リアルな医療現場を描く話題作『ザ・ピット / ピッツバーグ救急医療室』がエミー賞13部門にノミネート!

ノア・ワイリー Michael Buckner/PMC
ノア・ワイリー Michael Buckner/PMC
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『ER 緊急救命室』から四半世紀、医療ドラマで再び脚光を浴びる

ドラマ『ER 緊急救命室』(1994~2009年)でジョン・カーター医師を演じたことで、ノア・ワイリーは広く知られる存在となったが、必ずしもエミー賞受賞者になったわけではなかった。少なくとも、当時はまだ。それでも彼は、エミー賞ノミネートの間隔としては最長級となる記録を持つことになった――正確には26年である。そしてついに今年6月、HBO Maxの話題作『ザ・ピット / ピッツバーグ救急医療室』で再び候補に名を連ねた。この作品は2025年のエンタメ界で大きな話題を呼んでいる。

『ER 緊急救命室』(1994~2009年) NBC/Courtesy Everett Collection 
『ER 緊急救命室』(1994~2009年) NBC/Courtesy Everett Collection 

「いまの自分はあの頃とは違う人間であり、第2のチャンス、いわば第2幕としてこれを得られることに特別な喜びがある」とワイリーは米『ハリウッド・リポーター』に語っている。

「多くの人の心に響く仕事が再びできていることは、本当に大きな満足感がある。最初のときは、そうした成功がどれほど稀なものかという視点がなかった。人々は『この番組の人気はすごい、こんなことはめったにない』と言ってくれたが、その言葉の意味を理解するための基準が自分にはなかった。だからただ、『これが自分にとっての普通なのだ』と思っていたのだ」

『ER 緊急救命室』(1994~2009年)Courtesy of Photofest
『ER 緊急救命室』(1994~2009年)Courtesy of Photofest

NBCのヒット作『ER 緊急救命室』は15シーズンにわたり放送されたが、一生に一度の出来事であったと認識するまでには、数十年かかったという。「同じ場所や同じ人生で稲妻が二度落ちることは極めて稀だ。だが自分にはそれが起きた。だから今回は、この瞬間にしっかりと向き合い、楽しもうとしているのだ」とワイリーは語った。

2025年最注目の医療ドラマ『ザ・ピット / ピッツバーグ救急医療室』

13部門ものノミネートを獲得した『ザ・ピット / ピッツバーグ救急医療室』は、資金不足の救急病棟で働く医療従事者の現実的な描写が批評家から高く評価されている。ワイリーは架空のピッツバーグ外傷医療病院を舞台に、15時間にわたる当直勤務中の主人公マイケル・“ロビー”・ロビナヴィッチ医師役を演じる。そこで彼と同僚たち(パトリック・ボール、トレイシー・イフェアチョア、キャサリン・ラ・ナサ、テイラー・ディアデンらが演じる)は、人員不足や資源の欠如に直面することになる。

ドラマ『ザ・ピット / ピッツバーグ救急医療室』© 2025 WarnerMedia Direct Asia Pacific, LLC. All rights reserved. Max and related elements are property of Home Box Office, Inc.
『ザ・ピット / ピッツバーグ救急医療室』© 2025 WarnerMedia Direct Asia Pacific, LLC. All rights reserved. Max and related elements are property of Home Box Office, Inc.

「病院ドラマのなかで、私たちは“解体されたヒーロー”の物語を描こうとしていた」と、白衣姿に慣れたワイリーは役作りについて語る。「私は人間喜劇のあらゆる描写と、それにまつわるすべての要素が好きなんだ」とも述べた。医療ドラマに再び挑むにあたり、「病院にはそういう相反するものがたくさんある。命があり、死があり、高潔で天使のような仕事をする人たちがいる。でもそれをやり遂げるためには、下品なユーモアや、戦場の防御施設で戦う兵士のような覚悟が必要なんだ。そういう環境は、現代社会の姿を切り取ったすばらしい1枚のスナップショットになるんだよ」と付け加える。

ドキュメンタリー風の撮影手法

正確さを追求する姿勢は、作品の美術デザイン、物語の構成、そしてBGMを外した演出から、ワイリーの演技にまで行きわたっている。撮影はしばしばハンディカメラによるドキュメンタリー風の手法で行われ、救急病棟の混沌とした空気を映し出している。

ノア・ワイリー(右)『ザ・ピット/ピッツバーグ救急医療室』より WARRICK PAGE/MAX
ノア・ワイリー(右)『ザ・ピット/ピッツバーグ救急医療室』より WARRICK PAGE/MAX

「病院や救急車の現場で働く人たちには、尊敬の念しかない」とワイリーは語る。「彼らが新型コロナの最中、そしてその後に行ってきたことは称賛されはしたが、十分な支援は受けられていない。この番組の目的は、その人たちに再びスポットライトを当て、助けや増員を求める声を届けると同時に、この仕組みが非常に脆く、医療従事者のメンタルヘルスと同じくらい壊れやすいという警告を伝えることにある」

現実と呼応するストーリーライン

作中のいくつかの場面では、現実世界で起きている出来事が反映されている。ロビーが病院の管理者にさらなる資源を求めて嘆願する場面は、トランプ大統領の「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル」法案によって何百万人もの最貧層のアメリカ人が医療保険料補助を削減された時期と重なっている。さらに、麻しん(はしか)の流行が描かれるエピソードは、米国で麻しんの症例が増加し始めた4月の同じ週に放送された。

