『スパイダーマン:フレンドリー・ネイバーフッド』レビュー：レトロな魅力はあるが革新性は乏しい

Disney+の新作アニメ『スパイダーマン:フレンドリー・ネイバーフッド』は、スパイダーマン作品として『スパイダーマン:スパイダーバース』シリーズと比較される運命にある。『スパイダーバース』がアニメ表現の革新を追求したのに対し、本作はノスタルジックでシンプルに楽しい作品だ。この違いがあるからといって、どちらか一方だけが正解というわけではない。

しかし、単なる懐古的な作品として見ると、どうしても昨年の『X-Men ’97』と比べたくなる。『X-Men ’97』はレトロなスタイルを活かしながら、X-Menの根底にある進歩的なテーマを掘り下げた。一方で『スパイダーマン:フレンドリー・ネイバーフッド』はそうした重みを持たず、より気軽で若年層向けのエンタメ作品となっている。

本作は明るくエネルギッシュで、洗練されたレトロ調のビジュアルを楽しめる作品だ。テーマとして「権力の責任」に軽く触れつつも、大量のイースターエッグに紛れ込ませているため、深刻なメッセージ性は前面に出ていない。その軽やかさこそが魅力と言えるだろう。

ジェフ・トラムメルが手がける本作は、MCUにゆるやかに接続されたアニメシリーズであり、物語の冒頭でその立ち位置が示される。ピーター・パーカーが高校初日にミッドタウン高校へ向かう中、ドクター・ストレンジがポータルを開き、シンビオートを追いかけるシーンから物語は始まる。

大混乱の中、ピーターはクラスメートのニコ・ミノルを守るが、その瞬間、ポータルから現れた放射能を浴びたクモに噛まれる。これはおなじみのスパイダーマンの起源とは異なるが、彼の世界には馴染みのある要素も多い。たとえば、ソコヴィア協定は存在し、『シビル・ウォー／キャプテン・アメリカ』のアベンジャーズの対立も起きている。ただし、本作のピーターはその戦いには参加していないため、MCUとの関係は微妙に異なる。

そのため、本作ではドクター・ストレンジやアイアンマンが登場するが、オリジナル俳優が声を担当していない。一方で、デアデビルはチャーリー・コックスが演じるなど、繋がりのある要素もある。こうした設定の整合性を深く考えると混乱するので、「マルチバース」と割り切って楽しむ方が賢明かもしれない。

そして、物語はピーターが能力を得た直後ではなく、3カ月後から展開する。彼はスーパーヒーロー活動を始めつつ、ニコとの友情を育み、クラスメートのパール・パンガンに片思いし、さらにはノーマン・オズボーンのロボット工学インターンに参加する。しかし、そのインターンには裏に何かが潜んでいる。

ピーターは、高度なテクノロジーを駆使した戦いに巻き込まれ、マック・ガーガンやオットー・オクタビウスと対峙することになる。さらに、パールの恋人ロニー・リンカーンやノーマン・オズボーンの息子ハリーなど、多彩なキャラクターが登場する。

スパイダーマンに詳しくない人でも、オクタビウスやオズボーンが将来ヴィランになることは想像できるが、熱心なファンなら他の登場人物の未来の姿にも気づくだろう。アマデウス・チョやブタン、スピード・デーモンまで含まれており、コアなファンにとっては大興奮の要素が詰まっている。

一見、大物ヴィランの登場を避けているようで、実際にはほぼ全員が将来パワーを持つ可能性を秘めたキャラばかり。このまま全員が変身すれば、今後のシーズンはカオスになりかねない。すでにストーリーは混沌とし始めており、今後はもう少し焦点を絞った展開が求められるかもしれない。

『スパイダーマン:フレンドリー・ネイバーフッド』は、3Dセルシェーディング技術を駆使し、スティーヴ・ディッコ時代のスパイダーマンを再現しつつ、現代的な要素も取り入れている。鮮やかな原色とコミックのコマ割りを使い、ピーター・パーカーの誠実で素朴なヒーロー像を強調。暴力描写は控えめで、家族向けに適した内容となっており、性的要素や社会的テーマはほとんど扱われない。

物語はシンプルで、スパイダーマンの理想主義的な「大いなる力には大いなる責任が伴う」というテーマを他のキャラクターとの対比で描くが、複雑な展開は少ない。視覚的な革新性や深いサブテキストは欠けているものの、レトロな魅力があり、温かみのある純粋なヒーロー像が魅力となっている。