マーベル新時代へ─ケヴィン・ファイギが語るMCUの未来図

マーベル本社の秘密部屋に隠された「7年計画」
マーベル・スタジオらしさを表す階(等身大のアイアンマン像、スーパーヒーローの壁画、映画の小道具であふれている)にある、何の変哲もない会議室には、南京錠で施錠された扉がある。
その扉の向こうには、今後7年間にわたるマーベル映画の計画が書かれたホワイトボードが存在する。
これは、ハリウッド史上最も成功した映画シリーズを手がけたプロデューサー、マーベル・スタジオ社長ケヴィン・ファイギが、一部の選ばれた記者たちをその部屋に迎え入れた際に明かした内容である。
そこは、彼が初めて『ドクター・ストレンジ』(2016年)の主演ベネディクト・カンバーバッチと会った場所であり、映画監督クロエ・ジャオが『エターナルズ』(2021年)の構想を語った場所でもある。
スーパーヒーロー疲れは幻想?ファイギの真意
マーベルの快進撃は、近年とくに今年に入って試練を迎えている。『サンダーボルツ*』や『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』は、同社作品の中でも興行収入がとくに低い部類に入っている。
しかしケヴィン・ファイギは、いわゆる「スーパーヒーロー疲れ」という理論には興味がなく、それを現実のものだとは考えていない。彼は、少なくともアメリカ国内では興行的に好調なDCスタジオの『スーパーマン』を例に挙げた。
ファイギは、映画監督ジェームズ・ガンに「どれほど気に入ったか」を伝えるメッセージを送ったと語った。
「君が(映画で)いきなり本題に入るのがすごく気に入った」
この映画は、ジェームズ・ガンがマーベルで『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014、2017、2023年)3作を監督した後にDCスタジオの共同責任者となり、そこで手がけた作品である。
「“ミスター・テリフィックって誰?”知らなくてもいい。自分で理解すればいい。“これは何なんだ?”そんなの関係ない、とにかく進め。これは完全に作り込まれた世界なんだ」
『アベンジャーズ/エンドゲーム』以降の反省と次の一手
スーパーヒーロー疲れの考えには同意していないものの、ファイギとそのチームは、今年の興行不振作品について、また『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)という大成功以降の全作品について、数多くの反省と分析を行っている。
現在、マーベル・スタジオは最新作『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』の7月25日公開に向けて準備を進めている。
これは、マーベル・スタジオが初めてファンタスティック4のキャラクターを手がける作品である。以前は、クオリティや興行収入にばらつきのある3本の映画が、2019年にディズニーに買収される前の20世紀フォックスによって製作されていた。
また、1994年には、低予算映画の王者ロジャー・コーマンが製作した劇場未公開の作品も存在する(ちなみに豆知識として、その映画に出演した4人の俳優は『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』にカメオ出演している)。
ファイギが語った“これからのマーベル”
ファイギがとくに楽しんでいるように見えたのは、この新作映画がほぼ自己完結型であり、完全に作り込まれた世界観の中で展開され、「予習」という忌まわしい言葉を必要としない点である。
「『エターナルズ』で起きた問題、“彼らはどこにいたのか?なぜサノスと戦わなかったのか?”そういうのは避けたかった」と彼は説明した。「我々の現実世界とは切り離された存在にしたかった。そうすれば“彼らはここに隠れていました”なんて言わずに済むからだ」
また、1960年代の美学を強調したのは、単なる時代設定の選択ではなかった。