ホワイトハウスの独立記念日を祝う屋外行事で、「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル」法案に署名した姿を披露するトランプ大統領 Alex Brandon - Pool/Getty Images
ホワイトハウスの独立記念日を祝う屋外行事で、「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル」法案に署名した姿を披露するトランプ大統領 Alex Brandon – Pool/Getty Images

「何度かは幸運に恵まれた」とワイリーは認める。「私たちは、考えられるあらゆる分野の専門家に会って話を聞く。そしてインタビューの最後には必ず『テレビで取り上げられていないけど、本当は扱うべきテーマは何ですか?』と聞くんだ……。麻しんがニュースになるとは知らなかったけど、ワクチン接種率がいまのように下がっていけば、いくつかの病気がまた戻ってくる可能性があることはわかっていた。そして予想は当たった。現場の状況はものすごい速さで変わっていて、私たちも必死で最新情報についていっている。医療保険料補助の削減や地方病院の閉鎖が進むなかで、16か月後にピッツバーグのような都市で何が起きるのかを探ろうとしているんだ。その答えは本当に恐ろしいし、現実を反映しつつ、かつそこから抜け出すための指針となるような形でドラマ化したり物語に織り込んだりすることは、本当に難しい」

『ザ・ピット / ピッツバーグ救急医療室』 Warrick Page/Max
『ザ・ピット / ピッツバーグ救急医療室』 Warrick Page/Max

ワイリーの演技にも難しい場面は多かった。多数の死傷者が出る事故への対応、10代の少年のフェンタニル過剰摂取、幼い少女のプールでの溺水などである。しかしワイリーにとってとくに印象的だったのは、第13話で主人公のロビー自身が救急外来の現場でパニック発作を起こす場面だった。

「自分にとってもキャラクターにとっても、その解放の瞬間をとても楽しみにしていた」とワイリーは語る。「シーズン全体がその場面に向けて積み上がってきた。だから撮影が待ちきれないほど楽しみだった。撮影に臨んだあの日は……自分にとって最高の仕事日の1つだった」

演技への没入と実生活への影響

実際、その演技を完璧にするために、ワイリーはできる限り役から離れないようにしたという。「後半のエピソードの撮影中は、家族にかなり我慢をお願いしていた。仕事から帰ったときの自分の気分に合わせて辛抱してもらっていたんだ。というのも、一度役から抜けて普通に戻ってから再び役に入り直すよりも、そのまま役のなかに留まっていたほうが楽だったからだ」とワイリーは説明する。「撮影が終わるまで役から離れなかった。そして終わった瞬間、妻が『3日間ビーチで過ごしてきなさい』と言って送り出してくれたんだ」

ノア・ワイリー、『ザ・ピット / ピッツバーグ救急医療室』より Courtesy of Max
ノア・ワイリー、『ザ・ピット / ピッツバーグ救急医療室』より Courtesy of Max

『ザ・ピット / ピッツバーグ救急医療室』でワイリーは複数の役割を担っている。主演だけでなく、プロデューサーのジョン・ウェルズやシリーズ原案者R・スコット・ジェミルと共に製作総指揮も務めている。

2人は『ER 緊急救命室』でも共に仕事をした仲間であり、彼らは2023年の脚本家ストライキ終結後に『ザ・ピット / ピッツバーグ救急医療室』を共同で企画した。初期のアイデアのひとつは、音楽を完全に外し、心電図モニターやカートの車輪、蛍光灯の音だけをサウンドトラックとすることだった。

「これはもっとも激しく議論され、放送前にようやく勝ち取った要素のひとつだった。なぜなら非常に実験的な発想だったからだ」とワイリーは語る。「スコットは昔『ER 緊急救命室』でサウンドトラックを外したエピソードを2本書いており、それが非常に効果的であることを知っていたし、うまくいくという自信も持っていた。しかし、他の誰もそうは思わなかった……。音楽を取り除くことで、シーンの感じ方を指示するのではなく、むしろ興味を引き、視聴者自身で向き合い評価させることができるのだ」

(左)キャサリン・ラ・ナサと共演し、医師"ロビー"・ロビナヴィッチ役を演じている(右)ノア・ワイリー、HBO Max『ザ・ピット / ピッツバーグ救急医療室』より Warrick Page/MAX
(左)キャサリン・ラ・ナサと共演し、医師”ロビー”・ロビナヴィッチ役を演じている(右)ノア・ワイリー、HBO Max『ザ・ピット / ピッツバーグ救急医療室』より Warrick Page/MAX

シーズン2の制作が進行中

ワイリーは現在、シーズン1の出来事から10か月後を描く待望のシーズン2を撮影中で、同作は来年1月に配信予定である。主演と製作総指揮だけでなく、一部のエピソードで脚本・監督も担当する計画だという。

「この作品は、私たち全員がずっと関わりたいと夢見てきたものなんだ」とワイリーは語る。「ロサンゼルスの撮影所で15話を撮れるなんて、本当に奇跡のような機会だとわかっている……これは昔ながらのテレビ制作で、家に帰って家族と夕食をとり、週末は家で過ごせるという生活の質を私たち全員に与えてくれる。トロントやバンクーバー、ニューオーリンズ、アルバカーキ、アトランタから飛行機で戻る必要もない。こういう環境は、お金では計れない感謝と一体感を生み出してくれるんだ」

この記事は、米『ハリウッド・リポーター』8月号の単独特集号に初掲載されたものである。

※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。

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