ジェニファー・ローレンス、トランプ政権を語る「もう発言すべきかわからない」――政治との距離を見つめ直す

ジェニファー・ローレンス、2025年ローマ映画祭にて 写真:Vittorio Zunino Celotto/Getty Images
ジェニファー・ローレンス、2025年ローマ映画祭にて 写真:Vittorio Zunino Celotto/Getty Images
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トランプ政権への発言を再考する

2016年にドナルド・トランプが初めて大統領に当選したとき、ジェニファー・ローレンスは「頭が爆発した」と語っていた。
ケンタッキー州で育った元共和党員のローレンスにとって、それは衝撃的な出来事だった。彼女の故郷は2016年、2020年、そして2024年の大統領選でもトランプに投票した州である。

ローレンスはトランプ政権の1期目には、繰り返し彼を強く批判してきた。2015年には『もしトランプが大統領になったら世界の終わりだ』とまで語っていた。ローレンスは2016年にはヒラリー・クリントンを支持し、2020年はジョー・バイデンを、2024年はカマラ・ハリスを支持した。特に2024年の選挙直前には、ラスベガスでハリス陣営のために戸別訪問まで行った。

カマラ・ハリス 写真:Andrew Harnik/Getty Images
カマラ・ハリス 写真:Andrew Harnik/Getty Images

しかし今、ローレンスはこれまでのように政治的発言を続けるべきかどうかを自問しているようだ。ニューヨーク・タイムズのポッドキャスト『The Interview』で、ローレンスはこう語った。

「正直、もう発言すべきかどうかわからない。前回のトランプ政権のときは、まるで首を切られたニワトリのように走り回っていた気がする。でも選挙を重ねるうちに、セレブの意見なんて、だれが投票するかに何の影響もないってわかったの。そうなると、私は何をしているの?ただ、国を引き裂く火に油を注いでいるだけじゃないのかと思ってしまう。いまのアメリカは本当に分断されているから」

さらにローレンスは、自身の発言が観客にどう受け止められるかを強く意識していると明かした。

「私はアーティストでもあるから、私の政治的意見のせいでだれかが映画や芸術作品を遠ざけてしまうのは避けたい。芸術には人の意識を変える力があるから。それを守りたいの。観客が私の作品に没頭できるようにね。だから、もし平和を促したり、温度を下げたり、何か建設的なことが言えないなら、私は沈黙を選びたい。問題を悪化させたくはないの」

政治との距離感をめぐる変化

ローレンスの最近の発言は、2018年に『ヴァニティ・フェア』誌で語った言葉を思い起こさせるものである。ローレンスは当時、トランプの登場以前に政治的な発言を避けていた理由をこう説明していた。

「ずっと、政治には関わらないほうがいいと思っていたの。アメリカの25%しかリベラル層はいないのに、私の映画を観てもらうには25%以上の人が必要だから。キャリア的に見ても、政治を語るのは賢明じゃないのよ。でも、ドナルド・トランプが大統領に就任した瞬間、そんな考えはぶっ飛んだわ」

ドナルド・トランプ大統領 写真:Andrew Harnik/Getty Images
ドナルド・トランプ大統領 写真:Andrew Harnik/Getty Images

また、トランプ政権初年度の終わりごろ、ローレンスは米『ハリウッド・リポーター』の企画でオプラ・ウィンフリーと対談し、もしトランプと公の場で対峙することがあればどうするかという“空想”を語った。

「ちゃんとしたスピーチを用意してるのよ。最後はマティーニを顔にぶっかけて終わるけどね」と、笑いながら語ったローレンス。「ニュースでいろんな人たちを見て、『待ってなさいよ』って思うの。ずっとこの瞬間を待ってたのよ。ヒントをあげるとね――優しくはないわ。あなたも私には言われたくないと思う」

オプラ・ウィンフリー 写真: MANDEL NGAN/AFP via Getty Images
オプラ・ウィンフリー 写真: MANDEL NGAN/AFP via Getty Images

