映画『ウィキッド』の衣装に隠されたフェミニズム オスカー受賞デザイナーが明かす

■映画『ウィキッド』の衣装の裏側
『ウエスト・サイド・ストーリー』や『ハリエット』の華やかな時代衣装から、『ウィキッド ふたりの魔女』の魔法の世界に至るまで、今年のアカデミー賞を受賞した衣装デザイナー、ポール・タゼウェルは、類まれな多才さをその創作のDNAに織り込んできた。
「私は時代物の作品や、歴史に結びついた物語を語るのが好きです。『ウィキッド』で特に心が躍ったのは、時代のシルエットに根ざしながらも、ファンタジーの世界を創造することでした」と、タゼウェルは語る。
■オズの世界へのリスペクトと新たな解釈
長年愛されているブロードウェイ作品を2部作の映画へと昇華させるという壮大な挑戦において、タゼウェルは膨大なインスピレーションの源を掘り下げたという。「『ウィキッド』では、その原点を深く探ることが重要でした。L・フランク・ボーム原作の『オズの魔法使い』、1939年の映画版、グレゴリー・マグワイアの原作『ウィキッド』、そしてブロードウェイ・ミュージカル——4つの異なる表現が存在しているのです」
舞台の本質を維持しながらも独自の解釈を加え、完全に現代的にするのではなく、新たな視点を織り交ぜた。「舞台の視覚的言語には忠実でありつつ、キャラクターの感情の変遷を反映するレイヤーを加えました。私は子供の頃、毎年のように映画『オズの魔法使』を観ていたんです。それは私の視覚的記憶の一部であり、アイコンをどのように捉えるかにも影響を与えました」この親しみこそが、『ウィキッド』の衣装を懐かしくも新鮮なものにしている。
■エルファバとグリンダの関係性を反映
『ウィキッド』の衣装の特徴の1つは、キャラクターの個性に根ざしたデザインにある。特に印象的なのが、シンシア・エリヴォ演じるエルファバの帽子とエメラルド・シティのドレスだ。「キャラクターと物語に即したデザインを意識し、彼らがどのような選択をするか、アイデンティティにどう結びつくかを考えます。エルファバとグリンダの衣装は、2人の関係性を映し出すものです。光と闇のコントラストに満ちた世界の中で、2人の変化を表現することが鍵でした」
アリアナ・グランデ演じるグリンダのバブルドレスとピンクの使用は、1939年の名作『オズの魔法使』に登場するビリー・バーク演じるグリンダへのオマージュであると同時に、より現代的な女性らしさの概念を強調している。「生地には当時と同じ半透明の質感を持たせつつ、より彫刻的でモダンな解釈を加えました。すべて幻想的な衣装ですが、新たなアイコンを生み出したかったんです。このキャラクターたちにとって、新鮮な何かをね」
「空へと舞い上がる泡」からインスピレーションを得たというグリンダのドレスは、技術的にも驚異的な1着だ。ドレスの下にはクリノリン(スカートを膨らませる骨組み)の層があり、その上に玉虫色のオーガンザ(薄地の織物)を重ねている。「フープを使って構造を作り、伝統的なフープスカートのような機能を持たせました。軽やかさを出すために、硬いナイロンネットを渦巻き状にカットし、円錐形にねじって配置しています」
ドレスにはビーズ、クリスタル、スパンコールが散りばめられ、幻想的な雰囲気を醸し出している。「まるで空気に浮かんでいるかのような軽やかさが必要でした。アリアナが着用したときに優雅に動くよう、細部にまで計算が施されています」さらに、グレース・ケリーの時代を超えたエレガンスや、ディオールの50年代のスカートスーツなどもインスピレーションの源となり、ヴィンテージの華やかさをデザインに加えている。
■エルファバの内面を表現したデザイン
一方、エルファバの衣装では、キャラクターの闇と個性を際立たせた。『ハリエット』でエリヴォとコラボしているタゼウェルは、「エルファバは社会の片隅に追いやられ、疎外される存在かもしれない。しかし、それが彼女に個性的なスタイルがないことを意味するわけではありません。エルファバの内面を映し出すような、より大胆なデザインを取り入れたかったのです」と思いを語った。
その結果生まれたのが、1890年代のファッションに根ざしたヴィクトリア調のシルエットであり、1939年の映画でマーガレット・ハミルトンが演じた西の悪い魔女へのオマージュともなっている。キノコや菌類、フィボナッチ数列の螺旋といった有機的な要素を参考にし、細かなプリーツ加工など自然を感じさせる質感を取り入れた。「コルセットの刺繍や膨らんだ袖の相互作用、そして彼女が回転したときにスカートがどう動くか——そこには遊び心があります。彼女がどのように空間を占め、世界の中をどう動くのかを常に考えながらデザインしました」
■「キャラクターの人生がリアルに感じられるような衣装」
タゼウェルのデザイン哲学の根底には、衣装を身にまとうキャラクター自身の選択があるという。「私は、それぞれのキャラクターの物語を疑似体験しながらデザインしています。彼らの求めるものが、私自身の仕事への熱意に影響を与えます。俳優が衣装を身につけ、役に完全になりきったとき、そのキャラクターの人生がリアルに感じられるような衣装を作りたいのです」
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。編集/和田 萌
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