北野武がカンヌ入り「時代背景を考えると暴力と死、男色はリンクしている」表現における社会的正しさにも言及

第76回カンヌ国際映画祭でプレミア公開される北野武監督作『首』のキャストによる囲み取材が23日に行われ、北野監督のほか西島秀俊、加瀬亮、中村獅童、浅野忠信、大森南朋が日本メディアからの質問に答えた。

本作は北野監督が6年ぶりに監督を手掛ける作品で、累計19作目となる。描かれるのは歴史的事件「本能寺の変」で、戦国武将や忍、芸人や百姓といった多彩な人物の野望や裏切り、運命がバイオレンスと笑いを交えたユニークな世界観で描かれる。また北野自身が羽柴秀吉役で出演している点にも注目だ。

カンヌに到着したばかりの北野監督はまず「映画人にとってカンヌ映画祭はステータスで、作品を色々なバイヤーに高く買ってもらうのが目標のひとつ。なのでコンペで来ている人は気合が入っていると思いますが、自分にとって映画は順位をつけるものではありません。とはいえ呼ばれて光栄です。そして疲れました(笑)」と率直に語る。

西島は「北野監督には20年前の作品『Dolls』でベネチア映画祭に連れて行っていただきましたが、カンヌ映画祭は初めて。夜中の11時になっても盛り上がってました。色々と経験して学んで帰ろうと思います」とし、本映画祭へは2度目の参加となる加瀬も「北野監督の新作で来れたのが嬉しいので、いい時間を過ごして帰りたい」とコメント。

作品については「戦国時代を世界の人に感じてもらいたい。常に死が側にあるなかで愛情や欲望がむき出しになっていく世界」(西島)、「何度も描かれてきた戦国時代をテーマに、北野監督の視点で新たな解釈を加えた点が面白いと思った」(加瀬)、「殺伐とした戦国時代のリアリティや日本特有の色彩美を感じてほしい」(中村)、「みんなが北野監督を信じて力を発揮した」(浅野)、「絶対に世界に届くと思う。明日のプレミア公開が楽しみ」(大森)とそれぞれが語った。

続いて映画の内容に話が及ぶと北野節が炸裂。「時代劇や大河ドラマのような美談ではない。戦国武将はろくでもない悪いやつですから、彼らが成り上がるために何をしたのかを描きました」と説明。続いて中世の日本にやってきたフランシスコ・ザビエルが衆道(武士の男色文化)や一般市民の男色に驚いたと手記に残したことを挙げ、それに関連する森蘭丸などの人物の実態を多くの時代劇が描かないことを指摘する。

また「正しいか正しくないかではなく、当たり前にそういう世界を描きつつ、その人間関係から『本能寺の変』に繋がるのが本作。裏ではささやかれても表で描かれないことを意識しました」と意図を解説。さらに「時代背景を考えると暴力と死、男色はリンクしている。殿様を助けるために死ぬのも衆道の関係があるから自分が盾になる美学。それは時代と文化が育んだ武士の作法にも関わってくる」と重ねた。

さらに社会的な正しさを考えながら暴力を表現する難しさについて質問が及ぶと、「バラエティ番組も辛い。お笑いも差別的な部分がある」と北野監督。「差別がいけないのはわかりますが、プライオリティ的に放送できないとなると『お笑い』が成立しなくなる。それはG7広島サミットで『世界の核兵器をなくそう』と言いつつ、どの国もなくさないのと同じ空論。人間が生きるなかで生まれたものだから、長いスパンで考えないとなくすのは難しい」と投げかけた。

様々な質問が飛び交った記者会見は45分にも及び、時間で打ち切る形をもって終了。明日に迫った公式上映で本作がどのように受け入れられるのかに注目が集まっている。

(取材:山本真紀子/文:小池直也)

Similar Posts