話題沸騰!Netflixドラマ『アドレセンス』キャスト陣が語る、マノスフィアの影響…ワンカット撮影の裏側も【インタビュー】

今年3月の配信開始から、わずか4週間でNetflix史上4番目に視聴されたドラマとなった『アドレセンス』。このたび、本作のキャストであるスティーヴン・グレアム、オーウェン・クーパー、アシュリー・ウォルターズ、そしてエリン・ドハティが米『ハリウッド・リポーター』(THR)の4月10日号の表紙を飾り、初のグループインタビューに応じた。
1. 人気ドラマに引っ張りだこ!51歳の売れっ子俳優
本作でクーパー演じる13歳の少年ジェイミーの父親を熱演したグレアムは、この1カ月の自身の人生を「激動。もちろん、素晴らしい意味でね」と表現し、「多くの映画やテレビの現場で仕事をし、その99.9%が素晴らしい経験でした。でも、この作品は特別でした」と語る。
現在51歳のグレアムは、“英国に愛された男”といっても過言ではない。これまでドラマ『ピーキー・ブラインダーズ』や『ライン・オブ・デューティ 汚職特捜班』、映画『スナッチ』といった作品に出演し、その独特なリヴァプール訛りの魅力と卓越した演技力によって、グレアムは英国のテレビ界の伝説的存在となった。その演技は、英国のドラマの持つ最高の要素――生々しさ、胸を打つ力、そして究極のリアリティ――を体現している。
2. 英国の首相も賛辞!衝撃作『アドレセンス』
フィリップ・バランティーニが手がけた『アドレセンス』は、全4話の各エピソードをワンカットで撮影。今年3月の配信開始以来、政治や子育てに関する議論を生むなど社会現象となり、先日にはイギリスのキア・スターマー首相が本作について「私には16歳の息子と14歳の娘がいます。この作品は、胸に深く突き刺さりました」と議会で言及した。
さらに批評家からは「テレビ作品の傑作」と称され、Netflixシリーズ『私のトナカイちゃん』のようにエミー賞の有力候補と目されるほどの成功を収めている。
『アドレセンス』は、グレアム演じるエディの息子ジェイミーが殺人容疑で逮捕されるところから幕を開ける。捜査を指揮するのは、ウォルターズ演じる警部補バスコムだ。第1話では取り調べを受けるジェイミー、第2話では学校で殺人の動機を探るバスコムと相棒のフランク、第3話ではジェイミーと心理士(ドハティ)の対峙、そして最終話ではジェイミーの両親がこれまでの子育てを見つめ直す姿が映し出される。
3.「マノスフィア」に取り込まれた少年の末路
『アドレセンス』はジェイミーがネットの世界に浸るうちに過激化し、怒りに満ちたティーンエイジャーへと変貌していく過程を浮き彫りにする。彼は女性嫌悪の思想を持つ男たちが若者の不安につけ込み、敵意を煽る「マノスフィア」に取り込まれていく。インセル――「非自発的(Involuntary)」と「禁欲(Celibate)」を組み合わせた造語で、自身の性体験の欠如から女性に対する怒りを募らせる男性を指す――の世界は、学校で女子生徒からいじめを受けるジェイミーにとって唯一の逃げ場となる。
ドハティ演じる心理士に対し、ジェイミーは性的暴行を受けなかった被害者ケイティは”運が良かった”と語る。「ほとんどの男なら彼女に触れていたはず。だから、僕はマシな方でしょ?」
グレアムとともに脚本を執筆したジャック・ソーンは、本作を「男性の怒り、少年の怒りを考察する作品」と表している。「子どもを育てるには村が必要であり、子どもを壊すのにも村が必要です。この作品は、ジェイミーを堕とした複数の“村の小屋”と、彼を救うことができたかもしれない人々を描いています」
グレアムは、出身地リヴァプールを含む英国内で発生した2件の少女刺傷事件から着想を得た。「事件に心を痛めました。そして『今、少年たちに何が起きているのか?』と考えたのです。なぜなら、そういった行為を犯しているのは“大人の男”ではないのです」
一方、一部の視聴者は、本作が昨年7月にサウスポートで発生したアフリカ系少年による少女3人の刺傷事件に基づいていると誤解し、白人俳優のクーパーを起用したことによって作品が「反白人プロパガンダ」に成り下がったと主張する者も現れた。さらにX(旧Twitter)のオーナー、イーロン・マスク氏もそのような主張を展開する投稿に対し、「ワオ」と関心を寄せた。
