なぜハミルトンは今、メルセデスからフェラーリへの移籍を決めたのか

それはすべてを変える移籍であり、間違いなくF1がこの10年以上で見た最大のニュースだ。ルイス・ハミルトンが今季限りでメルセデスを離れ、2025年に向けてフェラーリに移籍する。

フェラーリから声がかかるのはこれが初めてではないのに、なぜ今なのか?ハミルトンは何を確信し、この決断に踏み切ったのか?

これまでも大きな決断をしてきたハミルトン

ハミルトンは大きな決断を下すことを恐れない。2012年、彼は自分をF1に引き入れ、わずか2年目のシーズンで自身初のワールドタイトル獲得に貢献したマクラーレンを離れ、中団に位置していたメルセデスに3年契約で移籍することを決めた。当時この動きは大きなリスクと見なされた。

それ以来、彼はメルセデスで11シーズンをF1で過ごし、6度のドライバーズチャンピオンシップと82回のグランプリ優勝を達成した。リスクとはなんだったのだろうか。

この10年間、フェラーリが何度も声をかけてきたが、それをハミルトンは毎度華麗に躱してきた。

彼はメルセデスがF1での最後のチームになると決めていたようで、39歳のハミルトンはヘルメットを脱いだあともメルセデスとの関係をずっと続けていくだろうと予想されていた。

ハミルトンとメルセデス・ベンツは、彼がレースを始め、そしてF1に参戦していたときから(ハミルトンがマクラーレンに在籍していた時期にはエンジンサプライヤーとして)ずっと関係を続けてきた。近年は、STEMとモータースポーツにおける多様性を促進し、恵まれない背景を持つ若者の生活を変えるために提携し、さらに親密になっている。

厳しい2シーズンがチームへの期待を薄れさせた

しかし、ここ2、3年はハミルトンにとって残酷なほど厳しいものだった。2021年には過去8度目となるはずだったワールドチャンピオンを苦しみながら失った。

その反動もあってか、強豪レッドブルには敵わないマシンで、F1キャリアで初めて2022年と2023年の両方で1勝も挙げることができなかった。

当初、彼はメルセデスにトップに返り咲くための人材、リソース、そして適切な開発能力があると信じていた。しかし、その信念は苦戦が続くにつれて着実に薄れていった。

魅力的だったフェラーリのマスタープラン

ハミルトンは時間が自分の味方ではないことを知っていたし、メルセデスが2024年以降に計画していることを見ても、事態が急速に改善することを確信するには十分ではなかったようだ。

フェラーリがマスタープランを示し、開発の方向性と、空力とパワーユニットの大幅な新レギュレーションが導入される2026年に向けて準備しているものを見せたところ、ハミルトンの心は揺らいだ。

昨年はメルセデスとフェラーリが互角の戦いを繰り広げ、両者とも王者レッドブルには遠く及ばなかったが、フェラーリのほうがメルセデスよりも頭一つ抜きんでているように見えた。

ハミルトンはここ数年のメルセデスの開発の道筋や、彼らがいかにパフォーマンスを高めるのに苦労してきたかを見てきただろうし、それをフェラーリの外から見たもの、彼らが達成したこと、達成できると語ったことと比較したはずだ。

フレデリック・バスールへの信頼

もちろん、2008年のコンストラクターズランキング制覇以来、フェラーリが一貫して聖杯を獲得できていないことは警戒しているだろう。しかし、ジュニアフォーミュラ時代にハミルトンの上司だったフェラーリのチーム代表フレデリック・バスールへの信頼も厚い。

2人はそれ以来ずっと親密な関係を保っており、レースごとに、またレースとレースの合間にも、友人同士ならではの会話を交わしている。

ハミルトンはリーダーシップに信頼を求める人物であり、彼はバスールを信頼している。モータースポーツ界で最も困難な仕事に就いてわずか1年で、バスールはフェラーリをより良くした。まだ完全復活に向けて進むべき道は残されているが、多くの人が複数年で成し遂げられなかったことを彼は1年で成し遂げた。

フェラーリが過去数十年にわたって空力パッケージで浮き沈みしてきた一方で、パワーユニットはクラスリーダーか、それに近い存在であったことをハミルトンは知っているはずだ。2026年にはPUが重要なファクターとなり、ライバルのレッドブルは同年、フォードとの提携で初の自社設計PUをデビューさせることになっている。ハミルトンはPUの観点から戦いを有利に進めたいと考えているはずだ。さらに、将来的な空力の方向性についても納得していると思われる。

ロマンチックな要素

これにはロマンチックな要素もある。ハミルトンの幼少時代のヒーローであるアイルトン・セナは、1994年にサンマリノGPでクラッシュして亡くなるまで、キャリアのどこかでフェラーリでレースをするつもりでいた。

ハミルトンは自分もフェラーリに移籍することを常に心に描いていた。しかし、メルセデスで勝ち続けた彼にとって、そのような移籍が実現することはなかった。

今は状況が異なり、メルセデスがF1の最前線に返り咲くと決まったわけではない。F1における成功は周期的なものであり、一度その座から転落すると、再びトップに返り咲くには数年ではなく数十年を要する傾向がある。

さらに言えば、誰だって愛されるのを望むはずだ。メルセデスとの最後の契約は厳しい交渉だった。情報筋によると、ハミルトンは3年を望み、メルセデスは1年だけオファーしたかったという。妥協案は延長オプション付きの1年契約だった。そのため、フェラーリがメルセデスが提示した以上のコミットメントを伴う複数年契約を求めてきたとき、それは非常に魅力的なものだった。

ハミルトンはすべてを天秤にかけ、確かに今はそれが上手くいくかわからないが、今が飛び立つ時だと判断したことだろう。

トト・ヴォルフとの間に駆け引きはありえなかった

メルセデスは、ハミルトンが1年早く契約を破棄してライバルに移籍するのを止めるためにできることはほとんどないとわかっていたはずだ。ドライバーは行きたいなら行きたいのだ。チーム代表であるトト・ヴォルフとハミルトンの間には尊敬の念が強すぎて、綱引きはありえないのだ。

39歳の今、彼にとってこれがサイコロを振る最後のチャンスである。フェラーリでワールドチャンピオンを獲得し、その過程でフェラーリに約20年ぶりのタイトルをもたらせば、彼の伝説は史上最高のものとして確固たるものになるだろう。失敗したとしても、8度目のワールドタイトル獲得にすべてを捧げた彼は、後悔することなくその座を去ることになる。

マクラーレンを離れてメルセデスに移籍するという賭けは実を結び、ハミルトンはメルセデスをワールドチャンピオンに返り咲かせた。フェラーリでも同じことができるよう自分を信じ、今持てるすべてを使ってレースしているのだと信じている。彼の実績を考えれば、彼の反対に賭けるのは難しい。

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