トランス俳優カルラ・ソフィア・ガスコンの歩み 無名の存在からオスカー有力候補に

「今起きていることは、まるでおとぎ話のようです」とエミリア・ペレス役のカルラ・ソフィア・ガスコン。12月12日にロサンゼルスのスタジオ60で撮影。 PHOTOGRAPHED BY MATTHEW BROOKES; HAIR: DANILO. MAKEUP: SABRINA BEDRANI. FASHION ASSISTANTS: ELLIOTT PEARSON, FERNANDO PICHARDO; PA: AUBREY EBBS.
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「まるでおとぎ話のようです」と語るのは、3月28日公開公開の映画『エミリア・ペレス』の主演俳優カルラ・ソフィア・ガスコン(52)だ。彼女に対して称賛の声が上がる一方で、SNS上ではヘイトスピーチも後を絶たない。しかしガスコンはそういった声も含めて、真っ直ぐに受け止めている。

ガスコンは現在、マドリード郊外のアルコベンダスに30年来の妻マリサと14歳の娘ビクトリアと住んでいる。インタビュー現場までの道のりを革のジャケットとファー付きのブーツ姿で堂々と歩く彼女は、売店の横に貼られた『エミリア・ペレス』のポスターの写真を見せてくれた。ガスコンと共演者のゾーイ・サルダナセレーナ・ゴメスの顔の上には、売店の名前「Good News(良い知らせ)」が書かれていた。「いい予兆でしょ?」と、ガスコンは微笑んだ。

■私は“社会の敵No.1”

誹謗中傷を「原動力」に

オスカーにノミネートされた場合、ガスコンはトランスジェンダー俳優として史上初の受賞者となる可能性がある。(これまでにノミネートされたトランスジェンダー俳優は、後にカミングアウトした『JUNO/ジュノ』のエリオット・ペイジのみ。)

ガスコンは『エミリア・ペレス』での演技で高い評価を受ける一方で、SNS上では執拗な誹謗中傷の標的となっている。彼女はなんと、すべての中傷に目を通し、スクリーンショットを撮って保存しているという。

その理由を尋ねたところ、ガスコンは「アンチなメッセージも大好きで、自分の原動力なんです」と語る。「より多くの人が私を憎み、より多くの侮辱的なメッセージを送れば送るほど、私は『ありがとう』と思い、この瞬間を一層楽しむことができます」

2025年1月5日のゴールデングローブ賞授賞式では、「光が明るければ明るいほど、影はより濃くなります。そして今、私は多くの人々にとって社会の敵No.1なのです」とスピーチしたガスコン。単に中傷を無視するのではなく、積極的に受け止め、モチベーションの源として活用しているのだ。

米The Hollywood Reporter誌で表紙を飾ったカルラ・ソフィア・ガスコン PHOTOGRAPHED BY MATTHEW BROOKES
カンヌでの快挙への逆風

2024年のカンヌ国際映画祭では、『エミリア・ペレス』で共演したサルダナ、ゴメス、そしてアドリアーナ・パスとともに4人で最優秀女優賞を同時受賞するという歴史を刻んだ。この異例の快挙はフランス国内で反発を引き起こし、極右政治家マリオン・マレシャルは自身のSNSで「男が最優秀女優賞を取ったのね」と投稿し、「左派の進歩とは、女性や母親の抹消を意味する」と批判した。

ガスコンはこれに即座に反撃し、「性自認に基づく性差別的侮辱」としてマレシャルを提訴。「これは長いプロセスになるでしょう。でも、もし損害賠償を得られたら、すべてトランスジェンダーの権利団体に寄付するつもりです」とガスコンは語り、『ハリー・ポッター』シリーズ原作者「セニョーラ・ローリング(J.K.ローリング)」がこの件について何か発言するのではないかと覚悟を決めているという。

セレーナ・ゴメス, ゾーイ・サルダナ、, ジャック・オーディアール監督、2024年のカンヌ国際映画祭にて STEPHANE CARDINALE – CORBIS/CORBIS/GETTY IMAGES
セレーナ・ゴメス, ゾーイ・サルダナ、, ジャック・オーディアール監督とカルラ・ソフィア・ガスコン、2024年のカンヌ国際映画祭にて STEPHANE CARDINALE – CORBIS/CORBIS/GETTY IMAGES

