Netflix、DVDレンタル配送サービス時代の終焉

2002年1月29日、カリフォルニア州サンノゼで、出荷準備の整ったDVDを満載したカートに座るNetflixのReed Hastings氏 写真: ©JUSTIN SULLIVAN/GETTY IMAGES
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4月18日、Netflixは25年に渡り提供してきたDVDレンタル配送サービスの終了を発表した。ブランドカラーの赤い封筒に入った5インチディスクを玄関で受け取れるこのサービスは、2023年9月29日に終了する。Netflixの共同設立者であるマーク・ランドルフは、25年続いたサービスに対し、「DVDは終わった」とあっけなく宣言し「ご苦労さまでした」と付け加えた。

レコードやDVDのボックスセットのように、Netflixのこのサービスもデジタル時代におけるフィジカル媒体が辿るべき結末を迎えることとなった。そして、多くの人にとってフィジカル媒体の終焉をさらに印象付けるものになるだろう。家でのエンターテイメントの楽しみ方は、ログインして再生ボタンを押すだけの方法にますます一極集中している。

Netflixのこの決定は、家庭での映画鑑賞の在り方を振り返ると必然で、真っ当な方針転換だと言える。テレビの普及から始まったこの変化は、VHS、DVDを経てピークに達し、現在のデジタルストリーミングで一時落ち着きを見せている。

1970年代半ばに登場したVHS(ビデオ・ホーム・システム)は、テレビがリビングに欠かせない家具となって以来、家庭でのエンターテイメント鑑賞における最初の大革命だった。この新しいテクノロジーの使い方は、ビデオカメラや空のカセットテープを入手し、結婚式などの家族行事の様子を自身で収めるというものと、プロが撮った長編映画を自宅に持ち帰るというものがあった。

皮肉にも、VHSを普及させたのは映画ではなく、健康増進を目的としたフィットネスビデオ『ジェーン・フォンダのワークアウト』だった。1949年に俳優のミルトン・バールがテレビの普及に一役買ったように、1982年にジェーン・フォンダは、VHSカセットとプレーヤーの普及に大きく貢献した。59.95ドルで販売されたこのビデオは、毎日90分のレッスンを視聴するには最もな価格だったが、数回観る程度の長編映画には割に合わない値段設定だった。いずれも1982年に公開された『ブレードランナー』、『スター・トレックII カーンの逆襲』、『愛と青春の旅だち』は39.95ドル、『風と共に去りぬ』(1939年)や『ピノキオ』(1940年)などの作品は79.95ドルと衝撃的な値段で販売されていた。以降、VHSテープの価格は徐々に下がり、1986年の『トップガン』の小売価格は26.95ドルまで下がったが、当時はVHSを買うより映画館で見た方が安い時代。多くはフィジカルでVHSを所有するより、気軽に見る権利を買う方法を選んだ。

Hollywood Videoのような大企業から数多の個人経営の店までがレンタル市場に参入したが、中でも業界での存在感が象徴的だったBlockbusterは、細々とメディア史に名を残す運命にあるようだ。

1985年、テキサス州の石油商デビッド・クックによって設立されたBlockbusterは、8000本のVHSと2000本ものベータテープ(ソニーのアナログビデオテープで優れていたが短命に終わった)の在庫を用意してダラスに旗艦店をオープンした。「販売のマージンはかなり低い」とクックが言うように、Blockbusterは販売ではなくレンタルに特化し、会費不要、タイトルによってはレンタル料は1回1〜2ドルという破格の価格設定だった。

会社はロケットのように急成長を遂げた。ビジネスモデルは単純で、回転率の高い店舗、便利な立地、わかりやすいカテゴリー表示と幅広いジャンルの品揃え、コンピュータによる迅速なレジ、さらに、営業時間外でも返却可能な返却箱。BlockbusterがViacomに買収された1994年までに市場の20パーセントを占め、1997年までにそのシェアは27%に達し、業界2番手であるHollywood Videoの3倍に及んだ。