しかしグレアム自身は今、事実を正そうとしている。「もし彼らが事実を見ていれば、サウスポートで起きたあの恐ろしい事件は、私たちが作品を完成させた後に起こったことが分かるはずです。それなのに、彼らは本作を自分たちのアジェンダに利用しようとしています。言論の自由という考え方は理解しているし、彼らの言っていることも分かります。しかし、言論の自由と憎悪との間には明確な一線があると考えています」
「一部の人々は、『この作品は“WOKE”(ウォーク)思想だ』と過剰に反応しています。本作の核心は人種問題ではなく、ただありふれた家族の姿を描きたかったのです。あなたの町に住んでいるかもしれないし、あなたの姉妹の子どもかもしれないし、あるいはあなた自身の子どもかもしれない。社会的リアリズムこそ、私が影響を受けたすべてなのです」
4. デビュー作で圧巻の演技を披露…新星オーウェン・クーパー
「実は、まだちゃんと作品を観ていない」と告白したのは、『アドレセンス』で演技デビューを飾った現在15歳の新星クーパーだ。「自分の演技を見るのがどうしても苦手なんです。それに、ジャック(脚本家)が『この作品を学校で上映するらしい』って言っていて……僕にとっては最悪の悪夢ですよ!」
クーパーの言うとおり、英国政府の支援を受け、Netflixは『アドレセンス』を国内の学校で無料上映することを決定した。「自分の学校では絶対に観たくない。1話、2話と4話は観れるかも。でも3話は無理です」皮肉なことに、3話こそが彼の演技力が最も発揮される回となっている。
とはいえ、クーパーによると自身の友人たちは本作の話で盛り上がっているという。頬を赤らめ、謙虚な笑顔を浮かべながら友だちの反応を語るクーパーは、まさに十代らしい無垢な喜びに満ちている。次回作はエメラルド・フェネル監督による『嵐が丘』の若きヒースクリフ役で、マーゴット・ロビーとジェイコブ・エロルディと共演する。
クーパーの演技に対し、ロバート・デ・ニーロは英テレビ番組に出演した際に賛辞を送り、グレアムによるとスティーヴン・スピルバーグ監督からも直接連絡が来たそうだ。クーパーの両親は、突然訪れた名声に対し息子は冷静に対応していると語っており、本紙の撮影の帰り道には彼を迎えに来ていた。そう、明日は学校があるのだ。
5.「今から君の父親は僕だ」…オーディションを経て抜擢
ジェイミー役のキャスティングにあたり、子役による500本以上のオーディション映像がチェックされ、最終的に5人に絞り込んだ末に1日かけてワークショップを行った。そしてグレアムは、部屋に入ってきたクーパーと少し言葉を交わした後に顔をじっと見つめ、「いいかい、今から君の父親は僕だ。君は僕の息子だ」と伝えたそうだ。
「うまく説明できません。ただ『まさにこれだ。まったく次元が違う』と感じたんです。部屋を出てすぐ、こう言いました。『彼は、“次のロバート・デ・ニーロ”だ』とね。そしたら、アッシュ(・ウォルターズ)が後で『あの子、仕込まれてるんじゃない?』と言っていたんですよ」
それに対し、ウォルターズは「あのとき思ったんです。『彼、うますぎる』ってね。みんな『彼は今まで何もやったことがない。演技経験ゼロだ』と口をそろえて言っていましたが、僕は『そんなわけないよ!』と思っていましたね」と振り返る。
Netflix『ザ・クラウン』で知られるドハティは、クーパーとの共演によって俳優という仕事への愛を再確認したという。「この業界は表面的なもので溢れていますが、現場に来て人と向き合い、全力を尽くすという原点に立ち返らせてくれたのです」
ウォルターズは、重い題材にもかかわらず、キャスト全員が常にお互いを気遣っていたことを指摘する。「こうしたことは、ドラマや映画の現場では頻繁に起こりません。人は意外と自己中心的になりやすく、どんなに素晴らしい人でも、自分のセリフに集中してしまうものです。でもこの作品では、私たちはお互いのために尽くす姿勢が求められました……しかも“愛”をもってそれを実践しなければならなかったのです」
6. 1話あたり3週間!驚異のワンカット撮影
『アドレセンス』の各エピソードの撮影には、3週間のブロックが設けられた。最初の1週間はすべてリハーサルに充て、バランティーニ監督、キャスト、撮影監督のマット・ルイスが集まり、ざっくりと計画を立てて俳優たちが空間に慣れるようにした。2週目は、テクニカルリハーサルと衣装付き通し稽古に充てられた。
