西島秀俊が語る国境を越える演技論――『ドライブ・マイ・カー』後に見据える次の挑戦|独占インタビュー

第38回東京国際映画祭 特別号
ハリウッド・リポーター・ジャパンでは、2025年度の第38回東京国際映画祭(TIFF)に合わせて発行した特別印刷誌にて、国際的評価を受ける俳優・西島秀俊に独占インタビューを行った。
世界が注目する俳優・西島秀俊が、映画を通して見つめる「国境」と「理解」。『ドライブ・マイ・カー』(2021)以降、国際的な現場で感じた変化と、日本映画への思いを本人が語った。
本インタビューでは、その言葉から“いま映画が果たす役割”を読み解く。

日本映画界を代表し、いまや国際的にも高い評価を受ける俳優・西島秀俊。長きにわたり日本映画・ドラマ界で確かな地位を築き、是枝裕和監督作や、ドラマ『MOZU』シリーズなどで幅広い役柄を演じてきた彼は、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』に出演し、作品とともに世界的な脚光を浴びた。同作が第94回アカデミー賞国際長編映画賞を受賞したことで、西島自身も国際映画界の注目を集め、以後さらなるステージへと歩みを進めている。
2023年には米国の大手エージェントCAAと契約し、海外での活動の可能性を広げた。以降は、日・米・台合作の『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』、Apple TV配信の『サニー』、湊かなえ原作による新ドラマ『人間標本』といった国際的な企画に立て続けに参加。多文化・多国籍の現場で挑戦を続け、言語や文化の壁を越えた表現の在り方を追求している。
今回のTIFF特別号インタビューでは、『ドライブ・マイ・カー』で得た経験や、国際的な現場で感じた気づき、日本映画への思い、そして俳優として大切にしている軸について、率直に語ってもらった。世界に向けて歩みを進める彼の言葉からは、映画を通じた国際理解の可能性、そして俳優としての新たな展望が浮かび上がってくる。
▼ 『ドライブ・マイ・カー』と世界的評価について
ーー映画『ドライブ・マイ・カー』が世界中で注目を集め、アカデミー賞国際長編映画賞を含む数々の映画賞を受賞しました。改めてこの経験をどのように振り返っていますか。
映画『ドライブ・マイ・カー』が、世界中の映画祭を旅したことで、僕自身も世界中の映画人の方々と知り合うことができました。それは本当にすばらしい経験でした。しかし、何よりもすばらしかったことは、『ドライブ・マイ・カー』の撮影そのものです。俳優としての人生の中でも、最も充実した時間のひとつだったと感じています。

ーー海外の観客や批評家からの反響で、特に印象に残っている言葉やできごとはありますか。
具体的な言葉や出来事については控えさせていただきますが、観客の皆さんがこの映画を“自分自身の物語”として受け止めてくださっていると感じたことが、深く印象に残っています。それは、作品が誰かの心に届いたという実感でもあり、僕にとって何よりも嬉しいことでした。
ーー作品を通じて「日本映画の可能性」について新たに感じたことはありましたか。
『ドライブ・マイ・カー』に限らず、近年の日本映画界では、すばらしい才能が次々と生まれていると強く感じています。そうした流れの中で、自分自身も俳優として新たな刺激を受けながら、作品に関わることができるのは本当に幸せなことだと思います。
▼ 海外進出とキャリアの広がり
ーー西島さんといえば、2023年にアメリカの大手エージェントCAA(クリエイティヴ・アーティスツ・エージェンシー)と契約したことがニュースになりました。ハリウッドや海外市場で活動することに対して、どのような期待や不安がありますか。
アメリカのエージェントCAAと契約して間口は広がりましたが、自分の中では本当に小さな一歩目が始まった感覚です。これまでと変わらず、企画をいただき、脚本を読み、監督と直接お話しする中で、互いに共鳴できるものを感じられたときに、その作品に参加させていただく──そんなプロセスを大切にしています。そうして経験を重ねることで、出演作を観てくださった方が国内外に広がり、また次の作品へとつながっていく。その循環の中で、間口が広がることは、新たな挑戦への扉が開くという意味でも、僕にとって期待でもあり、喜びでもあります。
ーー引き続き日本の作品にも出演されていますが、日本映画・ドラマに関わり続けたいと思う理由は何ですか。
日本の映画には、世界でも類を見ないほどの多様性と独創性があると感じています。新しい視点や物語が生まれていることに、僕自身も刺激を受けています。これからも、そんな日本のすばらしい作品に携わりながら、表現者として常に挑戦していけたらと願っています。

▼ 新作映画『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』
ーー最新作『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』は、日×台×米の合作で、ニューヨークで撮影されたとのことですが、現場の雰囲気はいかがでしたか。

