ペドロ・デ・ラ・ロサが語るスタイルとレガシー、アストンマーティンの次章「必ずトップに立つ」【独占インタビュー】
グランプリ週末のラスベガスでは多くのスターがパドックを行き交うが、ペドロ・デ・ラ・ロサほど温かさと親しみを持って歩く人物はめったにいない。アストンマーティンF1チームのアンバサダーとしてガレージを歩くデ・ラ・ロサの姿には、1999年の参戦初期から2024年のホットラップに至るまでF1を経験してきた者ならではの落ち着きと自信が漂う。それでいて、今もなお仕事を心から楽しんでいることが伝わってくる。
インタビューの前、ペドロ・デ・ラ・ロサは『ハリウッドリポーター・ジャパン』の誌面をめくり、ショーン・コネリーがアストンマーティンDB5にもたれかかる写真に目を留め、楽しげに、そして感心したように見入っていた。デ・ラ・ロサにとって、こうした“結びつき”そのものが、自身の役割を象徴しているという。

「完ぺきなブランドアンバサダーですね」と伝えられると、ペドロ・デ・ラ・ロサは笑って肩をすくめた。そして「私はただ、ここから学んでいるんです」と言い、周囲の洗練されたスタイルを指さす。しかし、アンバサダーという役目にデ・ラ・ロサが惹かれる理由は、見栄えの問題ではない。もっとシンプルで、もっと誠実だ。
「アストンマーティンでは、いつだって刺激的な車を運転できます」と彼は言う。「それが私を夢中にさせるんです──ほかとはまったく違う魅力があります」
今週末のラスベガスで、ペドロ・デ・ラ・ロサはホットラップの準備を進めている。ある日はヴァンテージで、また別の日はGT4仕様のマシンでサーキットを走る予定だ。さらに、デ・ラ・ロサは「数週間後には、またF1マシンを運転しますよ。シミュレーターですが」と何気ない調子で話す。彼にとってこの役目は、見栄えのためではなく、心と本能が求める延長にあるのだ。
▼計画になかった“復帰”── それは最もふさわしい瞬間に訪れた

今でこそチームに欠かせない存在となったペドロ・デ・ラ・ロサだが、アストンマーティンに加わる前は、F1に戻るつもりなどまったくなかったという。転機は2022年。90年代後半にリザーブドライバーとして過ごしたジョーダングランプリの旧工場跡を訪れた際のことだ。
「感情が込み上げてきました」と、デ・ラ・ロサは語る。風洞、シミュレーター、新キャンパス──すべて建設途中で泥まみれ、未完成のままだったが、確かな“未来”の匂いがしたという。そして帰宅後、妻に「戻りたい」と告げると、「気でも狂ったの?」と返された。しかし、彼の意思は揺らがなかった。
「このチームは勝つ。そして私はその一員になりたい」――デ・ラ・ロサを突き動かしたのは、過去を懐かしむ心ではなく、純粋な“野心”だった。
▼理想ではなく、行動でつくるチーム

ペドロ・デ・ラ・ロサの語り口には、あらゆる種類のF1チームを見てきた者ならではの明晰さがある。そして彼は、アストンマーティンのプロジェクトの規模についても率直に語っている。
「私たちは世界チャンピオンになるための旅の途中にいます。誰もが勝ちたいと願っています──でも、“勝つために必要な行動を取る”チームは多くありません」
その違いは、トップの気質に宿るという。アストンマーティンのオーナー、ローレンス・ストロールについて語るとき、デ・ラ・ロサは一切迷いを見せない。

「ローレンスと一緒にいると、物事が必ず実行されるとわかります。ミーティングを終えた時点で、『彼なら必ずやり遂げる』と確信できます」
過去3年間の投資は「途方もない規模」であり、それは単なる金額ではなく“意味のある投資”だという。2024年は厳しいシーズンだったが、チーム内部の信念は揺るがない。
「もっと速くなっているはずだったのですが」と、デ・ラ・ロサは認める。「メカニックや工場のスタッフにとってつらい状況です。でも、良くなるという自信は揺らぎません。私たちは必ずトップに立ちます」
▼新章の幕開け ── その中にある変わらぬ流れ

その未来の一部を担うのがホンダだ。ペドロ・デ・ラ・ロサの日本との結びつきは深い。1990年代半ばに日本で3年間レースをした経験が、F1への道を切り開いたと語る。そして今も、日本文化への敬意を忘れない。
「日本にいなければ、私はF1にたどり着けなかったでしょう。ホンダを迎えることに本当にワクワクしています。日本の方々と仕事をすると、いつもすばらしい成果が出ます」
アストンマーティンとホンダをつなぐ架け橋として、アンディ・コーウェルの存在――優れたマネージャーであり、一流のエンジニアでもある──を強調する。デ・ラ・ロサは、「この組み合わせは非常に貴重です」と力説する。

そして、中心に立つのがエイドリアン・ニューウェイだ。デ・ラ・ロサは、マクラーレン時代をともに過ごしている。「彼がどれほど優れているか説明する必要はありません──結果がすべて語っています。彼はマシン全体を見渡して考える…F1史上最高の存在です」
ただし、ニューウェイの影響はエアロダイナミクスにとどまらない。「彼の貢献をラップタイムで表すことはできません。誰もが彼と一緒に働きたいと思っています──主な理由は、彼から学ぶため。優秀な人材を引き寄せるためにも、非常に重要なことです」
インタビュー後まもなく、チームはニューウェイが技術職に加えてチーム代表を兼任すると発表。同時にアンディ・コーウェルは、ホンダとの連携をより深める役割へ異動するという。新体制は次のレギュレーション時代に向け、組織全体の効率性とマネジメント強化を狙うものだ。
▼アイデンティティと誇り、そして未来へ

ペドロ・デ・ラ・ロサにとって、アストンマーティンのアイデンティティは誠実であることが不可欠だ。「私たちは、自分たちが本当に何者なのかを体現したいのです。若く、野心に満ちたチームであるということをね」
そして“ヘリテージ”の意味は、単なるイメージでもブランド戦略でもない。「アストンマーティンは110年以上の歴史を持つブランドです。このグリーンのカラーと胸のロゴを身につけるのは、本当に特別です」

それは、工場を訪れたあの日に感じた誇りそのものだ。そして、その誇りこそがデ・ラ・ロサを十数年ぶりにF1へ呼び戻した。
新時代を迎える中で、彼の目は現実的でありながら確信に満ちている。「簡単な道ではありません。でも、私たちには最高のチームが揃っていると確信しています」
砂漠に沈む夕日と、再び灯り始めたストリップのネオンの中、デ・ラ・ロサは次の仕事へ歩き出す──まるで、DB5を操るショーン・コネリーのように。

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