そして撮影週に突入すると、チームは昼食前後に1テイクずつ、さらに可能であれば追加で撮影を行った。バランティーニ監督によれば、このワンカットのアプローチは、TikTok時代における視聴者の散漫な集中力に対する意図的な挑戦だったという。「私たちはスマホで5秒、10秒の短いリールに慣れてしまっている。誰もがSNSで延々とスクロールしている時代です。だから私は人々に『立ち止まって、1時間しっかり観て、物語の旅に出てもらいたい』と考えました」
最初に撮影されたのは、ドハティとクーパーが対峙する第3話のシーン。2人は、少年拘置所でテーブルを挟んで1時間にわたり対話を繰り広げる。最終的には、最後に撮った11テイク目が採用されたが、クーパーは「11テイク目は好きじゃなかった。理由はよくわからないけれど、もっと面白くて良いテイクがあった気がするんです」と打ち明ける。
一方、ドハティは「水曜日の時点で、制作チームが『これがいい』と気に入ってくれて、『残り2日は、もっと自由にやっていいよ』と言われました」と語り、「それからは、完全に自由な気持ちで空間に入っていきましたね。あなた(クーパー)は私の目の前であくびしてたけど、 あれは自由にやってたからこそのもの。あのときのリアリズムは本当に素晴らしかったと思います。『この脚本をどれだけ身体に入れてるか、お互いどこまで押し引きできるか』という挑戦でした」と回想する。
クーパー自身は、無意識にアドリブを行っていたという。「あとから『ああ、あんなことやってたんだな』と気づいたんです。例えば、『僕の方を見ろ!』(Look at me now!)というセリフは脚本にはありませんでした。自分でも驚きました。ただその瞬間、頭に浮かんで『これは強い表現だ』と感じて出てきました。それからは、他のテイクでも何度も使いましたね」
またグレアムによると、ジェイミーの逮捕と警察署での取り調べを描いた第1話の撮影時にトラブルが発生。最も撮影が進んでいたタイミングで、警察署のセット内の照明が突然消えてしまい、撮影は最初からやり直しとなったそうだ。
7. ドローンを活用…高度な撮影技術を駆使
第2話のラスト数分には、大胆で技巧的なドローンショットが挿入されている。地上から空へ、そして再び地上へと戻るこの撮影によって、視聴者は学校から街を越えて、グレアム演じるエディが殺害された女子生徒のために花を手向ける場面へと誘われる。
また第2話では、『アドレセンス』の演出における壮大な挑戦が如実に表れている。警官役のウォルターズとフェイ・マーセイは、何百人もの生徒の間を縫うように移動。一方で、ドハティが出演する第3話は、ほぼ1つの部屋で撮影されており、休憩もなく、隠れる場所もないという真逆の構成となっている。
「必要とされるスキルがまったく異なります」と語るドハティは、ウォルターズの学校の回の方がより大変だったのではないかと考えている。
「それぞれ異なる筋肉を使うようなものです。私の中では、あなたの回が圧倒的に最も難しい撮影だったと思っています。でも、オーウェンと私は一度あのジェットコースターに乗ってしまったら、あとはその瞬間に居続けるしかなかった。逆に、息をつく間があったら、その方が怖かったかもしれません。なぜなら、次はどうやって演じるかを考え始めてしまったはずですから」
8. 最終話のラスト数分…「深く心に響いた」
全4話の中でおそらく最も胸を締め付けられる瞬間は、エディがジェイミーの部屋でベッドに座り、崩れ落ちるラスト数分だ。ウォルターズはグレアムの演技を初めて見た際、感情がこみ上げたという。「僕は父親です。そのことが、自分にとって本作で最も大きな意味を持ちました。自分は子どもたちを心から愛しているし、彼らがあのような道に進む姿を見るのは本当に耐えられない。スティーヴもまた、自分の子どもたちを心から愛しています。もし自分があのような状況に置かれたら……どう対処するべきか見当もつきません。だからこそ、深く心に響いたのです」
グレアムは、このシーンのためにバランティーニ監督とスタッフが効果的ないたずらを仕掛けたことを告白。ジェイミーの部屋の壁に飾られた写真が、自身の実の子どもたちのものに差し替えられていたそうだ。さらに、子どもたちは部屋のクローゼットに「パパ、私たちはあなたをとても誇りに思ってる。大好きだよ」と書き残していたといい、「本当に助けになった」とグレアムは振り返る。
グレアムが演じたキャラクターは、自身の叔父をゆるやかにモデルにしている。「叔母が亡くなってまもない頃、叔父と話したことを覚えています。2人は10代の頃からずっと一緒で、本当に美しい関係でした。彼は葬式では一滴の涙も流さなかったとてもストイックな男です。ある日、一緒に紅茶を飲みながら話していたとき、彼はこう言いました。『なあスティーヴ、時々忘れちゃってさ、つい階上に向かって呼びかけちゃうんだよ。彼女の名前をね』」
