アメリカの「影の大統領」ディック・チェイニー死去 ブッシュ政権を支えた冷徹な戦略家の最期

ディック・チェイニー氏(2015年撮影)写真:Getty
ディック・チェイニー氏(2015年撮影)写真:Getty
スポンサーリンク

アメリカ史上もっとも影響力のある共和党副大統領の一人とされるディック・チェイニー氏が、84歳で死去した。

家族が報道各社に発表した声明によると、チェイニー氏は現地時間11月3日(月)の夜、肺炎および心臓・血管疾患による合併症のため息を引き取ったという。

「第46代アメリカ合衆国副大統領リチャード・B・チェイニーは、2025年11月3日夜に亡くなりました。享年84歳です」と声明はBBCニュースなど複数のメディアに共有された。

「61年連れ添った最愛の妻リン、娘のリズとメアリー、そして家族に見守られながら、静かにこの世を去りました。元副大統領は肺炎と心臓・血管疾患による合併症で亡くなりました」と声明は続けている。

――ジョージ・W・ブッシュ政権下で強大な権力を握り、「影の大統領」とも呼ばれたチェイニー氏。冷徹な戦略家としてアメリカ政治に刻んだ足跡は、いまなお賛否両論を呼び続けている。その死は、ひとつの時代の幕を下ろす出来事である。

「何十年にもわたり、ディック・チェイニーはホワイトハウス首席補佐官、ワイオミング州選出の下院議員、国防長官、そしてアメリカ合衆国副大統領として、この国に尽くしてきた。彼は偉大で誠実な人物であり、子どもや孫たちに祖国を愛し、勇気と名誉、愛情と優しさ、そしてフライフィッシングの精神(※)をもって生きることを教えた。我々は、ディック・チェイニーが祖国のために捧げたすべてに計り知れない感謝を抱いている。そしてこの気高き巨人を愛し、また愛されたことは、何よりの祝福である」

※フライフィッシングの精神とは、自然との調和・探求・精神的な充足を重んじる考え方のこと。

――家族の声明はそう結ばれている。

ネブラスカ州出身の政治家であるチェイニー氏は、1970年代にジェラルド・R・フォード大統領の下でホワイトハウス首席補佐官を務め、その後10年間にわたり下院議員として活動した。2001年から2009年までジョージ・W・ブッシュ政権の副大統領を務め、2001年9月11日の同時多発テロ後、「対テロ戦争」の一環として2003年のイラク侵攻を主導した中心人物としても知られる。

近年、チェイニー氏は当時の現職大統領だったドナルド・トランプの痛烈な批判者でもあった。昨年の大統領選挙の数か月前には、民主党候補カマラ・ハリスを支持する立場を表明。トランプについて「アメリカの共和国にとって、これほど大きな脅威となった人物はかつていない」と語り、「有権者に拒絶された後も、虚偽と暴力によって権力にしがみつこうとした」と断じていた。

ドナルド・トランプ大統領 写真:Andrew Harnik/Getty Images
ドナルド・トランプ大統領 写真:Andrew Harnik/Getty Images

――冷静な戦略家であり、信念の政治家であったチェイニー氏。その人生は、アメリカの栄光と矛盾を象徴する壮大なドラマであった。

娘のリズ・チェイニー氏は元共和党下院議員であり、2021年1月6日に発生した連邦議会議事堂襲撃事件を調査する特別委員会のメンバーとして活動した。事件後、彼女はトランプ前大統領の弾劾に賛成票を投じた10人の共和党議員のうちの1人であった。

ディック・チェイニー氏の人物像は、2018年公開の伝記映画『バイス』で英国俳優クリスチャン・ベールによって演じられた。同作ではベールと共演したサム・ロックウェルもアカデミー賞にノミネートされ、さらに作品賞にも名を連ねるなど、翌年のアワードシーズンを席巻した。

ディック・チェイニーの伝記映画『バイス』(2018年)より 写真:Prime Video
ディック・チェイニーの伝記映画『バイス』(2018年)写真:Prime Video

――『バイス』で描かれたのは、権力の中枢に潜む“静かなる支配者”の姿である。ベールが肉体的にも精神的にも完全にチェイニー氏へと変貌したその演技は、現代政治の光と影を映し出す映画史上屈指の名演として語り継がれている。

※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。

ザ・ハリウッド・リポーター・ジャパンで最新ニュースをゲット

【関連記事】

スポンサーリンク

類似投稿