それから数年後、ローレンスは2024年の大統領選挙を前に、カマラ・ハリス支持を表明した。
その理由として、ローレンスが一貫して訴えてきた「リプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する健康と権利)」への強い思いを挙げている。

「中絶の権利そのものが選挙の争点になっているのよ」と、当時『ピープル』誌に語ったローレンス。「私はカマラ・ハリスに投票するわ。彼女は本当にすばらしい候補者だし、女性の権利を守るために全力を尽くしてくれると信じているから。もっとも大事なのは、中絶を禁止しようとする人物をホワイトハウスに入れないこと。それに尽きるわ」

「“Our rights are not up for debate.”私たちの権利は、議論の余地などない」写真:THR illustration / Drew Angerer/Getty Images
「“Our rights are not up for debate.” 私たちの権利は、議論の余地などない」写真:THR illustration / Drew Angerer/Getty Images

『政治は人を殺している』――ジェニファー・ローレンスの変化と信念

最高裁が「ロー対ウェイド判決(※)」を覆した直後、ジェニファー・ローレンスは『ヴォーグ』誌で率直な思いを語っていた。

※ロー対ウェイド判決(Roe v. Wade)とは、1973年にアメリカ合衆国連邦最高裁判所が下した、人工妊娠中絶の権利に関する歴史的な判決のこと。

20代の頃に妊娠し、流産する前に中絶を決意していたことを明かしたローレンスは、こう言い切っている。
「もう政治に無関心な人たちとはかかわれない。いまのアメリカの状況はあまりに深刻で、政治が人を殺しているのよ」

ジェニファー・ローレンス、『Die, My Love(原題)』より 写真:Mubi
ジェニファー・ローレンス、『Die, My Love(原題)』より 写真:Mubi

そして最近、『ニューヨーク・タイムズ』のインタビューで、ローレンスは自身の新たな立ち位置を語った。
彼女は次回作として、ロバート・パティンソンと共演するリン・ラムジー監督の『Die, My Love(原題)』への出演を控えており、同インタビューで「自分の政治的信念を作品を通して表現したい」と語った。

「私は仕事を通して政治を表現しようとしているの。私の製作会社から送り出す作品の多くは、いまの政治情勢を反映しているのよ。そうやってこそ、自分が社会に貢献できると感じているわ」

実際、ローレンスの製作会社「Excellent Cadaver(エクセレント・カダヴァー)」は、近年、女性の権利に関する2本のドキュメンタリー作品を支援している。

『Bread and Roses(ブレッド・アンド・ローゼス)』(2023年)より 写真:Cannes Film Festival
『Bread and Roses(ブレッド・アンド・ローゼス)』(2023年)より 写真:Cannes Film Festival


一つはマララ・ユスフザイ氏と共同製作した『Bread and Roses(ブレッド・アンド・ローゼス)』(2023年)。タリバン政権下で生きるアフガニスタンの女性たちの現実を描いた作品である。

もう一つはヒラリーとチェルシー・クリントンが共同製作した『Zurawski v. Texas(原題)』。厳しい中絶法に抗い、テキサス州を訴えた原告団の闘いを追ったドキュメンタリーだ。

リプロダクティブ・ライツ・センターの上級弁護士として、『Zurawski v. Texas』で重要な役割を担うモリー・デュエイン 写真:AfterRoe Productions LLC
リプロダクティブ・ライツ・センターの上級弁護士として、『Zurawski v. Texas』で重要な役割を担うモリー・デュエイン 写真:AfterRoe Productions LLC

そして最後に、再びトランプについて問われたローレンスは静かにこう語っている。
「2期目のトランプ政権は、最初のときとはちがうわ。彼は自分が何をするのか、はっきり言っていた。4年間で何をしたかも、みんな知っている。つまり、私たちはそれを理解したうえで選んだのよ」

ドナルド・トランプ大統領 写真:Jon Cherry/Getty Images
ドナルド・トランプ大統領 写真:Jon Cherry/Getty Images

※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。

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