■名匠J・オーディアールとの出会い

カルラ・ソフィア・ガスコンの会話の語尾は、笑い声に飲み込まれるようだ。それが緊張による癖なのか、溢れ出す陽気さの表れなのかは定かではない。
この笑い声は、彼女が2022年1月にパリ中心部で『エミリア・ペレス』の脚本・監督であるジャック・オーディアールと初めて会った時のことを語る際にも現れる。「まるで魔法のランプを擦って精霊が出てきたような感じでした」と表現した。「もしあの時、ジャックが『やあ、僕はジャックだ。君の3つの願いは何?』と尋ねたとすると、こう答えたでしょう。『映画史上最高の作品を作りたい、映画史上最高の女優になりたい、そしてこの作品を大成功させたい』と」

オーディアールがガスコンに巡り合うには数年の時を要した。
彼の脚本の最初の4、5稿(当初はオペラとして制作する予定だったもの)では、全ての登場人物が遥かに若かった。
マニタス/エミリアの年齢はわずか30歳だった。「ロサンゼルスやメキシコで女優を探していたのですが、どれも素晴らしい人たちでしたが、どうしてもピンと来なかったんです」とオーディアール監督は語った。
最終的に、音楽監修を担当していたピエール=マリー・ドルーが「スペインにトランスの女優がいる」と言ってきたという。「私は『いいじゃないか』と答えました」とオーディアールは振り返る。
そしてすぐに、カルラ・ソフィア・ガスコンがこの役にぴったりだと確信したという「まず、彼女はとても面白く、独創的で、既に自分のキャラクターについて明確な考えを持っていました」

同時期にオーディアール監督は、弁護士役のオーディションでゾーイ・サルダーニャとも出会ったと言う「本当に衝撃的でした、(私が適役だと思った)女優は20代ではなく、40歳から50歳だったんです。それが映画の全てを、完全に変えました」その誤算が、見事にハマったのだった。

しかし、ガスコンが出演を躊躇った唯一の難点が、歌って踊らなけらばならないという点だった。

ホルモン療法の影響で声が壊れてしまい、しゃがれたセクシーなトーンと限られた音域しか出なくなっていたのだ。ダンスに関しても、「体を動かさなければならない場面になると、いつも自分がターミネーターのロボコップのように感じていました」とガスコン本人は振り返るが、オーディアール監督にとっては全く問題ではなかった。
「それぞれの俳優が持つ歌唱や振付のスキルが異なることは、むしろ自然なことだと思いました」と彼は言う。
オーディアールは逆に彼女のその特徴が、硬派なギャング役にむしろ合っていると感じていた。現代のフィルム・ノワールの名手である彼は、ノーマン・メイラーの小説『タフガイは踊らない』(1987年に映画化)を思い浮かべたのだ。

そんなオーディアールの意見もあって、ガスコンは「エミリア・ペレスの本質を見つけられるのは自分、私以外にいない」と自分を説得した。「私は上手く歌うことも、最高のダンサーになることもできないだろう」と認めながらも、「このキャラクターが自分のためのものだと思った」と語る。

「私にとって最も重要だったのは、主人公が性別適合手術を行う動機でした」とガスコンは語る。
オーディアールのオリジナル脚本では、主人公マニタスのトランジションがコメディの設定のように扱われており、警察の追跡を逃れるための精巧な変装として描かれ、マニタスが徐々に女性である事に適応していくというものであった。
ガスコンはオーディアールに、マニタスが本物の性別違和(ジェンダー・ディスフォリア)に苦しんでいる方が、より興味深く、現実的だろうと伝えた。

また、エミリア(主人公ガスコンのトランジション後)のセクシュアリティが不明瞭であるとも感じていた。
例えば、エミリアが術後初めて経験する性的な場面での相手は行きずりの設定だったが、「エミリアが奔放的なキャラクターになっていた」とガスコン。
性別表現が変わったと同時にエミリアの性的嗜好も急激に変化するというアイデアに、ガスコンは共感出来なかったのだ。

一方のオーディアールは、エミリアの内面に「男性と女性」「悪魔と天使」といった葛藤を抱かせる構想を長く持っていた。「今思えば、それは全くの誤りでした」と彼は振り返る。「彼女は私に、人は、トランジション(性別移行)する前からずっと既に自分がなりたい自分を持っているのだと気付かせてくれました。そして彼女のアイデアでエミリアはもっと共感されるキャラクターになったのです」