深い感情表現は、叔父を思い浮かべることで引き出されたという。グレアムは、胸に手を当てながら語る。「誰にも見られていない場所で、エディにその感情を持たせるには、それが一番だと思ったのです」
9.『アドレセンス』の社会的影響…SNS時代の責任とは
脚本家のソーンは、SNSが若者、特に少年たちに与える影響はもはや危機的状況であり、中途半端な対応では済まされないと警鐘を鳴らしている。
「オンライン安全法案(2023年に英国で施行された、子どもおよび成人をネット上の有害コンテンツから守るための法律)は、もっと強化されるべきです。少年たちを真に危険から守るためには、それが必要なのです。なぜなら、単に6つのアカウントを停止したところで、世界が急に良くなるわけではありません。Xのオーナーのマスク氏は、そうしたアカウントを決して閉鎖しようとはしない。トランプ大統領の就任式の背後に座っていたようなメディア界の大物たちは、自ら状況を変えようとすることはなく、むしろ変化に抵抗します。だからこそ、私たちはもっと根本的な手段を講じなければなりません」
キャスト陣は、少なくともこの作品をきっかけに議論が始まったことに満足している。「ハンナ(グレアムの妻で、同作にも出演している)が素晴らしいことを言ってくれたんです」とグレアムは語る。「『私たちは、親たちが文字通りあの子ども部屋のドアを開けて、会話を始めるきっかけを作ったんだよ』とね」
だが、グレアムは責任について次のように述べる。「教育制度についても、学校は今の社会に潜む危険について、子どもたちにもっと多くの教育を行うべきです。政府にもある程度の責任があると考えています。言論の自由を尊重する必要があるのは理解していますが、それでも少年たちがアクセスすべきでない情報というのは、確実に存在するはずですから」
10. フォロワー数1000万人以上…アンドリュー・テイトの存在
子どもの部屋の中で実際に消費されている悪質なコンテンツを正確に特定するのは難しいが、『アドレセンス』が焦点を当てている明白な加害者は存在する。ソーンが指摘しているように、劇中では大人たちがアンドリュー・テイトの名前を口にしている。
SNS上のインフルエンサーであるテイトは、弟のトリスタンと共に、ルーマニア、イギリス、アメリカにおいてレイプ、人身売買、脱税の容疑で起訴されており、2025年3月時点でもさらなる告発が報じられている。テイトは、「マノスフィア」の先駆者の一人とされている。
自らを「ミソジニスト(女性嫌悪者)インフルエンサー」と称するテイトは、2016年にイギリスのリアリティ番組『ビッグ・ブラザー』で一躍有名になった。だが、番組出演から6日後、女性を暴行しているような映像が拡散され、番組を降板。当時テイトは、この映像について「編集された完全な嘘で、自分を悪く見せようとしている」と反論していた。
現在までにX(旧Twitter)でのフォロワー数は1000万人を超え、数々の問題発言を繰り返してきた。たとえば「女性は男性の所有物である」、「レイプ被害者には責任がある」といった主張のほか、女性への暴力についても頻繁に語っている。
11. 現実を照らし出す鏡としての『アドレセンス』
2023年に実施されたYouGovの調査によれば、イギリスにおける6歳から15歳の少年の6人に1人がアンドリュー・テイトに対して好意的な見方を示しており、その割合は13歳から15歳の「ジェイミー世代」では4人に1人近くにまで上昇している。また、この世代の84%が彼の存在を知っているという。
ドハティは次のように語る。「アンドリュー・テイトは危険な思考様式の象徴で、人々が善悪を問わず流行や思想に容易に巻き込まれてしまう現実を表していると思います。だからこそ、彼の名前を出さなければならなかったのです。この作品は、まさに今私たちが直面している現実を照らし出すものであり、それは本当に恐ろしいことでもあります」
クーパーは、作品のテーマとなっている「マノスフィア」の世界について、「完全に目が覚めるような体験でした」と語っている。10代の間で使われる絵文字の意味がいかに複雑であるかも、作品を通して初めて知ったという。「あの絵文字やその背後にある意味がまったく分かりませんでした。正直言って、友達も知らなかったと思います。でも、それが全国で実際に起きていることなのは明らかで、これは作り話ではありません」
