ラスベガスストリップをF1レース場へと変える5億6,000万ドルの挑戦

F1ラスベガスGP © LAS VEGAS GRAND PRIX
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世界で最も有名な通りの一つ、ラスベガスストリップをレーシングサーキットへ改造する計画は、無理難題に思えるかもしれない。しかし、11月16日から18日にかけて行われるF1ラスベガスGPは、開催に向けて5億6000万ドルにもおよぶ都市計画を完成させようとしている。

「ラスベガスとしてはもちろん、スポーツ界全体においても、これまでで最も大胆な工事の一つ」と、F1ラスベガスGPのプロジェクトマネージャーのテリー・ミラーは語る。

2022年6月、F1グループのオーナーで、ジョン・マローンが会長を務めるリバティメディアは、パドック建設のために、コヴァルレーンとハーモンアベニューの一角に39エーカーの土地を購入。物資不足を避けるため、工事の詳細がまだ決定していないにもかかわらず、早い段階から建設資材の手配を始めたとミラーは述べている。2022年11月にF1とリバティメディアは起工式を開催。2023年10月初旬には使用許可を取得する予定だ。

「約7年前にリバティメディアがF1を買収した取引の弁護士を務めた際、F1とF1のプロセスについて多くを学んだ」と、リバティメディアの最高法務兼行政担当役員であり、F1ラスベガスGPのCEOでもあるリネー・ウィルムは語る。「その1年後、『2023年にラスベガスでのF1レース開催に非常に関心を示している』とロンドン支社から電話があり、ラスベガスに出向いて規制当局や地元の利害関係者と会話を始め、関係構築の準備を進めるよう依頼を受けた」と続けた。

以降、事態は急速に進展。同氏は、ビジネスオーナーやクラーク郡委員会、公共事業部、そしてラスベガス観光局(LVCVA)に支援を呼びかけた。

べネチアンリゾート、ザ・ミラージュ、パリス、ベラージオなどのリゾートを通過するコース(地図上の数字はトラック上のターンを示す)© LAS VEGAS GRAND

コバルレーンからサンズアヴェニュー、そしてラスベガス大通りを下って、ハーモンアベニューまで走る3.8マイルのコースを建設するための大規模な道路舗装プロジェクトは、4月に開始された。工事の影響はラスベガスストリップや隣接する道路にもおよび、リゾートの宿泊客や計150,000室あるホテルの従業員の通勤にも支障が出た。かつて「15分で市内のどこにでも行ける」と地元の人々が誇った街は、交通渋滞や工事現場への不満で溢れる街へと変わってしまった。

しかし、「前例のないイベント開催にともない仕方のないこと」だとウィルムは語る。「モナコやシンガポールなどの市街地でのレースを考慮しても、24時間眠らない街・ラスベガスでの大掛かりなレースの開催と工事のための道路閉鎖は、参考にできる事例が全くない」と述べた。

道路工事には、一部の中央分離帯の撤去や道路の表面の5〜10インチ程度を、より密度の高い舗装に置き換え、レーシング層を追加する作業が含まれる。ミラーいわく「滑らかできめの細かい」このレーシング層は、およそ6年間は再舗装が不要だという。

「現在行っている工事による影響は一時的なもので、繰り返されることはない」と付け加えている。

プロジェクトマネージャーのミラーは、「F1ラスベガスGPは交通の混乱を最小限に抑えるよう務めていて、各リゾートと連携して懸念事項に個別に対処している」としている。

「道路の舗装工事では、リゾートの従業員のシフト交代のタイミングを避け、各ビジネスへの影響が出ないよう、道路全体にわたる舗装工事を一気に行っている。もはや単なる公共工事でなく、計画性やロジスティクスを含むプロセスである」と述べている。

記録的な速さで完成した複数階建てのパドックは、アメリカンフットボールのフィールド3つ相当の長さに匹敵し、ラスベガスストリップから少し離れたプラネットハリウッドリゾートの裏に位置している。およそ4.8億ドルの費用がかかる見込みだ。

