追悼デヴィッド・リンチ:ロサンゼルスの闇の桂冠詩人【寄稿】

故デヴィッド・リンチ監督 写真: Vittorio Zunino Celotto/Getty Images
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デヴィッド・リンチの訃報を知ったのは、まさにリンチ的な状況においてだった。それは、陪審員の義務を果たしていた時のことである。ロサンゼルスにある刑事司法機関のカフカを思わせる冷たい廊下で待機していた時、同じく陪審員候補の一人から知らされた。その瞬間、無表情の執行官たちや一瞬たりとも目を離さない検察官たちが、まるで『ツイン・ピークス』や『ロスト・ハイウェイ』の一場面に引き込まれたかのように、微かな不気味さを帯びて見えてきた。判事が目撃証言をどのように評価するかと尋ねた時、証拠提示における構図の力や、記憶の本質的な不確実性について言及せずにはいられなかった。判事は、私を諭した。「これは現実であって、テレビ番組ではないことをご理解いただけますか?」私はすぐに陪審員から外された。

リンチの芸術や、彼が世界に遺した独特の「リンチ的」という概念への賛辞を読むと、多くの人々が彼をシュルレアリスムの巨匠と愛情を込めて呼んでいる。アヴァンギャルドの比類なき君主である。デヴィッド・フォスター・ウォレスの言葉を借りれば、「アシッドを決めたジミー・スチュワート」。これは否定しがたい。しかしリンチは、映画製作の最前線にいる私たちの多くにとって真の芸術的英雄であった。その妥協を許さないビジョンは、ハリウッドを最も低俗な商業的本能から救済しかねないものであったため、彼の芸術の本質的な一面を忘れないでほしい。

彼はまた、リアリズムの巨匠でもあったのである。

確かに、彼の作品群には『エレファント・マン』や『ストレイト・ストーリー』といった比較的親しみやすい傑作もある。しかし、それは私が言いたいことではない。実際、リンチは一度『ストレイト・ストーリー』を「私の最も実験的な映画」と巧みに言及したことがある。彼のジョークは全て、本気で言っているから面白いのだ。彼の最も謎めいた、最も曖昧な大作でさえ、否定しがたい真実の味わいを帯びている。そして彼の最も称賛された傑作『マルホランド・ドライブ』の夢のような魔力は、LAでの生活の感情的な真実を明確に捉えているからこそ、人々を魅了するのである。

長年のLAの住民なら誰でも言うだろう。深夜1時に霧のかかったマルホランド・ドライブのカーブを走る時の感覚、素晴らしい映画の後にグーギー様式のダイナーで美味しいチェリーパイと共にブラックコーヒーを啜る時の感覚、あるいはサンタアナの風が忘れられた新聞を コンクリートの谷間を越えて巻き上げる中、アーツ・ディストリクトのポスト・インダストリアルな建造物の下を歩く時の感覚、それこそがリンチ的なものなのだと。確かに、無慈悲にも近隣地域全体を飲み込んだ凄まじい火災から立ち直る中で、リンチはこの日が必ず来ることを予言していた預言者のように思えた。まるで、予言が成就したとたん、預言者は超越する準備ができていたかのようである。

しかし、ここで私の誇張表現が、再びリンチのLAの現実を見る鋭い目を覆い隠しそうになる。彼は、この街が気づかなかった桂冠詩人だった。私たちがそれに気づかなかったのは、彼の象徴的な口調がここでは完璧に背景に溶け込んでいたからだ。コロナ禍の間にラジオ番組KCRWで天気予報を伝えていた時も、『インランド・エンパイア』におけるローラ・ダーンの素晴らしい演技を推すためにハリウッド通りで牛と共に座っていた時も、あるいは即興のQ&Aのためにニュー・ビバリーに立ち寄った時も。

デヴィッド・リンチはこの街を愛していた。彼はここで育ったわけではないが、移民だけができるように、この街をありのままに見ていた。そしてその真実は、彼がここで撮影した全てのフレームに感じることができる。彼は街の美しさの現実、いつ何時でも人を飲み込みそうになる本物の崇高さの一片を捉えた。確かに、時にそれは恐怖と不安、喪失と苦痛、そしてあなたの存在を辛うじて許容するだけの理解不能な宇宙の圧倒的な眩暈を意味する。その宇宙は、容赦のない炎で至高の偶然性を思い出させるのだ。

しかし、そこには光がある。リンチの映画やシリーズを見返すと、夢のような旅の重要な瞬間に必ず「白い光」が現れることに気づく。それは、LAに住む私たち全てが良く知る白い光だ。映画館や煙の立ち込める酒場、窓のない裁判所、あるいは暗い恐怖に耐えたどんな場所からでも、外に出ると青い空と新しい一日の光が再び見つかる。それは、映画産業がここに集まるきっかけとなった南カリフォルニアの光であり、この街がいかに美しく、ここに住めることがいかに有り難いことかを永遠に思い出させてくれる光なのである。

それこそが、デヴィッド・リンチの映画が鮮烈なリアリズムで捉えたLAの感覚である。それは今、LAが以前にも増して必要としている感覚なのだ。

■筆者:ジョン・ロペス
ロサンゼルス生まれ。ドラマ『運命の7秒』、『地球に落ちてきた男』、『ターミナル・リスト』などの脚本を手がけた。また、映画『ギリシャに消えた嘘』のアソシエイト・プロデューサーを務め、デヴィッド・リンチ監督作『ロスト・ハイウェイ』のプロデューサー、トム・スタンバーグのアシスタントとして長年働いた経験を持つ。

※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。編集/和田 萌

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