Apple TV+『エクストラポレーションズ』出演者インタビュー: 「視聴者に不安を覚えてほしい」

(左から)ヤラ・シャヒディ、エイサ・ゴンサレス、ベン・ハーパー、キット・ハリントン、シエナ・ミラー、ジェンマ・チャン、3月14日撮影 写真: ©JAI LENNARD
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この記事は、米The Hollywood Reporterの“2023 Sustainability Issue”の一部です。その他の特集記事はこちら

2021年10月、Apple TV+で配信中の新シリーズ『エクストラポレーションズ:すぐそこにある未来』の撮影初日にセットを訪れたシエナ・ミラー。ミラー曰く、これまでで最も“エコな”撮影現場だったという。紙の束から成る台本はどこにも見当たらない。そこにあるのは、古着が大量に掛かった衣装ラック、非プラスチックボトル用の給水所、堆肥化できる食器の数々だった。

「エクストラポレーションズ」のクリエイター、スコット・Z・バーンズは言う。「このドラマを作るにあたって、私たちは主題に沿って製作を試みる必要がありました」ドラマの撮影はニューヨーク市内で行い、カーボンフットプリントを減少。さらに特筆すべきは、コンサル会社“Green Spark Group”のアドバイスに基づいて、プロダクションにおける環境への影響を最小限に抑えたことだ。

今作はあくまで、仮説やアポカリプス的世界観に依拠することなく、気候変動の影響下にある近未来の世界を描く。キャストの1人、ヤラ・シャヒディは語る。「この作品は、効果的な方法で質問を投げかけます。果たしてそれは、あなたが思うほど極端な未来像なのか?本当に非現実的な世界なのか?」

キット・ハリントン 写真: ©APPLE TV+

シリーズ全体を通して描かれるのは、環境とテクノロジー企業の対立だ。物語の幕開けは2037年、環境活動家がテクノロジー企業“Alpha Industries”に抗議するさまが描かれる。企業は“テクノロジーを開発しなければ、経済が後退してしまう”と主張する。一方でテクノロジーは、科学者が示す臨界点である1.5℃を上回る気温上昇を招くことが分かっている。

“Alpha Industries”のCEOニコラス・ビルトンを演じたキット・ハリントンは「ビルトン(のキャラクター)は、私たちが思い起こせるような何人かの人物を基に形成されています。とあるテク界の億万長者を名指しすることもできるでしょう。でも本当のところ、彼という人間を生み出したのはビルトン自身。資本主義で世界を救えると信じているような超資本主義者のキャラクターです」と語った。「彼は人類のために正しいことがしたいだけ。問題なのは、会社の一番高いところにいる人間なら誰もがそうであるように、物事がどんどん心の中で歪曲し、モチベーションにお金が絡むようになってしまうことです」

ジェンマ・チャン、キット・ハリントン 写真: ©JAI LENNARD

2046年を舞台にした第2話「クジラの死」では、元海洋生物学者のレベッカ・シアラー(シエナ・ミラー)が地球最後のザトウクジラのイヴ(声: メリル・ストリープ)と関係を築いていく。ミラーは、ストリープとの共演について「彼女(ストリープ)の仕事を見られるのは、本当に素晴らしい経験でした。さっきまで笑っていたと思ったら、一転して史上最高にエモーショナルな演技をされる方です。それに、非常に真実味を帯びています」と明かした。

バーンズは、自身の経験と結び付いた第2話について思いを語った。「このエピソードを書いている時に、父を亡くしました。それから私は自分の子供時代や“別れを告げること”に思いを巡らせたのです。そして地球最後のクジラにインタビューをしたら、人間に対して何と言うだろう?というアイデアが浮かびました」

ジェンマ・チャン 写真: ©APPLE TV+

第6話「ローラ」では、2066年のロンドンに住むシアラーの息子エズラ(タハール・ラヒム)の姿が描かれる。エズラは仕事を通して、シングルマザーのナターシャ(ジェンマ・チャン)と出会う。ナターシャは娘のために、とあるプラットフォームを利用して父親の不在を埋めている。一方、テクノロジーや持ち前の多言語スキルを活用しながら、エズラは様々な人間に成り切ることを生業としていた。クライアントに雇われる日々は平凡なものだったが、やがてエズラはナターシャと心を通わせていく。