「それは、まったく独自の世界、独自の現実として感じられる、ユニークな美学だった」とファイギは語った。「試写会の段階で観客に見せたとき、彼らは最初からすんなりと受け入れてくれて、“これからの展開をただ楽しんでいいんだ”という自由さを感じていた」
彼は強調した。「予習は一切不要だ」
ファンタスティック4の青いパーカーとワンダーマンのキャップを身につけたファイギは、記者たちとの自由な対話のなかで、『ブレイド』の進捗、マーベルにおける自身の将来、そしてジョナサン・メジャースのMCUからの降板に至るまで、さまざまな話題について率直に語った。
以下は米『ハリウッド・リポーター』が取材で得た情報である。
マーベルがあまりにも多くの映画やドラマを作りすぎたことを自覚している
2008年の『アイアンマン』から2019年の『アベンジャーズ/エンドゲーム』までの間に、マーベルが制作した映像作品の合計時間はおよそ50時間であった。
しかし『アベンジャーズ/エンドゲーム』以降の6年間で、その数字は驚くべきことに102時間にまで跳ね上がった。アニメ作品を含めれば、127時間にも達する。
「それは多すぎた」とファイギは認めた。
彼は『アベンジャーズ/エンドゲーム』以降の時期を、「実験」「進化」、そして残念ながら「拡大」の時代であったと位置づけている。
『ワンダヴィジョン』(2021年)や『ロキ』(2021~2023年)といったTVシリーズを例に挙げて、実験性そのものには誇りを感じているとしながらも、同時に「価値を下げたのは、間違いなく“拡大”だ」と認めている。
成功による高揚感もまた、マーベルがより多くの作品を提供しようとする決断を後押しした可能性がある。その頃、ディズニーをはじめとするハリウッド全体が「ストリーミング戦争」に突入していた。
「会社としての大きな推進があったし、我々も『ミズ・マーベルをずっと求められてきた?じゃあやろう!』『オスカー・アイザックが“ムーンナイト”をやりたい?よし、やろう!』みたいなノリだった」とファイギは振り返る。
「我々は(ストリーミング戦争という)大きな方針の真っただ中に置かれていたが、それでもこれらの作品に命を吹き込んでいくのは楽しいと思ったんだ」
現在、マーベルは映画や番組の制作数をすでに大幅に抑えている。
ある年には映画が1本しか公開されない可能性すらある。TV番組も、ある年は1作品のみに絞られる年が出てくることは確実だ。
また、映画製作の予算についても「削減の真っ最中」であり、2022年や2023年の作品と比べて、製作費が最大で3分の1ほど安くなっているという。
『サンダーボルツ*』が失敗した理由
テレビシリーズへの大規模な展開、そしてDisney+への注力により、「マーベル作品を観ること」が一種の“予習”のように感じられるようになってしまった。
「“拡大”こそが、人々にこう思わせた原因だと私は考えている。『全部観ないといけないの? 昔は楽しかったのに、今は全部のキャラクターのことを把握してないとダメなの?』と。
この影響が最も強く出たのが『マーベルズ』(2023年)で、人々は『ああ、彼女は10億ドル稼いだ映画で見たことある。でも、他の2人は誰? TVシリーズに出てたのかな?じゃあ観なくていいか』となったのだと思う」
この傾向は『サンダーボルツ*』にも影響した。本作には、これまで異なるプラットフォームで登場してきたキャラクターたちが出演しており、なかにはテレビシリーズにしか出ていなかったキャラも含まれていた。
「“このキャラを理解するには他のシリーズも観ないといけないのかな”という感覚が、観客の中にまだ残っていたのだと思う」とファイギは説明する。
「実際に映画を観れば、そうではないことがわかるし、我々はそうならないように映画を作っている。しかし、それでも観客にきちんと伝わるようにしなければならないと思う」
ファイギ、少なくとも今のところはマーベルにとどまる
ハリウッドの重役が同じ地位に長く留まり続けることはない。トップの交代であれ、映画の不振であれ、変化は避けられない。後継者問題はディズニーにおいても、そしてハリウッド全体においても、重要なテーマとなっている。
ファイギは、自身がどのくらい長くマーベルにいるつもりなのかについて、やや慎重な姿勢を見せた。
