【インタビュー】『男神』主演の遠藤雄弥が語る、ファンタジーホラーに込めた想いとは「説得力ある表現を意識した」
日本の伝統美に潜む狂気と家族の恐怖を描く、古代縄文ミステリーにしてファンタジーホラー『男神』が、9月19日(金)より劇場公開する。
原作となる「男神」は、2020年に「日本(美濃・飛騨等)から世界へ!映像企画」で入選。YouTubeの人気サイト「怖い話怪談朗読」で朗読され「今までで一番怖い話」と大注目を浴びた。本作はオリジナルストーリーとして映画化が実現した話題作だ。
主演の遠藤雄弥をはじめ、元宝塚歌劇団雪組の男役スターの彩凪翔、アメリカ・ロサンゼルスと日本の二拠点でアーティストとして活動中の岩橋玄樹、SKE48の元メンバーの須田亜香里ら豪華キャスト陣が集結した。
▼映画『男神』9月19日(金)より全国公開
全国各地で母と子の失踪事件が相次ぐなか、ある日、新興住宅地の建設現場に正体不明の深い「穴」が発生。時を同じくして、そこで働く和田勇輝(演:遠藤雄弥)の息子も忽然と姿を消してしまう。息子が「穴」へと迷い込んだ事を知った和田はその中へと入っていく。そこで見たものは、得体の知れない異様な儀式だった…。
このたび主演の遠藤雄弥に単独インタビューを実施。自身初となるファンタジーホラーに挑んだ想いや、幻想的なロケ地、撮影の裏側について真摯に語ってくれた。
ファンタジーホラーでの説得力のある表現とは
――ファンタジーホラー映画に初めての出演ということですが、演じる上で大変な点はありましたか?
『男神』はファンタジーホラー映画というジャンルにはなりますが、家族愛や冒険の要素もあり、色とりどりで一つのジャンルにとらわれない作品です。僕自身、ファンタジーホラーの出演は初めてでしたが、脚本を読んでまず感じたのは、世界観にしっかり入れるような説得力のある表現をしようと意識しました。そのリアリティをどうやって出すのかというと、一つ一つ目の前で起こっていることに役を通して実感を持って演じたんです。
――現実の世界と根の国(異界)とそれぞれ演じ方を変えたりしなかったのでしょうか?
そうですね。脚本を読んだ上でその世界観をまず受け入れる作業や認識が大事だと個人的に思いました。根の国に行ったり禁足地に空いた穴に入っていく主人公の心情は、父親、夫としての家族への愛からです。危険を犯してまで主人公が穴の中に入っていく心情を大事にすれば、異界に行っても変わらずいられる。言語化するとそういう認識かもしれないですね。
――主人公・勇輝を演じるうえで、軸としてあったのは家族愛だったのですね。
最愛の妻がいなくなってしまった、そこから半年経って自分の息子もいなくなってしまう。夫、父親としての喪失感を大事にしたら、映画を観た方が感情移入できる一つの指針になると思い、その感情を大事にしたんです。
愛の強さゆえの狂気を表現したかった
――本作では『辰巳』とはまた違う魅力で、父親としての愛情溢れる目の表情や演技、凛とした佇まいに惹きつけられました。一人のシーンが多かったですが、工夫した点はありましたか?
一つあったのは、勇輝は妻と息子への愛情がすごく強い。父親として夫としての在り方や、家族への愛の強さがベースにあることを感じました。井上監督ともその点について話しましたが、愛の強さゆえに、二人を喪失した時のショックや強すぎる狂気がある。勇輝が持つ愛と比例した狂気さをどこかで出せたらいいなと。ばばさま(演:すずき敬子)とのやりとりの中で、「家族を助けるその愛の強さが狂気として映るように」というのが監督のオーダーでもありました。
あとカトウシンスケさん演じる浩司への嫉妬から、ルサンチマンを抱いた勇輝の雰囲気も暴力的になっていきます。「一番愛してる妻のことなのに、なんで僕が知らないことまで浩司が知ってるんだ」というジェラシーもしっかりと表現しようと心がけました。
家族愛や冒険がつまったジャンルを超えたファンタジーホラー
――役作りする中で事前に準備したことはありますか?
まず最初に原作の「男神」って何だろう?と思いYouTubeで朗読を聴きました。めちゃめちゃ怖かったです。その原作をモチーフに井上監督が書き上げた脚本は、ファンタジーや家族愛や冒険という要素が入りとても豊かなシナリオでした。純粋にこの世界観を楽しんで演じられると感じました。
また先ほど申し上げたように、家族への普遍的な愛が映画の一つのテーマです。息子、最愛の妻への愛情、そして愛を持っているのに妻の抱えている悩みや不安、巫女として生まれてしまった宿命を共有できなかった後悔を痛感する描写があるので、特にその感情を大事にしました。
――原作に比べて壮大な冒険の要素が多く入っていましたね。
シチュエーションがまた全然違って原作もとても面白いですよね。ぜひ映画を観た方にも原作を聴いていただきたいです。
――原作で大事にした部分や参考にした点はありましたか?
