ドラマ『TOKYO VICE』ロケ地確保までの知られざる裏側「手土産を持って…」
「雨で撮影中止になったら、泣いていたはずです」ーヒットドラマ『TOKYO VICE』のロケーションマネージャー、マサノリ・アイカワはこう語る。
2023年3月某日夜。東京・エスプラナード赤坂で、『TOKYO VICE』シーズン2の撮影が予定されていた。昔ながらの夜遊びスポットとして、無数のバーやホステスクラブが軒を連ねている。
これまで警察の撮影許可が下りたことのないようなこの場所で、アイカワ氏率いるチームは不可能を可能にしてみせた。
その日の撮影は、シーズン2で最も派手な場面の1つだーホステスクラブ内で生々しい銃撃戦が行われ、主演のアンセル・エルゴートと渡辺謙が騒乱について話し合う。重要なのは、2人が夜遊びエリアの独特な雰囲気が漂う実際の赤坂の路上にいることだ。
WOWOWとMax(旧HBO Max)による日米共同制作ドラマ『TOKYO VICE』は、東京の大手新聞社に勤め、闇社会を暴くアメリカ人記者・ジェイク(エルゴート)が主人公の物語。やがて、ジェイクは刑事の片桐(渡辺)と協力しながら、ヤクザの世界を紐解いていく。
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東京は長い間、世界中の業界のベテランの間で“最も撮影が難しい場所”と評されてきた。
『TOKYO VICE』のエグゼクティブプロデューサー、アラン・プールは、イェール大学(日本語・日本文学専攻)を卒業し、これまで映画『ブラック・レイン』(1989)の副プロデューサーなどを務めてきた。
プールは東京での撮影について、以下のように語った。
「東京での撮影は、その地域の警察署に判断を仰ぐことになります。もし前例がなければ、本能的にノーと言われます。唯一の解決法は、あらゆる懸念を払拭し、常に心からの誠実さを示すことです」
「大半の国では、2か月あれば準備はすべて整います。それが日本では、6か月要することになるのです」
アイカワによると、警察に初めて相談したとき、検討するのは地域のすべての事業所の撮影許可を得てからと告げられたという。
そしてスタッフたちは、撮影を希望する赤坂のビルから見える範囲にある300軒以上のバーや店に出向き、個別にアプローチした。
「お菓子やおせんべいなど、手土産を持って各店主を訪ね、関係を築いていく。彼らの最大の懸念は、撮影が隣人や常連客の迷惑にならないようにすることなんです。これからは彼らの立場に立って考えるという強い安心感を与えることができなければ、ロケ料としていくらお金を出しても意味がありません」(プール)
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やがて、アイカワのチームは何か月もかけて関係を築き上げたのち、300軒を超える地元のすべての店から撮影許可を得た。
「あまりに多くのことをやったので、警察も私たちに同情したのでしょう。私たちの情熱に共感してくれたのは、とてもラッキーでした」(アイカワ)
それでも正式な許可が下りたのは、夜の撮影が予定されていた1週間前。当日に予報されていた大雨は降らなかったが、もし降っていたらチームは振り出しに戻っていただろう。
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日本を舞台にした作品は、そのシステムの複雑さから法的許可を得ずに撮影を強行したり(映画『ロスト・イン・トランスレーション』など)、または他国で日本を再現する(ドラマ『SHOGUN 将軍』など)パターンがある。
しかし、数シーズンにわたって東京に根ざした物語を描くことを目指す『TOKYO VICE』が、規則に背くことはなかった。
「シーズン2で日本に戻ってきたいと考えていたので、関係性を危険にさらすわけにはいかなかったのです。最初からきちんと事を運ぶ以外に選択肢はありませんでした」と、プロデューサーのアレックス・ボーデンは語る。
『TOKYO VICE』の製作陣は、本作がシーズン2へと更新された場合、これまで培ってきたすべてを生かすことができると分かっていた。
「シーズン1の東京の描写は好評ですが、私は十分でないと感じていました」と、プールは振り返った。
シーズン1の制作責任者、トッド・シャープによると、前シーズンの50%に対し、シーズン2は約70%が日本で撮影されたという。
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シーズン2の撮影で本作のチームが来日した際には、クリエイターのプールとJ・T・ロジャース、そして渡辺の3人が小池百合子都知事と対面し、本作への支持を直々に得た。
「地域も政府も本作を歓迎していると知事が発信して下さり、ロケ部門は業者や警察とのやり取りの際に助けられました」(プール)
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2023年3月夜、赤坂の路上。プールは、ホステスクラブの架空の入口の前に駐車されているパトカーや救急車に私(筆者)の注意を促した。エスプラナード赤坂は一方通行で、警察が数時間の通行止めを許可したとはいえ、規定が残されていた。
「警察からは小道具の車も道路標識に従うようにと言われたんです」とプールは説明し、建物の前で整然と組まれた車列に向け首を振った。
製作陣は、救急車やパトカーを入口の扉を取り囲むように雑多に駐車し、銃撃戦のあとの騒乱状態を強調したかったそうだ。
そしてプールは、「私たちは凄く長い道のりを歩んできたけれど、必ずしもすべてを手に入れることはできない」と悲しげに微笑んだ。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。翻訳/和田 萌
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