『イカゲーム3』フロントマンの正体とは?イ・ビョンホンが明かす、謎多き男の真意、ラストシーンの意味&スピンオフの可能性「ゲームは永遠に終わらない」【インタビュー】

[本記事は、Netflixシリーズ『イカゲーム』シーズン3のネタバレを含みます。]
Netflixの世界的大ヒットシリーズ『イカゲーム』において、イ・ビョンホンが演じる仮面の男「フロントマン」は、初登場時から物語の周縁を静かに漂い続けてきた存在だ。
過去に悲劇を経験したフロントマンは、過酷なデスゲームを淡々と管理し、観る者に不気味な印象を残してきた。一方で、シーズン2で主人公ギフン(演:イ・ジョンジェ)が再びゲームに参加し、「人間とは本質的に利己的で、慈悲や尊厳に値しない存在である」というゲームの根幹の理念に異議を唱え始めると、フロントマンにとってゲームは次第に「個人的なもの」となっていく。
米『ハリウッド・リポーター』は、抑制の効いた演技で謎に包まれたフロントマンを見事に体現した、韓国映画界を代表する名優イ・ビョンホンにインタビューを敢行。キャラクターの心情変化や、大きな話題を呼んだラストシーンに込められた意味などについて話を聞いた。
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―――『イカゲーム』の制作を通じて、思いがけず人間性に対して希望を感じたり、少しでも前向きな気持ちになれたような瞬間はありましたか?
もちろん『イカゲーム』は、社会的・政治的な現実の最も暗い側面を描きながら、人間性の欠如そのものを問いかける作品です。そうした物語が世界中の人々に響いたということに対しては、純粋に喜びを感じました。ただ正直に言うと、これほど多くの人々に、あまりにも切実な形で共感されたという事実には、少し苦々しい思いもありました。
でも後になって、また別の考えが浮かびました。この作品は最終的に、「私たちは今、何をしているのかに気づき、目を覚まさなければならない」と訴えかけています。だからこそ、世界中の人々が『イカゲーム』に触れ、失われつつある人間性というテーマについて立ち止まって考えるようになったという事実は、私たちに希望があるということを示しているのかもしれません。そういう意味では、この現象を前向きに捉えることもできると思います。
―――フロントマンは、非常に謎めいた存在です。演じていくなかで、彼の信念や動機についてどのように理解が深まりましたか?
作中では、彼の過去が簡潔に描かれています。彼はもともと警察官で、家庭を持つ、ごく普通の人物でした。しかし、不運な状況に見舞われ、妻と子どもを失い、激しい裏切りと絶望を経験します。その出来事が、彼が『イカゲーム』に関わるきっかけとなりました。ゲームのなかでは、さらに過酷な現実を目の当たりにし、それによって「この世界や人間には、もう希望はない」と信じる、非常に悲観的な人物へと変わっていきます。
そのため、ギフンに対しても「彼は甘すぎる人間だ。いずれ自分と同じようになる」と思っていて、その結末がどうなるかは時間が教えてくれるだろうと考えているのです。
―――シーズン3には、フロントマンがギフンにナイフを渡し、ギフンが他の参加者たちを寝ている間に殺すかどうか迷うシーンがあります。このとき、フロントマン自身がかつて同じ状況で仲間を容赦なく殺した過去がフラッシュバックとして描かれています。フロントマンは、ギフンも自分と同じように皆を殺すことを望んでいたのでしょうか?
その質問をしていただけて、うれしいです。というのも、まさにその「曖昧さ」こそが、視聴者に感じてほしかった感情だったからです。私はそのシーンを演じる際、フロントマンには2つの側面があると考えていました。
彼は、ギフンに生き延びてほしいと思っていた部分があったと思います。ギフンは、他の参加者とは違い、ゲームで共に過ごしたことで彼にとって特別な存在になっていたからです。ですから、ギフンが自分と同じように全員を殺していたら、それはそれでフロントマンにとって「勝利」のようなもので、自分の信念が正しかったと証明されることになります。「ほら、やっぱり君も結局は俺と同じじゃないか」と言えるわけです。
しかし、ギフンは人を殺さず、フロントマンは「敗北感」を感じたはずです。同時に、自分にできなかったことをギフンが成し遂げたことで、後悔や嫉妬のような感情すらあったと思います。それでも、心の奥底では、ギフンに負けてほしくない、自分とは違う選択をして希望を捨てないでほしいという想いがあったはずです。
私はそのすべての感情を込めながら演じましたが、最も深いところでは、後者――ギフンに希望を持ち続けてほしいという想い――が勝っていたと思います。
―――フロントマンのような複雑な人物を演じるうえで、ご自身の記憶や性格、信念などを投影することはありましたか?
俳優にとっては、人生で経験するすべての出来事や、感じたすべての感情が財産になります。台本を読んでいるときに意識していたかどうかにかかわらず、自分の人生経験のすべてが役づくりに影響を与えていたと思います。
私自身、過去に「人間性の喪失」や「人間性が欠けているように感じる瞬間」に心を痛めた経験があります。それが具体的にどの出来事だったかははっきりとは言えませんが、そういった内面的な葛藤を抱えてきたことはあります。人生のなかで経験したすべてが、このキャラクターを演じるうえで、最も大きな影響を与えたと思っています。
―――最終話で描かれたフロントマンとギフンの娘のシーンについて、どう解釈されましたか?