オーディアール監督が当初持っていたトランスジェンダーに対する一般的な理解(内なる葛藤や分裂)が、ガスコンとの対話を通じて、より本質的な理解(自己の本来の姿への気づき)へと深化したことを示している。これは映画制作を通じた相互理解と学びの過程を象徴的に表現していると言えるだえろう。

女優カーラ・ソフィア・ガスコン ダナ・キャランのヴィンテージドレス:Paume Los Angeles、ジュエリー:Pomellato jewelry Photographed by Matthew Brookes
女優カルラ・ソフィア・ガスコン/ダナ・キャランのヴィンテージドレス:Paume Los Angeles、ジュエリー:Pomellato jewelry Photographed by Matthew Brookes

■カルラ・ソフィア・ガスコン:アイデンティティと表現の探求

幼少期:抑圧された自己表現

現在52歳のガスコンは、4歳の頃から自身のジェンダーアイデンティティに気付いていたという。「他の女の子たちを見て『私もあんな風になりたい』と思っていました。テレビに出てくる女の子のキャラクターにより強く共感していました」
しかし、1970年代、80年代のスペインでそのような思いを打ち明けることは「ばかげている」と考えられていた。
彼女が育った環境では、拳銃、機関銃、弓矢、サッカーボール等のいわゆる「男の子向け」おもちちゃが与えられ、人形を見つめすぎると「それは女の子のもので、とても悪いことだ」と言われ、泣くと「女の子みたいだ」叱られたという。

暴力との隣り合わせの日々

自らの生い立ちについて、「私はストリート出身です。自分で生き延びる術を学ばなければならない場所と時代で、学校で殴られないように強くならなければならなかった」と振り返る。

青年期:創造的な逃避と表現の芽生え

ガスコンは、ビデオゲーム(特にNintendo以前の8ビットシステム「Sinclair ZX Spectrum」)や弟のロベルトとのごっこ遊びに救いを見出した。弟のロベルトとテレビの音を消して声優ごっこをする事、自分たちでラジオ番組を録音して遊ぶ事。エンターテインメントの世界が彼女の避難所だったのだ。
しかし、両親には「くだらない暇つぶし」として否定されたそう。

俳優への第一歩

16歳の時、彼女は俳優になりたいと決意し芸能事務所に写真を持ち込み、エキストラとして活動を開始。
「拍手したり、槍を振ったり、『こんにちは』と言ったり、エキストラがすることは何でもしました」現場での時間は映画制作の実践的な教育となり、エキストラへの深い共感を育んだ。「エキストラ出演者を尊重しています。誰からも注目されないように感じる気持ちが分かるからです。彼らには『私もそこにいたのだから、希望を失わないで』と励ましのメッセージを送りたいのです」

20歳の時、ガスコンは兄のグレゴリオをスキー事故で失った。何十年経った今でもその喪失の痛みは生々しく残っていると言い、「こんな出来事が起きると、人生への信頼を失うんです」と彼女は目に涙を浮かべながら語る。「教えられてきた全てのことを疑い始める。私は人生そのものへ怨恨を抱きました」

悲しみと自身のアイデンティティに苦悩する中で、ガスコンはようやく俳優としての安定したキャリアをスタートさせる。その多くはスペイン国外で、ロンドンでBBCの英語話者向けスペイン語教育番組に携わり、20代半ばで長年の恋人グティエレスと結婚し、2人でミラノに移住。そこでは子供向け番組の人形劇の声優として活動した。

ガスコンと実の娘ヴィクトリア COURTESY OF SUBJECT
ガスコンと実の娘ヴィクトリア COURTESY OF SUBJECT

90年代後半にはスペインのドラマ『エル・スーペル』にレギュラー出演した後、”テレノベラ”(スペイン語のテレビ小説)狂の国メキシコで人気俳優としてブレイク。

2000年代半ばのメキシコのテレノベラは、面白おかしいプロット、ロマンティックな演出、安っぽいシンセサイザーのBGMが特徴で、才能ある俳優でも難しいと感じるショーであるが、ガスコンは全力を尽くした。特に『コラソン・サルバヘ』では、ギターを振り回し、フラメンコを踊り、フープイヤリングをつけ、誘惑的な目つきで、アラジンのようなベストを着た髭面のジプシー役を派手に演じ切った。彼女は番組のタイトな制作スケジュールとワンテイク撮りの方針に反発。俳優たちが台詞を聞く用のイヤーピースの使用も拒否した。
「毎日40もの場面の台詞を暗記するのは大変でした」と彼女は語る。