そして静かに、「あと2年、それより少し短いくらい。契約が残っている」と認めた。
それでもファイギの願いは、「できる限り多くの観客に向けた、大きな映画を作り続けること」
「10年後、15年後も、大きな観客に向けた大作映画を作っていたいか?もちろんだ。自分がやりたいことはそれだけだ」とファイギは語った。
「マーベルは、今の自分にとってそれを実現できる最高の手段だ。でも、自分はこれからもずっと、大勢の人のために大きな映画を作っていきたいと思っている」
ファイギ、ジョナサン・メジャース問題に初めて言及
『アベンジャーズ/エンドゲーム』以降のフェーズを進める中で、マーベルはこの数年間、さまざまな予想外の事態に直面してきた。
パンデミックやハリウッドのストライキといった現実的な問題、そして『ブラックパンサー』(2018年)主演のチャドウィック・ボーズマンの悲劇的な死。
さらに、『アントマン&ワスプ:クアントマニア』(2023年)以降のMCUの“次なる征服者”として予定されていたカーン役の俳優、ジョナサン・メジャースの暴行罪による有罪判決もあった。
ファイギはメジャースの名前を一度も口にせず、「カーン役の俳優」あるいは「その俳優」とだけ表現し、話の中心はあくまでカーンというキャラクターに置いた。
そして、マーベルはメジャースの問題が起きる以前から、カーンからの方向転換をすでに検討していたと明かした。
「その俳優に何か起きる以前から、我々はすでに気づき始めていた。カーンは(MCUの悪役として)大きな存在ではなかった。彼はサノスではなかった。そして、それほどの存在になれるのは、何十年にもわたりコミックでそう描かれてきた、たった1人のキャラクターだけだった」とファイギは語る。
「それが、ドクター・ドゥームだ。フォックス買収によって、ついに我々は彼を使えるようになった。だから、公式にカーンから方向転換する前から、すでにドクター・ドゥームの話を始めていた。実際、『アントマン&ワスプ:クアントマニア』が公開される前から、この大胆なアイデアについてロバート・ダウニー・Jr.とも話し始めていたんだ。これは、我々の最高のキャラクターの一人を、我々の最高の俳優の一人と共に活かしていくという、長期的な計画だった」
実写版マイルス・モラレスは、しばらく期待しないほうがいい
長年にわたり多くのファンが、MCUにおけるマイルス・モラレスの実写登場を熱望してきた。マイルスは、ソニー・アニメーション制作の高評価シリーズ『スパイダーバース』に登場するスパイダーマンだ。
マーベルがその実写版の開発をどこまで進めているか尋ねられた際、ファイギはこう答えた。
「なにも進んでいない」
そして、マイルス・モラレスの将来はソニー側の判断に委ねられているとも付け加えた。
「ソニーには、非常に優れた、天才的で、信じられないほどすばらしい『スパイダーバース』アニメシリーズがある。そしてそれが完結するまでは、我々は関わらないよう言われている」とファイギは語った。
『ブレイド』、再び調整中
『ブレイド』の進捗はどうなっているのか? その遅れの理由について、ファイギは冗談交じりにこう語った。
「ライアン・クーグラーから電話があって“『罪人たち』(2025年)に衣装を貸してくれない?”って言われたから、こっちは“持ってってくれ、兄弟!”って答えたんだ。彼は友人だから、衣装は譲った。だから映画は後回しにしたんだ」
もちろんファイギは冗談を交えつつ、開発中だった『ブレイド』のバージョンのひとつが、クーグラーが今年ヒットさせた『罪人たち』同様、禁酒法時代を舞台にしていたことに触れていた。
ファイギによると、近年『ブレイド』は4つのバージョンが開発されていたという。2つは時代劇設定、2つは現代劇設定だった。
そしてマーベルは最終的に「現代を舞台とする路線」に決定したとのこと。
マハーシャラ・アリの出演は継続しており、キャストの変更はない。
公開時期については明言されなかったが、ファイギとクーグラーの間では『ブラックパンサー3』のタイムラインもすでに話し合われているという。
マーベル成功の鍵は「トーンの柔軟性」(R指定作品もさらに増える)