チャンは2人の関係について「彼らは深い喪失を経験し、つながりを切望しているのです。そして、あらゆる困難を乗り越え、お互いに惹かれ合っていきます。すべてがバラバラになってしまった社会で、このような形でつながりが生まれることは非常に興味深いです」と述べた。さらに「このエピソードのテーマの1つは、過去や未来に囚われず現在を生きること。恋愛だけでなく、人生全体に関係することだと思います」と加えた。

ヤラ・シャヒディ、スコット・Z・バーンズ、シエナ・ミラー 写真: ©JAI LENNARD
トビー・マグワイア、エイサ・ゴンサレス 写真: ©APPLE TV+

バーンズは、シリーズ全体で様々なジャンルに挑んだ。ダヴィード・ディグスとデイヴィッド・シュワイマーが出演したエピソードは、コーエン兄弟のブラックコメディー『シリアスマン』(2009)にインスパイアされたという。また、1964年の映画『未知への飛行』(シドニー・ルメット監督)に着想を得たというエドワード・ノートン出演の第4話や、エドワード・オールビーの戯曲『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』(1966)になぞらえた第7話を製作した。私はマイケルとドロシー(エグゼクティブプロデューサー)にこう伝えました。「『“ロミオとジュリエット”ぐらい初歩的な物語を取り入れる必要がある。では、それらの物語は気候変動下の世界おいて、どのように形を変えるだろう?』というのも、誰もが知る物語はもはや現実に存在しない気候に合わせて書かれたのですから」

第7話「送別会」の舞台は2068年のサンフランシスコ。シルヴィ(マリオン・コティヤール)とオーギー(フォレスト・ウィテカー)は、夫婦で大みそかパーティーを開く。シルヴィは友人のニック(トビー・マグワイア)とニックの彼女エロディー(エイサ・ゴンサレス)を招待したものの、6つ分のカーボンクレジットがかかってしまう。そしてディナーの最中、オーギーはとある宝くじに当たったことを明かす。やがてシルヴィとオーギーの不和が垣間見え始め、次第にパーティーには暗雲が立ち込めていく。

ベン・ハーパー、エイサ・ゴンサレス 写真: ©JAI LENNARD
マリオン・コティヤール 写真: ©APPLE TV+

エロディー役のゴンサレスは、今エピソードについて「監督を務めたニコール・ホロフセナーの強みである、あるシチュエーションにおける滑稽さや愚かさが存分に表現されています。この話のおかげで、喜ばしいことに現場で奥深い会話ができました。フランス出身のマリオン、メキシコ出身の私、フォレストとトビーの4人はそれぞれバラバラの場所で違う人生を歩んできました。そんな私たち4人の課題は“異なる人生がどのように交差し合うか?”という疑問の答えを導くこと。こういった会話は、私たちの日常生活に組み込まれています」と伝えた。

シリーズ最終話「環境破壊罪」は、グラミー賞受賞のブルース歌手ベン・ハーパーがマーヴィン・ゲイの「マーシー・マーシー・ミー」を歌うシーンから始まる。時は2070年、地球温度は2.59℃上昇、まさに1971年の楽曲の歌詞が現実になった世界を描く。

Where did all the blue skies go?
青空はどこへ消えた?
Poison is the wind that blows
吹き渡る風こそ毒

バーンズは歌について「“マーシー・マーシー・ミー”は、気候問題への認識をもたらした最初の楽曲なのです。歌の内容を理解すると、いかに私たちの生活に根付いているのか分かります。最前線にいるコミュニティーは、気象予報では知ることができない形で、そういった問題を経験しています」と語り、今作のテーマ“環境問題の個人化”へのつながりを明示した。

チャンは視聴者に対し「感動し、楽しんでもらいたい。そして、怖がる気持ちも少し覚えていただければ」と期待を寄せた。さらにクリエイターの1人、ドロシー・フォートゥンベリーは、視聴者が実際に行動を起こすことの重要性を語る。「まさに現在進行形の問題であり、私たちが影響を与え続ける現実です。これからも、あらゆる時点でチャレンジとチャンスに直面するでしょう」

ミラーは、自身の娘がドラマの予告編を見たときに放った一言を教えてくれた。「『実際のところ、これってそう遠くない未来だよね』」そして、ミラーはこう付け加えた。「この作品の製作は10年遅かったかもしれません。でも、この物語を伝えられるプラットフォームがあることは、本当に素晴らしいです」

オリジナル記事はこちら。翻訳/和田 萌

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