『猿の惑星/キングダム』はシリーズ初のアカデミー視覚効果賞受賞作となるのか?
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映像の迫力は映画鑑賞の醍醐味であるし、映画製作を前進させるために不可欠なものだ。その意味でVFXが業界に与えた影響は計り知れない。この急速に変化するテクノロジーの世界で、観客を映画館に誘致する手段を模索している大手制作会社が約束する息を呑むような大画面での経験は、ほとんどすべてのエンターテインメントが手のひらに収まるようになった現在でも、観客にとって最大の魅力のひとつである。理想を言えば、その意味でもアカデミー賞視覚効果部門の最優秀作品は、技術、創造性、予算、観客の投資によって達成できることの水準を示すものとなるだろう。
結果として、アカデミー視覚効果賞は、制作会社が到達すべき客観的な目標を示唆しているという点で、他のカテゴリーとは異なるものだといえよう。
例えば、恐竜が登場するとある超大作が、少なくとも『ジュラシック・パーク』(1993年)が実現したような業界を揺るがす視覚効果に匹敵するものを実現できなかったとすれば、そこにはまだ改善の余地があると言わざるを得ない。
このような業界の変化を示す指標は、現在の『猿の惑星』シリーズにも当てはまる。 その中の最新作『猿の惑星/キングダム』は、第97回アカデミー視覚効果賞にノミネートされた。過去3作は複数回ノミネートされたものの受賞には至らなかったが、今年はついに『猿の惑星』が金字塔を打ち立てる年になるのだろうか?
『猿の惑星/キングダム』
シーザーの支配から数世代後の未来。猿は支配者として平和に暮らし、人間は影に隠れて生きていた。
猿の新たな専制君主が帝国を築く中、苦難の旅に出た若き猿は過去に疑問を抱き、猿と人間の未来を決める選択を迫られる。
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この13年間、私たちはCGとモーションキャプチャーで合成されたスクリーン上の猿たちが新時代を切り拓くの瞬間に立ち会ってきたが、それにもかかわらず彼らはまだアカデミー賞を制覇していない。もちろん、この部門には数々の名作がノミネートされるため、受賞は簡単なことではない。
これまでシリーズからは、『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』(2011)、『猿の惑星:新世紀(ライジング)』(2014)、『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』(2017)のすべてがノミネートされたが、それぞれ惜しくも『ヒューゴの不思議な発明』、『インターステラー』、『ブレードランナー 2049』に敗れている。
これらの受賞作が賞に相応しくなかったとは言わないにせよ、批評家たちの間には、『猿の惑星』に花を持たせてやってもいいのではないかという空気感は確かに存在している。
『猿の惑星/キングダム』が今年の賞を争うのは『エイリアン:ロムルス』、『デューン 砂の惑星PART2』、『ウィキッド』、そして奇遇なことに同じく猿が主人公の『BETTER MAN/ベター・マン』という錚々たるラインナップだ。
この競争がどれだけ熾烈なものかを物語る事実として、『ウィキッド』と『デューン』以外の作品におけるVFXがニュージーランドの大手制作会社であるWetaによって手がけられたというものがある。そんな中で『猿の惑星/キングダム』に分があるとすればそれはどこなのだろうか?以下ではそれを「影響」と「進化」というふたつのキーワードから見ていこう。
まず「影響」に関していうと、『猿の惑星』は、何十年にもわたって新境地を開拓してきたということが言えるだろう。 フランクリン・J・シャフナーによる1968年のオリジナル版『猿の惑星』は、ピエール・ブールの小説を大まかに基にしたものである。そこで観客は自分たちの世界とはまったく異なる世界に誘われたが、ジョン・チェンバースによる卓越した特殊メイク技術により、驚くほどすんなりと劇中に描かれた未来の地球へと没入することができたのだ。
それだけでなく、『猿の惑星』はアカデミーをも変えた。というのも今では驚くべきことに、1981年までアカデミーにはメイクアップ&ヘアスタイリング賞が存在しなかった。しかしチェンバースの技術があまりにも素晴らしかったために、アカデミーは彼の特殊メイク技術に対して名誉オスカー賞を授与したのである。
こうしたチェンバースのメイク技術はハリウッドが古くから頼りにしてきた特殊メイク技術だけでなく、VFX技術をもインスパイアするものだった。
最新作である『猿の惑星/キングダム』は、形は違えど、チェンバースの作品が「進化」を遂げた形態なのである。
作中では、視覚効果賞にノミネートされたエリック・ウィンキスト、スティーブン・ウンターフランツ、ポール・ストーリー、ロドニー・バークが、VFXの持つエモーショナルなパワーと、観客が超大作に切望する驚きの感情を見事に操っている。
ウィンキストとウンターフランツのコンビは『猿の惑星:新世紀』からタッグを組んでおり、アンディ・サーキス演じるシーザーや他のキャラクターに対してチェンバースがオリジナル作で実現したのと同様な観客による共感を生み出すのに成功している。簡単にスクリーン上のキャラクターたちに感情移入できるため、我々は彼らがスクリーン上のデジタルアートだということを忘れてしまうくらいだ。
『猿の惑星/キングダム』のキャラクターたちは、そのリアリティをさらに高め、彼らの表情、姿勢、動きは、映画の世界観の進化だけでなく、VFXチームがモーションキャプチャースーツからどれだけのものを引き出せるかという点でも進化を見せ、個々のユニークで真実味のあるキャラクターをさらに発展させている。
もちろんモーションキャプチャー・スーツに身を包んだ俳優たちの演技力によって、これらの映画の隠し味が演技なのかVFXなのかを判断するのが難しくなっている場合もある。アカデミーの投票者がこのシリーズにVFX賞を与えず、サーキスにふさわしい演技賞にもノミネートしなかったのはそのためかもしれない。
しかし、『猿の惑星/キングダム』の特典映像では、完成した映画と、VFX以前のモーションキャプチャー・スーツに身を包んだ俳優たちの姿を並べて見ることができ、俳優とVFXアーティストの共生関係を明らかにしている。
俳優の演技とVFXの共演によって、『猿の惑星/キングダム』は私たちに革新的な映画館での体験を約束していると言えるのだ。こうした魅力がハリウッドにおける最大の祭典において認められる日は来るのだろうか。
※本記事は要約・抄訳です。オリジナル記事(英語)はこちら
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