『イカゲーム3』ヒョンジュ役パク・ソンフンが語る、トランスジェンダー役への批判と決意「キャラクターを誇張しない」【インタビュー】

[本記事は、Netflixシリーズ『イカゲーム』シーズン3のネタバレを含みます。]
Netflixシリーズ『イカゲーム』シーズン3が6月27日に配信開始されると、わずか10日間で1億630万回という桁違いの視聴数をたたき出した。そんな世界的大ヒット作のなかで、いま最も熱い視線を集めているのが、パク・ソンフン演じるトランスジェンダー女性・ヒョンジュだ。
シーズン2より登場したヒョンジュは、性別適合手術の費用を得るためにデスゲームに身を投じた元特殊部隊員で、ファンから絶大な人気を誇っている。一方で、キャスティング発表時には、トランス女性役にシスジェンダー(生まれた時の性別と性自認が一致している人)の俳優を起用したことで、議論が巻き起こった。
米『ハリウッド・リポーター』はこのたび、シーズン2~3にかけて複雑な役を見事に演じきったヒョンジュ役のパク・ソンフンに単独インタビューを敢行。キャスティングに対する批判やヒョンジュの衝撃的な最期、そしてトランスジェンダーのキャラクターの表現を改善することについて話を聞いた。
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―――ファン・ドンヒョク監督は、あなたの起用が物議をかもすことを予想していたと明かしています。出演契約時に、どのようなためらいがありましたか?
『イカゲーム』でトランス女性を演じると聞いた時、俳優として良い挑戦だと思いました。でも同時に「シスジェンダーの自分が、トランス女性を演じても良いのだろうか?」と心配になりました。
ただ、私はヒョンジュのキャラクターを誇張したくありませんでした。ありきたりなイメージで描くのではなく、彼女の内面や良いところを大切にしたかったのです。複雑なキャラクターであるヒョンジュを、噓偽りなく表現したいと思いました。
―――役作りの段階で、どのようにしてキャラクターとのつながりを築きはじめたのでしょうか?
私がヒョンジュという役を演じたいと思ったのは、これまでの韓国映画やドラマに登場するトランスジェンダーのキャラクターが、誇張されていたり、表面的に描かれていたりすることが多いと感じていたからです。でも、ヒョンジュは違いました。彼女はとてもかっこよくて、心優しく、カリスマ性もある勇敢なリーダーです。そんな素晴らしい面をたくさん持ち合わせた、多面的で深みのある人物でした。
だからこそ私は、ぜひこの役を演じたいと思いましたし、そのためにはトランス女性、特にヒョンジュという人物について深く理解する必要があると感じていました。実際に多くのトランスジェンダーの方々にお話を聞いてアドバイスをいただき、このコミュニティや個々の人生について、もっと知るためのリサーチもたくさん行いました。自分がこの作品にどう関わっていくのかを、しっかりと理解しながら演じるよう努めました。
―――この役を演じているあなたを観た人たちの反応は一変し、ヒョンジュはファンに愛されるキャラクターになりました。役作りをするうえで、ゲームに参加する前の彼女の人生についてどんなことを考えましたか?
私は台本の内容を大切にしたかったので、自分で新たにキャラクターの背景を考え足すことはしませんでした。ただ、ヒョンジュも韓国の多くのトランスジェンダーの方々と同じように、これまでずっと偏見や差別と闘ってきたのだと思っています。
作中では、彼女が性別適合手術を終えたあと、タイに移り住んで、同じような経験を持つ友人たちと出会いたいと願っていることが描かれています。私は、そうした彼女の夢や気持ちを意識しながら、「ヒョンジュはなぜイカゲームに参加したのか」という理由をしっかり考えて演じました。
―――シーズン2と3を続けて撮影するにあたって、出演者の皆さんにはキャラクターの物語の全体像があらかじめ知らされていたそうですね。ヒョンジュの運命を知っていたことは、演技にどのような影響を与えましたか?
ヒョンジュは、ジュニ(演:チョ・ユリ)と赤ちゃんを守るために自分の命を犠牲にします。演じていて彼女のことを気の毒に思いましたが、ヒョンジュは自分が殺されることを知らないまま行動しているので、私がその最期を知っていたとしても、演技に大きな影響はありませんでした。
―――あなたは、ヒョンジュの最期をどのように受け止めましたか?また、視聴者にどんなことを感じ取ってほしいと思いますか?
ヒョンジュは、友だちのジュニと赤ちゃんを守ろうとして命を落としました。その姿から、彼女がとても優しく、思いやりのある人だったことが伝わってきます。本当にあたたかい心を持ち、自己犠牲もいとわない人です。
私が演じていて思ったのは、ヒョンジュはひとりで脱出ルートを探しに戻ったとき、自分が死ぬかもしれないとわかっていたのではないかということです。でも、たとえ命を失うとわかっていても、きっと彼女は同じように行動したでしょう。それほどまでに人のために動ける彼女の姿は、私たちが見習うべきものだと思います。少しでも彼女のように生きられたら、すばらしいですよね。
―――ヒョンジュの最期のシーンを撮ったとき、どのような気持ちでしたか?
あの日のことは、いまでもよく覚えています。ファン監督が私のところに来て、「刺されたあと、倒れる直前に涙を一粒だけ流してみたらどう?」と提案してくれました。そして私は、その演技を一回でやりきることができて、自分でもとても誇らしく思いました。
でも実は、そのシーンに入る前から気持ちがとても高ぶっていて、「カット」の声がかかったあとも涙が止まらなかったんです。感情を落ち着けるために、少しのあいだ泣いて気持ちを整理する時間が必要でした。
―――トランスジェンダーのキャラクターが、これから世界中でもっと多く描かれるようになるために、本作がどのような影響を与えることを願っていますか?また、『イカゲーム』はあなた自身にどんなチャンスをもたらし、これからどんなことに挑戦したいと思っていますか?
まず最初の質問についてですが、これまで韓国の映画やドラマでは、トランスジェンダーのキャラクターが決まりきったイメージで、浅く描かれることが多かったと思います。だからこそ、ヒョンジュのように深みのあるキャラクターが登場したことに、とてもワクワクしました。彼女の存在が、もっと深みのある多面的なLGBTQ+キャラクターが増えるきっかけになることを願っています。
次の質問についてですが、私は最近、悪役を演じることが多く、「悪役の俳優」というイメージが強かったと思います。でもヒョンジュを通して、“いい人”の役も演じられるという新しい一面を見せることができました。おかげで、現在撮影中の『Efficient Dating for Singles(英題)』という新作ドラマでは、善良なキャラクターを演じています。
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『イカゲーム』シーズン1~3は現在、Netflixで独占配信中。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。編集/和田 萌
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