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【インタビュー】『落下音』マーシャ・シリンスキ監督が表現した、世代を越えて受け継がれるトラウマ

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『落下音』マーシャ・シリンスキ監督インタビュー
『落下音』 マーシャ・シリンスキ監督 写真: (c) Fabian Gamper
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4つの異なる時代を生きる4人の少女たちが、同じ土地で体験する不可解な出来事を描く、百年にわたる怪奇譚『落下音』が、4月3日(金)より全国公開される。

本作を手がけたのはドイツ出身の新鋭、マーシャ・シリンスキ監督。第78回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で審査員賞を受賞し、アカデミー賞ドイツ代表に選出されるなど、いま世界が注目する異才だ。

本作は、百年の時を経て響き合う少女たちの不安を描いた映像叙事詩。1910年代のアルマ、40年代のエリカ、80年代のアンゲリカ、そして現代のレンカ。彼女たちが目撃したものとは、いったい何だったのか。世界がまだ名前を与えていない不安が、北ドイツの農場を静かに覆いつくしていく。

今回、ハリウッド・リポーター・ジャパンは、マーシャ・シリンスキ監督にインタビューを実施した。

「時代を越えて身体に刻み込まれる感情や思いを映画にできないだろうか」という監督の問いが原点となった本作。制作に向けリサーチをしていく中で強く惹かれたのは、語られることのなかった女性たちの隠された声だった。

歴史資料に残されていない女性たちの痛みや感情は、どのように世代を越えたトラウマとして、私たちの身体に受け継がれていくのか。この目に見えない継承をどのように映像へと昇華させたのか、マーシャ・シリンスキ監督に話を訊いた。

『落下音』マーシャ・シリンスキ監督インタビュー
『落下音』4月3日㈮新宿ピカデリーほか全国ロードショー 写真: ©︎Fabian Gamper-Studio Zentral 配給:NOROSHI ギャガ

太陽を見る痛み、死を見る痛み

――邦題『落下音』と同じ意味である英題は『SOUND OF FALLING』ですが、ドイツ語のタイトルは『In die Sonne schauen(太陽を見る』です。それぞれタイトルに込めた思いを聞かせてください。

監督: 当初は『The doctor said I’ll be all right, but I feel blue(お医者さんは大丈夫だと言ってるけど、私の気持ちはブルーだ)』というタイトルでした。でも長すぎて覚えにくいこと、そしてカンヌ国際映画祭コンペティション部⾨へ出品が決まったこともあり、新しいタイトルを検討することになったのです。

最初に決まった英題SOUND OF FALLING(落下音)はオリジナルのタイトルにあたります。その後にドイツ語のタイトルを作ることになったのですが、「SOUND」に相当する適切なドイツ語がありませんでした。「Geräusch」という言葉がありますが、どちらかというとノイズという意味に近くなってしまいます。

悩んでいたときにインスピレーションをくれたのが、本作で登場人物が目を閉じて太陽を見るシーンでした。目を閉じて太陽を見ると、まぶたの裏で光がオレンジ色にゆらぐイメージが湧きますよね。太陽を直接見ることはできない、見るには痛みを伴う。それと同じように死を直接見ることも痛みを伴う。そのような連想から、ドイツ語のタイトル『In die Sonne schauen(太陽を見る)』が決まりました。

『落下音』マーシャ・シリンスキ監督インタビュー
『落下音』4月3日㈮新宿ピカデリーほか全国ロードショー 写真: ©︎Fabian Gamper-Studio Zentral 配給:NOROSHI ギャガ

「世代を越えて受け継がれるトラウマ」を視覚化する場所との出会い

――舞台となったドイツのアルトマルク地方に滞在したことが、本作の構想のきっかけになったそうですね。日本語で「土地に呼ばれる」という言い方がありますが、アルトマルクを滞在場所に選んだのはどういった理由があったのでしょうか。

監督:共同脚本家のルイーズ・ピーターと、「時代を越えて身体に刻み込まれる何らかの感情や思いを映画にできないか」と長年考えてきました。世代を越えて受け継がれるトラウマという、目に見えないテーマをどのように映画にすべきかずっと答えを見出せずにいたのです。

