【2025年】記憶に残るベストアルバム特集|カーター・フェイス、ザラ・ラーソン、ATEEZ、F5veほか
音楽が評価される基準は、チャート順位やアワードの行方だけではない。プレイリストに何度も戻り、気づけば繰り返し再生してしまう――そんな「身体感覚に残るアルバム」こそが、リスナーの日常に深く入り込んでいく。
本記事では、米『ハリウッド・リポーター』の音楽編集者イーサン・ミルマンが選んだ、2025年のベストアルバムを紹介する。ロックからヒップホップ、K-POPまでジャンルは多彩だが、共通しているのは「耳が求めてしまう中毒性」だ。数字や受賞歴では測れない、2025年の「本当に記憶に残るアルバムたち」を掘り下げていく。
1.『Cherry Valley』――カーター・フェイス

『Cherry Valley』は、ただただ見事なデビュー作である。25歳のナッシュビル発シンガー、カーター・フェイスは、ストリングスが胸を打つバラードをはじめ、ドラッグや人間関係の歪み、終わった恋を皮肉交じりに描く軽快な楽曲を、ひとつのアルバムに織り交ぜている。
サウンドを端的に言えば「ケイシー・マスグレイヴスが、サブリナ・カーペンター的な感性でドリー・パートンを再解釈した」ような1枚だ。歌詞は現代的だが、音楽性はクラシックなカントリーに根ざしており、アルバムの各曲が音楽へのラブレターのように感じられる。
“Changed”ではエルヴィスを、“Sails”ではマスグレイヴスを想起させ、“Betty”では現代版“Jolene”(ドリー・パートン)とも言える名曲を生み出した。MVには、俳優ビリー・ボブ・ソーントンが出演するなど話題性も十分だ。2026年、フェイスが大ブレイクしても驚かないだろう。
2.『Midnight Sun』――ザラ・ラーソン

2025年は、スウェーデンのポップスター、ザラ・ラーソンにとって間違いなく転機となる年となった。ヒット曲を重ねてきたラーソンだが『Midnight Sun』はキャリアのなかでも別格の完成度を誇る。
本人いわく、本作は「もっとも自分らしいアルバム」。TikTokでの“Symphony”再評価を経て、きらめきと遊び心を全面に押し出したカラフルな世界観へと舵を切った。その判断は大正解だ。
表題曲“Midnight Sun”はいつまでも耳に残る中毒性を持ち、“Blue Moon”は静かに染み込むドリーミーな楽曲。“Eurosummer”はまさに完璧なサマーソングで、来年の夏まで鳴り響く可能性を秘めている。
3.『Moisturizer』――ウェット・レッグ

2021年、”Wet Dream”と”Chaise Longue”で一世を風靡したウェット・レッグ。その瞬間を再現するのは容易ではないが、セカンドアルバム『Moisturizer』で、より成熟した進化を見せた。
ファーストアルバムのユーモアは健在だが、『Moisturizer』は、より誠実で愛に満ちた作品となっている。甘い愛を歌った”Davina McCall”からセクシーな”Pillow Talk”まで、ラブソングが満載だ。楽しくて、騒がしくて、甘酸っぱい――ウェット・レッグに期待するすべてが『Moisturizer』に詰まっている。
4.『Golden Hour : Part.3 ‘In Your Fantasy Edition’』――ATEEZ(エイティーズ)

韓国の8人組ボーイズグループATEEZは、K-POPの枠組みを更新し続けている。『Golden Hour : Part.3 In Your Fantasy Edition』は6月のミニアルバムを拡張し、7月にフルアルバムとして再構築された集大成だ。
ファーストシングルの”Lemon Drop”は夏に最適な1曲だが、真の主役は初の英語シングル”In Your Fantasy”だろう。セクシーで大胆な表現が、ATEEZの新たなフェーズを象徴している。中毒性も抜群だ。
5.『Never Enough』――ターンスタイル

2025年になっても、ロックンロールは死んでいない。それを証明するのが、ターンスタイルの『Never Enough』だ。
ボルチモア出身のハードコアバンドであるターンスタイルは”I Care”や”Light Design”といった楽曲で、ジャンル屈指の柔軟性を示してみせた。高速ギターと重厚なボーカルという王道のハードコアを軸にしながら、ポップパンクやシンセ主導のポップ要素を大胆に取り入れている。
長年のファンにとっては周知の事実だったが、ようやく世界がその価値に追いついたという印象だ。チャートの最高記録更新よりも第68回グラミー賞ノミネートよりも、「長い年月を経てロックバンドが再び、地球上でもっともクールな存在」になった――それこそが、ターンスタイルにとって2025年最大の成果だ。
6.『That’s Showbiz Baby』――ジェイド

