役柄に徹底的に入り込む“メソッド演技法”を実践した21人の俳優: ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロほか

写真: COURTESY OF EVERETT COLLECTION (4)

“メソッド演技法”ー定義上、俳優が感情的な面で役柄になりきる際に用いるテクニックーは、ハリウッド業界内で数十年にわたり議論を呼んできた。“メソッド演技法の父”と称されるリー・ストラスバーグは、役者自身の実体験とキャラクターの体験につながりが存在することが重要だと理論化していた。

一方で、メソッドに難色を示す俳優も。直近では『メディア王 〜華麗なる一族〜』のブライアン・コックスが「私はアメリカ人の最低さをすべて抱えきれない。演じるたびに、宗教的な経験をしなければならないのか。ばかげている」と役柄への完全没入を非難した。

しかし、一部の役者は演技法をつねに試行錯誤している。以前、ジェニファー・ローレンスはメソッドに対する不安を語り、同演技法を熱心に取り入れているクリスチャン・ベールらと共演後に自身の演じ方が変化していったと明かした。

以下、“メソッド演技法”を実践した俳優のリスト

アル・パチーノ

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1992年の『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』で盲目の男性を演じたパチーノ。役に備え盲学校に出席したほか、撮影前は視力を失ったと仮定した生活を送り、現場スタッフにもそれに合わせた対応を求めていたという。

ジェレミー・ストロング

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「キャラクターが向き合うことになる災難を経験する必要がある」と米誌ザ・ニューヨーカーに語ったストロング。『シカゴ7裁判』のジェリー・ルービン役を演じた際は、スタントコーディネーターに本物の催涙スプレーの使用を要求した。『ジャッジ 裁かれる判事』の役作りでは自閉の人と共に過ごし、台本にない個別の小道具をリクエストしたそうだ。

ジャレッド・レト

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『スーサイド・スクワッド』(2017)でジョーカーに扮したレトは、マーゴット・ロビーにネズミを贈るなど他の共演者に数々のいたずらを仕掛けていたという。また、『モービウス』(2022)の撮影時、トイレに向かう際に松葉杖か車椅子で移動していた。さらに、レトは引き受けた役柄に合わせて体重を増減することでも有名。

ロバート・デ・ニーロ

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業界内で最も著名なメソッド俳優の1人、ロバート・デ・ニーロ。実際にタクシー運転手として働き、約13キロ減量した『タクシードライバー』(1976)や、ボクサー役を演じるにあたりウェイトトレーニングで身体を大改造した『レイジング・ブル』(1980)など数々の記憶に残る作品に没入型のアプローチで挑んだ。

クリスチャン・ベール

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クリスチャン・ベールも役によって体重を大幅に変化させている。『ザ・ファイター』、『アメリカン・ハッスル』、『バットマン』3部作で肉体改造を行ったほか、不眠症の男を演じた『マシニスト』では睡眠時間を2時間に削り約31キロ減量したとされている。一方で、あまりに厳しい役作りのため健康を害し、作品から降板したこともある。

レディー・ガガ

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『ハウス・オブ・グッチ』(2021)でパトリツィア・レッジャーニを演じたレディー・ガガも、“9か月間イタリア語のアクセントで話す”、“レッジャーニとして1年半を過ごす”といった自身の演技法を告白。またガガは、元の生活に戻るにつれて「撮影終盤のある時点で、心理的な困難があった」と打ち明けた。

オースティン・バトラー

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2022年『エルヴィス』で“キング・オブ・ロック”ことエルヴィス・プレスリーを演じ切ったオースティン・バトラー。同作撮影中の3年間は家族に会うことなく、何か月もの間誰とも口を利かなかったそうだ。さらに、家族や友人と話す際はエルヴィスの声で話し、“彼の事だけを考えていた”と明かした。そのダメージは非常に大きかったといい、「『エルヴィス』が終わったとき、自分が何者なのか分からなくなった」と語っている。

ヒラリー・スワンク

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1999年の『ボーイズ・ドント・クライ』では、忠実に役を演じるため胸に包帯を巻き、声を低くして、体重を落とした(現在、スワンクはトランス男性が同役を演じるべきだったとしている)。数年後『ミリオンダラー・ベイビー』(2004)でボクサー役を演じるにあたり、約9キロの筋肉量をつけ、プロ仕様のトレーニングを受けた。トレーニングによる水膨れが原因でブドウ球菌に感染してしまったそう。

ホアキン・フェニックス

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『ジョーカー』(2019)のホアキン・フェニックスは、同役のために約23キロ減量しメンタルヘルスに影響を与えたことを語った。「目標体重を達成すると、すべてが変わった。毎日起きては0.1キロに執着してしまう。本当に病んでいくんだ」「興味深いのは、減量で予想していなかった身体的な滑らかさ。以前は出来なかったように身体を動かせる気がした。キャラクターの重要な部分となる様々な身体的な動きに役立った」

ナタリー・ポートマン

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バレエ経験者のナタリー・ポートマンは、『ブラック・スワン』(2010)の撮影前に水泳のほかプロのダンサーと1日数時間のトレーニングを実行。食事制限も行い、約9キロ体重を落とした。英デイリー・メールに向け「1日16時間働き、食べるのもやっとで。いつの間にか、メソッドに足を踏み入れかけていた。今までで一番きつかった。自分の生活に戻りたくても、そのチャンスはない。この作品はずっと私から離れなかった」と明かした。

ダニエル・デイ=ルイス

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最も有名なのは、生まれながらの脳性麻痺で左足しか動かせない画家を演じた『マイ・レフトフット』(1989)。脳性麻痺の専門クリニックに通い、スタッフに移動や食事を介助してもらっていたという。さらに、デイ=ルイスは撮影の間ずっと車椅子生活を送っていた。

