にとどまっているのがわかる。それでも終盤の別れの場面は、俳優陣の繊細な表情が確かな余韻を残していた。まさに、長年の経験を積んだベテラン俳優だからこそ出せる深い演技だったと言えるだろう。

映画『PERFECT DAYS』と似ている?

本作はヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』(2023)を想起させる作品でもある。しかし、山田作品は感情表現を強調する傾向があり、音楽の使い方も印象的だ。

両作品ともに静かな東京の時間という要素が感じられるが、そのアプローチは正反対だ。ヴェンダース作品は静寂の中に力強さを宿していたのに対し、山田監督は繊細な感情を丁寧に描いていた。

映画『PERFECT DAYS』より
映画『PERFECT DAYS』より 写真: COURTESY OF TELLURIDE FILM FESTIVAL

これまで『たそがれ清兵衛』(2002)や『隠し剣 鬼の爪』(2004)など数々の名作を世に送り出してきた山田監督

最新作『TOKYOタクシー』は、山田洋次監督が描く「老いることの意味」と「人生の物語を他者に伝える意義」を穏やかに描いた作品だ。ベテラン俳優コンビの安心感ある演技と、東京の街並みを巡る旅のノスタルジーが、観る者の心に静かに染み入る。

基本情報

上映時間:1時間43分

監督:山田洋次

出演:倍賞千恵子、木村拓哉、イ・ジュニョン、蒼井優、由香

脚本:浅原裕造、山田洋次

会場:東京国際映画祭(センターピース作品)

※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。

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