メキシコでは、自分の身体に閉じ込められているような感覚の中で解放を求めていた。妻と娘はスペインに残っており、婚外恋愛を厭わないガスコンは、メキシコの女性上院議員と恋愛関係を持った。彼女にとってこのロマンスは「大きな苦しみ」の時期と重なっていたという。彼女は早い段階で恋人である上院議員に女性として生きたいという願望を打ち明けていたが、実行に移そうとすると、捨てられる結果となったという。「私を助ける、永遠に共にいると言ってくれましたが、そうはなりませんでした」と彼女は語る。

この失恋から、ガスコンは自ら命を絶ちたいという衝動に苛まれ、「どうやってそれを実行するか考え始めていた」と彼女は語る。しかし、その計画を実行する代わりに、まず文章として書き記すことを選んだ。文章の中で自死を体験することが、一種のカタルシスとなった。
書き続けた結果、1冊の本が完成した。ロフトアパートでベルトから吊るされた語り手が、自身の人生、幼少期、性別違和、兄の死、恋人の裏切りを追体験していく回想録『カルシア:並外れた物語』として、2018年に当時の名前であるカルロス・ガスコンの名で出版された。それは同時に、彼女の新たなアイデンティティの公表にもなった。
その時点で、彼女はスペインの公的医療制度によってトランジションの大部分を終えていた。

カルラ・ソフィア・ガスコン(右)と妻のマリサ・グティエレス  COURTESY OF SUBJECT
カルラ・ソフィア・ガスコン(右)と妻のマリサ・グティエレス COURTESY OF SUBJECT

スペインで待っていた妻のグティエレスは、ガスコンの帰郷を歓迎した。「妻はずっと、私が何者であるかを知っていたけれど、女性としての私を見た時は石のように固まってしまった」とガスコンはスペインの新聞『エル・ムンド』に語っている。
弟のロベルトは、トランジション後に彼女が選んだ名前を初めて聞いた時、笑ったという。一方、以前から自分の意図を打ち明けていた母親は驚かなかった。「母は、絶対にそうなると信じていた」と言ってくれたという。

この一連の出来事は、自己との対峙、芸術による救済、そして家族との和解という重要な転換点を示している。
死への衝動が創作活動へと昇華され、それが最終的に新たなアイデンティティの確立へとつながっていったのである。

カルラ・ソフィア・ガスコン。 ヴィンテージのヴァレンティノのタキシード(Paume)、マリーナ・リナルディのシャツ、パンツ。ポメラート ジュエリーを纏って。  PHOTOGRAPHED BY MATTHEW BROOKES; HAIR: DANILO. MAKEUP: SABRINA BEDRANI. FASHION ASSISTANTS: ELLIOTT PEARSON, FERNANDO PICHARDO; PA: AUBREY EBBS.
カルラ・ソフィア・ガスコン。 ヴィンテージのヴァレンティノのタキシード(Paume)、マリーナ・リナルディのシャツ、パンツ。ポメラート ジュエリーを纏って。  PHOTOGRAPHED BY MATTHEW BROOKES; HAIR: DANILO. MAKEUP: SABRINA BEDRANI. FASHION ASSISTANTS: ELLIOTT PEARSON, FERNANDO PICHARDO; PA: AUBREY EBBS.

■今季賞レース大注目作『エミリア・ペレス』における「死」と「再生」

映画『エミリア・ペレス』では、カルシアとガスコン自身の経験と同様に、トランジション(性別適合)が「死」と結びついて描かれる。
メキシコの麻薬組織のボス「マニタス」(ガスコン)が、出世志向の企業弁護士(ゾーイ・サルダナ)の助けを借り、自身の死を偽装して女性として生まれ変わり、妻(セレーナ・ゴメス)と子供たちとともにスイスで新生活を始めようとする。

ガスコンはこの二役をあまりにも見事に演じ分けているため、多くの人が別々の俳優が演じていると勘違いしたほどである。

麻薬王のマニタスは、不気味な囁き声を放ち、まるで『ゴッド・ファーザー』のドン・コルレオーネを彷彿とさせる。
彼は一度も銃を使わず、手を上げることもないが、恐ろしい存在感を放っている。
「スティーヴン・スピルバーグの『ジョーズ』を思わせます」とガスコンは語る。「サメが目の前に現れるよりも、来るか、来るか、と待つ方がずっと怖いのです」