ヒース・レジャー

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ジョーカー役で完全没入型の演技法を実践したのはJ・レトとJ・フェニックスだけではない。2008年『ダークナイト』で同役に扮した故ヒース・レジャーは、何か月間も人との接触を絶ち、撮影の前段階から日記を書き続けた。また、様々な声の調子を試したり、ジョーカーの一部となるまで仕草を取り込んでいった。ベールによると、レジャーは尋問のシーンで実際に殴るよう要求していたそうだ。

ジム・キャリー

©STEVE GRANITZ/FILMMAGIC ; UNIVERSAL PICTURES/ COURTESY: EVERETT COLLECTION

伝記映画『マン・オン・ザ・ムーン』(1999)で、伝説的なコメディアンのアンディ・カウフマンを演じたジム・キャリー。制作時はカメラの外でもキャラクターになりきり続け、スタッフにはアンディまたはトニー(カウフマンのキャラクター、トニー・クリフトン)と呼ぶように要求していたとされている。

シャーリーズ・セロン

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近年はメソッドに反感を抱いているというシャーリーズ・セロン。しかし『ディアボロス/悪魔の扉』(1997)では監督がメソッドを勧めていたため、同演技法を実践したという。2020年、米ロサンゼルス・タイムズに対し以下のように語った。「私にメソッドは無理。“ディアボロス”でやってみたけど、ただ疲れ切ってしまった。今では、役柄を理解し、ともに瞬間を生きることをもっと上手くこなせるようになった」

フォレスト・ウィテカー

©TONI ANNE BARSON/FILMMAGIC; FOX SEARCHLIGHT/COURTESY EVERETT COLLECTION

ラストキング・オブ・スコットランド』(2006)でウガンダの独裁者イディ・アミンを演じたウィテカーは、数か月にわたり役作りに励んだ。体重を約13キロ増量し、ウガンダで生活し文化を体験。スワヒリ語を学び、犠牲者とも面会した。撮影が開始しても同役になりきり続け、アミンの方言が消えないようにしていた。

レオナルド・ディカプリオ

©ARCHIVIO SPAZIANI/MONDADORI PORTFOLIO VIA GETTY IMAGES;0TH CENTURY FOX FILM CORP. /COURTESY EVERETT COLLECTION

2015年の『レヴェナント: 蘇えりし者』で、凍てつく寒さの荒野でキャンプ、動物の死骸の中で眠る、バイソンの生肉を食すといった役作りを行ったディカプリオ。当時、メディアに向け「これまでで最も困難だったシーンは30~40ある。凍える寒さと低体温症にずっと耐えていた」と明かした。ベテラン撮影スタッフ曰く、“キャリア史上最悪な経験の1つ”だったそう。

エイドリアン・ブロディ

©JEFF KRAVITZ/FILMMAGIC; FOCUS FEATURES/COURTESY EVERETT COLLECTION

『戦場のピアニスト』(2002)でユダヤ系のピアニストでホロコースト生還者のウワディスワフ・シュピルマンを演じるにあたり、ブロディは身の回りのものを売り払い、人々から離れ必要最低限の生活を送った。さらに、飢餓状態を理解するために約13キロ減量し、ピアノは1日に数時間練習していたと言われている。撮影が終わる頃には日常生活に戻り、他の作品の役を受けるのに苦労したそうだ。

ジェイミー・フォックス

©STEVE GRANITZ/FILMMAGIC;UNIVERSAL/COURTESY EVERETT COLLECTION

2004年『Ray/レイ』で盲目のミュージシャン、レイ・チャールズを演じたフォックスは、厳しい食事法で約13キロ体重を落とした。さらにテイラー・ハックフォード監督は、フォックスに目を接着して人口装具の傷ついたまぶたを着用するよう要求。フォックスによると、閉所恐怖症的な感覚でパニック発作に襲われたものの、最終的には慣れたそう。「想像してごらん。1日に14時間も目をくっ付けなきゃならない。それはもう実刑判決だ」

ヴァル・キルマー

©EUROPA NEWSWIRE/GADO/GETTY IMAGES; RISTAR PICTURES/COURTESY EVERETT COLLECTION

伝記映画『ドアーズ』(1991)でジム・モリソンに扮したヴァル・キルマーは、キャラクターに入り込むあまり、スタッフに“ジム”と呼んでもらっていたという。その上、モリソンの音楽作品を叩き込み、リサーチに100時間費やした。映画の公開後、キルマーはセラピーに通い、役柄から抜けるのをサポートしてもらっていたと伝えられている。

メリル・ストリープ

©TAYLOR HILL/FILMMAGIC; 20TH CENTURY FOX FILM CORP

2006年、『プラダを着た悪魔』のミランダ役でメソッドを実践したストリープ。撮影中はずっと恐ろしい上司のキャラクターになりきっており、2021年に当時の状況についてこう明らかにした。「惨めな気持ちでトレーラーの中にいた。皆がけたたましく笑うのが聞こえてくるようで。本当に憂鬱!自分には“これは上司になった代償だ”と言い聞かせていた。メソッドを試したのは、これが最後!」

アンドリュー・ガーフィールド

©KARWAI TANG/WIREIMAGE; KERRY BROWN/PARAMOUNT PICTURES/COURTESY EVERETT COLLECTION

『沈黙 -サイレンス-』(2016)で17世紀の神父を演じ、メソッドを行ったというガーフィールド。6か月間禁欲生活を送り、減量のため断食したことを打ち明けた。「毎日たくさんの精神修行をし、新しい習慣を作り出した。私とアダム(・ドライヴァー)は大幅に体重を落とす必要があったからね。当時は、飢えが原因で、色々なワイルドでぶっ飛ぶような経験をした」

※今記事は要約・抄訳です。オリジナル記事はこちら

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