マーベル作品の最大の強みのひとつは、「作品ごとにトーンを変化させられる柔軟さ」にあるとファイギは語っている。
この方針は今後も継続され、R指定(18禁)映画や大人向けの物語がさらに増えていく予定だ。
マーベルは、ファミリー向けのヒーローアクションにとどまらず、コメディからホラー、暴力描写の強い作品まで、多様なトーンで物語を展開し続けていく方針である。
『デッドプール&ウルヴァリン』や『デアデビル』新TVシリーズが示す、マーベルの「大人向け路線」への順応
『デッドプール&ウルヴァリン』(2024年)や、再始動した『デアデビル』TVシリーズなどの登場により、マーベルは以前よりも明確に「大人向けの物語」を積極的に取り入れるようになっている。
しかし同時に、キャラクターたちは必要に応じて、年齢に合った場面にも柔軟に登場可能である。
ファイギによれば、これは観客の興味と愛着を維持し続けるための戦略だという。
「たとえば、グリーンゴブリンがDisney+の『スパイダーマンとすごい仲間たち』で雪だるまを作ることもできるし、同時に『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』ではメイおばさんを殺めることもできる」
このような「キャラクターのトーンの柔軟性」がマーベルの強みだとファイギは語る。
パニッシャーもその一例に
ジョン・バーンサル演じる過激な自警ヒーロー、パニッシャーも、まさにその好例である。
パニッシャーを主人公とする特別番組が先週撮影を開始し、来年Disney+で配信予定だ。この作品はTV-MA(成人向け)指定として制作されている。
しかしファイギはこう補足する。
「パニッシャーがスパイダーマン映画に登場するときは、ちがったトーンになるだろう」
つまり、同じキャラクターでも作品ごとに適切な表現レベルを調整するという柔軟なアプローチを取っていることを示している。なお、ファイギはパニッシャーが次回のスパイダーマン映画に登場することも正式に認めた。
ファイギは今も「脚本未完成のまま撮影入り」できる柔軟さを好む
マーベル・スタジオの映画制作法、いわゆる「マーベル方式」は、脚本が撮影中も常に進化し続け、ポストプロダクション(編集・VFX)段階で多くの要素を仕上げるというスタイルを取ってきた。
これに対して、かつてマーベル作品を手がけ、現在はDCスタジオを率いるジェームズ・ガンは、「脚本が完成していなければ制作に入らない」と明言し、マーベル方式に反対する立場を公言している。
ファイギはこれについて、こう語った。
「我々は脚本なしに撮影を始めたことはない。だが、納得のいく脚本ができたと感じたこともない。正直に言えば、公開した映画の出来に完全に満足したことも一度もない」
彼とマーベル・スタジオが重視しているのは、すべての段階で“プラスα”を加えていくことであり、撮影中・編集中・公開直前であっても、どんどん改良を重ねていく柔軟な姿勢である。
これこそが、長年にわたるMCU成功の土台となっている制作哲学である。
ファイギはこう語った。
「今まさに『アベンジャーズ:ドゥームズデイ(原題:Avengers: Doomsday)』の撮影現場では、毎日のように“プラスα”が加えられている。これは本当にすばらしい光景だ。というのも、そこで映画を作っている監督たちや俳優たち、初めてそのキャラクターを演じる者、2回目の者、そして10回目や12回目の者、彼らはこの分野で世界最高の人たちであり、キャラクターたちのことを完璧に理解しているんだ」
「だから、彼らがアイデアを出せば、それに耳を傾け、調整し、より良くしたくなる。私はそのプロセスを変えたいとは思わない」
脚本はスティーヴン・マクフィーリーが執筆しているが、ファイギはそこに加えて『ロキ』のクリエイターであるマイケル・ウォルドロンも脚本作りに関わっていることを明かした。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。
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