『クレイフェイス』はなぜ恐ろしい?バットマンの異色ヴィランが主役のDCホラー映画、その魅力と原作を徹底解説
杉山すぴ豊 アメキャラ系ライター
『クレイフェイス』とは?バットマンのヴィランが主人公に
ただいま絶賛公開中の『クレイフェイス』。クレイとは粘土のことなので、“粘土の顔”という不思議なタイトルですが、本作には肉体を粘土細工のように自由に変形させ、誰にでもなりすますことができる能力を持った怪人が登場します。ジャンルとしてはホラー映画、モンスター映画に分類されますが、実は本作、アメコミを原作とする作品なのです。
実はクレイフェイスは、『バットマン』のコミックに登場するヴィランなのです。しかし、この映画にバットマンは登場しません。バットマンの世界に登場するキャラクターを主役に据えた、いわば非バットマン映画です。同様に、ヒーローではなくヴィランやサブキャラクターを主人公にした作品としては、ハル・ベリー主演の『キャットウーマン』や、ホアキン・フェニックス主演の『ジョーカー』『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』などがあります。
また、似たようなアプローチとしては、ソニー・ピクチャーズが展開する、スパイダーマンのコミックに登場するヴィランやサブキャラクターを、スパイダーマン本人を登場させずに映画化したシリーズがあります。トム・ハーディ主演の『ヴェノム』3部作、ジャレッド・レトが吸血鬼のような能力を得た科学者を演じる『モービウス』、予知能力を持つ女性をダコタ・ジョンソンが演じる『マダム・ウェブ』、アーロン・テイラー=ジョンソンが野性的な身体能力と狩猟技術を持つヴィランを演じる『クレイヴン・ザ・ハンター』などがその例です。
今回の『クレイフェイス』は、ジェームズ・ガンが陣頭指揮を執るDCスタジオ発のDCユニバース(DCU)の一環です。DCUでは映画だけでなく、アニメやドラマも展開されていますが、劇場映画としては3作目にあたります。2025年公開の『スーパーマン』、2026年夏公開の『スーパーガール』に続く作品です。
DCUの劇場映画第1作は、超メジャーでストレートなヒーロー活劇『スーパーマン』でした。それだけに、3作目にしてこうした変化球を持ってくるとは驚きです。
原作コミックのクレイフェイスとは?初代と2代目の違い
まずは、原作コミックにおけるクレイフェイスについて説明しましょう。実はコミックの歴史の中で、“クレイフェイス”と名乗るヴィランは複数存在します。
初代クレイフェイスが登場したのは、1940年の『Detective Comics』第40号です。バットマンのデビューが1939年ですから、比較的初期のヴィランということになります。その正体は、バジル・カールというホラー映画俳優。自身が出演した映画のリメイクで別の俳優が起用されたことに憤り、かつて自分が演じた怪人クレイフェイスの姿に扮して、映画の関係者たちを次々と殺害していきます。オペラ座の怪人に影響を受けたキャラクターとされています。
ただし、初代クレイフェイスにはスーパーパワーはありません。
この映画のように、変幻自在の肉体を持つクレイフェイスが登場したのは、1961年の『Detective Comics』第298号です。怪人の正体はマット・ヘーゲン。そう、今回の映画の主人公と同じ名前です。
宝探しの途中で洞窟の中にある不思議な物質の泉を発見し、その物質に触れたことで、肉体を自在に変化させられる怪人となります。動物に化けたり、巨大なノコギリの歯になったりして、バットマンたちを苦しめます。
先にも述べたように、クレイフェイスはバットマンの歴史の中でも初期のヴィランです。そのため、1966年の実写ドラマ版『バットマン』のオープニングアニメーションにも登場しています。ペンギンのさらに後方に、クレイフェイスの姿も確認できます。ただし、本編のドラマに彼が登場するエピソードはありません。
『バットマン』アニメ版が映画『クレイフェイス』に与えた影響
