エド・シーランの軌跡:路上ライブから世界的スターへ ── 映画音楽と新章『PLAY』を語る
世界が認めるポップスーパースター
エド・シーランは、イギリスを代表するシンガーソングライターである。ローリングストーン誌からは「21世紀を代表する世界的ポップスーパースターの一人」と評され、ロサンゼルス・タイムズには「おそらく世界でもっとも成功した男性ポップスター」と称えられている。
さらにガーディアン紙は、「同世代でもっとも商業的成功を収めた英国アーティスト」であり、「彼の時代を象徴する音楽家で、デヴィッド・ボウイ、エルトン・ジョン、ジョージ・マイケル、モリッシー、エルヴィス・コステロらと並び立つ存在」として、その名を英国男性ソロアーティストの偉大な系譜に刻んでいる。ニューヨーク・タイムズも「現代のジェイムス・テイラー」と称し、「常にヒットを生み出す数少ない世界的男性ソロポップスターの一人」「現代ポップシーンを定義するアーティスト」と高く評価している。
破格のヒット記録と影響力
34歳にして、シーランはすでにグラミー賞4度の受賞歴を誇り、「Shape of You」「Perfect」という2曲でビルボード・ホット100の首位を獲得し、4枚のアルバムがビルボード200のトップを制したアーティストである。2017年のメガヒット作『÷(ディバイド)』を引っさげ、同年の世界でもっとも売れたミュージシャンとなり、2010年代のSpotifyではドレイクに次ぐ“2番目に多く再生されたアーティスト”という地位を築いた。

現在までに世界累計2億枚以上のレコードを売り上げ、史上屈指の大ヒットアーティストとして名を連ねているほか、Spotifyでもっともフォローされているアーティストの第3位(上位はインドの歌手アリジット・シンとテイラー・スウィフト)、そして2025年版「TIME誌が選ぶ世界でもっとも影響力のある100人」の一人にも選出されている。
映画音楽で広がるフィールド
今年の秋には8作目となるスタジオアルバム『PLAY』をリリースし、さらに2025年公開の超大作映画に提供した2つの楽曲で、オスカー歌曲賞候補の有力視もされている。ひとつはジョン・メイヤー、ブレイク・スラットキンと共作した『F1/エフワン』の「Drive」。そしてもうひとつが、シャキーラ、スラットキンと共作した『ズートピア2』の「Zoo」である。いずれも彼自身が歌い上げた楽曲であり、その音楽的存在感は映画界でも輝きを増している。
路上ライブから世界的スターへ――創作の舞台裏
ウェストハリウッドにあるホテルで行われた最近のインタビューで、シーランはロンドンの路上で演奏していた若き日々から、いかにしてスーパースターへと駆け上がったのか、その“あり得ないほどの道のり”を振り返った。また、「The A Team」「Sing」「Thinking Out Loud」「Bad Habits」など、自身の代表曲の誕生秘話、さらには映画のために楽曲提供を引き受けた理由と、通常のソングライティングとはどう違うのかといった創作の舞台裏まで語っている。その他にも興味深いトピックが数多く飛び出した。
――盟友テイラー・スウィフトについて
ナッシュビルでロック・バンド「スノウ・パトロール」の前座をしていた頃、テイラーのチームで働いているフランクがよく来ていてね。そこでなんとなく、『もしテイラーが曲を書きたいと思うことがあれば、いつでも声をかけてくれ』と言ったんだ。テイラーが僕の音楽を知っていることはわかっていた。“Lego House”の歌詞を手に書いて、どこだったかな……ブリスベンだったかシドニーだったか、とにかくオーストラリアでライブをしたときの写真が出回っていて、それを見ていたからね。だから『もしテイラーが曲作りをしたいなら……』と思っていた。そして実際に会うことになった。
もちろん僕たちは性別も違えば、国も文化も違う。でも、テイラーとは創作面でとても深くつながっていると感じているんだ。2013~14年の「Redツアー」では一緒に過ごす時間が多く、友人として、コラボレーターとして、パフォーマーとして強い絆が生まれた。
ジェイムス・テイラーとキャロル・キングにたとえられる関係性については、本当にその通りだと思っている。僕たちはどちらも流動的な生活を送っているけれど、僕は家庭もあって子どもたちは学校に通い、ツアーとなればまた旅に出る。そんな生活の中でも、テイラーとは時々会うんだ。そして会った瞬間、すぐに元の状態に戻る。“ロックインする”というか、一瞬で再びつながる。まるで時間が経っていないかのように。それは兄弟に近い感覚だね。
――ファレルがプロデュースしバックボーカルも務め、シーランにとって初の全英1位、全米でも13位を記録した曲「Sing」について
「Sing」は、僕のディスコグラフィの中でももっとも重要な曲の一つだと思う。あの曲が、僕を“こういうタイプのアーティスト”という型にはめられていた状況から解き放ってくれたんだ。あの曲のおかげで、だれに眉をひそめられることもなく、自分が望むだけ自由に実験的な音楽を作れるようになった……
もちろん、ディスコグラフィの中でいちばんのヒット曲だとは言わない。でも、あの曲が扉を開けてくれたことは間違いない。そして、その扉が開いていなければ、「Shape of You」のような曲は生まれていなかったと思う。
――アルバム『÷(ディバイド)』のリリース時には、「Shape of You」や「Castle on the Hill」などがチャートで高位を記録し、話題を集めた。「Shape of You」は通算12週1位を獲得し、2017年最大のヒット曲となった。ほかにも「Perfect」「Happier」など多数のヒットが生まれたことについて
すべてはあのアルバムに向かって積み重なっていたのだと思う。『+(プラス)』での土台作り、『x(マルティプライ)』での広がり、そして「Sing」のような曲が新しいリスナーを呼び込んでくれた。あらゆる要素がつながり、結晶化した“核”の瞬間があのアルバムだったんだ。
多くのアーティストのキャリアを見ても、すべてがそこに向かって進み、そしてその瞬間を境に人生が続いていくようなポイントがある。僕が今後の人生で、もう一度ああいう瞬間を持てたら幸運だよ。人によっては二度あったり、三度ある人もいる。でも僕は、あの“一度すべてが噛み合った瞬間”を経験できただけでもとても幸運だったと思っている。
――数学記号をテーマにした5作に続く、“音楽再生コマンド”を題材にした新たな5作(厳密には6作)について
このシリーズは5作になる予定だ――いや、厳密には6作だ。というのも、僕が死んだときに出す“Ejects(イジェクト)”というアルバムを用意しておこうと思っているからだ。死後に出る作品を、生前に自分で作っておくというアイデアが好きなんだ。