ベースとして怖い話で神様を信仰している点は、映画にも原作にも通じます。映画は謎めいた印象が僕の中で大きくて。原作をリスペクトしながら、井上監督が描いてくださった『男神』の豊かな世界観を楽しんでもらえるよう創作したい思いが強かったですね。
原作はワンシチュエーションで怪談話からストーリーが進んでいきますが、映画では禁足地に穴が開いて妻が失踪して、と展開が変わってきます。原作との違いは、ホラーというジャンルだけではなく、穴に入っていく息子がお母さんを探しに行く冒険や家族愛の要素もあります。
例えば、皆さんが日々の中で感じる家族への愛情だったり、行ったことのない街に行くワクワク感だったり、旅行したらどんな美味しい物が食べられてどんな街の風景が見れるんだろうという感情がありますよね。そういう感情と、禁足地の穴の先に入って行くことが似てる気がしました。
ワクワクする冒険という要素がホラー映画というジャンルにとらわれない作品になっているので、ご家族や恋人や友達同士など幅広い方に見ていただきたいです。
――ジブリ映画や『不思議の国のアリス』も穴に入って冒険していく物話ですよね。
まさにおっしゃる通りです。脚本を読んだときに、ジブリの『君たちはどう生きるか』を想起しました。設定は違うけど大枠なシチュエーションは一緒というか、息子が母親を探しに異世界に行く設定が似ている気がして、参考とまではいかないですが想起しました。すごく通じる部分があるなと思ったんです。
『千と千尋の神隠し』や、あと子供の頃に『ドラえもん のび太の創世日記』を見て育った世代なので、もう一つの世界に飛び込んでいく勇気や、ドキドキする怖さ、ワクワクする気持ちが、お客さんの視点からすると『男神』にも通ずる魅力なのかなって。PG指定(観覧年齢指定)もないので、子どもたちの感想も聞いてみたいな。子どもの感性で『男神』の捉え方がありそうで、それも気になるところですね。
――『男神』からジブリやドラえもんの映画を想起したんですね。
『君たちはどう生きるか』『千と千尋の神隠し』『となりのトトロ』などにシンパシーを感じました。幼少期に『となりのトトロ』を観て感銘を受けたんですが、防空壕が田舎の山に行くと残っていて、子供の頃に僕はその中にはトトロがいるってなぜか信じてたんですね。防空壕を見るとトトロがいるから行きたいんだけど、でも怖くて入れなくて。そんな感情が、本作を通じて童心に戻れる瞬間があったので、「あー、これは子供たちが見ても、もしかしたら楽しんでもらえるような映画なのかもしれない」という思いが実はありますね。
古代縄文ミステリーを彩る幻想的なロケ地
――ロケ地もすごく美しい場所ばかりでしたね。
岐阜県の下呂市と愛知県の日進市で撮影しました。本当にありがたいことに、日進市は市長さんも含めて全面的に撮影を協力していただきました。山本工務店さんには、重機のレンタルや撮影まで協力していただいて、みんなで映画を作ってるという実感をキャストの僕らも感じながら撮影に臨ませていただきました。下呂市では、とても幻想的な日本の原風景が残っているエリアで撮影させていただいて、『男神』の世界観に合ったロケ地だなと感じましたね。
――カメラが趣味だと聞きましたが、ロケ地で撮影できましたか?
その時はまだハマってなかったんですが、エグゼクティブプロデューサーの方が現場にライカのカメラを持ってきていて、それがめちゃめちゃかっこよくて影響を受けたのがキッカケです。
あと11月に配信される『イクサガミ』の主演の岡田准一さんも生粋のライカユーザーなんです。岡田さんが現場で僕を含めたキャストをライカで写真に収めてたんですが、その佇まいとライカのフォルムがすごくカッコよかったんです。なのでそのお2人に影響されて、 昨年末に僕は「ライカQ」を手に入れてどっぷり写真を学んでます。これからは撮影現場で積極的にカメラを持っていって、色んな街の風景やロケ地を切り取りたいですね。
――根の国のロケ地に岐阜県下呂市にある縄文時代の史跡「金山巨石群」が登場しましたね。
話によると実際に生贄とかそういう儀式があったんじゃないかって言われてるような場所らしくて、パワースポットみたいですね。おそらく井上監督や撮影監督も『男神』にここがぴったりだと感じたのか、下呂の方々におすすめされたのかもしれませんが、かなり有名な場所でした。実際行ってみて本当にすごかったです!ものすごく大きい岩があって圧倒されてしまって神聖な雰囲気を感じました。
――神秘的なロケ地での撮影で不思議な体験はありましたか?