舞台となった村は2018年から何度か訪れており、以前から知っている場所でした。そこに四面を建物で囲まれた、谷間のような農場がありました。コロナ禍にアルトマルクへ行ったとき、数十年間空き家だったこの建物に長期で滞在することになったのです。そこで、「この場所が私たちが描こうとしていたことを受け止めてくれる入れ物になるのでは」という思いが湧き上がり、構想が動き出します。

『落下音』マーシャ・シリンスキ監督インタビュー
『落下音』4月3日㈮新宿ピカデリーほか全国ロードショー 写真: ©︎Fabian Gamper-Studio Zentral 配給:NOROSHI ギャガ

――アルトマルクで滞在した建物は、監督と個人的な繋がりはなかったのでしょうか。

監督:私の出身地でも育った場所でもなく、個人的な繋がりはありません。共同脚本家のルイーズ・ピーターも同じです。

アルトマルクの建物が映画の出発点になったわけではなく、他のどの場所であっても誕生しうる作品だと思っています。たまたまアルトマルクが旧東ドイツだったので、歴史的に結びついているトラウマは当然あったでしょう。しかし、建物そのものが決定要因ではありません。それよりも私が強く興味を持ったのは、人物の内面世界でした。

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『落下音』4月3日㈮新宿ピカデリーほか全国ロードショー 写真: ©︎Fabian Gamper-Studio Zentral 配給:NOROSHI ギャガ

「漠然とした不安はどこから来るのか」身体に刻み込まれた記憶に迫る

――写真家フランチェスカ・ウッドマンの写真から大きなインスピレーションを受けたそうですね。 4つの時代に生きた女性をそれぞれ描くという物語は、どの段階で決まったのでしょうか。土地の記憶に基づくイメージから脚本を作成したのか、それとも4人の女性を主人公にすると決めてから世界観を構築していったのでしょうか。

監督:本作で何よりも取り上げたかったのは、自分たちの中にある漠然とした不安、恐れを抱くという気持ちです。その感情がどこから来るのか分からないけれど、常に抱えている不安を描きたかったのです。すべて上手くいっているように見えても、決して消えないこの不安はどこから来るのだろうかと。

そこで私たちは、時代を通して身体に刻み込まれた感情や感覚を探っていきました。どうやらそれらは受け継がれているのは分かってきましたが、実際に体験した女性たちのことは分かりませんでした。なぜなら、きちんと語られてこなかったからです。その経験や感情の多くは強い恥と結びついていたため、女性たちは最期を迎えるまで語ることがなかったのです。

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『落下音』4月3日㈮新宿ピカデリーほか全国ロードショー 写真: ©︎Fabian Gamper-Studio Zentral 配給:NOROSHI ギャガ

次に、目に見えない感情や感覚をどのように映画に落とし込むかを考えました。そこで辿り着いたのが、あのアルトマルクの建物を舞台にすることです。あの場所なら、私たちが描きたい感情を表現できるという思いに至ります。

建物にいるとき、私たちはタバコを吸ったり、何気ない会話をして過ごします。しかし、そんな日常を過ごしているその場所で、かつて誰かが自分の存在を揺るがす経験をしたかもしれない。そうした日常と過去を組み合わせることで、作品に緊張感が生まれると考えたのです。

『落下音』マーシャ・シリンスキ監督インタビュー
『落下音』4月3日㈮新宿ピカデリーほか全国ロードショー 写真: ©︎Fabian Gamper-Studio Zentral 配給:NOROSHI ギャガ

子どもの頃からの問い「過去の思考や感情はどこに行ってしまうのだろう」

「いま自分がいる場所に昔は誰がいたのか」という問いは、子どもの頃からずっと抱き続けてきました。ベルリンにある戦前に作られた家で育ったのですが、小さい頃から「私が今座っているこの場所に、昔はどんな人が座っていたのだろう。その人は何を考えていたんだろう。そのときの思考や考えはどこに行ってしまったんだろう」と思いを馳せてきました。

本作は、私自身の思い出や記憶を扱いながら、そういった様々な記憶、感情、思いを大きな意識の流れとして描こうと試みました。かつてその場所に暮らしたすべての人々が、時を越えて同時に記憶を共有して夢を見る。そんな意識の流れを映画として捉えたかったのです。

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『落下音』4月3日㈮新宿ピカデリーほか全国ロードショー 写真: ©︎Fabian Gamper-Studio Zentral 配給:NOROSHI ギャガ

