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70歳・黒沢清、新作『黒牢城』でカンヌ復帰!初の時代劇に込めた現代へのメッセージ「まだ野心はある」

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70歳・黒沢清、新作『黒牢城』でカンヌ復帰!初の時代劇に込めた現代へのメッセージ「まだ野心はある」
本木雅弘、『黒牢城』より 写真:Cannes Film Festival
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40年以上にわたるキャリアの中でホラー、サスペンス、家族ドラマと縦横無尽にジャンルを横断してきた黒沢清監督が、ついに時代劇に挑んだ。最新作『黒牢城』を携えてカンヌ国際映画祭に臨む70歳の名匠は、「残されたエネルギーを振り絞って、まだその野心を持ち続けている」と語る。

▼新作『黒牢城』でカンヌへ!これまで黒沢清が時代劇を撮れなかった理由

黒沢清監督
黒沢清監督 写真:Courtesy of Nikkatsu

長編映画キャリアのほぼすべてを通じ、黒沢清は潤沢とはいえない予算の中で作品を生み出してきた監督だ。『CURE』(1997)は低予算で製作され、当時の日本では興行的に苦戦したものの、四半世紀を経た今、ポン・ジュノアリ・アスターら世界トップクラスの作家たちが「史上最高傑作」として名を挙げるほどの評価を獲得している。

時代劇を撮らなかった理由は、同じ「クロサワ」という名字を持つ映画界の先達・黒澤明への畏怖の念ではない。端的に言えば、資金の問題だった。

「いつか時代劇映画を作りたいという強い思いは常にありました。しかし、現代においてそれを実現するには膨大な資金が必要です。精巧なセット、ロケーション、かつら、メイク、衣装……これまでそうした機会に恵まれることがなかっただけなんです」

今回ようやく実現した『黒牢城』は、米澤穂信の直木賞受賞同名小説を原作とする。舞台は戦国時代末期。織田信長に謀反を起こし有岡城に籠城した荒木村重(演:本木雅弘)が、城内で連続する不可解な事件に直面し、自ら土牢に幽閉していた智将・黒田官兵衛(演:菅田将暉)と奇妙な協力関係を結ぶ——密室スリラーとしての構造を持つ歴史劇だ。

▼黒澤明、小林正樹、溝口健二——参照した先達たち

菅田将暉、『黒牢城』より 写真:Shochiku
菅田将暉、『黒牢城』より 写真:Shochiku

製作準備にあたり、黒沢清は1950〜60年代の時代劇の名作群を改めて見直した。まず手に取ったのは、やはり黒澤明の作品だ。なかでも『蜘蛛巣城』については、「戦国時代を考えるうえで非常に参考になりました。武将同士の会話や室内での対話が多く描かれており、会話劇の多い『黒牢城』にとって大いに参考になったんです」と振り返る。

小林正樹の『切腹』からは城塞内部に固定されたカメラワークを、溝口健二の『元禄忠臣蔵』からは限られた空間の扱い方と儀礼描写を学んだという。

映像面では、白黒撮影も真剣に検討したが、最終的には豊かな陰影を活かしたカラーを選択。画面比率はシネマスコープより狭い「ヨーロピアン・ビスタ」を採用し、撮影監督の佐々木靖之と綿密に作り上げた。「白黒映画が光と影の揺らめきでドラマを語るように、同じことをカラーで表現したかった」という。

▼「これはアンチ・サムライ映画です」

(左から)吉高由里子、本木雅弘、宮舘涼太、『黒牢城』より 写真:Shochiku
(左から)吉高由里子、本木雅弘、宮舘涼太、『黒牢城』より 写真:Shochiku

技術的な準備と並行して、黒沢が最も頭を悩ませたのは、16世紀の人間の「日常」をどう想像するかという問題だった。セリフのある場面ではなく、場面と場面の間——人々がどう動き、どう話し、どんな佇まいでいたのか。現代劇で頼りにできる「日常の感覚」が一切通用しない時代劇特有の困難だ。「確かめる術はどこにもありませんが、それでも表現しなければならなかったのです。ある意味で非常にスリリングな経験でした」と語る。

原作の主人公・荒木村重は、異質な人物だ。城主でありながら詩歌や茶の湯を愛し、武士の宿命である「殺戮」をしだいに嫌悪するようになる。黒沢はこのキャラクターに、明確に批評的な視点を重ねた。

「間違いなく、これはアンチ・サムライ映画です。武士道的な価値観に対して非常に批判的な視点を持っています。主人公はそうした価値観に抗い、最終的にそのルールから自由になっていくのです」

村重の根底にある「これ以上、誰も殺したくない」というシンプルな動機は、世界各地で紛争が続く現代にも響くテーマだと黒沢は語る。さらに踏み込めば、権力や名声への欲望をすべて手放したとき人間に何が残るか——そこにこそ、監督が最も引きつけられた問いがある。

▼教え子とカンヌへ、それでも満足しない

2022年に『ドライブ・マイ・カー』でアカデミー賞国際長編映画賞を受賞した濱口竜介監督 写真:Emma McIntyre/Getty Images
2022年に『ドライブ・マイ・カー』でアカデミー賞国際長編映画賞を受賞した濱口竜介監督 写真:Emma McIntyre/Getty Images

今年のカンヌには、東京藝術大学大学院で黒沢清に師事していた濱口竜介(『急に具合が悪くなる』)をはじめ、深田晃司(『ナギダイアリー』)、そして是枝裕和(『箱の中の羊』)がコンペティション部門に選出され、パルムドールを争う。

深田晃司は、黒沢清についてこう語る。「黒沢監督はセリフで心情を説明しようとせず、動く映像だけで信じられないほど力強い物語を語ります。生粋の映画作家ですね。早い段階で、同じ作り方をしていたら一生超えられないと気づき、自分のスタイルを築かなければならなかったんです。——ちなみに、今後も超えられるとは到底思っていませんが」

黒沢清監督
黒沢清監督 写真:Dominique Charriau/WireImage

師である黒沢は、次世代への期待とともに、日本映画全体への率直な問いを口にした。最近、ポール・トーマス・アンダーソンの『ワン・バトル・アフター・アナザー』やライアン・クーグラーの『罪人たち』など、昨年のアメリカ映画賞レースを賑わせた作品群を立て続けに鑑賞したという。

「(『ワン・バトル・アフター・アナザー』や『罪人たち』は)完璧な作品ではないかもしれない。でも、社会の根本的な問題と真っ向から格闘してエンターテインメントへと仕立て上げようとする試みには、凄まじい生命力が宿っています。1950〜60年代の日本映画もかつてはそれをやってのけていたのです」

そして静かにこう続けた。「日本の監督たちには、ぜひそうした映画作りに挑んでほしいですね。それは自分自身への戒めでもあり、今年一緒にカンヌへ行く若い映画人たちへのエールでもあります。この年齢になっても、まだその野心を持ち続けているのですから」

映画『黒牢城』は、2026年6月19日ロードショー。

※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。編集/和田 萌

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