Blockbusterを利用していた世代の人たちの中には、毎週金曜日の夜、週末に話題の新作映画を見ようとBlockbusterへと集まった10代の子どもとその親たちが、店内にごった返していた光景を覚えている人もいるかもしれない。

1997年、DVD(デジタルバーサタイルディスク)の登場は、ビデオレンタル市場の生態系を破壊せずに拡大するものと思われた。流行に敏感な多くの若者らがこぞってDVDにシフトした。発売からわずか2年後の1999年、「DVD元年」と業界紙に讃えられるほどに普及したDVDは解像度が高く、特典映像を収録できることが業界関係者の間で評判になったが、さらにポストに入れやすい薄型で軽量のフォーマットであることも大きな変化をもたらした。

Netflixに目を向けてみると、マーク・ランドルフは、共同創業者のリード・ヘイスティングスと共に「期限なし、延滞料金なしの定額料金モデル」でオンラインオーダーできる「DVDレンタル配送アイデア」を構想していたベンチャー企業時代を先日Twitterで振り返っている。ランドルフは1998年、ビルボードの取材に対し「決してレンタルビデオ屋に取って代わるものではない」と語っていたが、すでに実店舗との競合を視野に入れていたと思われる。(この顛末の詳細は、ランドルフが2019年に出版した『The Birth of Netflix and the Amazing Life of an Idea That Will Never Work』で語られている。ベン・アフレックとマット・デイモンの次回作として期待したい。)

1タイトル4ドルで7日間レンタルでき、前払いで、印刷された住所ラベルで送り返すことができた。店舗に足を運ぶ必要もなく、他の客に取られる前に焦って決める必要もなかった。全く異なる方法でサービスを展開する両者だが、ポルノ作品を扱わないという唯一の共通点もあった。

Netflixの繁栄は、アメリカで起こった経済バブルが2000年に崩壊し、会社のキャッシュフローの問題が発生するまで続いた。資金繰りに困ったランドルフは、ヘイスティングスと一緒にBlockbusterに出向き、パートナーシップ提携の話を持ちかけている。それほど手段を選んでいる暇はなかったということだが、Blockbusterの幹部は冷笑しながら、この取引を蹴ったと自書に記している。

時を同じくして、VHSの特等席だったBlockbusterの棚はDVDに押され気味だった。Blockbusterを訪れる客は皆、VHSではなくDVDプレーヤーを求めていたからだ。

Blockbusterは危機に気づくのが遅く、「『米国の世帯の70%がBlockbusterの店舗から車で10分圏内に住んでいる』という同社の売り文句は、ユーザーが見たいタイトルを家から自由に選べるようになり意味をなさなくなった」と、2000年に専門家が指摘している。2003年にオンラインレンタルに進出した頃には、Netflixは誰もが認める存在へと成長。2010年、Blockbusterは破産を申請した。

しかし、映画ファンやフィジカル派のコレクターがDVDレンタル配送サービスの終了を惜しむ前に、Netflixのライブラリーの選択肢の少なさを思い出すべきだろう。 『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999年)のDVDを100本も準備しながらサイレント映画を1本も用意しなかったBlockbusterのように、Netflixのカタログの大部分は、ショッピングセンターのシネコンで公開されたような商業作品から集められている。とある専門家の試算によると、「現在Netflixが配信している映画は約3,800本で、Blockbusterが扱っていた映画の平均の半分以下。1990年以前に作られた映画で現在配信されているのは79タイトルだけで、1980年以前まで遡ると36本しかありません。」

結局、映画がデジタルのみの存在になるほど、作品のラインナップはマネタイズを意識する企業の手に委ねられる。NetflixのDVDレンタル配送サービスの終了の知らせは、フィジカル派のコレクターにとって、「近々eBayで中古DVDが大量に販売されるかも」という意味にしかならないのかもしれない。

※オリジナル記事はこちら

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