スタートラインに隣接する1階には、各チームが3日間にわたり拠点と夜のレース用の車を2台組み立てるガレージが、2階にはパドッククラブやスイート、そしてウィングリッドクラブがそれぞれ設けられている。

建設中のF1ラスベガスGPのパドック © LAS VEGAS GRAND PRIX

観覧エリアがある屋上には、28,000平方フィートの巨大スクリーンが、空中からも見えるよう設置されている。トラックの向かい側にはメインの観覧エリアがあり、その上には18,000人を収容するスカイボックスも設けられている。

「これほどまでのF1施設は過去になく、史上最大のものになるだろう。各出場チームへの設備は前例のないものであり、ラスベガスらしくリクエストを上回るホスピタリティーを揃えた。F1の北米本部になるだろう」とミラーは述べている。

ウィングリッドクラブは、「今までに類を見ない、一年中利用できる会員制プログラム」をうたい、屋外テラスから最初のターンを見渡すことが可能。F1ラスベガスGP(LVGP)のウェブサイトによると、「一流シェフの料理を間近で見れるテーブルとカクテルの体験… 完璧な食事体験と、熟練したミキソロジストによるドリンクの提供」と記されている。その他の特典には、F1ラスベガスGPの5日間のチケットと、ミートアンドグリートなどのスペシャルな内容も含まれている。

「ウィングリッドクラブには、全ドライバーとあらゆる催しの中心部に繋がるパドックへのプライベートエレベーターもある」とウィンリゾート北米COOのブライアン・ガルブラントスは述べている。

しかし、詳細な価格はまだ発表されていない。

F1ラスベガスGPのパドック完成イメージ図 © LAS VEGAS GRAND PRIX

「F1との提携はウィンリゾートのゲストがまさに求めていたものだった」と、ウィンリゾート北米COOのガルブラントスはハリウッドレポーターに語った。「約18ヶ月前にF1グループの関係者が訪れ、F1グループCEOのステファノ・ドメニカーリ、F1ラスベガスGPのCCOのエミリー・プレイザー、リネー・ウィルムを始めとするチーム全体と話し合いをした後、合意に至った。それから、多くの詳細を詰める作業に入った」と続けた。「今回のF1ラスベガスGPを通して、F1界の著名人たちが一同にラスベガスに集結し、我々はF1関連の話題を席巻するだろう」

また、同じサービスを安価に提供するノンブランドのウィンパドッククラブも用意される予定。

F1はサイズやエリアなどを規定するマニュアルを提供したものの、F1ラスベガスGPは、1日当たり約10万5000人の来場者が予想され、世界中で開催される22のレースの規模を超える見込み。F1ラスベガスGPは、特別に建設された最大規模の常設パドック、各会場とのライセンス契約や主要企業とのパートナー契約、そして著名人が参加する多くの一流イベントをアピールポイントとしている。

ホスピタリティスイートクラスやラグジュアリークラブの他にも、幅広いチケットの種類が用意されている。スフィアラスベガスへの一般入場チケットをはじめ、ウルフギャングパックケータリングが提供するグランドスタンド(イーストハーモン、ウエストハーモン、スフィア、ザ・ミラージュ)、プレミアムクラブ(スカイボックス、ハイネケンハウス、レガシー、HGVクラブハウス、クラブパリ、スポーツイラストレイテッドクラブSI、レッドブルエナジーステーション)など、トラック全体で10のゾーンがあり、1人あたりの料金は、ハイネケンハウスの場合、税金と手数料込で8,000ドル、クラブSIは7,000ドル、クラブ・パリは5,500ドルからとなっている。

ベラージオは、水辺のエリアに隣接する場所にファウンテンクラブとグランドスタンドを建設。マリオ・カルボーネ、デビッド・チャン、マイケル・ミナ、森本正治、ブライアンとマイケル・ヴォルタッジョ、ジャン・ジョルジュ・ヴォンゲリヒテンら有名レストランによる食事を提供する。ザ・ミラージュも同様のサービスを計画しており、J・バルヴィン、メジャー・レイザー、マーク・ロンソンがT-Mobile Zone at Sphereステージでヘッドラインを務め、ブルーマングループやシルク・ドゥ・ソレイユも出演する。