今回の映画は、コミックに登場する2代目クレイフェイス、マット・ヘーゲンをベースにしていますが、さらにお手本にしたのが、1990年代に放送されたアニメ版『バットマン』に登場するクレイフェイスです。
このアニメでは、ホラー映画俳優のマット・ヘーゲンが、特殊な美容薬品を利用して外見を変えていたものの、ギャングとのトラブルに巻き込まれ、その薬品の影響でクレイフェイスへと変貌していくというストーリーが描かれます。
役者という設定は、初代クレイフェイスのバジル・カールを反映させたものです。
今回の映画のクライマックスで女性に化けて逃走したり、怪物のような姿になったりする演出は、アニメ版からの引用を思わせます。本作には、アニメ版『バットマン』を手掛けたクリエイターたちへのオマージュも見られます。
ちなみに、このアニメシリーズからはハーレイ・クインというキャラクターも生まれました。また、アーノルド・シュワルツェネッガーがMr.フリーズを演じた『バットマン&ロビン/Mr.フリーズの逆襲』にも、このアニメ版の設定やキャラクター像が影響を与えています。つまり、このアニメはバットマンを語るうえで非常に重要な作品なのです。
『クレイフェイス』はホラー映画としても傑作!ボディホラーの魅力
映画『クレイフェイス』はR指定作品ということもあり、かなり残酷なシーンが多くあります。個人的には、クレイフェイスの暴力よりも、冒頭でマットがギャングによって顔を切り刻まれるシーンが最も衝撃的で痛々しく感じました。また、乱気流の中で目の近くにはさみを持ってくるシーンは、先端恐怖症の自分としてはハラハラしました。
ちなみに、このシーンでは飛行機の機体に記された航空会社の名前から、フェリス航空であることが分かります。フェリス航空とはDCコミックに登場する架空の航空会社で、グリーン・ランタンに関係する存在です。
そういえば、マットがコースト・シティに住んでいたというセリフも登場します。このコースト・シティもグリーン・ランタンゆかりの街です。ちょうど本作の公開時期には、グリーン・ランタンをテーマにしたドラマ『ランタンズ』も展開されており、それに合わせた小ネタなのかもしれません。
人間に近い姿や能力を持つヴィランも多い『バットマン』のコミックの中で、クレイフェイスは異色の存在と言えるかもしれません。しかし、今回の『クレイフェイス』はアメコミ映画でありながら、原作コミックの知識を必要としません。バットマンのことを知らなくても十分に楽しめる、ホラー映画としての魅力に満ちた作品です。
本作のストーリーを手掛け、脚本にも参加したマイク・フラナガンは、『ドクター・スリープ』などのホラー作品で知られるクリエイターです。新ドラマ版『キャリー』や新作『エクソシスト』にも携わっています。また、監督のジェームズ・ワトキンスは『バイオレンス・レイク』『スピーク・ノー・イーブル 異常な家族』などを手掛けてきました。さらに、ジェームズ・ガン自身も『スリザー』などのホラー作品を手掛けています。
つまり、本作にはホラー畑のクリエイターたちが集結しているのです。彼らがクレイフェイスというキャラクターに着目したのも納得できます。バットマンのヴィランという設定がなくても、ドロドロとした変身怪人というだけで、十分にモンスター映画の主役を張れるキャラクターですからね。
変身能力を使って自分を傷つけた者たちに復讐していく様子は、サム・ライミ監督、リーアム・ニーソン主演の傑作『ダークマン』を思い出させます。人工皮膚を研究していた科学者がギャングに襲われ、瀕死の重傷を負う。その後、自ら開発した人工皮膚を使って別人になりすまし、ギャングたちへの復讐を始めるという物語です。
また、デヴィッド・クローネンバーグ監督の『ザ・フライ』や、昨年話題になった『サブスタンス』に通じるボディホラー的な面白さもあります。
変身怪人を題材にした作品といえば、今年話題になったNetflixの『ガス人間』もあります。身体をガス状に変化させる怪人が登場する作品ですが、同作でガス人間を演じたUTAが『クレイフェイス』のPRアンバサダーを務めているのも興味深いところです。変身怪人つながりということでしょうか。
