スピルバーグが語る『ハムネット』劇場公開の理由と繊細な物語の魅力
クロエ・ジャオ監督の最新作『ハムネット』がロサンゼルスでプレミア上映され、プロデューサーを務めたスティーヴン・スピルバーグが劇場で守るべき作品の在り方について語った。
本作は、マギー・オファーレルによる2020年の同名小説を原作とした作品。若くして亡くなった息子ハムネットの死がシェイクスピアの悲劇『ハムレット』誕生のきっかけとなったという物語だ。ウィリアム・シェイクスピアをポール・メスカル、妻アグネスをジェシー・バックリーが演じている。

「大作だけでなく、繊細な物語を映画館に残したい」
アカデミー映画博物館での『ハムネット』上映に先立ち、スピルバーグは観客に向けて次のように語った。
「監督は語るべき物語を探し続けています。しかし時には、物語側が“誰に語られるべきか”を選ぶこともあると思います。『ハムネット』という本はクロエ・ジャオ監督の元へ辿り着きました。世界中の誰よりも、この物語を撮るべき監督は彼女しかいなかったと思います」
さらにスクリーンを指しながら、スピルバーグは現在の映画館を取り巻く状況に言及した。
「私たちは、こうしたスクリーンが“大作映画やアトラクション的な作品だけ”で埋め尽くされてしまわないように、こうした流れと戦っています。結婚や家族、心の痛みや喪失から生まれる人生を変える気づき… こうした“繊細で親密な物語”が上映される場所が必要です」
そして締めくくりに、「クロエ(ジャオ監督)が、この小さな奇跡のような映画を生み出した瞬間に携われたことを誇りに思っています」と語った。

撮影現場も涙に包まれた作品づくり
この作品は、深い悲しみと愛を描く映画であり、クロエ・ジャオ監督によれば、撮影中のキャストやスタッフも深い感情を共有していたという。
「撮影中は何度も胸が詰まる思いでした。だからこそ、観客の皆さんも私たちと同じ感情を受け取ってくださったことが本当に嬉しいです。もし私たちだけが感動していたとしたら……それはちょっと寂しいですよね」と、冗談交じりに語った。
さらにアグネスを演じたジェシー・バックリーは、映画がどのように受け入れられるかは誰にも予測できないとしたうえでこう続けた。
「作品づくりには長いプロセスがあり、完成して世に出るまでにさまざまな段階を経ます。だから、今回のような反応があるとは全く想像していませんでした。ただ、私たちが撮影中に感じていた気持ちや、作品が持つ“小さな魔法”のような瞬間を観客にも味わってほしいと思っていました。それが現実になって本当に嬉しく思います」
また共演したジョー・アルウィンは、「胸が締めつけられるような体験ですが、同時に希望も感じられ、心が少し軽くなって癒されるような瞬間もありました。だから、観る人には苦しさだけを受け取って終わりにならないでほしい。ちゃんとポジティブな部分も感じて帰ってほしいですね」とコメントを残している。
制作チームにとって、そうしたポジティブな部分は、ジャオ監督が重いシーンの撮影後に必ず行っていた『ダンスセッション』によって生まれていたという。「監督が大音量で音楽を流すと、キャストもスタッフもみんな飛び跳ねて踊り出すんです」とアルウィンは笑いながら振り返った。

撮影期間中に築き上げた特別な信頼関係
バックリーはまた、撮影期間中にジャオ監督と強い信頼関係を築いたことにも触れた。
「お互い本心まで打ち明け合い、一緒に泣いて、笑って、踊って、川に飛び込んだこともありました。そうやってシェイクスピアの人生に深く入り込んでいくうちに、とても親密な関係になれたと思います」
さらには「偉大な作家シェイクスピアがどんな人間だったのか、そして彼の傍らにいた素晴らしい女性がどんな人物だったのかを想像し、探求できたことは、一生に一度の経験でした」と言葉を残している。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。
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