F1ラスベガスGPのT-Mobile Zone at Sphereの完成イメージ図 © LAS VEGAS GRAND PRIX

ラスベガスでのGP開催は、F1グループのアメリカでの事業計画の一環で、すでにテキサス州オースティンでアメリカGPを開催したほか、昨年はマイアミGPも開催している。F1がアメリカでの人気を獲得している一つの要因として、Netflixのドキュメンタリーシリーズ『Formula 1: 栄光のグランプリ』の高視聴率が挙げられる。

主催者にとってのもう一つの懸念は、3日間にわたり午後7時から午前2時まで4つの通りを閉鎖してレースが行われる間、宿泊客や従業員がサーキット内の2万3000室のホテルにアクセス方法だ。

これらのホテルには、ヴェネチアンリゾートラスベガス、ハラーズラスベガス、ザ・リンク、フラミンゴラスベガス、ザ・クロムウェル、ホースシューラスベガス、パリスラスベガス、プラネットハリウッド、そしてエララバイヒルトン・グランドバケーションズが含まれる。そのため、F1ラスベガスGPは影響を受ける道路に3つの仮設の橋を設置する。例えば、フラミンゴロードの橋は4車線で全長約800フィートの長さがあり、設置と撤去には8日かかる予定。

「これまでと大きく異なる点の一つは、ラスベガスという都市にあり、F1がラスベガスに話を持ち寄った際、ビジネスオーナーや市議会議員は、サーキットをリゾート地域の中心に建設することの重要性を既に認識していた」とミラーは語る。「全てのリゾートが被る影響を理解していることを確認する必要があった。トラックの建設にともない必ず混乱が生じるため、開催に向けて万全を期す必要がある。訪問客が不便を感じるだけでなく、あらゆるサービスも影響を受ける。過去4ヶ月間、全ての懸念事項を取り除くために取り組んたが、何より重要なのは、アブダビのような一部の都市と異なり、各レースの後に通行可能な一般道路として復帰させる必要があること」だとした。

このジレンマが目下最大の課題だとウィルムは述べる。「ラスベガスストリップの閉鎖に対して強い反感を示す人もいたが、ラスベガス観光局(LVCVA)は反対派の意見を取りまとめるうえで重要な役割を果たし、F1が街にもたらす利益について伝える手助けもしてくれた」と続けた。

「我々が期待を寄せることは、ラスベガスに訪れる多くの有名人やドライバー、スーパースターに最高のおもてなしを提供すること。そしてもう一つは、彼らがどこに宿泊するかということ」とガルブラントスも付け加える。ウィンの従業員用ガレージはレースサーキット内にあるため、「仮説の駐車場を用意する計画もある」と明かしたうえで、「従業員のために、近くの場所に仮設の駐車場と、そのための交通手段も用意している」と続けた。

初開催となるF1ラスベガスGPのサーキットマップ © LAS VEGAS GRAND PRIX

F1ラスベガスGPは資金提供は100%リバティメディアによるものだが、F1ラスベガスGPは6月に、道路のインフラ整備のために必要な8000万ドルのうち4000万ドルをクラーク郡に支援依頼している。現在、クラーク郡は提案を検討中だが、ラスベガスの事業者にとっては、この混乱さえも価値あるものになるかもしれない。Applied Analysisによる調査によると、F1ラスベガスGP初年度のレースがラスベガスのにもたらす経済効果は12億ドルにもおよぶと推定されている。

「メディアの観点からも、そして世界的な影響力からも、これほど多くの注目を集めたイベントは過去になかった。今回のGP開催により、アメリカ国外の人々に、ラスベガスに『ネオンが眩しいギャンブルの都市』以上の価値があることをイメージ付けられるだろう」とガルブラントスは語る。

F1とラスベガスは、10年にわたる契約を締結。F1ラスベガスGPだけでなくわずか3ヶ月後にはスーパーボウルの開催も予定されている。

この記事は、『ハリウッド・リポーター』誌の2023年8月16日号にて初掲載。購読はこちらをクリック。

※今記事は要約・抄訳です。オリジナル記事はこちら。By David Schneider/ Hersey Shiga

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