“引退作”が急きょ中止に…タランティーノの計画の落とし穴とは?

クエンティン・タランティーノ 写真: ADAM PRETTY/GETTY IMAGES
クエンティン・タランティーノ 写真: ADAM PRETTY/GETTY IMAGES
スポンサーリンク

「監督10作目で引退する」- クエンティン・タランティーノはここ数年、こう断言してきた。しかし先日、10作目に予定されていた『The Movie Critic』が製作中止になったというニュースが飛び込んできた。

これほど重大なものを背負っていなければ、『The Movie Critic』は製作されたのだろうか?タランティーノの引退発言は、自分自身に途方もないプレッシャーをかける真のマゾヒスト的な方法のように思える。「10本目の引退作」は、単なる良作なだけでなく、キャリアの集大成として素晴らしいものでなければならない。

タランティーノは、明らかな芸術的才能を持っているにもかかわらず、大衆受けするような映画監督だ。一方で、引退を快く受け入れるファンは少なく、大多数は彼がその約束を守るかどうかを疑問に思っている。本当に好きなことをしていて、それを驚くほど上手くできるなら、永遠にそれを捨てるだろうか?

多くの人々は、タランティーノが代わりにどんな映画を作るのかを考えている。「10本目で最後」というレッテルは、あまりにも重みがある。「次の映画は何にしよう?」というのは難しい決断だが、「自分が最後に撮る映画は何にしよう?」というのは、圧倒的に難しい決断だ。

10本を作ってキャリアを終えるには、映画が公開されるまで誰にも計画を知らせないのが最善の方法だ。撮影台本もないうちから「10本目で最後」と発表するのは、本当に綱渡りのようなものだ。とはいえ、天才的なマーケティングには違いない。希少価値ほど消費者を興奮させるものはない。愛される映画監督の最後の作品を誰が見逃すだろうか?

引退計画の問題点の1つは、それがあらゆること、そして何よりもタランティーノ自身に与える理不尽なプレッシャーだ。しかし、タランティーノの主張の根底には、「偉大な監督の映画は必ず質が低下していく」というロジックがある。多くの例外はあるが、あらゆる分野のクリエイティブな人たちは一般的にピークを迎え、その後衰退する。

とはいえ、タランティーノは衰退の兆しを見せていない。実際、彼の最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を最高傑作と考える人もいる。

スコセッシ、スピルバーグ、ノーランは、間違いなく現存する最高の監督の3人だ。彼らはみな、10本目以降に最高の映画を作った。タランティーノが敬愛する過去の映画監督の中にも、同じことが言える人がいる。ビリー・ワイルダーが10本で止めていたら、『お熱いのがお好き』や『アパートの鍵貸します』を作ることはなかっただろう。

したがって、悲惨な状態に陥る前にキャリアを終える数字として、10は明らかにマジックナンバーではない。61歳のタランティーノは理由の一つとして自分の年齢を挙げ、30年のキャリアが理想的だと語っている。一方、加齢による衰えは誰もが戦わなければならない強力な要因だが、映画監督のスタイルはより多くの映画を作ることで成熟し、進化していくものだ。

タランティーノ本人は、業界やファンが「あなたがいつ終わるかは私たちが決める。あなたが私たちにいつ終わるかを告げるのではない」という態度を取るのは不公平だと言い切っている。彼は私たちに何も借りがないし、自分のタンクにどれだけのガスが残っているかを本当に知っているのは彼だけだ。

【関連記事】

※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。編集/和田 萌

スポンサーリンク

Similar Posts