昨今の映画祭部門議論について

近年、米アカデミー賞(映画芸術科学アカデミー)が他の授賞団体に倣い、ジェンダーに中立的な演技部門を設けるべきかどうか議論が続いている。
もしガスコンがノミネートされれば、アカデミー賞にとって画期的な出来事となるだろうが、同時にその二分法的な分類を見直すきっかけになる可能性は低いだろう。「最終的にアカデミーや映画祭は、社会の動きに応じてルールを変更するでしょう」と彼女は語る。「ですが、特別なカテゴリーを作られるのは、私自身は非常に不快に感じると思います。私は自分のことを特別でも奇異でもないと感じています。ただ単にトランジションをしただけです」と彼女は紅茶を飲み、チョコレート・パルミエを一口食べながら説明する。
「私はただの女性で、52歳のレディなのです」

また、「映画の前半で男性を演じているからといって、主演男優賞で考慮されるべきだ」という意見については、「それは、ダスティン・ホフマンが『トッツィー』を演じた時に『主演女優賞にノミネートされるべきだ』と言うようなものです」

撮影の孤独と役への没頭

男性のマニタスを演じることは、簡単で楽しかった、と彼女は語る。役が突飛であればあるほど、役者は自由になれるという。一方で、女性にトランジションをした後のエミリアを演じることは繊細なアプローチを必要としたという。エミリアは愛を見つけ、カルテル暴力の被害者を救済することに生涯を捧げるという贖罪の道を選ぶキャラクターだ。

撮影期間も、彼女はエミリアの”威厳と怖さ”を保ち続けた。「ゾーイ・サルダナを自分のアシスタントのように扱い、セレナを自分の妻のように扱った瞬間もあって、彼女達は困惑していたようです」と彼女は明かす。

ガスコンはカルテルのボス、マニタス・デル・モンテからエミリア・ペレスとなる役を演じた。ガスコンの勧めで、脚本家兼監督のオーディアールがこの役柄を再考した。 PAGE 114 – WHY NOT PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA.
カルラ・ソフィア・ガスコンはカルテルのボス、マニタス・デル・モンテからエミリア・ペレスとなる役を演じた。ガスコンの勧めで、脚本家兼監督のオーディアールがこの役柄を再考した。 PAGE 114 – WHY NOT PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA.

『エミリア・ペレス』の撮影は主にパリのスタジオで行われた。エミリアが感じる孤独を反映するかのように、ガスコン自身も数か月にわたる撮影期間中、自ら孤独を選び、キャストやスタッフとの交流を断っていた。
ビヨンセのコンサートに招待された時でさえも断ったという。
「家族も何もない私の孤独は、キャラクターにとってはとても良かったけれど、私自身にはとても辛い状況でした」

撮影が終了した後、ガスコンは共演者のゾーイ・サルダナ、セレーナ・ゴメス、エドガー・ラミレスと共にディナーを楽しむ写真をFacebookに投稿した。(Facebookを好むという点は、彼女の年齢を象徴しているかもしれない。)
その投稿にはこう記されていた。「私の必死さ、撮影期間の野獣のような振る舞いを許してください。あなた達と銀幕を飾れたことはとても贅沢で、素晴らしい名誉でした」

共演者への挑戦と敬意

セレーナ・ゴメスは、ガスコンのキャラクターへの執念に対して謝罪する必要は全くないと言う。むしろ、「ガスコンのメソッドは私を助けてくれたと思います」と話す。「このプロジェクトを引き受けるのが怖かったんです。でも彼女と非常に感情的で個人的な瞬間を共有することができました」

中には不穏なシーンもあった。例えば、エミリアが嫉妬に駆られた怒りでジェシ(ゴメス)をベッドに投げつけるシーンだ。「あのシーンは本当に強烈でした。怖いと感じました。カルラに対してではなく、そのシーンを見たときの自分自身に対してです。『やばい』と固まってしまったんです。体が完全に凍りつきました。役に成りきることが出来る彼女は私をステップアップさせてくれました」とゴメスは振り返る。

ゴメスは続けて、「カルラが様々な賞でノミネートされる姿を見るのが待ちきれません。彼女の成功を全力で喜びます。この映画での彼女の演技は、どんな称賛にも値します」とカルラへ敬意を示した。