ジェイミーは救えたのか? その問いに対して、クーパーはこう答える。「もっと守られていたら、救えたはずです。彼はオンラインで間違った相手と会話していましたが、家族はそのことをまったく知らなかった。エディや母親が『スマホをやめなさい』と一言でも言っていれば、そういう些細なことでも、人生が変わるのを防げたかもしれません。だって、ジェイミーの人生はもう二度と元には戻らないのですから」
学校で子どもがスマホを所持する危険性についても、本作は控えめながらもしっかりと問題提起している。第2話では、背景でスマホに夢中な生徒たちの姿や、「スマホをしまえ!」と叫ぶ教師の声がはっきりと聞こえる。こうした状況が親にとってどれほどの課題であるかは、視聴者の共感を大いに呼び起こしているとグレアムは語る。作品の配信以降、一般の人々からの反響は「途切れることがない」という。
「話しかけてきた人は全員、『ありがとう』と言ってくれます。中には何人もの父親が『自分を見つめ直すきっかけになった。作品を見終わった直後、子どもたちの部屋に行って抱きしめた。それから会話を始めた。以前よりたくさん質問するようになった』と話してくれたのです」
12. テレビ界の常識を破る構成…シーズン2の可能性は
ウォルターズは、本作がテレビにおける紋切り型の構成の壁を打ち破ったと語っている。「上層部はよく『このエピソードの最後に見せ場を入れて、次も観る気にさせよう』と言います。でも、そんなものは必要ありません。『アドレセンス』のような作品をじっくり観ようとする視聴者の誠実さを、まるで軽んじているように思えるのです。人生そのものが十分にドラマチックで、わざわざ車を爆破する必要はないのです。これは、ある家族とその周囲の人々に及ぶ余波を、非常にシンプルに描いた悲劇の物語で、それを多くの人々が観てくれました」
グレアムは、BBCやITV、Channel 4といった英国の公共放送局が『アドレセンス』のような作品を果たして制作できただろうかと疑問を呈する。自身はリヴァプール出身の人間として、貧困層の人物像がどのように語られているかについての業界内の話に違和感を覚えるという。「“労働者階級の人々を新しい視点で描こう”なんて言っておきながら…」と、ここでグレアムは完璧な上流階級英語のアクセントで皮肉を込めて続ける。
さらに、近年DEI(多様性・公平性・包括性)プログラムが次々と打ち切られている状況下で、英国の放送局に対する不満も率直に語った。「自分がリヴァプール訛りで話すから、法廷に立つ役といえば被告人ばかり。弁護士役になることなんて滅多にない。アシュリーのような外見をしていれば、麻薬の売人役をやらされてしまう…これは侮辱じゃありません。ただ、スティーヴン・グレアムが法廷で誰かを尋問する弁護士役を演じる姿なんて、誰も想像しないのです。それが業界の構造です。誰か個人を責めるつもりはありませんが、この構造をきちんと見直す必要があります」
「これを言って自分のキャリアに支障が出たら嫌なんだけどね」とグレアムは苦笑いしながら続ける。「でも、BBCやITVといった局と実際に仕事をしてきた経験から言うと、無名で顔が売れていない俳優にチャンスを与えようとするのは本当に難しい戦いでした。彼らは『多様性を推進している』と旗を掲げてはいるが、実際の現場でその俳優たちを本気で前に出そうとする時…正直言って、どうでしょう。うまくいくかは分かりません。でも、だからこそNetflixとのパートナーシップは非常に良い相性だったと思っています」
Netflixは現在、エミー賞やゴールデングローブ賞に向けて、グレアムが英国以外でも正当な評価を受けられるよう後押しをしている。まだ無名の新人であるクーパーも、賞レースへの期待が高まっている。これほど印象的なデビューを果たした若手俳優が他にいるだろうか? 『アドレセンス』は1億1400万回以上視聴され、全93か国でトップ10チャートにランクインしている。こうした盛り上がりによって、グレアムたちがシーズン2の制作について議論を始めることはあるのだろうか?
グレアムは、ウィンクをして一言こう放った―――「どうか、興味を持ち続けてください」
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。編集/和田 萌
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