親友であり僕を初期から支えてくれたジャマル(・エドワーズ)を亡くしたこと、しかも彼が遺言を残していなかったことで、周囲の人間に大きな負担がかかった。あれは本当に辛い経験だったし、『もし自分が先に逝くことになったら、すべてを整理しておきたい』と強く思わされる出来事だったんだ。
――『F1/エフワン』への参加と、オリジナル曲「Drive」制作について
ジェリー(・ブラッカイマー)とは、2022年にオースティンで行われたF1で会ったんだ。おそらく何かの下見で来ていたんじゃないかな。その時はまだ撮影には入っていなかったと思うけど、彼とブラッド(・ピット)がいてね。そこでジェリーが“映画が完成したら、曲を作ってほしい”と言ってくれた。僕は“ああ、いいね。まあ、考えておくよ”くらいの気持ちで答えたんだけど、その後本当に連絡が来たんだ。

僕のこれまでのキャリアや大ヒット曲のイメージから、“ラブシーンにあなたの曲を使いたい”みたいな依頼がよく来る。でもジェリーは違った。“好きな場面を選んで、好きなようにやってくれ”と言ってくれたのがうれしかった。
まずZoomで40分くらいの初期バージョンをジェリーと一緒に観て、そのあと試写用の映像も送られてきた。でも完成版ではなかったね。僕が選んだのは、ブラッド(の演じるキャラクター)がデューンバギーで走り去っていくラストシーンだった。
ジョン(・メイヤー)が何ができる人かはよくわかっていた。彼はギターの魔術師みたいな存在で、最高のフレーズを作ってくれると確信していた。だから、僕とジョンとブレイク(・スラットキン)の3人でスタジオに入った。ジョンがフレーズを作り、メロディをつけて、僕がそれを持ち帰って歌詞を書き、戻ってきて少し手直しをした。その後、ブレイクとジョンがデイヴ・グロールとピノ・パラディーノを呼んで仕上げてくれたんだ。
――「Drive」を制作する際、映画とは独立して楽しめる曲にしようという意図があったかについて
独立して成り立つ曲を作ろうなんて、まったく考えていなかった。というか、そういう曲ではないと思う。僕のカタログにもまったく馴染まない。“でかいロック曲”なんだよね。F1を率いている人にも言ったんだ――『この曲はあなたたちにあげる。お金なんていらない。好きに使ってほしい。だって、この映画の世界以外では存在意義が薄れてしまうから』って。
僕が望んでいたのは、“とにかくぶっ放すような巨大なエンドクレジット曲”になることだった。僕の歌い方も、まるでエンジンがかかるみたいに聴こえるし、とにかくパワフルで真正面から迫ってくるサウンドだ。
あの映画自体がアドレナリンの塊だ。車が猛スピードで通り過ぎるシーンでは、観ていて身体が震えるほどだ。だから曲にも同じパワーやエネルギー、アドレナリンを宿したかった。
制作している段階で、『これは映画にしかマッチしないタイプの曲だな』と気づいていた。これは“この映画の、この瞬間のためだけに設計された曲”なんだ、と。そして映画のために曲を作る醍醐味は、まさにそこにあると思う。作品と結びついているから、映画がすばらしく、長く愛され、レガシーを残すなら、その曲にもレガシーが宿る。
“映画以外でも通用しなきゃダメだ”なんて考えながら作ったら、逆にうまくいかないだろう。僕はこれまでたくさんの人に会って、「『ホビット 竜に奪われた王国』であなたを知りました」と言われてきた。あの映画を観て、エンドロールで「I See Fire」が流れて、そこから僕の音楽を知ってくれた人が大勢いる。
もし『F1/エフワン』が、今後30年、40年にわたって“怪物級の人気作”として生き続けるなら、この曲も長く愛されるだろう。それってすごくワクワクすることなんだ。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。

【関連記事】
- 伝説のライブ再び!テイラー・スウィフト『ERAS TOUR』最終公演が待望の映像化 ―― 圧巻のキービジュアル&予告編解禁、12.12にディズニープラス独占配信
- 『ズートピア2』公開記念グッズ特集|あらすじ・声優キャスト・前作の見どころまとめ
- エド・シーラン、8枚目となるアルバムから新曲「Azizam」をリリース
- エド・シーラン、シャブージー、EJAEらが語る「ヒット曲誕生の瞬間」――映画音楽の創作秘話と「次のヒット曲」へのプレッシャー
- Apple Music史上、最も再生された楽曲はエド・シーランの“Shape of You”-ドレイクやテイラー・スウィフトも大人気