また、もうすぐ公開される『トキシック・アベンジャー』も、こうした路線の面白さを持った作品です。有毒物質を浴びた男が、怪物のような姿のヒーローへと変貌する物語です。
映画『クレイフェイス』の成功がDCUの未来に与える影響
本作は批評家と観客の双方から好意的な評価を獲得しています。Rotten Tomatoesでは、批評家スコアが77%、観客スコア(Popcornmeter)が94%を記録しています(2026年11月3日時点)。
XユーザーのRotten Tomatoesによる投稿では、観客スコア94%の高評価が紹介されています。
こうした反応を受けて、今後DCUが再びヴィランを主人公とした映画を製作する可能性もあるでしょう。
さらに、本作はホラーテイストの強い作品ですが、DCコミックには、キアヌ・リーブス主演で一度映画化されたオカルト探偵の活躍を描くホラーアクション『コンスタンティン』もあります。これを機に、以前から企画が報じられている『コンスタンティン2』の動きにも注目が集まりそうです。
また、もともとDCUではジェームズ・マンゴールド監督による『スワンプシング』という作品も進められています。こちらは、植物と人間が融合した怪物を主人公に据えた、ホラー色の強いヒーロー作品です。
ちなみにスワンプシングは、過去にもウェス・クレイヴン監督の『怪人スワンプシング/影のヒーロー』などで映画化されており、ドラマシリーズも制作されています。
こうした作品が今後動き出す可能性もあります。さらに、クレイフェイスは先にも述べたようにバットマンのキャラクターです。将来、DCU版の新しいバットマン映画が作られた際には、そこに登場する可能性も十分に考えられます。
ちなみに、マット・リーブスも本作のプロデューサーです。マット・リーブス監督の『ザ・バットマン』は、DCUとは異なる世界観で描かれる作品であり、現在は続編も進められています。そんな彼が、なぜ『クレイフェイス』のプロデューサーに名を連ねているのでしょうか。もしかすると、クレイフェイスは当初『ザ・バットマン』の世界観で描かれるヴィランとして検討されていたのでしょうか。そんな想像も膨らみます。
【ネタバレ考察】映画『クレイフェイス』の結末とラストシーンの意味
※ここからは映画の結末に触れています。未鑑賞の方はご注意ください。
ある意味、クレイフェイスの行動の動機はギャングへの復讐であり、愛する女性を守るためにもマットはその力を使います。その意味では、ダークヒーロー的な存在として描かれているとも言えるでしょう。
しかし、物語の終盤で想いを寄せる女性の婚約者を殺害し、彼女を自分のものにしようとします。ここでマットは大きく闇へと堕ちていくのです。
ジェームズ・ガンはDCUの世界観の中で、映画と並行してアニメシリーズも制作しています。そのひとつが『クリーチャー・コマンドーズ』です。この作品には、完全にヴィランと化したクレイフェイスが登場します。つまり、DCUにおけるクレイフェイスは、あくまでも恐ろしく残酷なモンスターとして描かれているのです。
ラストシーンは、観客の判断に委ねられるような終わり方です。彼女が彼に取り込まれたようにも見えますが、コミックやアニメ版では、クレイフェイスは自分の肉体から分身を作り出す能力も持っています。
そのため、ラストに登場する「彼女」は本物ではなく、実はクレイフェイスの分身であり、彼の願望が形になったものだとも解釈できます。もちろん、これはひとつの考察にすぎません。
いずれにせよ、切ないラストです。
『クレイフェイス』

【作品情報】
■脚本:マイク・フラナガン、ホセイン・アミニ
■製作:マット・リーヴス、リン・ハリス、ジェームズ・ガン、ピーター・サフラン
■出演:トム・リス・ハリス、ナオミ・アッキー、デヴィッド・デンシック、マックス・ミンゲラ、エディ・マーサン ほか
■全米公開:2026年10月23日
■原題: CLAYFACE
■上映時間:1時間48分
■レイティング:R15+
■配給:東和ピクチャーズ・東宝
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