期待の歌手が正当な評価を受ける瞬間は、いつだって胸が躍る。しかし、ジェイドの『That’s Showbiz Baby』は、なかでも特別な印象だ。イギリスのガールズグループLittle Mixの元メンバーであるジェイドは、アルバム先行シングル“Angel of My Dreams”で本格的なソロ活動を開始。この楽曲は、昨年リリースされた最高のポップソングのひとつだ。
アルバムの2曲目“IT Girl”はタイトルにもなっている楽曲で、ジェイドのキャリアにおけるテーマとも言えるかもしれない。ジェイドは、私たちが幸運にも目撃できる「ポップ界のITガール像」を、見事に体現している。
2025年がジェイドにとって正当に評価を得た年だとするなら、2026年はジェイドが本格的にメイン・ポップガールの座へと進む年になることを期待したい。
7.『Live Laugh Love』――アール・スウェットシャツ

ここ10年のストリーミング時代は、必要以上に冗長なアルバムを量産してきた。そのなかで、アール・スウェットシャツは常に新鮮な息吹をもたらしている。
5枚目となるアルバム『Live Laugh Love』の総時間は、わずか24分。「人の時間を無駄にしたくない」とアールがかつて語った通り、要点を簡潔にまとめた構成だ。しかし、その短さのなかに、すべてが詰まっている。
美しくも雑多なビート群と、切れ味鋭いリリックが完璧に調和。アールは、この10年でもっとも完成度の高い作品を静かに世に送り出した。声高に語られることは少ないが、2025年屈指のラップアルバムであることは疑いようがない。
8.『A Matter of Time』――レイヴェイ

レイヴェイをひとつのジャンルに押し込めることはできない。ジャズなのか、ポップなのか――だれがそんなことを気にするだろうか。レイヴェイはただ、圧倒的な才能を持つシンガーソングライターである。
キャリア最大規模の作品となった『A Matter of Time』は、今年もっとも聴き応えのあるアルバムのひとつだ。切なく旋律的な“Snow White”、風変わりで快活な“Lover Girl”など、全14曲を通して描かれるのは愛と失恋の遍歴であり、特に失恋の試練と苦難に焦点があたっている。
なかでも異彩を放つのが“Castle in Hollywood”。この曲が描くのは、26歳が経験しうる痛切な別れ――恋人ではなく、友情の終わりだ。レイヴェイは、この曲のテーマを「人生で最高で最悪の友だち」と表現しているが、聴き終えたあとには「初めての失恋が、私の少女時代の終わりを告げた。もう二度と、あのハリウッドの城には戻れない」という一節が深く心に残る。
9.『Let God Sort Em Out』――クリプス

アメリカのヒップホップデュオ、クリプスが2009年の『Til the Casket Drops』以来、実に16年ぶりとなる新作を放った。久しぶりの作品だが、マリスとプシャ・Tは一切衰えていない。
“POV”でプシャ・Tが放つ「ここにあるアウディは、俺のオーペアが運転しているやつだけ」という豪奢な一節から、アルバム冒頭を飾る“The Birds Don’t Sing“まで、その振れ幅は大きい。特に“The Birds Don’t Sing”では、両親を失った悲しみを真正面から描き出している。
今年、プシャ・Tは米『ハリウッド・リポーター』の取材に対して「悲しみは消えない。平気な日もあれば、シャワーを浴びながら泣く朝もある。歌える日もあれば、リハーサルで無理な日もある。ただ、ある瞬間に突然、強く襲ってくるんだ。『俺、本当にこの歌を歌っているんだ』って信じられなくなる」と語っている。
長年の盟友ファレルによるプロダクション、レコードレーベルのデフ・ジャムとの決別という紆余曲折を経て完成した本作は、2025年の音楽シーンにおいて刺激的な瞬間のひとつとなった。
10.『Sequence 01.5』――F5ve

F5veは、現在の音楽業界でもっともエキサイティングな日本のガールズグループのひとつだ。F5veは「J-POPガールズグループとは何か」という固定観念そのものを揺さぶっている。ヒットメーカーのBloodPop®がエグゼクティブ・プロデューサーを務めており、KAEDE、SAYAKA、RURI、MIYUU、RUIからなる5人組の実験的サウンドを形作っている。
デビューアルバム『Sequence 01』のデラックス版である『Sequence 01.5』は、“I Choose You“という楽曲で前作を上回る評価を獲得。夢見心地な程よい甘さを感じる曲で、従来のF5ve像とは異なる一面を見せた。
しかし、2024年末に先行リリースされた、A.G. Cookプロデュースの“UFO“を超える曲はいまだ存在しない。“UFO“はその名の通り、異次元で中毒性があり、F5veをまったく新しい軌道へと押し出した。F5veの未来が、限りなく明るいことだけは間違いない。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。
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