現場の雰囲気は本当にすばらしく、心地よい緊張感と集中が共存していました。
撮影前は、多国籍のチームということで、積極的にコミュニケーションをとり、互いを理解し合う努力が必要だと思っていました。
けれども、いざ撮影が始まると、皆がそれぞれの役割に真摯に向き合い、自然と一体感が生まれていました。
映画づくりそのものが、言語や文化を越えて共有できる“共通の言語”のようなものであり、すばらしい作品を生み出すために人が結束する場になるーーそのことを改めて実感する貴重な経験となりました。
ーー撮影は多国籍のチームで行われたとお聞きしました。日本の現場と比べてどのような違いを感じましたか。
確かに、言語が異なることで、意思疎通には時間がかかる場面もありました。
けれども、互いに母国語ではない英語でコミュニケーションを取ることで、言葉が拙くても「きちんと伝えたい」「しっかり受け止めたい」という姿勢が生まれ、より深く相手を理解しようとする姿勢が高まっていたように思います。
互いへの尊敬と信頼が育まれ、この作品を作り上げたいという共通の目的に向かい、協力し合えるすばらしいチームでした。
ーー台湾の女優グイ・ルンメイさんとの共演もありましたが、文化や言語を越えた交流の中で印象的だったことはありますか。
グイ・ルンメイさんは、本当にすばらしい俳優だと思います。
撮影期間中は常に役に深く向き合い、休みの日でさえも役づくりのための準備を惜しまず続けていらっしゃいました。また、演出には真摯に応えながらも、「演技だから」といって安易に一線を越えることは決してなく、誠実に役と向き合う姿勢に、心から敬意を抱きました。
ルンメイさんとご一緒したことで、自分自身の中にある理想の俳優像や演技への向き合い方を、改めて見つめ直すきっかけにもなりました。今回共演できたことに、心から感謝しています。
▼ Apple TVドラマ『サニー』
ーーApple TVドラマ『サニー』ではラシダ・ジョーンズと共演し、謎のロボット研究者を演じられました。この企画に惹かれたポイントは何でしたか。
日本を舞台にしたSF作品で、まったく異なる文化背景を持つ二人が出会い、恋に落ち、やがて家族となります。
しかし、ある不幸なできごとをきっかけに互いを疑うようになり、葛藤を抱えながらも、それを乗り越えていく──そんな愛の物語でした。
文化や価値観の違い、信頼の揺らぎ、そして再生への希望が描かれていて、とても心を惹かれました。
ーー日本で撮影されたとのことですが、国際的な配信作品を日本で作ることに、どのような意味を感じますか。

国際的な配信作品を日本で制作することは、日本の豊かな文化や風土を、物語を通して世界に届ける貴重な機会だと思います。
それによって、日本という国をより多くの方々に知っていただけるだけでなく、新たな可能性や出会いにもつながっていくかもしれません。
こうした取り組みは、今の時代において非常に意義のあることだと感じています。
▼ ドラマ『人間標本』
ーー12月19日から配信されるドラマ『人間標本』は湊かなえさん原作の話題作です。台本を読んだときの第一印象を教えていただけますか。
企画をいただいてすぐに原作を読み、ぜひ挑戦してみたいと思いました。その後、台本をいただいて改めてじっくり読み進める中で、この作品を実写化することの奥深さと難しさにも気づかされました。
』(クレジット:©2025-Amazon-Content-Services-LLC-or-its-Affiliates.)-1024x650.jpeg)
ーー演じる役柄の難しさや挑戦を感じた部分について教えていただけますか。
この作品は、視点が変わることで、「事実は何か」ということも変わっていきます。また、登場人物が実際に口にする言葉と、内面で抱えている思いが必ずしも一致していない──そうした複雑な心理や視点の変化が描かれているのが本作の魅力だと思います。
原作では、視点の移り変わりも自然に読み進められるのですが、ドラマでは、観客が後から別の事実を知ったときにも、冒頭の演技がその真実と矛盾しないように構築されていなければなりません。そのため、演じる際には常に「この瞬間、この人物は本当は何を思っていたのか」を突き詰めて考え続ける必要があり、「表に見える感情」と「心の奥にある思い」の整合性を保つことが、非常に難しくもあり、またやりがいのある挑戦でした。
ーー湊かなえさん作品ならではの“人間描写の深さ”を、演じ手としてどのように受け止めましたか。
湊かなえ先生が描かれる「人間の業」の深さには、読むたびに圧倒されるものがあります。
その複雑で繊細な感情を演じることは、俳優として本当に難しく、簡単には踏み込めない領域だと感じていました。
だからこそ、この作品に挑戦させていただけたことを、心から感謝しています。

今後の展望と挑戦
ーー今後挑戦してみたいジャンルや役柄はありますか。
これからも、ジャンルを問わずさまざまな作品に挑戦していきたいと思っていますが、もし一つ挙げるとすれば、サイエンス・フィクションにぜひ挑戦してみたいという気持ちがあります。
SFには、現実とは異なる世界観や時間軸の中で、人間の本質や感情を描くことができるという魅力があり、まだ見たことのない映画の可能性が広がっていると感じています。
俳優としても、そこに身を置くことで、新たな表現の扉が開けるのではないかと期待しています。
ーー海外の監督や俳優とのコラボレーションで「一緒に仕事してみたい人」はいますか?
ご一緒したい監督や俳優の方々は本当にたくさんいらっしゃって、一人ひとり挙げきれなほどです。
国内外を問わず、すばらしい才能と情熱を持った方々と出会い、共に作品をつくり上げていくことができたら、それは何よりも幸せなことだと思っています。
そうした出会いの中で、自分自身も新たな挑戦を重ねていけたらと願っています。