それがなかったんです(笑)。映画は怖いストーリーなんですが、和気あいあいと撮影が進みました。唯一の恐怖体験が、今回初めてカトウシンスケさんと僕が乗馬するシーンがあったんですね。愛知牧場さんにも撮影に全面的に協力していただき乗馬まで教えていただいたのですが、すごく優しいお馬さんでシンスケさん僕も安心して身を委ねてました。夕方から2、3時間が馬のシーンの撮影だったのですが、朝から馬たちが待たされてしまって、撮影時に僕らが乗るといつもと全然違って、まるで暴れ馬のようになってしまって。あれは唯一の恐怖体験でした。
彩凪翔の役への向き合い方から感じたこと
――妻役で巫女役の彩凪翔さんとの共演はいかがでしたか?
巫女の衣装とメイクアップがとても似合ってましたね。彩凪さんをきっかけに、宝塚歌劇団の凄さを改めて感じました。現場の彩凪さんの在り方や役への真摯な向き合い方が素晴らしかったです。彩凪さんが演じた僕の妻役・夏子は、複雑な心理状態を表現しなければいけません。巫女の家系に生まれ、儀式を絶対に避けては通れない家系の血筋です。自分の息子も少しの手違いがあったら生贄に捧げなきゃいけない。その葛藤を抱えながら勇輝と結婚したという複雑な状況でした。なのでキャラクターの心情と真摯に向き合っている現場での姿勢を、とてもリスペクトしていました。
あと勝手なイメージですが、宝塚の男役のスターの方はメンズよりメンズというか、そんな方の夫を演じるのは結構なプレッシャーがありました(笑)。今回は足場が悪い所を僕が手を取ってアテンドするシーンがあったので、「男役の方をどれだけ上手くアテンドできるか僕の男としての器が試される」というそんな下呂市での撮影でしたね(笑)衣装も動きづらいし巫女の履物も滑るので、大変そうだなと思って全身全霊でケアをさせていただきました。
――男神に追われるシーンは大変そうでしたが難しかった点はありましたか?
彩凪さんが巫女の履物で走って危なかったときに、監督が「演出でしっかり男神から逃げてる危機感を出すのでとにかく安全最優先でやりやすいようにしてください」と言って下さいました。なので安全を確保しながら撮影に臨めて、集中して逃げるお芝居ができました。
――最後に、『男神』の見どころやこれから映画を観る方へメッセージをお願いします。
最初に脚本を読んだときに、ジブリやドラえもんの長編映画を彷彿とさせるイメージが僕の中で湧いてきてました。ホラー映画ですが、今まで見たことない新しいタッチの作品で、「家族で見れるファンタジーホラー映画」という新しいジャンルになるのではと感じています。ただのホラー映画と捉えずに、ご家族で見れる家族映画、冒険映画として見ていただけたら大変嬉しいです。
【作品情報】
『男神』
<CAST・STAFF>
遠藤雄弥、彩凪翔、岩橋玄樹、須田亜香里、カトウシンスケ、沢田亜矢子、加藤雅也(特別出演)、山本修夢、塚尾桜雅、アナスタシア、すずき敬子、大手忍、チャールズ・グラバー、藤野詩音、齋藤守、清水由紀(友情出演)、永倉大輔(友情出演)
監督・脚本:井上雅貴
原案:「男神」(八木商店)
エグゼクティブプロデューサー:志賀司
プロデューサー:益田祐美子 羽田文彦
制作プロダクション:平成プロジェクト・INOUE VISUAL DESIGN・セレモニー
製作:平成プロジェクト セレモニー TBSグロウディア 山本工務店 名古屋テレビ ネクスト 三晃社 エクサインターナショナル Samplesdl 中日本興業
ロケ地:愛知県日進市、岐阜県下呂市協力高山市、飛騨・高山観光コンベンション協会
支援:日進市企業ふるさと納税 下呂市ふるさと文化振興助成金
協賛:マテラ化粧品 ワンダーランド そうび社 龍の瞳 イオス コーポレーション
題字:小林芙蓉
2025年/日本/93分/カラー/シネスコ/5.1ch
配給:平成プロジェクト/配給協力:東京テアトル©2025「男神」製作委員会
2025年9月19日(金)全国ロードショー
【関連記事】
- 遠藤雄弥『男神』で子煩悩な父親役に歓喜「人をあやめたり裏切る役多かったので…」
- 映画『男神』 — 古代縄文の禁断儀式が暴く家族の狂気|日進市で特別先行上映
- 【インタビュー】『男神』で映画デビューを果たした、岩橋玄樹に単独インタビュー! 正義感あふれる弟キャラを熱演 「日本のホラーを世界中の人にもっと知ってほしい」
- 岩橋玄樹、新曲「Bless me」が映画『男神』のテーマ曲に決定!本人メッセージも到着
- 【プライムビデオ】おすすめ新作洋画ホラー5選|ニコラス・ケイジ出演の異色作『ロングレッグス』、『28年後…』ほか