TikTokクリエイターの景井ひなが『怪物』の是枝裕和監督にカンヌでインタビュー

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世界のトップTikTokクリエイターがカンヌ国際映画祭の舞台裏をレポートする企画に日本から唯一参加中の景井ひなが、今年コンペティション部門に出品された『怪物』の是枝裕和監督に現地でインタビューを実施。作品の魅力からカンヌでの行きつけの店まで、たっぷりと語ってくれた。


Q: 今回の『怪物』はどういった想いで撮影されたのでしょうか?

是枝監督:いつもは僕がアイデアから脚本、監督もするのですが、今回は僕が一番尊敬する脚本家の坂元裕二さんから始まり、プロットが出来上がったところで、監督として僕の名前を出していただいたという、いつもとは違った形のスタートでした。プロットを読んだのが2018年12月で、4年半くらい前です。コロナの影響で、途中で企画開発がストップして、3年近くかかって脚本にたどりつき、撮影がスタートしました。ただ、最初に読んだときの印象と出来上がった脚本・映画はそれほど遠くはないですね。非常にチャレンジングな印象を持ちましたし、「今」だなと思いました。「今」の人間と人間が、なかなかちゃんとコミュニケーションがとれない時代に、どういう風に人が人を怪物だと思ってしまうのか、自分のなかの怪物をなだめすかしていくのかをストレートに描いた脚本だなと思ったので、そこを見失わないように監督しました。

景井:私としては、監督が「今」だな、とおっしゃったと思いますが、まさにそうだなと思いました。日本は気遣いが過ぎる国という印象があって、その中で「怪物」はすごく攻めた作品だなと思いました。多様性に関して賛否両論がある国ではなかなか見ない作品なので面白いなって思いました。見ていて展開が読めない感じや、見ていてこうだろうと予測していても裏切られる感じ。本当に止まらなくなって、あっという間でした。

是枝監督:僕が正解を持っているか分からないですけど、僕なりには読み解いたものを作りました。監督がすべてコントロールしてできていくものでない部分もあるので、それこそ先ほど話に上がった子どもの姿なんて、彼らふたりの生命力はこちらの意図を超えて映っていたりもするから、そこがやっぱり映画が面白い部分でもありますし。僕が伝えたいと思っていたものと違うもので伝わったりもするから、そこが難しいですが面白いですね。半分はもう、受け取った方のものだと思っているので、ぜひ見てください。

Q: 是枝監督にとってカンヌ国際映画祭とは?

是枝監督:自分の作品を鍛えられる感じがします。ここにきて、褒められるだけではないので、いろんな世間の風に自分の子どもがさらされる感じです。子どもの発表会に付き添っているお父さん、って言うとちょっと違うんですけど、こういう場所を通過して自分の作品がより遠くに届きますし、より多くの人の元に届けられるのが実感できる場所なんです。一番それが可能な場所ですから。まずそのことを大切にしたいと思っていますし、日本の中だけ作っていると感じられない「映画を作るってこんなに沢山の人とつながっているんだ」と実感できる場所でもあるので、きどき来てちょっと背筋を伸ばして、また自分の映画を作る場所に戻っていくような場所になっています。

Q: 27日にはコンペティション部門の結果発表が行われます。今のお気持ちを聞かせてください。

是枝監督:もちろん、受賞に繋がった方が色んな意味で良いのでしょうけど、それだけがすべてではないので。今回は今までで一番現場のスタッフがたくさん集まってくれたのです。撮影、美術、録音、制作部、結構たくさん、ワールドプレミアの場所に立ち会ってくれて、一緒にそのエンドロールが上がって明るくなったときに、みんなが拍手をして、涙を流している方もいたけど、結構みんな晴れやかな笑顔で。笑顔に包まれたあの時間を経験できたことで、自分としてはひとつ大きな成果だったな、と思っています。試験の合格か不合格を待っているような、、ハラハラ夜も眠れない、ということはないです。

Q: 是枝監督が感じる『怪物』の魅力はどのようなところにありますか?

是枝監督:役者がみんな素晴らしいですね。中心にいる子ども2人ももちろんだけれども、瑛太さん、安藤サクラさん、田中裕子さん、その他、出演してくれた人たちみんな素晴らしいお芝居をしてくれました。そこは本当にひとつ見どころだと思いますし、ネタバレにならない程度だと坂本龍一さんが音楽を担当していて。この映画のために二曲書き下ろししてくれているのですけど、坂本さんが編集したものを見たときに、「音楽室のシーンが素晴らしいから、そのシーンの邪魔をしない音楽を」という風に話されて、音楽室が僕も大好きなシーンになりました。

Q: カンヌの楽しみ方について教えてください。カンヌに来たら絶対食べるものや寄る場所などはありますか?

是枝監督:食べ物の話を始めてしまうと、食べ物の話だけをしている監督みたいになってしまうんですよね(笑)。監督は映画祭に行っておいしい食べ物の話ばかりしているんだなと思っている人もたくさんいるくらい、美味しいものに目がないんです。カンヌの駅の方に行く途中に、「Laura」という、多分30年以上やっているイタリア料理のお店があるんですけど、そこは必ず行きます。滞在期間中に2回か3回行きます。もし行けたらぜひ行ってください。最初にブラータというチーズを食べ、メインはなんでも美味しいのですけど、最後にパンナコッタというデザートを食べます。ここ、最初と最後が特別に美味しいです。真ん中もとてもいいんですけど、最初と最後は特別で必ず動かないです。ここのおそらく娘さんが仕切っているのですが、この女性がかっこいいんですよ。すごくかっこいいです。この店の仕切り方。そこにも注目してください。そこでパンナコッタを食べた後に、できれば旧市街に行っていただきたいですね。昔ながらのカンヌの街を体験できますよ。海沿いにいるとカンヌの会場のさらに超えたほうが面白いと思います。

Q: 最近は、SNSや動画プラットフォームを利用して映画を撮る方もいます。映画とSNSの交わりは、今後どういった可能性があると思いますか?

是枝監督:ツイッターを今年に入って辞めたんです。面倒だったり、アンチが多くて。アンチを気にするというか、誤解をされて何か言われたときに、「誤解だよ」って訂正していたのですが、少し面倒くさくなってしまって(笑)。自分のコミュニケーションツールとして最初は面白くてやっていたのですが、映画があるので、映像が自分のコミュニケーションツールだと思って、作品を作るだけに集中しようと思ったのです。

今は劇場公開の映画も携帯の画質で撮れるようなものも多くなってきているので、映画というものの撮られるプロセスが個人の体験や、個人の価値観や、個人の美意識によって作成され、すごくたくさんの人が関わらなくても映画ができるようになっているという状況があって。いろいろな映画が生まれてくるので、プラスの面もたくさんあると思います。このインタビューがどのようなものになるのかは、映像ができ上がったら見ます。可能性を探ってみます(笑)

Q: 私の動画を見てくれている方々は10代や20代の若い世代が多いのですが、『怪物』の公開に向けて、是非メッセージをいただけると嬉しいです。

是枝監督:「怪物」は坂元裕二さんという脚本家が物語を書かれていて、坂元さんが子供時代に経験した出来事が出発点になっているそうです。いろいろと生きにくくて、自分を肯定できなくて、自分の気持ちをなかなか人に伝えられない10代の子たちが見てくれて、何か一つ「これでいいんだな」と思ってくれるようなきっかけになるような映画になったと思いますので、ぜひ劇場で見てください!

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