語られてこなかった女性たちの声に、光をあてる理由

そしてリサーチを重ねる中で、次第に登場人物である4人の女性の視点を通すことにフォーカスが当たっていきました。当初は男性の登場人物を考えていましたが、リサーチを続ける内に、多くの女性が人知れず抱えてきた秘密や、彼女たちを取り巻く過酷な現実が分かってきます。

こうした女性たちの物語は、歴史の中で表に出てきません。せいぜい余白にちょっと書き込まれるぐらいで済まされてしまう。だからこそ、語られなかった余白を中心にしようと決めました。そして4つの世代に振り分けることで、物語の形が出来上がっていったのです。

『落下音』マーシャ・シリンスキ監督インタビュー
『落下音』4月3日㈮新宿ピカデリーほか全国ロードショー 写真: ©︎Fabian Gamper-Studio Zentral 配給:NOROSHI ギャガ

制作面では、まず舞台となる建物がいつから存在したのかを調べました。建物ができてから10年住んだとすると、1914年で第一次世界大戦の時代だと判明します。

次に、そこから2世代ほど遡ったら何が見えるのかを探ろうと試みました。2世代前となれば自分たちと直接的な接点はありません。直接知らなくても、彼女たちの何が私たちの体の中に受け継がれているのだろうかを考え、2世代おきに区切った結果、1910年代、40年代、80年代、そして現代という4つの世代を描く構成になったのです。

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『落下音』4月3日㈮新宿ピカデリーほか全国ロードショー 写真: ©︎Fabian Gampe 配給:NOROSHI ギャガ

シリンスキ監督が問いかける記憶の本質「言葉は消えても感情は残り続ける」

――監督が仰った「記憶の機能にとってセリフは必ずしも本質的ではない」という言葉がとても印象的でした。本作はセリフが少ないですが、監督にとって映画の持つ力とは何でしょうか。

監督:私はあるときから自分や他人が語った言葉は、正確には思い出せないと考えています。もちろん例外はありますが、ある時点で正確な言葉は思い出せない。でも感覚だけは思い出せる。例えば、ある場所に行ったときの気持ち、あるいは誰かと会ったときの感覚はずっと残るものだと思っています。

『落下音』マーシャ・シリンスキ監督インタビュー
『落下音』4月3日㈮新宿ピカデリーほか全国ロードショー 写真: ©︎Fabian Gamper-Studio Zentral 配給:NOROSHI ギャガ

脚本を執筆する中で、自然と対話が少ない映画になっていきました。様々な記憶を呼び覚ますところから脚本を書いたので、感覚が重要な要素になったのです。その場所にいた誰もが抱いた感覚や感情、名前のつかないもの、他人や自分からも消し去りたい感情かもしれません。私はそうした部分に強く惹かれました。

そして私たちの誰しもが自分の体に囚われ、自分の目を通して物事を見ています。しかし過去のある場面を思い出すとき、外側からその光景を眺めます。それは、実際にはそうではなかったイメージを、自分の記憶として思い出す行為ではないでしょうか。

そういう意味では、記憶はどこまで当てにならないものだと考えています。一方で、感覚や感情は形を変えずにずっと残り続けるのです。

『落下音』作品情報

『落下音』マーシャ・シリンスキ監督インタビュー
『落下音』4月3日㈮新宿ピカデリーほか全国ロードショー 写真: ©︎Fabian Gamper-Studio Zentral 配給:NOROSHI ギャガ

<STORY>
1910年代、アルマは同じ村で、自分と同じ名を持つ幼くして死んだ少女の気配に気づく。1940年代、戦争の傷跡が残る中、エリカは片足を失った叔父への抑えきれない欲望に気づき、自らの得体のしれない影に戸惑う。1980年代、アンゲリカは常に肌にまとわりつく“何か”の視線に怯えていた。そして現代、家族と共に移り住んだレンカは、自分の存在が消えてしまいそうな孤独感に徐々に侵食されていく。百年の時を経て響き合う彼女たちの<不安>が、この北ドイツの農場を静かに覆いつくしていく。

監督・脚本:マーシャ・シリンスキ
出演:ハンナ・ヘクト、レア・ドリンダ、レーナ・ウルツェンドフスキー、レーニ・ガイゼラー
英題:SOUND OF FALLING2025年|ドイツ|カラー|ビスタ|5.1ch|155分|
字幕翻訳:吉川美奈子|PG-12
公式HP:https://gaga.ne.jp/rakkaon_NOROSHI/

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