『リロ&スティッチ』成功の背後にみる「エモさ」の力

つい先日明らかになった先週末の米国映画興行収入ランキングは衝撃の結果となった。なんと青い犬のようなエイリアンと6歳の少女を描いた物語が1億8千270万ドルもの初動興行収入を収め、トム・クルーズの『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』を破ったのだ。(因みにこの数字は2022年に公開された同じくクルーズ主演作のヒット作『トップガン マーヴェリック』をも上回る。)
戦没将兵追悼記念日(メモリアルデー)を前にした週末に、ファミリー向けの映画が好成績を収めるというのは特に驚くべきことではないだろう。同じカテゴリーの『マインクラフト/ザ・ムービー』が(米国では)公開から2ヶ月を迎えた節目の時期とあっては尚更だ。とはいえ、それほど多くの人々から期待を集めたいたわけではない、言ってしまえばディズニーの実写映画としては「C級」の『リロ&スティッチ』がここまでのパフォーマンスを見せるとは誰が予想しただろうか。
この背景にある原動力がいわゆる「ミレニアル世代」と「Z世代」(合わせて「ジレニアル世代」と呼ばれる)だ。彼らはアニメ版『リロ&スティッチ』が公開された2002年(日本では2003年)当時、ちょうどリアルタイムで同作を鑑賞した世代の子供だった。この記事を読んでいる20代前後の読者でも同作の名前を耳にして「エモい」(懐かしい)と感じた人は決して少なくないであろう。
とはいえ、同作が2002年当時にとりわけヒットしたかといえばそうでもない。というのも当時のウォルト・ディズニー映画は「暗黒時代」を迎えており、『リロ&スティッチ』や同時期に公開された『アトランティス/失われた帝国』(2001)は当時競合していたピクサーの『モンスターズ・インク』(2001)や『ファインディング・ニモ』(2003)に話題を持って行かれる形となっていた。
しかしながらディズニーは劇場の外におけるマーケティング戦略で『リロ&スティッチ』を浸透させることに成功した。なんでも同社は『リロ&スティッチ』公開後、相次ぐホームビデオ版(VHSとDVD)の発売や度重なるTVアニメシリーズ放送などといった驚くほど粘り強いマーケティングを展開したという。
そのおかげもあってか、米PostTrak社の調査によれば『リロ&スティッチ』を鑑賞した44%を占める家族連れ以外の層のうち、65%が18歳から34歳という驚きの結果となった。
ストリーミングが普及した時代とあっては意外かもしれないが、アメリカの若者は依然として子供時代からの習慣で話題になっているTV番組や映画を見続けているのだ。そのため、依然として共通の「話題作」というものが生まれやすい環境が依然として残っている。
ちなみに『リロ&スティッチ』に「エモさ」を感じているのは観客ではない。米『ハリウッドリポーター』が40代のディズニー関係者に聞いた話によれば、社内会議にて同作の制作が決定した瞬間、20代後半から30代の若手幹部たちは大喜びだったのだとか。
映画がこうして懐かしさに訴えかける戦略は何も新しいものではない。しかし、今やアメリカ国内で最大の集団となった「ジレニアル世代」の「エモさ」を喚起することを図ったディズニーは良いところに目をつけたと言えるのではなかろうか。
ディズニーは今夏、『リロ&スティッチ』と同時期に公開されたリンジー・ローハン主演の『フォーチュン・クッキー』の続編(原題:Freakier Friday)を公開することも明らかとなっている。同社の「ジレニアル」戦略は今後の映画界を占うトレンドとなるのだろうか。
※本記事は要約抄訳です。オリジナル記事(英語)はこちら
【関連記事】
- 実写版『リロ&スティッチ』、米国興収予測は1億6500万ドル ― メモリアルデー連休の注目作
- 実写版『リロ&スティッチ』と『ミッション:インポッシブル』が記録的な興行収入へ
- 6月6日公開!実写版『リロ&スティッチ』をもっと楽しむアイテム12選
- 【ディズニープラス】2025年6月の配信作品:『M:I』シリーズ6作品、マーベル新作ドラマ『アイアンハート』ほか
- トム・クルーズの衝撃スタント13連発!ビルジャンプ、スピードフライング…『M:I』シリーズ最新作も