そのシーンについては、「フロントマンは今どんな気持ちで、自分はどんな精神状態で演じるべきか」ということを監督とたくさん話し合いました。
私自身は、フロントマンは少しだけ人間性を取り戻していて、ギフンが遺したものをわずかな善意と共に娘に届けようとしていた、と解釈しています。
同時に、フロントマンには、「すべてをフェアに、ゲームのルール通りに行う」という強い意志があると思います。ただ、視聴者の方々がいろんな解釈をするのはとても自然なことです。「他に意図があったのでは?」、「新しいゲームの始まりのサインなのでは?」といった疑問は、どれも十分にあり得る解釈です。
私たちもこのシーンが多くの議論を呼ぶだろうと予想していたので、ギフンの緑のジャージが血まみれか、それとも洗われているかといった細かい部分にまで、非常にこだわって作りました。
―――フロントマンはなぜ、弟のジュノ刑事に赤ちゃんと賞金を託したのでしょうか?
これまでの経験を経て、フロントマン自身、もう人を試すことや、誰かに試練を与えることに疲れていたのだと思います。特にギフンとの対峙や、彼の自己犠牲を目の当たりにしたことで、その衝動は消えていたのではないでしょうか。
ですので、彼が赤ちゃんを弟に託したのは、単純に他に選択肢がなかったからだと思います。そしていつも通り、彼は「ルールを守ること」に重きを置いています。ゲームに勝ったのは赤ちゃんですから、賞金は赤ちゃんのものです。フロントマンは、弟が信頼できる人物であることをよくわかっていて、赤ちゃんを守ってくれるだろうと考えています。ゲームのルールを守る最善の手段が、弟だったのです。
―――ロサンゼルスの街中で、ケイト・ブランシェット演じるリクルーターを目撃したときのフロントマンの感情についてお聞かせください。
このシーンについても、監督とたくさん話し合いました。興味深いのは、最初に台本を読んだとき、私自身はまったく違う印象を受けたことです。最初は、フロントマンはすでに「他国でまったく同じゲームが進行している」ということを知っているのだと思っていました。でも念のため監督に確認したところ、「あの場面では彼女がそこにいるとは知らなかった、という前提で演じてください」と言われたんです。
この説明にはかなり戸惑いました。というのも、その時点ですでに撮影が間近に迫っており、私のなかでは台本から受けた印象と大きく異なっていたからです。ですので、何度も議論を重ねた結果、私は次のようなトーンで演じることにしました。
シリーズ当初、フロントマンは人間性に対してほとんど希望を失っており、心の奥底にほんのわずかな善意が残っている程度でした。でも、ギフンとの関わりを通じて、その小さな希望を少しずつ育てていきます。そしてゲームが終わるころには、「もしかしたら、ギフンが正しかったのかもしれない。まだ人間に希望を持てるのかもしれない」と、世界を違った目で見ようとしはじめているのです。
フロントマンは、自分なりの「終わり」と「新たな始まり」を見つけようとしていました。ところがその矢先、別のリクルーターが新たな参加者をゲームに引き込んでいるのを目撃してしまうのです。その瞬間、「ゲームは永遠に終わらないのだ」と悟ります。そのとき彼のなかにあるのは、苦しみの感情です。実際、私自身もこの気持ちが視聴者にきちんと伝わっているか不安だったので、こうして質問していただけて嬉しいです。
―――最終話でのケイト・ブランシェットのカメオ出演によって、アメリカ版スピンオフの可能性も話題になっています。正式発表はありませんが、アメリカ版のゲームはどのようになると想像しますか?
文化や社会状況によって、ゲームの雰囲気や舞台設定、具体的な内容は少し異なるかもしれません。アメリカらしい要素が入る可能性もあると思います。でも、これまでお話ししてきた通り、本作が世界中で愛された理由は「人間性の喪失」という普遍的なテーマが、誰にでも響くからだと私は思っています。
ですので、アメリカのプレイヤーたちも、同じように過酷な試練や不可能とも思える選択を迫られる必要があると思います。ゲームの本質は、どこで行われても変わらないはずです。
―――ファンの方々は、フロントマンを主人公としたスピンオフや前日譚の可能性も噂しています。もし本作の主要な制作陣が関わるなら、出演する意志はありますか?
監督のファン・ドンヒョクさんとは、実は最初の頃から「フロントマンのスピンオフがあったら面白いよね」と冗談交じりに話していました。フロントマンやリクルーターは、まだ全体像が明かされていないキャラクターなので、掘り下げがいがあるんです。
ですから、フロントマンというキャラクターを本格的に深掘りしていく作品は、とても興味深いものになると思います。ご質問の答えとしては、もちろん出演する意志はあります。すでにキャラクターはしっかりと構築されていて、私自身とても強く惹かれています。ファンの皆さんが彼についてもっと知りたいと思ってくださるのと同じように、私自身も彼の物語をもっと知りたいと思っています。だからこそ、ぜひ語ってみたいストーリーですね。
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『イカゲーム』シーズン1~3は現在、Netflixで独占配信中。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。編集/和田 萌
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