ーー長いキャリアの中で、今だからこそ表現できると感じている役やテーマはありますか。
表現できているかどうかはわかりませんが、人生や世界を理解した上での虚無や絶望、そしてそこからの再生というテーマに関心があります。現実の世界では、乗り越えることがむずかしい壁も、映画の中ではキャラクターを通して向き合い、乗り越えていくことができる。
そういった表現ができたらと思っています。
ーー日本と海外を行き来しながら活動する中で、ご自身が大切にしている俳優としての軸は何でしょうか。
僕は、国も年齢も性別も超えて、人は人と共感できるものだと思っています。世界中の映画に触れるたびに、文化や言語が異なっていても、登場人物の感情や物語に心を動かされる瞬間があり、それが映画の力だと感じています。
そして、すばらしい演技には、国境だけでなく、価値観や環境の違いさえも越えて、観客の皆さんに感動を伝える力があると思っています。そんな表現に少しでも近づけるよう、これからも真摯に役と向き合っていきたいと考えています。
ーー最後にハリウッド・リポーター・ジャパンの読者へメッセージをお願いします。
ハリウッド・リポーター・ジャパンの読者の皆さま、俳優の西島秀俊です。今回は、第38回東京国際映画祭特別号だと伺いました。この映画祭には、世界中からすばらしい映画がたくさん日本へやってきます。映画には、言葉や文化を越えて心を動かす力があります。ぜひ、この機会に多彩な映画の世界を堪能していただければと思います。
僕自身も、皆さまの心に残る作品づくりに携われるよう、これからも一層努力を重ねてまいります。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
【2025年公開・配信作 作品情報】
映画『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』

ストーリー: ニューヨークの片隅で暮らす日本人助教授の賢治と台湾系アメリカ人の妻ジェーン。幼い息子カイを育てながら、それぞれの夢と現実の狭間で葛藤する日々を送っていた。ある日、ストアに強盗が押し入り、さらにカイが突如行方不明に。誘拐事件をきっかけに、互いに封印していた「秘密」が明るみに出て、夫婦は断崖絶壁に立たされる。全編ニューヨークロケ、台詞の90%以上が英語という新たな挑戦の中で描かれる、緊迫のヒューマン・サスペンス。
キャスト・スタッフ: 西島秀俊、グイ・ルンメイ ほか
監督・脚本: 真利子哲也
製作: 日本・台湾・アメリカ合作
ドラマシリーズ『人間標本』

ストーリー: 蝶の研究者である榊史朗教授が、息子・至を含む6人の少年たちを「人間標本」にしたと衝撃の告白をする。物語は、史朗の幼馴染で”色彩の魔術師”と呼ばれる有名画家・一之瀬留美が、史朗と6人の少年たちを山小屋に集めたことから展開する。蝶に魅せられた榊史朗は、なぜ息子を含む少年たちを「人間標本」にしたのか。その狂気の犯行の真相は、複数の視点によって新たな真実へと姿を変えていく。耽美と狂気の世界観が融合した、禁断の極上ミステリーサスペンス。
キャスト・スタッフ: 西島秀俊、市川染五郎、宮沢りえ、伊東蒼 ほか
監督: 廣木隆一
原作: 湊かなえ「人間標本」(KADOKAWA)
製作: Amazon MGM スタジオ
配信: 2025年12月19日(金)より Prime Videoにて独占配信開始(全5話・一挙配信)
【プロフィール】
西島秀俊(にしじま・ひでとし)
日本を代表する俳優。1992年に本格デビュー以降、映画、テレビドラマ、舞台と幅広く活躍し、30年以上のキャリアを持つ。
出演作品:
- 『ニンゲン合格』(1999/黒沢清監督)
- 『Dolls ドールズ』(2002/北野武監督)
- 『CUT』(2011/アミール・ナデリ監督)
- 『ドライブ・マイ・カー』(2021/濱口竜介監督)- 米アカデミー賞国際長編映画賞受賞作品。全米映画批評家協会賞主演男優賞など多数受賞
- 『首』(2023/北野武監督)
- 『スオミの話をしよう』(2024/三谷幸喜監督)
- 『サニー』(2024/AppleTV+、A24制作)他
受賞歴: 数々の映画賞を受賞。特に『ドライブ・マイ・カー』での演技は国際的に高く評価され、全米映画批評家協会賞主演男優賞をはじめ、世界各国の映画賞を受賞。
インタビュー・編集 山咲こむぎ
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