映画『エミリア・ペレス』が作品賞をはじめ多くの受賞を果たした、第82回ゴールデングローブ賞にて。
ELLEN VON UNWERTH/GG2025/PENSKE MEDIA/GETTY IMAGES
映画『エミリア・ペレス』が作品賞をはじめ多くの受賞を果たした、第82回ゴールデングローブ賞にて。 ELLEN VON UNWERTH/GG2025/PENSKE MEDIA/GETTY IMAGES
カルラ・ソフィア・ガスコン、ハリウッドスターとしての道

ガスコンはハリウッドでのスターとしての地位を順調に築きつつある。
彼女は『エミリア・ペレス』を制作したサンローランからフロントロウに招待され、いくつかのイベントで同ブランドの衣装をまとった。
撮影の前夜には、近所に住むペネロペ・クルスと一緒に時間を過ごしていたという。ペネロペは夫のハビエル・バルデムと共に今もアルコベンダスに住んでいる。

ガスコンは今、数年前には夢にも思わなかったようなオファーを受けている。ペドロ・アルモドバル監督からオファーを得ており、間もなく『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』でアカデミー賞作品賞を受賞した脚本家のアルマンド・ボーが監督するスペイン語のダークなファンタジー映画『ラス・マラス』の撮影を開始する予定だ。
さらに、各国の映画祭の巡る旅に同行ていた、実娘のビクトリアまでもが映画に対して興味を持つようになったという。「娘は良いバージョンの私です」とガスコンは笑う。

賛否両論を受け止めて

名声には批判が伴う。『エミリア・ペレス』は、保守的な右派だけでなく、若い進歩派のオンラインコミュニティからも批判を受けている。その批判には、「トランジションを死と結びつけている」「道徳的な贖罪として描いている」「トランスジェンダーを支持することでシスジェンダーの年配層を自己満足させている」といった内容だ。
米デジタルメディア「Vox」はこの映画を「この受賞シーズンを”クラッシュ”するミュージカル映画なのか?」と評している。

だが、ガスコンは気に留めていない。「TikTokやインスタグラムのインフルエンサーが、色んな事に対してプロ気取りで物を言っているのにはうんざりしています。ソファでPlayStationの横に座って、700人の努力を批判するなんて、どれだけ立派な人間なんでしょうね。彼らは自分たちが全員の代弁者だと主張しているけれど、私に言わせれば、LGBTであることであなたをバカにしないわけじゃないんです」

インタビューの終わりに差し掛かった頃、ガスコンの視線が記者の肩越しに向けられた。一人の中年女性がそっと近づき、何か言いたそうにしていた。

「すみません」とその女性は微笑みながら言った。
「普段、有名な方を見ても声をかけたりはしないのですが、あなたを見かけて…」

ガスコンは立ち上がり、女性に温かく挨拶をした。女性は、18歳の息子が最近トランジションを終え、ようやく性別を反映した身分証を受け取ったと説明した。スペイン国内外でトランスジェンダーの権利を支持する声を上げているガスコンにその事をどうしても伝えたかったという。

「すべてがうまくいくように、私たちは戦っています。息子が幸せで、受け入れられるために。まだまだ多くの障害が残っています」とその女性は語った。

「早ければ早いほどいいですね。この問題はまだとても複雑です」とガスコンは答えた。このやり取りはわずか2分ほどで終わったが、その間に二人とも涙を流していた。
「息子さんに私から大きなキスを伝えてください、そして、ぜひ『エミリア・ペレス』を観るように伝えて!」とガスコンは温かく声をかけた。

こういったことは日常的に起きるとガスコンは言う。驚くこともあるが、同時に深く励みになるもので、こうした経験が、彼女にネット上での憎悪を受け流す力を与えている。

「ソーシャルメディアは嘘の世界です。現実は街中にあります。こうして感謝の言葉を伝えるために、わざわざ声をかけてくれる人々にあるんです。さっきの女性の家族のように、社会では美しい変化が起きています。多くの人が、私がどこかでノミネートされるのを待っています。そしてもし私がその賞を受け取ることができたら、彼らはきっと飛び上がるほど喜んでくれるでしょう」

インタビューの最初に「復讐の味を覚えた」といっていたが、復讐は果たせたのかだろうか?
ガスコンは笑顔で答えた。「完全にね」

※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。

ヤマハMT-07とカルラ・ソフィア・ガスコン COURTESY OF SUBJECT
ヤマハMT-07とカルラ・ソフィア・ガスコン COURTESY OF SUBJECT

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